白猫
「先輩…1つ質問が…」
ルイスが起き上がりレイドリューに話しかける。
「うん?何ですか?」
レイドリューがルイスに振り返る。
「先輩は梨咲さんが好きですか?」
レイドリューはルイスの質問に一瞬目が点になる。
それからガタガタと震え青ざめ、両手の平をぶんぶんと振って慌てた。
「や、無理ですよ!!梨咲君?!」
怯えるレイドリューをルイスは不思議な目で見る。
「え、でも好きか嫌いかって言ったら好きですよね?」
ルイスの言葉にレイドリューはやれやれと額に手を当て顔を振った。
「ルイス君、君は2択しかないのかね?
僕の梨咲君への気持ちを知りたいのかい?」
レイドリューの言葉にルイスが顔を縦に振る。
レイドリューは少し考えて話し始めた。
「…そうだな…。梨咲君は心配になる子だ。この平和な世の中で、あんな凄みのある眼をする子はいない。怖いとさえ思うよ。」
ルイスの近くに椅子を寄せ、腰掛ける。
「君は梨咲君のあの眼に惚れたと言うのだろう?
私には到底理解出来ないな。」
「え〜!いいじゃないですか~♡格好良いし♡
…心配って、何でですか?」
「君は梨咲君の事をどこまで知っている?」
レイドリューは急に声を小さくした。
「?」
ルイスはレイドリューの質問の意味がよくわからなかった。
「あの子は…ここに幽閉されている。」
レイドリューが言いづらそうに下を向く。
「え…?何で…?」
ルイスは驚いた。ルイスも何となく小声で話始める。
初めて聞く事だった。
「それは私にもわからない。国家機密に触れるらしくて詳しく調べられなかったんだ。」
「先輩は何でそんな事を…?」
「何とか…助けてあげたかったんだ。
あの子は本当はああいう子じゃないんだ。
いいかい、梨咲君の白猫には注意するんだよ?」
一方、男子寮を後にした梨咲は、先程まで大会の行われていた競技場に戻ってきた。
目を瞑り、神経を集中させ、凛の行方を探す
いくら幻影魔法で姿をくらまそうと、気配でわかる。
「 … 」「 … 」
話し声 に気がついた梨咲は声の方へ近づいていく。
凛は主人の放った幻影魔法によって、外の現実世界からは姿が見えない状態になっていた。
何もない 異空間に 凛は主人と2人きりだった。
凛の前に仁王立ちになり、睨みを利かせながら主人は話す。凛は静かに主人の話を聞いていた。
「梨咲の魔力は恐ろしいものがあるな。力をつけさせろと凛に命じたが、ちとやり過ぎだ。」
「梨咲様の努力は素晴らしいです。探究心もお有りですので…。」
「しかしな、強過ぎる魔力は脅威となる。婚約者に向かっていくなど…!後の4本の勝負は梨咲が負ける様にしなければ、ロートン家に申し訳がたたん…!」
「まさか!あれだけ力をつけさせておいて、それを封じろと仰るのですか!それに、あの古の勝負は何人たりとも邪魔は出来ません。横やりは万死に値します。」
「私の命だ、凛。もし必要が来たらその時は、お前が命を張ってあの試合を潰すのだ。
世界の秩序を守るのは、いつだって我らの仕事…。
わかっているな?」
上から抑圧的に、主人は使い魔に命令する。
その時
この2人だけの異空間に短剣が飛んできた。
短剣によって異空間は斬り裂かれ、幻影魔法が解ける。
「何?!」
幻影魔法をかけた主人は辺りを見回して驚いた。
普通 幻影魔法は、発動させた本人か、その本人を殺さなければ解けない。
「…お父様、もうそろそろ私の白猫を返して貰えませんか?」
よく見るとその短剣は英家の紋が入った梨咲の護身用だった。
短剣で切り裂かれた幻影魔法の欠片をガラガラと踏み潰しながら、梨咲が乱入してきた。