帰り道
「…先程はありがとうございました。寮まで運んで下さったでしょう?」
競技場から引き上げ、寮に帰る途中でルイスがそんな事を言い出した。
「え…?ああ!あそこに放置しておくのもどうかと思うしな。」
遠い過去の事の様…。梨咲はすっかり忘れていた。
「梨咲さんって優しいんですね…」
ルイスは青い瞳を細めてにっこりと笑う。
「?! /// え…?
そんな事、初めて言われた…///」
梨咲は今まで色々な称賛の声を貰ってきたが、「優しい」という言葉は聞いた事がなかった。
顔を赤くして照れる。
「え…。嬉しいんですか? ///」
圧倒的な魔力で他と一線をひく、高嶺の花の様な存在の梨咲が、可愛く照れる様を見てルイスも照れた。
ギャップ萌え。
「嬉しい?…の、かな?聞き慣れなくて…。なんかふわふわする…」
梨咲はルイスから顔を背けて先を歩く。
うわ〜… この人、そんな事で照れちゃうの?!
めっちゃかわいい人じゃん…
ルイスは衝撃を受けた。
格好良くて、優しくて 可愛さもあって…?
ふと思う…
この人は本当に…幽閉?されているのか ?
ルイスは 梨咲の背中に 手を 伸ばす…
と
「にゃあお~ん」
梨咲の肩に白猫が跳び乗り、梨咲に摺りつく。
「ああ、凛!お腹空いたのか?」
ルイスは白猫の強い目線とぶつかった。
「…そう言えば、梨咲さんのお部屋、意外でした!
全体にパステルピンクで可愛らしいお部屋なんですね♡いつかお邪魔したいな〜♡」
ルイスは白猫に微笑み、挑発する。
両者はバチバチと火花を散らした。
背中で行われている凛とルイスの睨み合いを知らない梨咲もまた、「女子寮に男子は入れないだろ…」と心で突っ込みつつ、無視した。
「…この使い魔の白猫君は梨咲さんの使い魔ではなかったんですね〜!」
突然の白猫の話題に梨咲は足が止まる。
「最初は気がつきませんでした。てっきり梨咲さんの使い魔だと…。 複雑でわかりにくい魔法がいくつも
かけてあります。」
梨咲は青ざめた顔をしてルイスに振り返った。
…幽閉と何か関係でもあるのか?
ルイスはそのまま話続ける。
「まるで…」猫じゃないみたい…
そう言う前に 梨咲はルイスに抱きついた。
突然強い光が目の前で放たれて、ルイスは自分が何を言おうとしていたのかを忘れた。
「…?あれ?」
梨咲はルイスの頭を抱えながらルイスから出た言葉に安堵する。
体を離してルイスを見る。
「今日はもう、お休みなさい?」
小さい子に諭す様に梨咲は優しい目をしてルイスに言った。
「…じゃあ、お休みなさいのキスを…♡」
ルイスが目を閉じる。
きっと「バカ言ってるんじゃない!」とか言って殴られる、と思ったのに、梨咲はルイスのおでこにそっとキスをした。
「?! /// え…ええっ?! 何で?!」
ルイスはおでこを押さえてたじろぐ。
「え? キスしろって言うから…。 え?違った?」
と首を傾げる梨咲。
え… 言うこと聞いてくれるの? ///
「違うよ!キスって言ったら唇でしょ?」
ルイスは唇を指してアピールする。
と、梨咲は顔が段々と赤くなる。
「するわけないでしょ?!/// バぁっカじゃないの?!!」
「えー?!何が違うの…?!」
今度はルイスが理解出来なくて首を傾げる。
「バカなことばっかり言ってないで早く帰りなさい!!次は…負けないんだから!!」
梨咲は顔を赤くしながら睨む。
睨み目もいつもより鋭さがない。
うん。コレはコレでアリかも…
ルイスは含み笑いをしつつ、それぞれの寮へ分かれた。
あのキスは…早く子供を寝かしつけたい母親の様な気分でしたのだが…。 マズかったかな?
そんな事を考えていると、
「梨咲様はルイス様を気に入ったんですね…。」
凛が言い出した。
「…嫉妬でもしたか?」
梨咲は肩に乗る凛をチラリとみる。凛は返事をしない。
「お前以上に大事なモノがある訳ないだろう…?」
前を向いたまま伝える。
凛は噛みしめる様に目を瞑り、梨咲の言葉を心にしまい込む。
「ありがとうございます。」