お茶目なら大抵のことは許されるのかもしれない
「報酬の銀貨三枚と銅貨二枚です」
森で採取を終え街へ戻ると、ギルドに寄り完了報告と納品をしていた。
「あれ?銅貨二枚多い」
「納品していただいたスズ花の品質が揃っていたので、品質手当が付きました。納品していただく素材は状態により報酬の増減がありますのでぜひ、品質手当を狙ってみてくださいね」
二枚多い銅貨が、私の行動を評価してしてくれたものだと思うとすごく嬉しくなって思わず頬が緩む。
「よかったな。初仕事お疲れさん」
「ディラン、いつもありがとう!」
心からのお礼を言うとディランの大きく力強い手で頭を撫でられた。
「とはいえ、まだまだ教えることは山程あるからな。しばらくは俺も一緒についてくぞ」
「え、でもディランも仕事があるんじゃ」
「ばあさんが言ってたろ。そんじょそこらの冒険者より稼いでるって。それに、アサコも今の所毎日依頼受けるわけじゃねえしな」
「うん」
私は今、エーデルラントの屋敷で基礎的な令嬢教育とこの世界の歴史やらなんやらを学んでいる。
お父様とお母様は、令嬢教はやってもやらなくてもいいと言ってくれたが、一応エーデルラント家の娘として良くしてくれる両親がなにかの拍子に恥をかかないようにと思って始めた。
やらないよりやったほうがいいもんね。出来ることは多いほうがいい。
「んと、じゃあお願いします?でも連絡どうすればいい?」
「俺から侯爵に連絡入れとくから、空いてる日がわかったら家の中の誰かに伝えとけ」
「お父様を通さないとだめなの?」
「アサコも一応侯爵家の令嬢だろ。礼儀の範囲内だ」
なるほど。その辺りもそのうち令嬢教育でやるんだろうなあ。それにしても。
「ねえディラン、お腹空かない?」
「まあ一仕事終えた後だしな」
「ここに銀貨三枚と銅貨二枚があります。私達は共に仕事を終えたパートナー。そして私は今日が初仕事! だから・・・この前の店で打ち上げしない?」
おいしい物への下心満載の私の提案にディランは大笑いして乗ってくれた。
タルタル亭が店の名前だったらしい。そこで打ち上げと称して向かい、今日は酒場のメニューから気になるものを色々注文してディランはエール、私はジュースと一緒に頂いた。
この国の成人は十八歳。お酒が飲めるまで私は後二年待たないといけない。
残念だけど、料理が美味しいから二年我慢しよう。
おいしい料理で打ち上げした後、ご機嫌な私をディランが屋敷まで送ってくれた。
部屋に帰り、いつものようにステアに着替えを手伝ってもらい、一息ついていると扉をノックしてお父様がやってきた。
「アサコ、落ち着いて聞いてほしいんだが」
あ、なんか嫌な予感
「国王陛下から呼び出しがかかった」
その後私は慌ててお母様に泣きつき、謁見のマナーを一夜漬けで頭と体に叩き込んだ。
翌日、この国、ディティリエ王国の王宮へとお父様と参内した。
控室のような場所に通され、お茶をだされたけど、緊張で喉を通る気がしない。着慣れないレースをふんだんに使用した謁見用のドレスと相まって吐きそうだが、なんとか気を保っていた。
どうしてこうなった。報告だけでいいって言ってたのに。普段と変わりないお父様に恨みがましい視線を送ってしまったけど仕方ないと思う。
「アサコ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。陛下は割とお茶目なところもあるんだ」
お父様がそう言い終えると、ノックの後に扉が開き深い赤色に金糸で刺繍が施された豪奢なマントを身にまとったお父様と同じくらいの年齢のいかにもな風貌の男性が入ってきた。
「来ちゃった」
まさか、国王陛下本人!?
慌てて立ち上がりお母様に習ったあいさつをしようとする。
「いーよいーよ。正式な謁見じゃないし。楽にして」
そう言って一人掛けのソファに座り私の方をまじまじと見た。
「へぇー君が愛し子かー。ディランと仲がいいんだって?」
「ディランをご存知なのですか?」
「あれ、聞いてない?ディランは私の甥っ子だよ」
「は・・・・」
ディランは陛下の甥っ子?頭が言葉を理解すると同時にお父様に本日二度目の恨みがましい視線を向けた。
「いやぁ、言おうと思ったんだけどね?彼がただの冒険者だっていうから、じゃあ言わなくてもいいかなって」
いいかなって 良くないわ!
「ディランがさー最近楽しそうでさー。ちょーっと探ってみたら愛し子の世話を甲斐甲斐しく焼いてるっていうからどんな子かなーって気にるじゃん?だから呼んじゃった!」
呼んじゃった!って、呼ばれた方の身ににもなってほしい。
「言った通り、お茶目だろう?」
お父様、だろう?じゃありません。だろう?じゃ。
ブクマ、評価ありがとうございます。




