初めて会う愛し子は
ディラン視点です。
伯父である国王の依頼を受けていた俺は納品の為、王宮に来ていた。
「コレコレ! 私のクイーンカカオちゃん! 早速おやつにチョコレート作ってもらおっと」
この国王は最初、自分の弟である俺の親父に王位を押し付けようとしていた。それに気がついた親父は幼い頃から婚約していたお袋とさっさと結婚して先代の国王から公爵位を授かって逃げたらしい。
国としては大きく豊かな方であるこの国はまあ、平和だった。俺の親父もそこそこ頭がキレる方だから、ぶっちゃけどっちが国王でも問題はなかった。
ただふたりとも面倒くさいから王になりたくなかったそうだ。
結局、国王になった伯父はたまの息抜きとして、自分の好物のクイーンカカオから作ったチョコレートを取り寄せていた。
クイーンカカオは通常のカカオとは異なり、レッドサラマンダーが生息する火山でしか取れない。比較的自由な三男の俺が冒険者になり、金まで位があがると「ちょっと行ってきてよ」なんて言い始めて、クイーンカカオの採取に行かされるようになった。
「そういえばついさっきなんだけど、エーデルラント家のご令嬢、起きたらしいよ」
エーデルラント家の令嬢といえば愛し子か! 生まれつき病弱で家から出られないと通してはいるが、勘がいいやつなら気づいているだろう。
「その令嬢は今後どうするんだ・・・?」
「どうするも何も本人の好きなようにしたらいいよ。愛し子を無理矢理国に縛りつけるなんて罰当たりもいいとこだし。そんなことしたら国が消し飛んじゃうよ」
「それって絵本の話だろ?」
「ノンノン。五百年前実際に起きてるのさ。だから愛し子がいてもどの国もご自由にーって感じなの。まあ幸い? 精霊様のお眼鏡にかなった人物しか来ないからか愛し子自体が問題を起こしたことなんて無いしねぇ。問題を起こすのはいつもコチラの人間さ」
つまり、愛し子について理解できて無いやつがちょっかいをかけることがあったってことだな。
「何でも愛し子ってのは冒険とか魔法とかが大好きな人が多いらしいよ。君、ダンジョンがーとか言ってったでしょ。愛し子が嫌がらなければ話してみれば?」
愛し子の魔力でしか開けられない不思議な扉があるっていうダンジョンか。一度試しに行ってみたことがあるが、この世界のどのダンジョンとも違う難解な仕掛けのあるダンジョンだった。結局俺は扉につくどころか一階すら突破できずに帰ってきた。
風のうわさでそのダンジョン自体、愛し子が作ったと聞いたが・・・もしかしたら同じ愛し子なら何かわかるんじゃねえか?
そう思い始めたら、居ても立ってもいられずエーデルラント侯爵家に向かった。
侯爵家につくと、侯爵が出迎えてくれた。起きた令嬢はアサコと言うらしい。元々の世界では俺と同い年で、今はまだこの事態を受け止めるのでいっぱいそうだと言った。
とりあえず俺は、遠目に一目見て帰ろうと思い侯爵と共に令嬢の部屋へと向かった。だけど令嬢の部屋につくと、不用心にも扉が少し開いたままになってて、令嬢の声が聞こえてきた。
「せっかく魔法あるなら魔法使ってダンジョンとか行きたいなぁ」
それを聞いたら、一目見て帰るなんてすっかり頭から飛んじまって、つい冒険者への勧誘をしちまった。
すぐに侯爵も部屋へ入ってきて、バツの悪い思いをした。
見た目は深窓の令嬢そのものなのに、アサコは冒険者の話を楽しそうに聞いていた。一通り話し終えると、名前を呼ばれた。元は同い年なのにさん付けされるのは変な感じがして呼び捨てでいいと言った。
なんで自分を勧誘しに来たのかと理由を訪ねて来たから、愛し子の魔力に反応して開く扉があるダンジョンの話をした。
ダンジョンの話をしてる最中も、興味があるような顔して聞いてるもんだから、俺もついつい前のめり気味になってアサコを混乱させちまった。
そりゃそうだよな。昨日まで別の世界で生きてきて起きたら全然違う世界に違う体になってて、なのに取り乱さず必死で受け入れようとしてるアサコは凄えと思う。
アサコはとりあえず、モンスターやダンジョンの話を聞きたいといった。魔法にも興味があるとも。
俺は魔力があまり高くないから魔法はエーデルラント侯爵家嫡男のルイスに教わったほうがいい。あいつは腕の立つ魔法剣士だから変な教え方はしないだろう。
なら俺は、俺が冒険者として経験してきた話をアサコにしていってやろう。
まずはこの国に馴染めるよう街でも案内するか。ラングスタールなら冒険者ギルドも見れるし、ゴッズの飯が気にいるかもしれない。
そう思って帰り際、侯爵にアサコを街へ案内する申し出をした。
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