物事は楽しく考えたほうがなんとなく上手くいきそう
結局、殿下のお願いを聞くことになった私は開放され、お父様と合流し、帰宅した。
「月虹草、ですか」
すっかりお世話係兼、茶飲み友達(押し通した)と化したステアに月虹草について聞いてみる。
「うん。月虹草って珍しい草があるって今日、耳にしたんだ。なんか知ってる?」
「そうですね・・・幼児向けの本に描かれることが多いので名前くらいは存じておりますが、実際に存在するのかはなんとも・・・・」
「え"」
ちょっと待って、確かに図鑑には希少な植物って書いてあったけど、それって幻レベルなのでは?
無茶振りもいいとこでは!
気が遠くなりそうだったので一旦、月虹草のことは忘れることにし、ステアとのお茶を楽しんだ。
夕食終、湯浴みををすませ、ステアに髪の手入れをしてもらっていると、
「アサコ様、明日はディラン様がいらっしゃるそうですよ」
え、もう? 今日の昼過ぎの話だよ? 早くても明後日位だと思ってたのに。殿下の無言の圧力を感じる。
精神的に疲れ果てた朝子はさっさと寝ることにした。
翌日、午前中にディランはやってきた。
私は今日一日、予定が入ってなかったからディランが来るまで自主的に部屋で勉強の復習をしていた。
「アサコ様、ディラン様がおみえになりました。」
ステアにお礼を言い、客間へと向かう。一昨日会ったばかりのはずなのに、久しぶりに会ったような感じがする。
「よう。悪かったなリヒトが無茶なこと言い出して」
「うーん。月虹草ってほんとにあるの?」
花の妖精が言うんだから、あるにはあるのかもしれないけど、月の光の虹の根元なんて見つけられるようなものなんだろうか。
「一回だけ、乾燥したものを見たことがある。見せてくれたヤツはそいつが頼んだ冒険者が虹の根元で取ってきたっつー話だった」
それらしきものはあるのか。
「アサコ、今回の件は言っちまえば俺の身内ごとだ。アサコは巻き込まれただけで、責任はない。それに、夜は危険が多い。もし嫌なら俺一人で――」
「ねえ、ディラン。なんで殿下は私に採取の依頼をしたのかな」
どう考えても駆け出しの冒険者に依頼する内容ではない。
「一昨日初めて依頼を受けたような私はどう考えても戦力外。でも殿下はディランをつけるから私に行ってこいって言ったように聞こえたんだけど」
腕利きの冒険者だけじゃいけない何かがあるんじゃないかな。
ディランが話し始めるのをしばらく見つめていると、突然ディランは片手で顔を覆い、ため息をついた。
「月虹草が希少な理由は虹の根元を探すのが難しいからだ」
「うん。満月限定だしね」
そもそも虹は雨降ったあととか、ホースで水を巻いたりしたときに見たけど、虹の根元ってよくわかんないし。
「満月の夜の虹の根元には濃い魔力が集まるって言われてる。アサコは妖精を見たんだろ? 精霊や妖精は大雑把にいえば魔力の塊だ。」
なるほど。つまり場所案内係か
「殿下は妖精が見えなかったみたいだけど、ディランも見えないの?」
「妖精や精霊は魔力が滅茶苦茶高くねえと見えねえんだ。この国じゃあ、アサコ以外だとギリギリ魔法師長くらいじゃねえか?」
ってことは、ほとんどの人にとって妖精とかはおとぎ話の生き物なんだ。
「じゃあ、やっぱり着いてくよ。私がいれば見つかるかもだし」
「夜は魔獣も凶暴化して危険だぞ」
「そこは・・・なるべく頑張るけど、助けてほしいな?」
「怪我をさせるつもりはねえ。けど、いいのか」
ディランは優しいな。私のことを心配してくれているんだよね。
どのみち、月虹草を見つけなきゃ王女様は起きれないし、ほぼ強制とはいえ殿下から依頼を受けたんだ。だったら依頼達成に向けて少しでも可能性を上げたほうがいい。
「あ、ねえねえ、無事に依頼が終わったらタルタル亭でヤキトリ食べたい!」
ディランがいるなら何とかなる。そう考えて打ち上げの提案をすると、なぜかディランは大笑いした。
「わかった、わかった。ヤキトリでもカラアゲでも好きなもん食わせてやる」
こうして私とディランは一緒に月虹草を採りに行くことになった。
その後、私とディランは依頼遂行のための準備の話をして、ディランは帰っていった。
次の満月は十日後。ディランはもう虹の根元のおおよその場所を調べていた。まず私達が目指すのはラングスタールから馬車で北に進んだところにあるダグテスの街。目的地はそこからさらに北にある森。
えーと、出発は八日後の朝。馬車で向かって夜について一泊。次の日は自由行動でそのままそこでもう一泊。で、当日の昼過ぎに宿を出て月虹草探し。
馬車での移動だからトラブル回避の為に一日早く出るんだよね。何だか冒険っぽくなってきたかも。
最初はあまり気乗りはしなかったけど、行くって決めたら楽しみになってきた。希少な草を採取なんて、めったにない体験だよね。
出発まで、わくわくしながら準備を整え過ごした。
ブクマ、評価ありがとうございます。




