落とせない
「あの…ルイス」
梨咲はルイスに抱きつかれたまま動けない。
「離して貰っていいか?凛が本当に死んでしまう…」
ルイスは大人しく手を離してくれたがその顔は暗い。
「変な話してごめんね?」
梨咲がルイスの顔を覗き込む。
「今日はもう、お休みなさい?」
ルイスの目を覆って梨咲がおでこにキスをする。
「?! /// 」
ルイスが気を取られたすきに梨咲は手から土の魔法を発動させ、たちまちルイスを鳥の姿に変えた。
「!!」
鳥の姿に変えられたルイスは羽根をばたつかせて怒っているように見えた。
「またね。」
それから梨咲は風の魔法でルイスを寮まで飛ばした。
東の森の500段の階段を降りながら、梨咲は急いで瞬冷にした凛を弱い火の魔法で溶かす。
溶かされた凛はぐったりと伸びていたが、ハッと意識を取り戻すと喚いた。
「今日こそ…、今日こそ…!…死ぬかと思いましたよ?!!」ガタガタと震えている。
梨咲は持っていたハンカチでずぶ濡れの凛を拭いてあげる。
「あんなにべらべらと国家機密を喋って良かったのか?」
梨咲も驚きを隠せなかった。
「おやおや。坊やには刺激が強すぎましたかな?
しかし、梨咲様の婚約者となられるのであれば、その位の事で動揺するような方では…」
凛が愉快そうに笑う。
「お前も意地悪だな。婚約者だからあそこまで言ったのか?父が知ったら激高するぞ?」
凛は梨咲の腕から離れて、前を歩く。
「私は梨咲様が幸せであればそれで良いのです。」
幸せ…?か。 幸せって…なんだろう?
凛の背中を見ながら梨咲は考えた。
私はただルイスと、心が弾むような勝負をしたいだけだったのに…。
考えるのに無意識に持っていった指が唇に触れた。
ドキッとして思わず指を離す。
忘れていた温もりを思い出して落ちつかない。
前を歩く凛に気がつかれない様に体の熱を冷ます事に、梨咲は必死になった。
ルイスは梨咲よりひと足先に帰ってきた、というか帰された。
風の魔法で自動で寮に着くと、同時に土の魔法も解除されて、元の姿に戻った。
梨咲の魔力にルイスは改めて感動する。
鳥の姿に変わるのは 命属性の魔法。
通常は自分自身にしか使えない。
梨咲は前にルイスが変身した鳥の形を覚えていて、地魔法で鳥の形を精巧に作ったのだった。
やっぱ、梨咲さん、すごー…!!と感動した後、
ルイスは溜息をついた。
梨咲さんの事、何も知らなかった…。
あの強さと優しさの裏には各国の陰謀が動いていたのか…。レイドリュー先輩が調べられない訳だ…。
俺と結婚することは梨咲さんを不幸にするのだろうか…?
ルイスは頭を横に振って、考えを改める。
きっかけは婚約者だったとしても
俺は、国も 組織も 結びつきも 家柄も関係なく
梨咲さんを好きになった。
この結婚が 国や 組織や 結びつきや 家柄 に関係があったとしても、梨咲さんを幸せにしたい。
ちゃんと、俺のことを好きになって貰いたい。
政略結婚ではない、純愛をルイスは望む。
それからルイスは、安心しきった梨咲の キスする前の顔を思い出して、顔を赤くした。
ちょっとは意識してくれたかな?
今日は半分以上、ソレが目的だったんだけと…。
でも…梨咲さんの葉は最後まで落ちなかった。
つえー…!
あの状況でも魔力と感情が切れないのか…。
ルイスが寮に入るといつもの様に窓口にレイドリューがいた。
「お帰りなさい ルイス君。今日は…残念でしたね。でも…何だかいい顔してますね!」
レイドリューに言われて微笑んだ。
梨咲さんは強い。でも、俺も負けない。
この先の勝負、絶対に1つも落とさない!
闘志が漲っていた。
梨咲さんに認めて貰いたい。
認めさせて、戦意を奪って、俺の前でだけはただの可愛い梨咲さんにしてしまいたい。
今日みたいにあしらわれるのは、もう、嫌だ…!