表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/64

初めての○○


「風邪ですね。薬を出しておきますから、毎食後に服用してください」


 ティルを洞窟から助け出し、ルコの街に戻ってきた次の日、私は熱でダウンした。


「は、い ゴホッ ゴホッ」


「無理に喋ろうとすんな」


 朝食の時間を過ぎても起きてこない朝子の様子を見に来たディランが医者を呼んで来てくれて、診察を受けた。


 昨日の大雨の中、濡れながら走り回ったのが原因だと思う。身体も冷え切って体力も使ったんだから当然かもしれない。


 辛うじて意識はあるものの、すごく眠い。それに全身がだるくて動ける気がしない。


「寝れるならもう少し寝とけ」


「ん・・・」


 ディランが医者となんか話してる気がするけど、そんなことを気にする余裕もなく、再び眠りについた。






「朝子、ボーッとしてないで早く朝ご飯、食べちゃいなさい」


「はーい」


 いい感じに焼けたパンと、ベーコンが下に敷いてある目玉焼き。それに最近ちょっと気に入っているドレッシングがかかったサラダ。


 真新しい紺色のリクルートスーツにに身を包んで、目覚ましタイムの毎日猫を紹介するコーナーを見つつ朝食をとる。


 これは、入社したての頃だ。懐かしいなぁ。 





「先輩、ココ、数字違う気がするんですけど、このままでいいですか?」


「どこ? わ、ホントだ。教えてくれてありがとう」


 今度は初めて後輩が出来たときだ。なっちゃん元気かなー。桃子ちゃんはもう五歳になったかな?





『朝子、あんたもそろそろいい歳なんだから、雅紀さんとはそういう話にならないの?』


『いい歳って言っても、まだ三十になったばかりだよ? それに雅紀も私も仕事忙しいし。じゃ、明日も早いからもう電話切るね』


 馬鹿だなぁ。今だからわかるけど仕事が忙しいなんてただの言い訳なのに。お母さん、うるさいなんて思ってごめんね。お盆と正月に帰らなかったのもごめん。





「ごめん、もう無理だ。別れてくれ」


「は?」


「お前はなにも悪くない。俺が全部悪いんだ」


「他に好きな人ができたってこと?」


「そうじゃないけど。悪い。」


 ダラダラと付き合ってたつけが回ってきたんだろうな。今だにあの男の言い分には納得できない。まあ、元からそういうやつだったんだろう。


 やめよう。思い出すとイライラしてくる。





「ありがとうございましたー」


 コンビニ袋を下げた女がコンビニから出てきて歩いている。


 あ、これ私だ。これ私がこっちに来る直前かな。なんで自分で自分が見えてるんだろ?


 あれ・・・? こんな人いたんだ。全然気づかなかったな。


 コンビニから少し進んだ所で黒っぽい服に帽子を被った人物が朝子の少し後ろを歩いている。


 そうそう。公園突っ切ったり回り込んだりするのが面倒くさくて近道しようとしたんだよね。


 朝子が脇道へ入っていくと、少し後ろにいた人物がポケットから光る物を取り出して突然、朝子に向かって走り出して――






「刺され・・・ゴホッ ゴホッ」


 言い終わる前に空気の刺激で咳が出る。


 そうだ。もう少しで家に着くって所で後ろから刺されたんだ。


「アサコ? 大丈夫か?」


 はた、と気づくとディランが濡れたタオルを手にアサコをみていた。


「ディラン・・・? あれ・・・? 夢?」


「寝ぼけてんな。水、飲むか?」


 言われて喉が渇いてることに気づいて頷くと、ディランは体を起こすのを手伝ってくれて、背中に体を支えるためのクッションを入れてから水の入ったコップをくれた。


「さっきよりは良さそうだな」


 確かにさっきよりはマシだけど、全身はまだダルいし、眠い。それに、熱が出たからか、もしくはさっきの夢のせいか、汗をかいたせいで体がベタベタして気持ちが悪い。


「なんか欲しいもんあるか?」


「お風呂入りたい・・・」


 飲み終わったコップを返して今最大の望みを告げる。この不快感をどうにかしたかった。


 わかった、と言うとディランは部屋から出ていった。しばらくすると、ほんのり湯気がたった桶と布の束を持ったディランが戻ってきた。


「お湯もらってきたから体拭いてやるよ。ほら、後ろ向いて服脱げ」


 のそのそと動き、ディランに背中を向けて寝間着のボタンを外す。


 ボタン外すのめんどくさい。


 普段ならなんとも思わないのに、体がだるいせいで上手く動かないからか、ボタンを外すのがもどかしい。半分ほどボタンを外したらそのまま頭から脱いだ。


 服を脱いで下着を外すと開放感があったが、汗で濡れた体が外気にさらされて肌寒さを感じた。


 朝子が寒さに震えていると、背中に温かいタオルがあてられた。大きな手だけど、体を拭く手付きは優しく丁寧に背中、腕、首と拭いてくれる。


「前は自分で拭けるか?」


「ん」


 返事をすると、タオルを渡されたから残りを自分で拭く。一通りさっぱりしたところでタオルを置く。


「こら、ベッドに濡れたタオルを置くな。終わったか?」


「うん」


 返事をすると、頭からかぶるタイプのシンプルなワンピースタイプの寝間着を渡された。


「さっぱりしたならそれ着てもう少し寝とけ。昼になったら起こしてやる」


 もぞもぞと緩慢な動作で服を着ると、ベッドに横になる。


 すぐにまた眠気がやってきて、私は目を閉じた。




 結局、私は丸一日ディランに看病されて過ごした。



ブクマ、評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ