お友達を食べても共食いではない
女将さんお勧めの店で食事を終えた私達は、腹ごなしにマーレの街の市を見に来ていた。
「うわーお魚さんがいっぱい!」
港町ということもあって、市場には野菜や肉だけでなく魚を売る店も多い。買い物をしている客も様々だ。ホノル村はいかにも観光客! って人が多かったが、マーレは船乗りの恰好をしている人も目立つ。きっと港に泊っている船の乗組員とかだろう。
「ほんと、賑やかだねー。海の街って感じ」
「ボク、村にいたときは毎日お魚さんたちと遊んでたよ!」
そう言って、ティルは笑顔でセイレーンが棲む村にいたときの事を話してくれる。ってか、お友達が食卓に並んでたり市場に並んでるのはいいの? あ、それは別なんだ。まあ、さっきも美味しそうに食べてたし気にしたら負けだ。
「この辺りは人も物もよく行き来するからな。大通りは問題ねえけど、一本裏に入ったら物騒なところもあっから気をつけろよ」
「わかった!!」
ディランの注意にティルは元気に返事をする。ディラン曰く、私達のような他所から来た人がうっかり裏通りへ入ると攫われて売り飛ばされることもあるとかないとか。なにそれ怖い。
人が集まると犯罪も多くなるってことかな。裏通りへ入ってく用事は無いから頭の片隅に覚えとけばいっか。
ティルから目を離さないようにして市場の散策を続けていたら、その声は突然聞こえてきた。
『ティル』
「ん?」
市場は賑わっていて、小さな声などかき消されそうなのに微かにティルを呼ぶ声が聞こえた気がする。
『ティル……』
今度は小さいけど、はっきりとティルを読んでいる声が聞こえる。
「ママ!!」
ティルにも聞こえたようで、大声で叫ぶと声が聞こえる方角へと猛スピードで駆け出す。
「ティル! 待って!!」
咄嗟に呼び止めるが、聞こえてないようで、ティルはそのまま人込みの中へと消えていった。
「ディラン、追いかけよう!」
「ああ、裏通りへ行ったらマズい。急いで探すぞ」
私とディランもティルを追って声の聞こえた方へと走りだす。
「どうしよう、見失っちゃった」
ティルを追っていたが、人が多いこともあってすぐにティルを見失ってしまった。気付かずに裏通りへ入ってしまっては大変だ。一目で魔族だとわかる見た目のティルが更にセイレーンだとバレて人攫いに捕まったら、今度こそ売られてしまうだろう。早く見つけなきゃ。
焦りばかりが募っていく。
「アサコ、落ち着け。大丈夫だ」
ソワソワと落ち着かない私にディランは宥める様に言うと、黙って目を閉じた。
しばらくそうしていたかと思うと、目を開けてもう一度、私に大丈夫と言った。
「前にティルが俺に魔法をかけただろ。なんとなく方向はわかるから安心しろ」
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