偉い人の話はまわりくどい
「ホノル村近くのダンジョン!! 火の妖精が怒ってるから!!!」
私が思わず叫ぶと、この部屋に入って初めて竜人族の愛し子が将棋の盤面から顔を上げた。
「怒ってる? 妖精が?」
はて、と心底不思議そうな表情をしてるけど、七十年もほっとかれたら誰でも怒ると思うよ!?
「ちょっと待て、なぜ火の妖精が怒る? ちゃんと脱皮するからしばらく行かないと伝えたはずだが」
「七十年はしばらくなんですかね…」
「な…七十……?」
竜人族の愛し子は七十年と聞くとピシリと音が聞こえてきそうな感じで見事に固まった。
「精霊王、お前、知ってたか……?」
「ん? 知ってたよ」
「なぜ、言わなかった」
「え? だって僕暇だったし、この通り将棋の決着もついてないのに言う必要あった?」
横で二人(?)の会話を聞いてて思ったけど、人間じゃないのは知ってるけど! 会話の内容が人間離れしすぎてる!!
七十年経ったことを気づかず将棋し続けるのも凄いけど、七十年経ってるのに気づいてるのに自分が暇だから何も言わないってのも、まさに偉い人っぽい発言だよね。そしてやっぱりこの人(?)が精霊王なんだね!!
「あなたは火の妖精に会ったか? どの位怒っていた…?」
竜人族の愛し子は恐る恐る私に伺いを立てる。少し顔が強張ってるように見えるが、美女はどんな顔してても美しい。けど、どう考えても非はあなたの方にあるからね……?
「火の妖精には会ってませんが、地下四階が魔獣で溢れかえりそうになってました。そこで他の妖精たちから竜人族の愛し子が来なくなって火の妖精が怒ってると聞いてあなたを連れてくるよう頼まれたんです……」
ここに来た経緯を簡単に説明すると、竜人族の愛し子の顔がどんどん青ざめていく。美女はどんな顔以下略。
「まずいな。おい精霊王、話は聞いてたな勝負は保留だ」
「しょうがないなあ。まあ、僕の眷属が完全に怒りに飲まれるのを見るのは嫌だし、いいよ。それと、うん。やっぱりキミを連れてきてよかったよ。ありがとう」
前半は竜人族の愛し子に、後半は私に向けて精霊王は言ったが、私には何のことだかさっぱりわからない。ディティリエ国の国王陛下もだけど、偉い人の話は裏があったり先を読んでの事だったりで一筋縄じゃ理解出来ない。
考えても当然理解できるはずもないから、そういう時は早々に切り替えるに限る。
「何もしてあげられなくて心苦しいけど、僕はこれでお暇するよ。じゃあ、皆また会おうね」
そう言って精霊王は手を振る。だけど、瞬きをするとそこにいたはずの精霊王は影もなく消えていた。




