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誰にでも初心者なときはある

 

 お兄様に教えて貰った魔法の練習を地道に行い、一時間ほど続けることができるようになっていた。


 そんなある日、私は早い時間からディランと共に再びラングスタールへと来ていた。前回おばあさんに頼んだ防具が出来たとディランが連絡をくれて、私とディランの都合がいい日が今日だった。


 今回、男装はしていないけど麻の長袖シャツと長ズボン、髪はポニーテールにし、動きやすい恰好で来た。というのもこの後、だいたいの冒険者が最初に受ける薬草採取を実地で指導してくれるとディランが言ったからだ。


「どうだ?」


「すごい。ぴったり」


 おばあさんに調整してもらったブーツと手袋それと胴当てベルトを着けてくるりと一回りしてみた。


 調整前のはどれも大きくてブカブカだったんだよね。


 手袋を外して、ベルトの収納部に素材採取用のナイフや袋、回復薬にいざというとき目くらましに使える閃光玉など冒険者の必需品と言われたものを入れていく。


「うんうん、丁度良さそうだね。不具合が出たらすぐに持ってきな」


 おばあさんは色々な角度から私を見た後、満足そうに頷いた。アフターケアもバッチリである。


 用事が済み、お礼を言って店を出る。一目見て冒険者とわかる姿になり、気分が上がったまま冒険者ギルドへと向かった。




 ギルドにつくと真っ先に掲示板に向かい依頼を探す。

初心者向けっぽい依頼もちらほらとあるけど、どれがいいのかは正直わからない。迷っていると私と同じように依頼を見ていたディランが掲示板から一枚剥がした。


「最初はこれだな。報酬は安いが比較的安全な場所で採取できる」


 そう言って紙を渡して来た。


「なになに・・・スズ花十本に雲草二十本。報酬銀貨三枚」


 銀貨一枚千円位だから三千円位か。他の受けられそうな依頼は銀貨7枚とかだから確かに少ない。でも白金の冒険者様が言うんだから私に否やは無い。私はそのままカウンターへ並ぶ人の列に加わった。


「前のときも思ったけど人が多いね」


「まあな。近場の依頼なら、この時間に受ければ早いもので昼前に、遅くても夕食前に終わる依頼がほとんどだからな」


「一日で終わらない依頼とかもあるの?」


「あるな。内容にもよるが長期の依頼だと三ヶ月以上かかるものもある」


「さ、三ヶ月」


「ま、長期の依頼は大抵の場合、金以上の冒険者に声がかかる。しばらくは気にすんな」


 そんな話をしていると列はすんなりと捌け、あっという間に順番が来た。


「おはようございます。今日はどのようなご要件でしょうか」


「おはようございます。この依頼をうけたいんですけど」


「はい、こちらですね。では冒険者証をお出しください」


 言われた通り冒険者証を出すと、備え付けの四角い台のようなものの上に乗せる。その上におねえさんが依頼書をかざすと、依頼書がキラキラと光になって冒険者証に吸い込まれた!


「はい、では期限は明後日、十時までとなります。期限を越えると違約金とペナルティが発生しますのでご注意ください。いってらっしゃい」


 初めて見る光景に釘付けになっていたら、おねえさんはクスクスと笑っていた。最後、小声でいってらっしゃいって言ってもらっちゃった。仕方ないけど子供の扱いだな! 仕方ないけど!


「ディラン。さっきの魔法?」


「魔法だな。あれで冒険者証の中に受けた依頼の情報が入る。ちなみに過去に受けた依頼や、問題行動を起こしたときはその情報なんかも全部その中に入るから気をつけろよ」


 ほほー。正しく身分証だなあ。


「そろそろ行くか」


 その一言で気を取り直しギルドを出て薬草採取へと向かうことにした。街を出る道すがら依頼内容について聞いてみる。


「ねえディラン。スズ花と雲草ってどこに生えてるの?」


「基本的には森だ。大抵の森の中にある。今日はここから東に行った所にある森に行くぞ」


 街を出てしばらく歩くと、前方に森とその入り口が見えてきた。


「アサコ、森に入ったら気をつけろよ。ここは街に近いから滅多に出ねえけど魔獣がいるし、野生動物に襲われても危険だ。特に足元に注意して生き物の足跡がないかは確認しとけ」


「うん」


 色々な注意点を教えて貰いながら森の中を歩く。森の中は薄暗く、魔獣や野生動物がいると聞くとほんのり怖かったけど、食べられる木の実や回復薬の材料になる薬草を教えてもらいながら進むうちに気にならなくなっていった。


「アサコ、こっちだ」


 前を進むディランに呼ばれて近寄ると葉っぱの先の方がふわふわの、緑色の雲の様になっている草があちらこちらに生えていた。


「これが雲草だ。こいつは素手で掴むとかぶれる。俺は冒険者になりたての頃、こいつを両手で掴んで引っこ抜いて三日は治らなかった」


「あ・・・雲草のかぶれに効く軟膏」


 おばあさんが言ってたのを思い出した。ディランにもそんな失敗があったんだなあ。かぶれるのは嫌だから手袋はめよ。もしかして素手で森の中を歩いていたのは恐ろしいことでは?


 引っこ抜かなくても根本から刈り取ればいいらしく、採取用のナイフを使い二十本集め袋に入れた。


 もう片方のスズ花は池や湖の水際に咲いているらしく、雲草を採ったところからさらに森の奥へと向かうと、水のあるところを好む虫をディランが見つけた。


「苔喰い虫だな。こいつがいるなら水場が近いはずだ」


 ディランの言う通り、少し歩いたところに湖があった。その湖を囲うように鈴蘭に似た白い花が咲いていた。そっくりだけど、鈴蘭よりも花弁が長いな。


 ディランは本当に色々知っていて、最初は怖さも少し感じていたのに、進むにつれ楽しくなっていた。


「スズ花も根本から刈り取ればいいの?」


「ああ、刈り取るときに花を潰さないようにな。袋も雲草と分けて入れたほうがいい」


「わかった」


 冒険者ってすごい。色々な知識が必要だし、ディランを見てるとなんでも出来るんじゃないかと思えてくる。それに、採取も楽しい。意味があるのかはわからないけどついつい同じような大きさのスズ花を探してしまう。

私は夢中になって花を集めていた。


 必要数集め顔をあげるとディランがびっくりするくらい優しい眼差しで私を見ていた。見間違いかと二度瞬きをするともうその表情はなくて、いつものディランだった。


「ブッ。アサコ顔、泥だらけだぞ」


 慌てて湖で顔を洗いハンカチで拭く。ディランはディランだった。


「そろそろ帰るか」


「うんー」


 初めての採取を終えた私達は街へ戻る道を歩いた。




 

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