それぞれの想い
「差し出がましくもアドバイスをさせていただきますがルイス君…、3回戦の内容は最も梨咲君が得意とする分野です。」
寮の窓口の控室、レイドリューが眼鏡のズレを直しながらルイスにアドバイスをする。
『3番 水属魔法 この勝負においては水の魔法を用い、癒しの作成 どちらが優れた癒しアイテムを作成出来るかで勝敗が決まる。』
「梨咲君はこの分野で数々の賞を受賞しています。
ただ、欠点もあって、こだわりが非常に強い。
温度管理の徹底や、発酵、熟成に時間をかけて、
完璧なアイテムを生み出します。」
レイドリューの話を聞きながらルイスは梨咲らしいと思い苦笑いする。
「今回の勝負、制限時間は3時間でしたっけね…。
そういう意味では完璧主義を発揮出来ません。
ですが、相手は英梨咲君です。その辺は巧妙に何か策を投じてくるでしょう。」
「…。癒やし、回復系飲料を作れば良いって事ですよね。先輩もその方面で大変優秀だと聞いています。」
「いやいや、僕は梨咲君程のレパートリーはないんだ。でもまぁ、アドバイスくらいは出来るかもよ?」
「お願いします!もう絶対に1つも落としたくありません…!」
ルイスの真剣な表情にレイドリューは驚いたが、ふっと笑う。
神様はちゃんと梨咲君を見ているのだろうか…?
愛に飢え、愛を欲し、愛を渇望する梨咲君。
神様はご褒美をくれたかな…。
愛されるという意味を、君はもう少しで理解する事が出来るかも知れないね…。
レイドリューはルイスの肩に手を置く。
「私のすべての知識を教えましょう。手前味噌でどこまで梨咲君に通用するかはわかりませんが、今のルイス君ならきっと大丈夫…!」
こうしてルイスとレイドリューの3回戦に向けた特訓が始まった。
「梨咲様…」
すやすや眠る梨咲の前髪を凛は前足でかき上げる。
よく寝ていらっしゃる…
凛は梨咲の顔をまじまじと見る。
お母様の梨愛様によく似てきましたね…
貴女を梨愛様の様な目に合わせたくありません。
いつか貴女を解放して差し上げます…。
私は…貴女が幸せになるためなら何だってしますよ。
凛はそっと梨咲に口付ける。
愛しい梨咲様…。
今の私では貴女を守りきれない。
せめて、元の人の姿であったなら…
寂しいと泣く貴女を抱きしめて、
いくらでも愛を注げるのに…
私はずっと貴女だけの味方です。
貴女だけを愛しているのです。
もしも、望んで良いのなら…
本当は誰にも渡したくはありません。
梨咲に頬ずりする と
「ん… ルイス…?」
梨咲が寝言を言った。
「!!」
凛は衝撃を受けた。
ルイス?
今まで誰も梨咲様の心に入れなかったのに…
顔が青ざめる。
同時に心の奥から湧き上がる嫉妬心。
「お前以上に大事なモノがある訳ないだろう…?」
梨咲の言葉を思い出す。
梨咲様自身も…まだ気がついていないのだ。
心が変わり始めている事に…
凛は体を怒りで震わせる。
あのガキ…
梨咲様に気易く触れるどころか何度もキスをし、心まで…!
許せん!!
引き裂いてやる…
凛の目は冷酷だった。
幼少の頃より守り抜いてきた梨咲様を、あんな上っ面だけの婚約者に渡してなるものか!