魔法は一日にしてならず
ディランと街へ出かけた二日後、私はお兄様に魔法の使い方を教わっていたはず、だけど。
「魔法を使うにはイメージが大事だよ。心を落ち着かせるためにまずは深呼吸をして」
お兄様に両手を握られ向かい合っていた。
「あの・・・・お兄様?なんか近いような」
「これくらい普通だよ。それよりほら、集中して?」
そう言って、さらに顔を近づけてくる。そんな甘い顔で微笑みながら言われても、近すぎて集中出来ない。
思わず恨めしくなりお兄様を睨む。
「ふふっ・・・やっと言葉を交わせるようになった妹が可愛すぎて。ちょっと意地悪しちゃった。ごめんね?」
謝ってるつもりなんだろうけど、笑いを耐えて肩が震えてるのを見逃せなかった。
お兄様の意地悪。
心の中で悪態をつく私を知ってか知らずか、お兄様の顔は元の位置に戻ったが手を離してはくれなかった。
「あの・・・手が繋がったままなんですが」
「うん。アサコの魔力が上手く体を巡回できるか見るからこのまま、ね。さあ、深呼吸して」
まだからかわれてるんじゃないかと若干の疑いを持ちつつも、目を閉じて深呼吸をする。
「そう、ゆっくり深呼吸して。僕と繋いでいる手に意識を集中して。なにか感じるかい」
言われた通り深呼吸を数回して集中すると、繋いだ手からなにか温かいものが流れ込んでくる感覚があった。
「なんか温かい?」
「うん。じゃあその温かいのがそのまま体に沿って流れるイメージをして。そう。上手だよ」
言われた通りにイメージすると、体の中の温かいものもイメージと同じように流れる。これ、意外と疲れるかも。全身を五回ほど回ったくらいでお兄様が繋いでいた手を離した。
「上手だねアサコ。さて、調子はどう?」
「すごく疲れた。もう無理でふ・・・」
ただイメージをして動かすだけなのにかなりヘトヘトになった。
「アサコが温かいって言ったものが魔力だよ。さっきの感覚を意識しなくても一日中保ってられるよう繰り返し練習してね。それが出来るようになったら実践に移ろう」
「え”」
一日中保てるようにだなんて。現実は漫画や小説のようにパパッと魔法が使えたりはしないのね・・・
今日はもう練習をしないほうがいいと言われ、お兄様からお茶に誘われた。魔法の練習をしてから私の体は空腹を訴えている。おかしいな?朝も昼もしっかり食べたはずなのに。
「アサコ、お腹すいたでしょ?ちゃんと用意してあるよ」
お兄様がそう言ってる間にお茶の準備が進んでいく。
テーブルには香り豊かな紅茶と、なぜか沢山のサンドイッチやカナッペ、焼菓子などが並べられた。
「魔法を使うとね、ものすごくお腹がすくんだ。だから魔法剣士や魔法師は皆、健啖家だよ。さあ、遠慮せずお食べ。」
お兄様の言葉通り遠慮せず、結局用意されたほとんどを一人で平らげた。
お腹が満たされ、一息つくとお兄様は真剣な顔をして切り出した。
「アサコ、魔法はとても便利で強い力だ。だけど、それだけに危険も大きい。過った使い方をすればアサコの身にも影響が出る。魔法は僕がちゃんと教えるよ。だから、アサコが魔法を使いこなせるようになるまでは僕の知らないところで魔法を使わないって約束して」
普段の柔らかい表情はなく、真っ直ぐに私をみて言う。追い詰められるような視線に若干の居心地の悪さを覚えたが、もとより朝子も全くの無知の状態で、信用できるかもわからない他人から教わったり、ましてや独学で覚えるなどは考えてもいなかったので素直に頷く。
朝子が頷くのを見ると、また元の柔らかい笑みを浮かべ、まるでいい子と言わんばかりに朝子の頭を撫でた。
「お兄様、撫ですぎです」
「僕の妹が可愛すぎて辛い」
お兄様に撫でられぐしゃぐしゃになった髪が解かれ、思わず見上げる。
「髪、直してあげる」
そう言って器用にサイドの髪を編み込んでいき、あっという間に可愛い髪型に結い上げた。
「手慣れてる・・・」
「練習したんだ。いつか妹が目覚めたらやりたかったことのひとつだよ」
「さあ、せっかくの兄妹水入らずなんだ。お兄様にアサコの話を聞かせておくれ」
結局その日の残りの時間をお兄様に甲斐甲斐しくお世話されながら、お喋りをして過ごした。
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