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第2回戦の勝者の話

頂上につくとルイスが駆け寄って来る。


腹立たしくても負けは負け。 

負け惜しみなんて格好悪い事はしたくない。


「はぁ…負けたわ…。」

ルイスに降参する。

「モンスターがいたでしょ?さっきの雷は梨咲さん?」

「まぁね…。運も実力の内でしょ?負けたわ…。」

梨咲はそう言うとルイスの手を引っ張って展望台まで連れて行く。

「私のせいで街には行けないけど、ここからも十分、街の様子は見えるわ。」


梨咲はルイスに街が一望出来る景色を見せる。ちょうど夕陽と重なって、街がオレンジ色に染められている。

「良い景色でしょ?ここの国の人達は本当に穏やかに暮らしている。そういうの見てると…嬉しくなるよね!」


梨咲は本当にこの平和を心の底から喜んでいた。


梨咲さんはどうして幽閉なんかされているんだろう…。

ルイスはどうしてもそこに戻ってしまう。


こんな立場の中でも悲観するのではなくて、みんなの幸せや、俺が喜ぶ事を考える…。何か…


ルイスは梨咲の首に飛びつく。

「え…っ?何、どうした?!」

梨咲はぎょっとする。

「すみません。梨咲さんがすごく愛しくなってしまいました…。」

梨咲は急にルイスに抱きつかれてバランスを崩した。


「…わ!」

後ろに尻もちをつくとそのままルイスに倒された。

ぎゅっと抱きつかれて起き上がれない。

「…ルイス…!」

突然の事に梨咲は慌てた。


はら…っ 

とルイスの頭上の葉が梨咲の掌に落ちてきた。

「! …ルイス…葉…!」

ルイスは葉に気を留める事なく静かに起き上がり、梨咲を見つめる。

「私の負けですね…。でも、その前にこの勝負でのご褒美を下さい…。」

「え… ちょっと待って!ル…」

ルイスの指が急に唇に触れてきて梨咲はドキッとする。


え…? ご褒美? コレ、ご褒美なの?!


ルイスの顔が近づいてくると、梨咲は緊張して体を強ばらせた。思わずぎゅっと目を瞑る。


梨咲の緊張に気がついたルイスは唇から指を離して、梨咲の髪を優しく撫で始めた。梨咲の緊張を解す様に。


「…?」なに?

梨咲がそっと目を開けるとルイスと目が合う。

覗き込んでくるルイスの瞳が優しい…

あ… 

無理やり しないの?


梨咲はルイスを窺う様に暫く見つめる。


ルイスは優しい眼をしてただ髪を撫でてくるだけ。


ヤバい…

愛されている と勘違いしそうになる。



梨咲は泣きたくなった。

こういう温もりをずっと前から欲しかった。

優しい温もりに心を預けてみたかった。


でも… どんなに望んでも

そんな温もりは手に入らなかった。


涙と魔力を必死にコントロールする。

私は…こんな事で感情を揺らがせたりしない…


葉がおさまる手をルイスのもう片方の手が上から優しく包む。


でも今だけ… 少しだけ…

ルイスの気紛れかもしれなくても…

愛されてるって味わってみたいな…


梨咲は静かに目を瞑った。

唇にも 温もりを感じ始める。



『7時間12分、ルイス・デヴィッド・ロートン選手失格。第2回戦はあがた梨咲選手の勝利です!!』


どこからか2回戦の終了を告げるアナウンスが聞こえた。


心地良いな…。

そのまま寝てしまいそうになる…

力がどんどん抜ける様な感覚を梨咲が味わっていると、


「…いつまでキスしてるんです?!」

チッと舌打ちしながら苛ついた顔の凛がすぐ隣に来ていた。


「うわぁ〜!凛!!! /// 」

梨咲は慌てて飛び起きた。


後ろめたさを感じている梨咲をよそに、ルイスが後ろから抱きついて来る。

「私と結婚したらここ(レスカーデン)から出られるのでしょうか?」

耳元で言われて、梨咲は変な胸の高鳴りを覚える。


「そうですね」

凛が真っ直ぐにルイスを見て答える。

「梨咲様がここを出られるのは婚約者様の元へ嫁ぐ時。それまではここで中央政府に行動を管理されています。」


ルイスはドキッとした。中央政府に管理。

すごい言葉の羅列だ…。

「…何のために?」


「この国にとって梨咲様の母国が脅威だからです。バカらしい話ですが、人質としてここ(レスカーデン)に幽閉されています。

表向きは留学、ということになっているのです。

梨咲様の行動いかんによって相互の国に大きな影響を及ぼします。」


ルイスは続いた凛の言葉に衝撃を受けた。

「そんな…非人道的な話が…」


「だから機密事項なのです。この国は安全保障を手に入れる為に、梨咲様の母国はこの国との有益な関係を手に入れる為に、梨咲様は犠牲になっておられます。」

凛は不気味な冷たい目をしてルイスを見る。

「そもそも国際魔法局だって梨咲様の母国との癒着を強固にしたいのです。この婚約はそういう意味があるのです。全く…どこまで人を利用したら気が済むのでしょうね…。」


ルイスは何も言えなくなった。



「凛…」梨咲は掌を凛に向ける。

その様を見た凛は急に青ざめた。


梨咲は氷の魔法で一気に凛を瞬冷させる。 


「え…?死んじゃいますよ?」

さすがにルイスも慌てる。

「3分くらいなら大丈夫だ。」

梨咲は平然としていた。

過去に何回もやったことがあるからだ。


梨咲は立ち上がると氷の塊の凛を抱える。

その眼は冷たい。


「お前はいい子だ。

婚約者なんて私で無くても沢山居るのだろう?

厄介な事に首を突っ込まずに自分の事を考えて幸せになればいい…」


ルイスの前を横切って階段を降りようとする。


ルイスは梨咲から切り捨てられた気分になって、梨咲にしがみついた。



梨咲はまた変な胸の高鳴りを感じて

危うく凛を落として割ってしまう所だった…。



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