世の中の妹持ちは
前回に続きディラン視点です。
次回から主人公に戻ります。
一週間後、俺はアサコを街に連れて行くため侯爵家に迎えに行った。ゴッズの店に連れて行くのはいいが、酔った連中が絡んできて怖い思いをさせたくねえから男装してくるようにと伝えてあった。
玄関ホールで待ってると、少し顔が綺麗すぎるがまあ、街にいる裕福な家の少年に見えるな。
馬車の中で窓の外を見ながら、楽しみだと言うアサコは中身どころか外見の年齢よりも幼く見えたが、いきなりこっちに来た戸惑いなんかは見えなかった。
アサコなりに受け入れたのかもしれない。一週間時間を開けて正解だったかもな。
ラングスタールにつくと、見るもの全てが珍しいらしく、あれは何?これは何?通貨は何が使われてる?と目を輝かせながら街を見てまわっているのが、柄にもなく可愛いと感じた。
周りへの注意が疎かになってて、目を離したらどっか行っちまいそうに感じて思わず、はぐれるなよと声に出てた。
冒険者ギルドで基本的な説明をしてやると、何かを考える素振りをしてた。教育水準が高いところで生きてきたんだろう。たまにこちらが思ってもみないことを言い出すときがあるから、なんか突拍子もない事でも考えてんのかもしれねえ。
俺が白金冒険者だって知ったアサコの顔は面白かった。なんつーか、驚きすぎて真顔みてえな。ギルド出るまでそんな顔してたから、思わず笑っちまいそうになった。
ギルドを出てゴッズの店に行ったら男の恰好に納得したのか、一人で頷いていたな。そういうところに賢さがあらわれてる。
予想通り、しきりに美味しいと言いながら食ってた。あまりに美味そうな顔で食うから、つい俺も普段より食ったな。飯食ったあと、冒険者のことを詳しく教えてほしいと言われたときは自分の力で食いに来ようとする意志が見えて、つい面倒を見てやりたくなって強引に冒険者登録を済ませた。
ばあさんの店で昔の失敗を暴露されたときはやめてくれ!って思ったが、雲草のかぶれはマジでやばかった。そんな経験はさせたくねえから採取に行ったときは諦めて自分から暴露したが、これで素手で触ることもなくなると思えば傷は浅い。
アサコは俺の言いつけをしっかり守る。自分で考えてわからないことがあれば、俺に相談することもできる。これなら、冒険者としてもやってけるだろと思って安心した。
突然リヒトから呼ばれたときは何の用だと思ったが、アサコと月虹草を採りに行ってほしいと言われたときは思わず、何を考えてんだとリヒトに抗議した。
確かに、アサコは冒険者になった。だが、普通は昼間に活動して実績を積んでから夜の依頼を受けるものなのに、いきなり夜の森に入るなんて危険なことを許せるはずがなかった。
夜の森の魔獣は凶暴だ。アサコの細い身体なんてすぐに爪で切り裂かれちまう。
それでも、ザラを起こすにはそれしかないと引かないリヒトに拳骨を落して侯爵家に連絡を入れた。
次の日俺は、アサコにリヒトの依頼は受けなくてもいいと言いに行ったが、
「ねえ、ディラン。なんで殿下は私に採取の依頼をしたのかな」
「一昨日初めて依頼を受けたような私はどう考えても戦力外。でも殿下はディランをつけるから私に行ってこいって言ったように聞こえたんだけど」
そう言われて理由を告げると、あっさりと付いて行くなんて言うもんだからこっちが焦る。
夜の森の危険性を説いても、それは、助けてほしいなんて言われたら護らないわけにもいかねえ。
あまつさえ、終わったらタルタル亭で飯食いたいなんて笑顔で言われたらもう、説得するのを諦めて、全力でアサコを護ることを考えるしかない。
月虹草の採取に向かうためラングスタールとダグテスの中間地点の村に立ち寄ったときは、アサコと恋仲だと勘違いされたが、元は同い年とはいえ今は十六の娘だ。こんなおっさんと勘違いされても困るだろう。
ニコニコしながらサンドイッチを広げるアサコは俺にとっても目の離せない歳の離れた妹みてえなもんだ。
街まで順調に進んで、一日暇ができたと考えてたらアサコに街に行こうよ!と誘われた。この街は割と定期的に足を運んでるし、知り合いも多い。丁度いいから俺が案内をかってでると、アサコは喜んだ。
アサコはラングスタールと違う街並みに、キョロキョロと飽きもせずに周りを観察してて、やっぱり目が離せねえ。こんなん放っといたらすぐに迷子になっちまう。
ダグテスには珍しい年頃の娘が好きそうなローゼの店を見つけて寄っていいか聞かれたとき、アサコはローゼのことをどう思うか心配になった。下手すりゃアサコもローゼもお互いに嫌な気分になるんじゃねえかと。
まあ、杞憂だったけどな。
俺はローゼが嫌いじゃないから、アサコがローゼに悪い印象を持たなくて良かったと思った。帰り際に、色とりどりのリボンが並んでるのが目に入って、その中の明るい緑の色がアサコの瞳の色にそっくりだと思い、アサコが先に店を出たあと衝動的に購入した。
宿でボンを渡して髪に結んでやると、くるりと回って似合うか聞いてきた。そんな仕草が微笑ましい。世の妹持ちは毎日こんな思いをしてんのか。
満月の日、普通の令嬢なら森まで歩くなんて耐えられないと言うだろうが、文句一つ言わずむしろ楽しそうに歩いてる。アサコは普通の令嬢として過ごすより冒険者をしてる方が向いてるのかもしれねえな。
暗くなって森で待機してたとき、奥の方から動物の声に混じって魔獣の鳴き声が聞こえてきやがった。
警戒しながらアサコの言う方向に進んでいくが、おかしな程に魔獣とも野生動物でさえ遭遇することはなかった。理由はわからねえが、アサコに傷がつくようなことがねえから良しとした。
城に戻るとリヒトが開口一番、アサコに謝るでもなく月虹草が見つかったかと言った。こいつ、懲りてねえな。なにか言うことがあるんじゃねえかと聞いたら、やっと思い出したようでアサコに謝罪したが、普通は謝るのが一番先だからな。今度きっちり絞ってやる。
アサコは謝る必要はないと言ったが、リヒトの成長のためだと言ったらアッサリと謝罪を受けた。思慮深いところもあるんだなと思ったらつい、アサコの頭を撫でちまった。
いつまで俺のそばにいるかは分からねえが、アサコが困らねえよう、俺の知る限りのことを教えてやろう。
ブクマ、評価ありがとうございます。




