第一印象は尾に王冠を通して引きずる
食事が終わると、お父様とお兄様とディランは先程の話の続きをすると言って、お父様の書斎へと向かった。
本当は私からお父様に話せればいいんだろうけど、私が話せることはディランでも話せる。だけど、スタンピードの予想規模や魔獣の種類なんかは私じゃあわからない。
二度手間になるくらいなら、最初からディランに任せたほうがいい。
私の方は、泊まっていくことになったティルが眠くなるまで、お母様の部屋でお茶を飲みながらお喋りをした。
お母様は熱いお茶を息で冷ましながら飲むティルを見て、口元が緩んでいる。
「うふふ、何だか娘が二人いるみたいだわ」
「えーボク男だよー」
頭を撫でるお母様に口では嫌がってるけど、ティルの表情をみると満更でもなさそうだ。
でも、お母様に頭を撫でられた瞬間、寂しそうな表情をしていた気がする。
ティルはいつも元気に見えるけど、ご両親がどうなってるかもわからないし、不安だよね。無事に見つかるといいな。
ティルの柔らかい髪の毛の感触が気に入ったようで、お母様に捕まったティルは撫でられ続けていた。うん、逃げようとしたティルをガッチリ捕まえて撫でていた。あの細い腕のどこにそんな力があるのか謎だ。
脱出しようとしばらくジタバタしていたが、暴れ疲れたのか段々とティルが大人しくなっていって、ウトウトし始めた。
食後のお茶会はお開きになり、ティルの手を引いて客間まで連れていった。ティルは緩慢な動作でベッドに潜り込むと、限界だったのか直に眠りについた。
ディラン達、話終わったかな。
一瞬、様子を見に行こうかと思ったけど、ディランも泊まっていくし、明日でいいかと思い直して部屋に帰った。
翌朝、朝食の席につくとお父様とお兄様は深刻な顔をして座っていた。朝食後、ティルがステアと遊んでいるうちに、談話室で昨日何を話したのか聞いた。
「ダンジョンの中にいた魔獣は小型と中型だったが、アサコも見たように魔獣同士殺し合いをしてただろ。スタンピードはまだ分かってねぇ事の方が多いんだが、十年位前に俺が討伐隊に参加したときはあんな風に凶暴化はしてなかった。そんな中で大型の魔獣が生まれると少しヤベえかもなって話をしてたんだ」
「え」
もしかしてもしかしてだけど、少しじゃなくて普通に、かなり、滅茶苦茶ヤバイのでは。荷が重いどころじゃなくて鉄の塊背負ってるようなもんだよ!?
あらためて人探しの重大さに、深刻を通り越して放心しそうになった。顔が引きつってるのが自分でもわかる。
あえて言おう。無理であると。
頭の中で偉い人が演説してる。うん、無理だけどやらなきゃだよね。わかってる。なんとか前向きになろうと自分を鼓舞してみただけ。
「そんな顔すんな。さっさと見つけてスタンピードなんて起こさせねえよ」
そうだよね。見つければいいだけだよね! 尻込みして動けなくなるよりは無理矢理にでも何とかなるって思い込んで動いたほうがいい。
明日、道具を取りに行って出発してしまえばゴチャゴチャ考えることもなくなるだろう。
よし、じゃあ今は何もしなくていい貴重な時間だ。せっかくだし満喫しよう。
そう決めて、街をぶらつかないかディランに聞こうとしたとき、お父様が談話室に入ってきた。
「ああ、よかった。二人共ここに居たんだね」
私とディラン二人に用事があるみたい。間違いなく昨日のことだよね。
「ちょっと二人で王宮行ってきてくれない? 陛下が二人に話があるんだって」
陛下ってあのお茶目すぎる国王しか思い浮かばないけど、あの国王陛下だよね。
あ、事が事だしお呼びがかかるのは当たり前か。最初の印象が強すぎてついつい何の用? って思っちゃった。退屈だったから呼んだって言われても納得しちゃいそうだし。
お父様から陛下の呼び出しを聞くと、支度をすると言ってディランは帰宅した。
私も支度しなきゃ。何度でも言うけど登城する支度大変なんだよ。する方もされる方も。
自分の部屋で身支度を整えると、もう昼になっている。玄関まで行くと、同じく身支度を整えたディランが待っていた。
「あれ、王宮で落ち合うのかと思ってた」
「待ち合わせ場所も何も決めてねえからな。同じ所に行くんだから一緒に行ったほうが面倒がねえ」
あー確かに。庭園のベンチを待ち合わせ場所にしたとしてもそこかしこにベンチはあるし、庭園自体広い。かと言って、王宮内はどこも同じような景色で待ち合わせには向かない。防犯のためにわざとそうなってるらしいんだけど、待ち合わせ場所を決めても更に探し回らなきゃいけないんだよね。
「じゃあ行くか」
納得して、ディランにエスコートしてもらうと馬車に乗り込み王宮へ向かった。
ブクマ、評価ありがとうございます。




