【短編】悪霊退散!〜霊の存在なんてないと怪奇探偵部を廃部にしようとした委員長を説得するために七不思議探検に行くことになった〜
ずっと前に割烹で冒頭だけ載せたのですが、とっても気になるとこで終わらせたのでそれより先も書き加え投稿。
読んでいただけると幸いですm(_ _)m
「た、大変だ!あいつから廃部宣言が来た……」
「……あいつって誰?」
「如月委員長から廃部という話が……」
「あー委員長ならやりそうだよねー」
氷空の緊迫とした声にも動じず、美玲はフッと楽勝そうに微笑む。
「廃部理由はー?」
「幽霊なんていないから下らない部活はやめろ」
「言ってくれるなぁー」
だが、美玲は相変わらず笑っている。天使の微笑みを顔に絶やさず考え事をするかのように空を仰いだ。
「やっぱ来ると思ってたんだよねー」
「あいつならやるかもとは思っていたが……」
氷空も頭を抱えている。
中山美玲、早次氷空、この二人だけで「怪奇探偵部」は活動している。
高校三年生の氷空が部長、高校二年生の美玲が副部長という二人だけで成り立っている部活なのだ。
人数も少なく、活動内容が「霊退治、その他奇妙なことの謎解き」というためあまり目立たない上に信用されていない。
だが、本当に危機が迫った生徒たちを助けているため実力を認めている生徒も少人数ながらもいる。
二人だけでこれからも細々と部活を続けていくつもりだった、が。
この学校の委員長、如月優奈に「今すぐ廃部にしてください」と言い渡されてしまった。
委員長は怪奇探偵部が活躍するとこを見たことがないため、「霊なんていないのに下らない部活」と評価している。その上、人数も少ないため廃部の理由にはうってつけだ。
委員長に散々文句を言われた部長の氷空が美玲に助けを求めてきたということだ。
「うーん難しいなあ。廃部にさせられると私が困るんだよね」
「まあ最初に怪奇探偵部を立ち上げようとか言ってきたのはお前だからな。俺は完全巻き込まれただけだけど、この際ここまでやってきたからここで廃部にさせられるわけにはいかない」
「おー氷空がついに言った!いつも事件解決に乗り気じゃないのに」
「か、からかうな」
「じゃあ部長も認証したということで廃部にさせない対策を考えようよ!」
「……それをさっきから考えているんだが」
それでも対策案は思いつかなかった。
部長の自分が思い浮かばないならば、もう廃部決定か。そう思いかけた氷空に対して美玲は余裕そうに笑った。
「思いついちゃった!要するに実力を見せれば委員長も承諾してくれるんじゃない?」
「そうだけど……お前の案、すごく嫌な予感が、」
「委員長の前で悪霊退治すればいいんだよ。でも強すぎる悪霊は大変だから軽い運動程度に……七不思議とかどう?」
「……──」
委員長と七不思議探検に行ってそこで七不思議全て退治する。そうすれば委員長も実力を認めてくれるだろう。
何とも良さそうな案だが、退治に一般人を巻き込むのは忍びない考えの氷空は思い切りため息をついた。
「だってこれしかないよ?言葉で言ったとこで委員長は信じてくれなさそうだし」
「それはそうだけどな……」
一応、氷空も言葉で委員長を説得しようとした。
だが、「幽霊なんていない」の一点張りで最後は「だから廃部にしろ」と言い負かされてしまった。
しまいには「いるなら証拠を見せてご覧なさい」と勝ち誇ったように言ってきた。
ならば証拠を見せるまで。実力を見せてやる。
美玲の対策でしか委員長を言い任せられないだろう。
「…………」
「大丈夫だよ!私が全力で委員長を守るし、氷空のお祓いは強いし。それに七不思議程度の霊、簡単に倒せる!」
「まあ油断さえしなければ楽勝だけどな」
この前、ここの高校の七不思議探検に行ったことがあった。
怪奇探偵部に「七不思議探検に行きたいのですが怖くて行けません。付いてきて下さい」という面白いオカルトファンがいたためそれに付き合ったときだ。
あの時もすぐに美玲たちが霊を退治した。
今まで強力な悪霊を退治してきたのだから、七不思議ぐらいに遅れは取らない。
それに言い負かせる方法はこれしかない。
よくよく考えた氷空はため息をつきながらもうなずいた。
「……ああ、それで行こう。今日委員長に言う。だけど、どこの学校にする?」
美玲たちが通う高校の七不思議は全て残らず退治してしまった。
ならば近くの学校の七不思議を退治するしかない。
「ここの近くに生徒数が少ない小学校があるでしょ?しかもまだ建て替えてないボロボロの校舎だし。あそこがうってつけだと思うんだよね」
「なるほど、小学校と来たか」
「じゃあ私はそこの小学校の七不思議調べるから!氷空は委員長お願いねー」
「分かった」
解決策はまとまった。
後は委員長を説得して七不思議探検に連れてこさせるだけ。そして後は氷空と美玲が霊を退治する。
その作戦を立て終えると二人はそれぞれの仕事へ向かった。
〜小学校の七不思議〜
①深夜零時に踊り場の大鏡を覗き込むと引きずり込まれる
②あるはずのない四階が現れ、登ると異世界に繋がっている
③夜の学校をうろつき回る人体模型
④プールに引きずり込む子供の霊
⑤トイレの花子さん
⑥追いかけ回すテケテケ
⑦誰もいない体育館で首無しの霊がボールをついている
深夜──。
とある小学校の校門の前に、三人の姿があった。
怪奇探偵部である美玲と氷空、そして委員長である優奈だ。
「こんな真夜中に、しかも、七不思議なんて馬鹿らしいことを……。しかも、小学校の無法侵入じゃなくて?」
厳しい顔をしたまま優奈が呟いた疑問に美玲が微笑みながら返した。
「大丈夫ですよー!この学校の先生に許可を頂きました」
「本当に?」
「はい。この校舎は近いうち建て替えられるみたいでそれまで肝試しとしても有名なスポットらしいです。私達みたいに七不思議を見に来る人も少なくはないので特に驚きもせず許可してくれました」
これは、本当のことだ。
氷空が優奈を七不思議退治に連れてくる説得をしている間、美玲はこの小学校にやって来て先生に七不思議について聞いて調べてきたのだ。
その時に、許可ももらってきたのだ。
「……仕方ないわ。行きましょう」
氷空に説得された優奈は渋々といった感じでも校門を開けて中に入った。
校門はあらかじめ先生が開けておいてくれたらしい。
「どうせ、七不思議なんて無いでしょうけど。でもこれで廃部の証拠が取れるっていうなら行くとしましょうか」
とため息をつきながら先頭を切って歩き出す優那。
後から二人がついていく。
「委員長、霊を見て怖がるのは勘弁してくださいねー?」
という美玲の茶化しに「そんな訳ないでしょ」と切り捨てる優那。
ふふっと美玲は微笑んだ。
「じゃあ安心しました。はじめにどこに行きましょうか?大鏡がある踊り場は怖くなさそうなのでちゃっちゃと片付けちゃいましょう!」
「ああ、それがいいな」
「勝手にしなさい」
というわけで「深夜零時に踊り場の大鏡を覗き込むと引きずり込まれる」と噂の七不思議を確かめに行くことになった。
今は零時ちょっと前。丁度いい時間帯である。
校庭を横切って校舎の中に入る。
薄っすらと蛍光灯の灯りがついているが、薄暗くて不気味だ。
生暖かい風が身体を撫でていく。
「……気味が悪いわね。こんなところに何しに来たんだか」
興味無さそうに呟く優奈に「まーまーそう言わずに」となだめる美玲。それを氷空は何も言わずに見つめていた。
やがて美玲の口数も少なくなり、三人の足音しか響かないようになった。
夜の校舎に足音が響くのは何とも不気味である。
一階分の階段を登り終えると、踊り場に着いた。そこに姿見を楽に写せる大鏡がある。
「ここ……だよ。あと数分で零時になるから誰が確かめる?」
美玲が聞いたが誰も答えなかった。
氷空は祓う専門であり興味ないと無言を貫いている。
そこで美玲は天使の微笑みを浮かべると、優奈の方を見た。
「……委員長?自分の身で確かめますか?」
それを聞いた優奈はフッと鼻で笑った。
「私が怖がるとでも?いいわよやってあげる。それで何も起きなかったら廃部だからね」
「もちろんですよー!」
軽く答える美玲に慌てて氷空が入った。
「委員長は信じてないけど、マジの話引きずり込まれるぞ?一般人を巻き込むのは……」
「馬鹿じゃないの?マジって何。そんなの嘘に決まってるから私が確かめてあげるわよ」
「ほら、大丈夫だよ!委員長も言ってるし……何かあったら私が全力で助けるし!」
「だから何も起きないって。とっとと黙って零時を待ちましょうよ」
「ほらね」
美玲と優奈の言葉に氷空は折れた。「じゃあ頼む」と優奈に一言を言う。
または、氷空が美玲の実力を信じているから任せられるわけでもある。
ゆっくりと優奈が鏡を片手でなぞる。
「何が起きるっていうの?馬鹿みたい」
零時まであと一分弱。
みんな口を閉ざして、美玲でさえも微笑みを消して無表情な顔で鏡に手をつく優奈を見つめている。
氷空はそっと腕時計を見た。
秒針がゆっくりと動いているように見える。秒針の動きに気が取られていると、残り40秒、30秒、20秒──10秒と零時へ縮まっていく。
一桁代のカウントダウンが開始し、緊張が一気に高まった。
7……6……5……4……3…………2…………1………………
──0。
零時が、訪れた。
「やっぱ何も起きないじゃない。馬鹿みた……ッ!?」
優奈が呆れて鏡から手を離そうとしたその時。
「え、ちょっ!?離れない!?」
優奈の手が鏡から抜けなかった。
ドブリと鏡の表面が渦を巻きそこに手が引きずり込まれていく。
──よく見ると、鏡の中に髪で顔を隠した女の子が優奈の手を掴んで引っ張っていたのだ。
どうせ何も現れないと思っていた優奈は怖いのも含めてパニックを起こしている。
「委員長ー?大丈夫ですかー?」
美玲が顔に笑みを取り戻してからふふっと笑う。
「今助けます!私がやったら大丈夫だから!」
「何言ってるの!?ぬ、抜けるわけないじゃない!」
優奈がいくら引っ張っても鏡に手が吸い込まれていく。
女の子の引っ張る力が強い。もう腕に侵食してきている。
微笑みながら美玲はため息をついた。
「見ててくださいねー!ねえ、鏡の幽霊さん!私にどーせ触れること、できないでしょ?」
美玲が、優奈の手が吸い込まれている渦状の部分に手を突っ込んだ。
が、美玲は引きずり込まれることがなく、カツンと鏡と当たる音がした。
同時に優奈の手も開放され、怖かったのか先程までの威厳はどこやら尻もちをついて呆然と鏡を見上げていた。
そう、女の子は美玲が触れた瞬間なぜか手を離したのだ。
そして、怯えたようにガクガクと震えだした鏡の中の女の子。
そこへ、トドメというばかりに氷空がポケットから「除霊の御札」を取り出し見せつけた。
その瞬間女の子の震えが止まらなくなりしまいには泣き出してしまった。
「いじめるの可哀想でしょー?祓う前にちょっと話ぐらい聞いてあげようよー!」
「俺に怖がってる前にお前の力に怖がってると思うんだが」
「え?私、氷空みたいに力づくで祓うとかはしないからねー?ねえ、鏡の幽霊さん!話なら聞いてあげるよー!」
が、女の子は体を震わせながら、答えることをしなかった。
「ほら、氷空のせいだー!」
「俺がやる前から怯えてただろ……」
美玲は天使の微笑みを浮かべると、女の子に笑顔を向けた。
「私は特に貴方を傷つけたいとかじゃないんだー。どうして鏡の中にいるの?」
その微笑みと柔らかな言い腰に感化されたのか、女の子はぽつりぽつりと呟き出した。
『……元々いたのはわたしじゃないの。異世界人って言ってる人で、わたしはその人に鏡の中に引きずり込まれてしまったの』
「それで、今度は貴方が引きずり込む番になったんだね」
怪談ではよくある話である。
引きずり込まれた側が、引きずり込む側になる──というのは。
「ん?ってことはお前が誰か引きずり込んだら鏡から出れるのか?」
氷空が聞いた。
鏡系の怪談では、そんなパターンが多い。
それが呪いの連鎖だという、が。
『ううん、出れないの。でもわたしは一人じゃなくなるの。鏡の世界で引きずり込んだ人と一緒に遊べるの』
まるで幼い子供のような喋り方と内容だ。
そして、女の子はなぜか泣き出してしまった。
『一人ぼっち……嫌だあ……嫌だあ……寂しいよお……』
寂しいと嫌だを繰り返してずっと泣いている。
それを見かねた美玲が、口の端を持ち上げて柔らかな笑顔を作った。
「……じゃあお姉さんが遊んであげるよ」
『……そうなの? 本当に?』
「いいよー! 私遊ぶの好きだから!」
『わーい、ありがとう……嬉しい……』
ふふっと笑う美玲に向かって、女の子は泣き止んで微笑みを見せてくれた。
『……じゃあ遊んで……ね…………死ぬまで』
「!?」
その瞬間。
女の子の笑みが歪み、鏡の表面が波打ち、闇に染まっていく。
『お姉さんさ……わたし、貴方に触れられないんだよね……。だからさ……鏡の世界を広げるね……』
「……へえ」
面白そうに美玲は笑った。
闇の波紋が、鏡の表面から浮き出て渦となり美玲に迫る。
「分かってないなあ。私はねー? 貴方に触れられないんじゃなくて」
目の前に迫る闇にも動じず、美玲は手をかざした。
「……邪気を寄せ付けない体質なの」
闇と、美玲の手のひらが合わさった瞬間。
彼女の手のひらから光が現れ、一瞬で闇を打ち消した。
『……なっ』
「まあ触れた邪気全て確定に消すことが出来る。だから貴方は最初嫌がったんでしょ? だけど、霊を消すことが出来ると勘違いしたんだよねー? 大人しくしておけばいいものをー。だったら楽に成仏させたのにー」
いたずらっ子のように微笑む美玲の隣で。
氷空が御札を鏡に投げつけた。
『……ぎゃ!?』
「お前の魂は地獄に留まり続けろ」
『え、嫌だ……っ! わたし……私っ……! 助けて……!? ひどいよお……』
鏡の中の少女はまた幼い可愛らしい子のように泣きじゃくった、が。
「騙されるわけ無いじゃん? 正体バレバレなんだけどー?」
『ねえ……こ、これって除霊の御札……お姉さんより……強い……っ。ああああああ゛あ゛あ゛!?』
少女は苦しみだし、長い絶叫をあげ続けた。
そして、闇が渦巻きだし、少女の姿は醜い血濡れのぐちゃぐちゃな肉塊に変化していく。
まるで、何とか人間の形を留めているような、そんな無惨な姿。
「それが、本当の姿なんだね。鏡の霊、さん」
『あ゛あ゛あ゛……ゔぁああああああ! ひどいっ……ひど……っ。一生……恨んでやる……っ!』
しわがれた恐ろしい声に変わってそう叫んでから。
鏡の中の霊は、霧散した。
「一生ってお前の一生終わってんだろ」
冷たく、氷空が吐き捨てた。
鏡は、元に戻り、美玲たちを写している。
「地獄への御札、効いたね!」
「……ああ。でも毎回思うんだが……お前一人で祓えばいいじゃないか」
「だって私は? 聖属性だし? 魂ごと消しちゃうから、地獄送りとかしたい時氷空に頼るしか無いじゃん?」
楽しそうにふふっと笑う美玲に呆れたように氷空は溜息をついた。
「どんだけ痛めつけんだ……」
「だって、悪い霊なら地獄で苦しむのが当たり前でしょ?」
さらっと言う美玲には慣れたと言うばかりに今度は氷空は答えなかった。
そこへ。
今まで会話に入れず怯えて見ていた委員長──優奈が震えながら声を絞り出した。
「貴方達……何者?」
「……──」
その問いに黙る氷空とは反対で美玲は微笑みを浮かべた。
「委員長、信じてくれましたかー?」
「……っ。私、夢でも見ているのかしら」
「まったく、認める気は無いんですね!」
「……私は非常に質悪い悪夢を見ているのよ、惑わされては……駄目……」
まるで言い聞かせるように暗示を唱える優奈。
苦笑しながら美玲は階段を登っていく。
「まあ委員長、落ち着いて下さい。次は花子さんでも呼びに行きますかー?」
ビクッと優奈が恐怖によってか、肩を震わせたのを美玲は気づかなかったが氷空は見てしまった。
完全に怪奇探偵部を舐めいていた優奈の自業自得でもあるが、氷空は何だか哀れに思えて、ぼそっと呟いた。
「……お前は安全なとこから見てるだけでいいからな」
その声が聞こえたのか、優奈は恐る恐る階段を登り始めた。後ろから氷空がついていく。
「……これは、所詮夢……悪夢、よ……」
相変わらずそう自分に言い聞かせていたのだった。