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いざ、ダンジョンへ


 ついに、目的のダンジョンへとやってきた。昨日はぐっすり眠れて、睡眠もバッチリ。体調も万全。やる気も十分、満ち溢れている。


 ダンジョンの入り口は分かり難くなっていて、言われなければ、これが入り口とは気づかなかったと思う。


「いざ、出発!」


「しゅっぱーつ」


 ダンジョン内は薄暗く、足元はデコボコしていて歩きにくい。


 ティルに転ばないように、と声をかけて進んでいく。


 分かれ道があったが、片方の道はディランが前に来たときに大きな穴が空いていて通れなかったと言っていた。


 その後も分かれ道はいくつかあったが、どれも行き止まりになっているとディランは言った。


 かなり長いこと進むと、一番奥に来たのか、古ぼけた扉と看板が出てきた。


 看板は、以前ディランが書き写した、ここがダンジョンであることを示すものだった。


「前に俺がきたのはここまでだ。このドアがびくともしなくてな。力づくで壊そうともしたがダメだった」


 そう言ったディランの顔は、少し悔しそうだった。


 古ぼけた扉に目を遣ると、扉のドアノブの辺りによく見ると日本語の文字が掘られていた。


 『扉を持ち上げる』


 文面に従い扉を持ち上げてみると、ディランがびくともしないと言った扉が軽々とシャッターのように上がり、ドアの下に屈めば入れるくらいの隙間ができた。


「こんな単純な仕掛けだったのか」


「おねえちゃんすごーい」


 ティルがぴょんぴょん扉の前で跳ねる。何かが面白かったらしい。私にはよくわからないけど。


 仕掛けは単純。でも、ドアノブのついたドアを持ち上げようなんて誰も思わない。私も、文字に気づかなければ開けられなかった。


「いや、こんなの普通わかんないから!」


 扉に文句を言いつつ、屈んで中に入ると小部屋になっていて、私達の前に小さく黄色い人型が出てきた。もう、驚かない。


「やーっと来たのね! ワタシ・・・」


「ストップ。妖精、でしょう」


「よーせーだー」


 花の妖精とよく似た見た目だ。わからないなんて言えない。


「アラ、物分かりがイイわね! そう、大地の妖精よー」


「これが、妖精、なのか」


 花の妖精のときと合わせてニ回目の私と、精霊が見える魔族のティルとは対照的に、ディランは初めて見る妖精に驚いているようだ。


 妖精の話を聞くと、大地の妖精は愛し子が来るのをずっと待っていたらしい。


「ここに来る途中、大きな穴があったでしょう? ワタシが塞いであげるワ。ついてきて!」


 言いながら、妖精は進み出す。ゆっくり動いてるように見えるのに意外と速く、慌ててついていく。来た道を大分もどり、最初の分かれ道のところまで戻り、ディランが大きな穴が空いていて通れなかったと言っていた道の方へ進んでいく。


 妖精についてさらに進んでいくと、妖精とディランが言った大きな穴の場所についた。


「これ、どこまで続いてるんだろ」


 端から端が十メートルくらいはありそうな巨大な穴が空いていた。覗き込んで見たが、底が見えない程深い。


 試しに手頃な石を一つ、そのへんで拾い投げてみる。


 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・


 石が地面に当たる音がまったく聞こえないことから、相当な深さがあることが窺える。


「安心して! ワタシが通れるようにしてあげるワ!」


 妖精はくるくる飛び回りながら、歌うように呪文を唱えると、大穴の端と端から新たに地面が生まれ、人が二人並んで通れるくらいの橋が架かった。


「これ、落ちないよね?」


「わーい。橋だ橋だー」


 恐る恐る渡るが、橋は思ったよりもしっかりしていて、ティルがはしゃいで飛び跳ねてもびくともしない。


 落下の心配をしつつ最後まで渡りきると、安堵の溜息をついた。


 滅茶苦茶緊張した。これ、落ちたら間違いなく死ぬ高さだもん。


 ティルとディランは平然と渡っていた。なぜだ。経験の差と、種族の差か。


「さあ、どんどん進むワよー」


 自分だけ怖がっていることが腑に落ちないが、気持ちを切り替えて先へと進む。


 その後も、信じられないことに同じような穴が空いていて、橋を作ってもらって渡るのを三回程繰り返した。


 ディランはここを、愛し子しか開けられない扉があるダンジョンだと言った。噂が出てる以上、きっと妖精の力を借りられない人達が、強引に渡ったこともあるのだろう。これまで、朽ちたロープや壊れたランタン等がその辺に転がっているのが目に入った。


 ランプやロープの持ち主がどうなったのかは怖いから考えないでおく。この世界では冒険者というものはそういうものだ。何かを探求した結果、死んでしまうのは自己責任だ。


 冒険者という職業になんの違和感も感じなくなって、大分こちらに馴染んできたなと思う。それを嫌だとは思わない。


 熱を出したときに見た夢は薄っすら覚えている。


 元の世界の私は通り魔に刺されて死んだ。お父様の話で、戻れないのは最初から解っていた。それなら、こちらに馴染むのは悪くない。

 

 だから、冒険者がダンジョン攻略の際に命を落としてしまうことも仕方ないと思うし、馬鹿だなとも思わない。


 何が楽しいのかはしゃいでるティルを眺めながらそんなことをつらつらと考えながら歩いていると下へ降りる階段が出てきた。



ブクマ、評価ありがとうございます。

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