闇雲に剣を降って倒せるのはゲームだけだと思う
お父様の話によると、ディランは腕利きの冒険者らしい。どうやら冒険者ギルドで冒険者登録すると自分の実力に合った仕事が受けられるとか。
仕事は様々で、街中のゴミ拾いや薬草集めから始まって希少素材の調達、ダンジョン攻略やドラゴンの討伐まで。概ね私が想像してる通りみたい。
「ディランさん?」
一応、初対面だし、さん付けをしてみたけど、なんかしっくりこない。
「ディランでいい」
よかった。呼び捨ての方がしっくりくる気がするんだよね。
「わかった。ねえ、ディラン。正直めちゃくちゃ興味あるけど、なんでスカウトしに来たの? 何も知らない私じゃ足手まといになると思うんだけど・・・」
有名なRPGゲームの剣型コントローラーを振り回したことならあるけど、そんな経験は役に立つとは思えない。
「そりゃまあ最初はな。愛し子の話は?」
「一通りさっき聞いた」
聞いただけで、半分くらいは理解できてない気がするけどね。
「ん、俺の目的は知恵と魔力だ。愛し子っつーのは考え方が柔軟なやつが多いらしい。ダンジョンで新しい発見があれば面白いと思ってな。つってもそっちはおまけで、本命は魔力の方だ。あるダンジョンに愛し子の魔力に反応して開く扉があるらしい。そこに行って、何があるのかこの目で見てみたい」
愛し子の魔力に反応する扉。確かにそれだけ聞くと、その奥に何があるか気になる。RPGだったら聖剣エクスカリバーとかありそう。でも、
「すっごく楽しそうな話なんだけど、ダンジョンとかまだよくわからないし、自分に何ができるかもわかってないから保留で。私、朝から異世界やら愛し子やら色々言われてそろそろ本気で頭パンクしそう」
今朝、目覚めたばかりの私には情報が! 多すぎる!
「あー・・・悪かった。滅多に行けないとこに行けると思って少し気が逸った」
ディランは片手で顔を覆って、ばつの悪そうな顔をした。私の状況を理解してもらえたようで、正直助かる。
それにしても、ディランは色気のある大人の男! って感じなのに、少年っぽい言動もあったりして、チグハグな感じがしてなんか面白い。これがギャップ萌えか。
「ぶふっ・・・とりあえず私は、もっと、ここの事を知らないといけないから、ダンジョンの話とか、モンスターの話とか教えてよ。あと、魔法使ってみたい。あ、今じゃなくて今度ね」
可愛気の無い笑いが出て、咄嗟にそれを誤魔化すように希望を伝えた。
私の希望に頷くと、また来ると言ってディランと、すっかり空気になっていたお父様が退室する。
二人が出てくと、騒がしかったのが嘘の様に部屋が静かになった。今度こそ一人になった私は、思わずベッドへダイブした。
頭の使いすぎで疲れたよー。情報が多すぎて処理が追いつかなすぎる。
目をつむるとすぐに眠気がやってきて、少しだけ休むつもりで意識を手放した。
「――――――コ――ま」
「アサ――さ――」
「アサコ様」
最初は聞こえるかどうかだった声が、段々はっきりと聞えてきて、目が覚めた。
「おは、よう」
なんだか頭がすっきりしてる気がする。少しだけ休むつもりだったのに、ガッツリ寝ちゃったみたい。
「おはようございます。アサコ様」
この子は転生したとわかった日に、一番最初に会ったメイドさんだ。今日もクラシカルなメイド服が似合ってる。
「本日より、正式にお世話をさせていただくことなりましたステアと申します。」
おお、本物のカーテシーだ。ステアさんって名前なんだ。お世話とか貴族の屋敷で働く侍女みたい。って浮かれてる場合じゃなくて。
「今、何時です・・・?」
外がやけに明るい気がするんだよね。ちょっと寝すぎただけなら暗くなってるはずなんだけど。
「午前の十時半過ぎです」
「午前? 十時半過ぎ?」
おかしいな。夕食までのんびり過ごそうと思ってたのに午前の十時半過ぎ!? 夜ですらない!?
「昨日はお疲れのようで、ご夕食のお声掛けはしたんですがよく眠られておりましたので・・・」
あー。ちょっと昼寝のつもりだったのに、うっかり寝過ごしたらしい。だんごだったらカチコチになってる。え? 古い? 年齢の事言ったらシバクよ。
誰に聞かせるでもなく、一人悲しい脳内劇場を展開している私を置いて、ステアさんが話を続ける。
「もうしばらくしたら昼食の用意ができますが、直ぐに朝食をご用意することもできます。いかがいたしましょうか。」
そうか、微妙な時間だもんね。うーん、お腹は空いてるけど、もうすぐお昼だしなぁ。
「朝食はやめておきます」
朝食を断ると、ステアさんはミルクたっぷりのミルクティーと、小さめの焼菓子を用意してくれた。小腹を満たすには十分。これくらいなら昼食にも影響はでない。
ちょっとしたティータイムを楽しんだあと、ステアさんの勧めで庭を散歩していた。公園と言われたほうがしっくりくるほど広く、木々や生垣の手入れが行き届いてて、さすが貴族の屋敷の庭と感心した。
一通り堪能して戻ると、ちょうどお昼どきになってて食堂へと通された。
食堂にはお父様とお母様の他に、白い軍服のようなデザインの服を着た二十代前半位の、お母様にどこか似た甘い顔立ちのイケメン男性がいた。眼福。
「アサコ、紹介しよう。息子のルイスだ」
お父様に紹介されると、イケメンは私にとろけるような笑みを見せてくださった。ああ、眼福。
「アサコ。僕の可愛い妹。やっと目覚めてくれたんだね。僕のことはお兄様と呼んでおくれ」
見目麗しいお兄様なんだけど、言ってることがなんだか残念に聞こえる。エーデルラント家、血が濃いな。
きっとあれだな、みんな右も左もわからない私に気を使ってくれてるんだな。優しい。
昼食をとりながら話をすると、お兄様は王宮で近衛騎士をしていて、魔法を剣に纏って戦う魔法剣士なんだって。魔法に興味があるって言ったら、お兄様が非番の日に魔法を教えてくれることになった。やった!
魔法が使えるかも! と、はしゃいでる私にお父様が声をかけてきた。
「そうだアサコ。シャヴ・・・ディランから街の案内の申し出があったが、どうす」
「行きたいです!!」
興奮のあまり食い気味に返事をする。
「わかった。伝えておこう」
やった。街にいけるみたい。
アサコのテンションが100上がった。
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