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親しい人と会えなくなるのは辛いこと


 助けを呼ぶような声は林の奥の方から聞こえている。進むに連れ、なぜか早く声の元へ行かなければと焦燥感が募る。


 それでもディランがいてくれるおかげで、私はこの衝動に身を任せて飛び出すような真似はせずにすんだ。


「キュー」


 知っている鳴き声が聞こえて目を凝らして探してみると、足元に飛び出して行ってしまった精霊がピョンピョン跳ねてる。


 精霊はそのまま進んで、しばらくすると立ち止まりその場でまた跳ねている。まるでついてこいと言わんばかりの仕草だ。


「ディラン、精霊がいたけどなんかついてこいって言ってるみたい」


 そのまま話すと、ディランは難しい顔をしたまま考える仕草をして、わかった。と言った。


「ついてってみるか。精霊の導きならよっぽど悪いことにはならねえはずだ」


 そう決まると私とディランは精霊の後をついて行くことにした。




「多分この近くに声の持ち主がいると思う」


「ああ、ここまで来れば微かにだが俺にも聞こえる。たまに、なんかの原因で魔族の感情が高まって無意識に魔力のあるやつに声が聞こえることがある。これもそれだろ」


 魔族特有の現象らしい。


 精霊の後をついていくと、パッと見わかりにくい洞窟の前で止まった。


「キューキュー」


 この先だと言わんばかりに精霊は洞窟の周りで跳び回っている。


 ディランと二人で顔を見合わせて、頷くと洞窟の中に入った。


 内部は入口の見た目と反して深く、奥の方まで続いていた。


 かなり深い所まで進むと不自然に広い空間に出た。その隅の方に、人一人入れそうな大きさの真っ黒い箱がポツンと置いてある。その箱の上で再び精霊が飛び跳ねた。


「こりゃ魔封じの箱だな」


「魔封じ?」


「ああ、普通は厄介な呪いがかかったアイテムとか入れて保管する箱だ。箱が魔力を吸い取って入れたものの暴走を防ぐ。一部魔族の誘拐に使うやつもいるがな。基本的にはこの箱に入れたやつしか開けられねえようになってる。」


「この場合は誘拐と見て間違い無いよね」


 ディランは、ああ。と返事をして、どうするか考えている。魔族の誘拐は重大な犯罪らしく、このままにはしておけないとか。


 運良く人が出払っていたけど、いつ帰ってくるかわからないし、いくらディランが強くても相手の人数がわからない以上、身を護るだけで精一杯の私は足手まといにしかならない。


 かと言って一旦街まで戻って通報したとしてもこの大雨が止んだ後の対応になるだろう。その頃にはもう箱ごと場所を移してるかもしれないし・・・


「ねえ、そこに誰かいるの? お願い! ボクを出して」


 箱の中から悲痛な声が聞こえてきた。


 ディランは箱に入れた人しか開けられないといった。試しにと挑戦してみるも、当然びくともしない。


 ただ、箱を触ったときに魔力が箱に吸われていくような感覚があった。


「この箱、魔法で壊せないの?」


「やめとけ。箱は中に入れた物の魔力を吸い取るが、外側からも少しずつ吸い取る。箱が吸い取れる魔力の限界もわかんねえ」


 ディランの話に納得はしたものの、ものは試しと水の初級魔法を全力の半分くらいでぶつけてみる。


 特に変化は見られず、やっぱり魔法を使うとお腹すくなあ。と思っていたら遅れて箱に亀裂が入っていき、箱全体がヒビで覆われると砕けた。


「すげーな」


「あはははは」


 火の魔法でやらなくて良かったかもしれない。


「うわああん。怖かったようう」


 箱の中からは青白い肌に青い髪、青い目の見た目をした人間とは雰囲気が異なる少年。


 彼は箱から出られた安堵からかしばらく泣き続けた。


 少年はしばらく泣き続けると、次第に落ち着いて来て余裕が出たのか、ぐぅー とお腹の音を鳴らしてお腹すいたと言った。


 アサコも魔法を使って少しお腹すいたなと思っていたから、ルコの街を出るときに馬車で食べようと思って買っていたパッティを荷物から取り出し、少年とディランに渡した。


 本当は、すぐにでもここを出たほうがいいんだろうけど、少しくらいはね? 少年もお腹すいてるみたいだし。


 誰に聞かせるでもない言い訳をし、精霊にも分けて冷めたパッティを食べた。


 お腹を満たすと、アサコ達は洞窟を抜けながら少年の話を聞いていた。


 少年はティルと言うらしく、ローレライでは無くセイレーンだと言った。ある日、セイレーンの暮らす村に押し入ってきた人間に捕らわれてしまったと。


 押し入ってきた人間は村の近くの水場に予め毒を流していたのと、不意打ちで襲ってこられて抵抗できず箱に入れられ、なす術がなかったと。


「ボクは仲間ともう会えないのかな」


 ティルがポツンと溢した言葉に胸が痛くなったような気がした。


 洞窟を出たアサコ達は再び雨に濡れながら、休憩をはさみつつ歩いてルコの街へと戻った。


 街までつくと門番に事情を話し、街の警備隊の詰所へと案内され私達に話してくれた事をもう一度ティルが警備隊の隊長を名乗る人に話した。


 ティルの話しを聞き終えると、警備隊の隊長は難しい顔をして人間の不届き者が申し訳ないことをしたと言った。このことは国に報告し、雨が上がったらその洞窟の調査にも行くと約束し、今日はルコの街に泊まってい行ったらどうだと宿の手配をしてくれた。


 大雨の中動き回った私達と箱の中に閉じ込められっぱなしだったティルにはありがたい。


 宿について温かい食事を頂いたあとはそれぞれ早めに休むことにした。


ブクマ、評価ありがとうございます。

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