父と娘
到底信じ難い事だった。
幻影魔法を外から…他者が解くなど。
魔法省長官として色々な魔力と向かい合ってきたが、初めての出来事だった。
しかもその超人的な事を娘がやってのけるとは…
近づいてくる娘に恐怖を感じた。
「梨…梨咲…!コレは…!」
父は思わず後退った。
「え?ああ!コレですか?」
壊れた幻影魔法の残骸を見回しながら、梨咲は短剣を抜いた。
「私、最近古語検定を取得したんですよ。古の書物もスラスラと読める様になりました。コレはかなり古い魔法ですが、現代でも使えましたね。」
父に向き直りにっこり笑った。
「 … 」
父は言葉が出なかった。
梨咲は凛の無事を確認し、抱えて抱きしめた。
「先程の話ですが、この5本勝負はルイスと私の真剣勝負…。何人たりとも邪魔は許しません。」
凛を撫でながら父を捉える。
「後は全て、お父様の言う通りに動きましょう。」
そう言うとにっこり笑った。
先程の荒々しく圧倒的な魔力で恐怖を感じたのは勘違いであっただろうか?
そこに居たのはただの可愛いい我が子だった。
「…そうか。 …しかしな、梨咲。
ロートン家とは友好な関係を築かなければならん。
ルイス君の名誉を貶める様な事があってはならんのだ。お前の行動の1つ1つが世界を平和にも争いにも繋げるのだぞ?」
父は梨咲の手を取りその眼を覗き込む。
梨咲は自分が間違った事を言っている事を十分に分かっていた。
いつだって梨咲は父の駒。
そのためにこのレスカーデンにいるし、そのためにルイスと結婚する。
自分の意思に関わらず、英家に生まれた娘の務め。
でも…ルイスとの決闘は楽しい。
梨咲は生まれて初めて父の命より自分の気持ちを優先させたいと願ってしまっている。
梨咲は俯く。
私のこの決断は…世界を争いへ導くのか?
梨咲は思わずふっと笑った。
「お父様、ルイスは私が簡単に勝てる相手ではありません。一瞬の気の緩みでもあれば簡単に負けてしまいます。そんなに心配されずとも変なことにはなりません。」
手を翳し、風の魔法を発動させると
鳥の姿に形を変えて様子を見に来ていたルイスの魔法を解いた。
すっかり元の、人の姿に戻されてしまったルイスはその場に座り込んだ。
「恐れ入りました!コレも古の魔法ですか…!」
ルイスが感嘆の声をあげたので、梨咲はふふっと笑った。
父は娘の嬉しそうな笑顔を初めて見て、心が揺れた。
娘の笑顔、世の中の秩序…
ルイスを見るとまた、ルイスも楽しそうだった。
この2人は純粋に楽しんでいる。
決闘と言いつつ、お互いの魔力を認め、自分の力を試す。
傷付け合うなどと、危惧する様な事は無さそうだ。
遊戯…だな。
父も考えが変わってきた。
「英様。申し訳ありませんが、私もこの勝負は私のプライドをかけております。邪魔されたくはありません。」
ルイスが父に跪き、頭を下げる。
「それに、父(局長)には書面にて許可を貰っています。」
そう言うと懐から手紙を取り出しルイスは長官に手渡した。
文面を確認すると父は大笑いした。
「くくく…っ!魔力の強い嫁は大歓迎と…。
ロートン家もこの決闘の行方を楽しんでいる様だな!」
父は娘を抱きしめる。「では、英家の名に恥じぬよう、力の限り頑張りなさい。」
梨咲は父の胸で一呼吸置くと、
父の足元から枝や蔦を生えさせ、父を拘束した。
「…気安く年頃の娘にハグしないで下さい!!」
父を睨む梨咲の眼をルイスはうっとりと観賞する。
ふと、
強い視線に気がついたルイスは静かに白猫を見た。