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常識だと思っていることも、ところ変われば通用しない

 

 ついに満月の日がやってきた。私はディランに貰ったリボンで髪を結び、朝から気合を入れて張り切っていたが、朝食の席でディランに夜まで持たなくなると言われて昼までのんびり過ごした。


 あっという間に昼になり、一階の食堂で昼食をとって宿を出た。ダグテスの街から森までは休憩を挟みつつ歩いていくと、日が暮れる頃に目的の森へとついた。


 森へ来たはいいが、ふと気がついた。


「虹っていつ出るんだろ?」


「聞いた話によると月が真上に来る頃、虹が見えるらしい」


 確か濃い魔力が集まるとか言ってたよね。精霊や妖精は魔力の塊とも。じゃあ、虹が出たら花の妖精みたいに光ってるところを探せばいいのかな。    


「それにしても、晴れて良かったね」


「まったくだな」


 ここまで来て曇りや雨だったらまた一ヶ月後、なんて大変すぎる。特殊な採取依頼なんかには天候に左右される依頼もあるらしい。そういう依頼は報酬も比べものにならない程高いらしいけどね。


「とりあえず、この辺りで待機するか」


 しばらく森の中を進み、辺りが真っ暗になり月が昇り始めた頃、川の近くに開けた場所があり、そこで虹が出るのを待つことにした。最近じゃあ月が昇りきる前に寝るっていうのが当たり前の生活になっていたから、遅い時間に活動するのは新鮮な感じがするなあ。


「月虹草みつかるといいね」


「だな」




 森の様子が変わったのは、月が真上に来る少し前のことだった。森の空気が何というか、森特有のジメッとした感じから澄んだ空気に変わった。


 かと思えば、森の奥の方でいろいろな動物の鳴き声が聞こえ始めた。


「アサコ、俺のそばを絶対離れるなよ」


「う、うん」


 でもなんだろう普通なら暗闇で野生動物の鳴き声なんか聞いたら怖くなるはずなのに、なんとなく怖くない。


 襲われたりしたら困るから油断はしないけど。鳴き声のする方向に注意しつつ空を見上げる。


「あ、虹」


 空から降り注ぐ月の光の中には大きな虹が映し出されていた。


 空にかかった虹の根元は近そうで、方角を確認しながらディランとその場所へ向かう。


 森の中を慎重に進んでいくと、先の方が小さくぼんやりと明るくなっているのが見えた。


「ディラン!あそこなんか光ってる」


「どこだ?」


 方角を指差し、ディランに伝えるが、ディランには光が見えていないらしい。


「魔力が濃い場所かも」


「行ってみるか」


 慎重に、慎重に近づいてみる。魔力の濃い場所だと思って近づいたら人だった!なんてことが無いように。もし仮に盗賊だったりしたら危ないしね!


 段々と近づき、はっきりと光ってるのが見えるようになってもディランには見えていないらしく、目的の場所が近いことを確信する。


 さらに近づくと、そこだけ丸く切り取られたかのように不自然にひらけていた。その場所には月の光が降り注ぎ、中央の地面からは虹が生えていた。そして、虹の根元を囲むようにハート型の葉っぱをつけた青い花が所々に白い綿のような実をつけて淡く光りながら咲いていた。


「すごい綺麗・・・」


「結構長いこと冒険者やってるが、こんな光景見たのは初めてだ」


 神秘的な光景を目の当たりにし、感嘆のため息が出る。しばらく二人して見とれていると、先に復活したのはディランだった。


「月虹草、だな。間違いなさそうだ」


 そうだった。月虹草採りに来たんだった。


「葉っぱはハート型だし、白い綿みたいな実がついててかわいいね」


「白い実? んなもんどこにあるんだ?」


「え? これだよこれ」


 白い実を一つつまんでディランの目の前に持っていく。


「? 俺には空気を摘んでるようにしか見えねえが」


「キューキューー」


「え!?」


 突然白い実がキューキューと鳴って、びっくりして手を離した。けれどそれは下に落ちることなく、その場でふわふわと浮かんでいる。そしてそれには、つぶらな瞳がついていた。


「キュー」


「ねえ、ディラン。からかったりしてるわけじゃないから怒らないで聞いてほしい。私にしか見えない生き物が見える」


 私だったら突然こんなこと言われたら滅茶苦茶戸惑う。今後のお付き合いも考え直すかもしれない。でも!実際、ディランには見えていないのに私には白いなんか生き物っぽいのが見えるんだ。


「アサコにしか見えねえなら妖精か精霊の類だろ。妖精は人の形してるって聞くぞ」


「せいれい」


 人型ではないこれは精霊なのか? 私は妖精に引き続き精霊との出会いを果たしたのか。なんだか最近、ずっと私の常識が試されている気がする・・・



ブクマ、評価ありがとうございます。

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