デートのお誘い
「とりあえず、私は帰るわよ?!」
梨咲が踵を返す。
睨み合っていても仕方ない。
ルイスはもう1回梨咲の手を取る。
「もぉ〜お〜!何なのっ!!!」
振り向きざま、攻撃魔法でルイスを飛ばしてやろうと手を翳す。
ルイスは梨咲の手を両手で握ると怒られた犬の様に、しゅんとして見せた。
「…え?」
梨咲はルイスのその様子に戸惑った。
「…ごめんなさい。」
ルイスは俯いて謝る。
「…ん?」
梨咲は何か裏でもあるのかと警戒する。
「ただ…一緒に居たいんです…。」
ルイスの手がぎゅっと梨咲の手を握ってくる。
…そんな事、言われても…。梨咲は困り果てた。
心境は、帰りたいのに野良猫が付いてくる感じ。
ちょっと付き合えば気が済むのだろうか?
「えっと…じゃあ、少しだよ?」
梨咲が言うとぱああっとルイスは笑顔になる。
「ありがとうございます!!」
ルイスの笑顔を見ると、
まぁ、コレで良かったのかな?と思う。
ルイスは…
心の中でほくそ笑んだ。
梨咲さんの戦意を煽りたかったらあのままでも良かったんだけど♡
梨咲さんと仲良く居たいなら、ちょっとこっちが下手に出るくらいの方が付き合ってくれそうだ。
梨咲さんは基本、世話好きの優しい人みたいだし♡
と、梨咲は完全にルイスに性格を読まれていた。
それに、この第2回戦が行われている間は対戦相手以外は近づけない状態になっている。
古の魔術対戦は当人達の対決をどこまでも邪魔されない様、ガードしている。
つまり、あの白猫も今は梨咲に近づけない。
「でも…、何するの?」
「街でも行きます?」
指をパチンと鳴らして楽しそうにルイスが提案する。
「街?!私、出られないよ?」
ルイスが提案してみた「街」
レイドリュー先輩から聞いた。梨咲はレスカーデンから出られない。…幽閉というのは本当なのか?
「どうしてです?」
「まぁ、大人の事情で色々ね…。ね?私と居てもつまらないでしょ?」
梨咲が寂しそうに微笑む。
「長休みはどうしてるんですか?」
ずっとレスカーデンの中…というのは信じ難い、とルイスは質問したのだが、
「え? ずっとココ(レスカーデン)だよ?」
と言う梨咲の言葉。本人から聞いても信じられない。
「何で?!」
「いや、他に行くところないし…」
ルイスの中で一気に疑問が生まれる。
どうして彼女はこんな扱いを…?
生まれ故郷にも帰れないなんて。
何で…
「ルイス」
梨咲に呼ばれてルイスは顔をあげた。
「余計な詮索は命取りになるわ。」
「…この前、記憶消しましたね…?」
ルイスが静かに梨咲に言う。少しだけ記憶がない。
梨咲はぎゅっとルイスの頭を抱き寄せる。
「うん。…ごめんね。悪い事したって思ってる。」
ルイスの頭の上から聞こえてくる梨咲の声は苦しそうだった。梨咲は更に声を潜めて話を続ける。
「ルイス、お願いだから詮索しないで。鈍感でいることも時には大切。この世界はそうやって守られている。」
それから梨咲はルイスの顔を覗き込む。
「約束して?」
顔が 猫の話をした時みたいに青ざめている。
眼が訴えかける。
レイドリュー先輩も言っていた。
記憶がない。梨咲の事を調べようとして…
覚えているのは梨咲が泣きながら自分を何かから守ってくれた様だ…と。きっと国家機密に触れる事だったのだろうと。それからいくつかの書物や検索は制限が勝手にかかり、調べようも無いと。
確かにこの先自分1人が動いた所で、ヤバイ蓋を開けるだけで実りのあることは無さそうだ…。
それどころか彼女を危険な目にあわせかねないのなら余計に。それは、先輩が体験して忠告してくれている。
「わかりました。約束します。」
ルイスが小指を立てて誓いをたてる。
梨咲はホッと安心したらしくて顔が緩んだ。と同時に頭の上の葉も揺らぐ
「わわわ!」
と慌てて魔力を立て直すと、
「いい子ね。」
と言ってルイスの頭を撫でる。
ルイスは唇を指して目を瞑る。キス待ちアピールをするが、一向に唇へのキスはない。
不満気に膨れて目を開けると梨咲はふふっと笑っていた。今まで見たことのない穏やかな笑顔。
ルイスはこの笑顔を独り占めする白猫に嫉妬した。