ぐるぐる
「教えてやろうか」
突然腕を引かれ、目の前にディランの硬い胸板が視界に入る。筋肉質なガッシリした腕が背中に回されて抱きしめられるような恰好になってる。
「ディラン?」
「言ってもわからねえなら身体に教えねえとな?」
「……ちょっ!」
丈が長いはずの夜着は、いつの間にか私の太腿を撫でるディランの手によって捲りあがっている。
太腿を撫でるディランの手は内腿へと移動してきて、それを止めようとディランの手を掴んでみても、私の力じゃびくともしない。足を閉じようとしても、それを防ぐようにディランの足が私の足の間に差し込まれていて、それすら出来ない。
「まって……!」
「それで抵抗してるつもりか?」
耳元で普段よりも少し低く、艶のある声が響く。
恥ずかしさと混乱とで、鏡があったら私の顔は真っ赤になってるに違いない。
じりじりと内腿を撫でる手が上の際どい所まで上がってきて―――
「ちょっ、たんま! ストップ!! ごめんなさい!!!」
私は心の限り謝罪を叫んだ。
私が叫ぶと、びくともしなかったディランの手は何事もなかったかのようにスッと離れていった。
「バーカ 少しは懲りたか。今日はもうさっさと寝ろ」
「痛っ」
高速で頷いて返事をすると、二回目のデコピンをしてそのまま私の部屋から出て行った。
「バカはどっちよ……」
ディランが出て行って静けさを取り戻した部屋の中、身体から力が抜けてそのまま床へと座り込む。
すごくドキドキした。私だって前世は三十四だったし、そういったこともあったからあの後に何があるかくらいはわかる。なんなら、あのまま成り行きに身を任せてもいいかと思っちゃったくらいだ。だけど、ディランの慣れた手つきに、本当にそれでいいのかと思ったのだ。ディランは私の事をどう思ってるの? って。
今考えれば、元から最後までするつもりなんてなかったんだろう。ディランだって今三十六で私の中身と同い年だし、あの顔に白金冒険者っていうステータスだ。それなりに経験もあるだろう。でも、愛し子のダンジョンに行く前は、ほぼ毎日に近い頻度で会ってたから今恋人はいないと思ってる。いない……ハズ。多分。
だめだ。思考がそれていっちゃう。
つまり、経験豊富なディランがわざわざ年の離れた私を相手にする必要はない。あ、自分で言ってて悲しくなってきた。じゃなくて……結局、ディランにとって私は近所の目の離せない年下の子位なのかなぁ。私の気も知らないであんなことして、絶対、バカはディランの方だ。
ちゃんと私の事を見てもらうのにはどうしたらいいのかな。
ディランと一緒に行動できるくらい強くならないとダメ?
もっと年が近くないとダメ?
ディランに釣り合うくらい色気のある美人じゃないとダメ?
色々思いつくけど、出来ることもあれば絶対に出来ないこともある。どうすればいいんだろう。
ディランには早く寝ろと言われたけど、色んなことがぐるぐると頭の中を巡って結局、明け方まで私は寝付くことができなかった。
長くお休みをもらってますが、休みの間に一つだけ言えることがありました。鼻でやるPCR検査は死ぬほど痛い。 しばらく痛いのを思い出して痛くなるのを繰り返しました…




