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8 小丸は「ときめきプリティー・キュア&キラー」の同人誌を勧めたい

「小丸、本を探すっていったてな……」


 中学の頃同じだった女子、河合小丸に委員の集まりでもないのに呼び出され、実質的に下着の中まで見せつけられる始末だった。


 校舎を華麗に走り回ってしまったがために、疲労感がじわじわと押し寄せていた。


 太ももがきつい。もう何もしたくない気分だったのだが。


「小丸ちゃん、いいよ〜。せっかくこうやって集まれたんだもんね。探そ探そ♪」


 僕の疲れをよそに、美麗は乗り気な態度を見せてくる。不満たらたらだったのが顔に出ていたらしく、僕の顔を見て、小さな声で一言。


「ここで嫌、とかいったら、小丸ちゃんの下着を見たことの罰をしっかり受けてもらうことになるけど。ねえ、同級生の下着を見るってどんな神経してるのかな?」


 すみませんでした。僕がいけなかったです。小丸のおっちょこちょいなところに不満を抱いたらいけませんよね、はい。小丸が勘違いをするのは中学のときからだ。今にはじまったことではない。小丸の下着を見させられるのも、今に始まったことではない。


 美麗が知らなかっただけだ。知らないままで良かったんだよ、美麗。


「よし、みようみよう」


「陸夜、ありがとう。とっておきの本を教えてあげる」


 小丸は中学の頃から図書委員で、いつどこにいても本を読んでいるような本の虫だった、純文学からライトノベルまでを網羅している小丸を震わせたのは、どんな一冊なのだろうか。気になるところだ。


「こっちにきて、ふたりとも」


 小丸が僕らの左側に指を向ける。扉の左側の壁に本棚があり、そこから教室を横に区切るように他の本棚が並ぶ。入り口付近には本を読める机と貸し出しコーナーがあるという作りだ。手前から二列目の本棚の方だ。やけに楽し気だった。スキップでもしてるんじゃないかってくらいに。


「これなの♪」


 背表紙を手にかけ、表紙をこちらに向けてくる。語尾に音符マークがつく勢いで楽しそうに勧めてきたのは────


「小丸、申し訳ないんだが……これはどうリアクションしていいのか困るな」


「昔の生徒さんが、注文した、みたいだよ。私と同じ趣味だったみたい」


「えぇ……」


 美麗も同じような反応だった。なぜかって?


「『ちょっとオトナな『ときめきプリティー・キュア&キラー』〜オンナの子同士なのに×××?編〜』だよ♪ キャラクターの個性が最大に生きてる、最高の二次創作なの」


「そのな、表紙といい題名といい、危険な匂いがプンプンするんだが」


 キュア&キラーの衣装がより薄く、露出度を高くした上に、詳しくは言えないが、いかがわしいポーズで二人が絡んでる。よくコンビニで売ってるような本とは比べ物にならないくらいに艶かしい(なまめかしい)


「これ、実は初版なの。今やプレミア価格がついてて、到底手に入らないような注文した先輩、ありがとうって、いいたい」


「ときめきプリティー・キュア&キラー」のアニメ自体はすでに十年以上前のはずだが、なぜか小丸のような熱狂的なファンがいまだに多く存在しているらしい。ソースは小丸。長年愛されてるヒット作だとか。


 小丸の話を聞く限りだと、子供向けアニメにしては暴力描写や性的描写等々が際どいからだ、という。大人でも楽しめる子供向けのものが流行るってことなのだろうか。そういう本が出るくらいなんだし。


「ゴメン、ワタシ、シラナイホウガヨカッタカモ……」


 完全に美麗の目が死んでる。まだ十五の美麗には刺激が強すぎるようだった。男の僕ですら厳しいものがある。


「なあ小丸、他にはおすすめの本はないのか」


 これ以上は危険だ。早くプリキラの本から美麗を離さなければ……


「なに、もっと知りたいの?」


 すると美麗は、しゃがみ込み、一気に十冊冊近く取り出す。


「これも全部、『ときめきプリティー・キュア&キラー』の二次創作だよ! さ

 っきよりも攻めた描写がたまらないの♪」


「やめてくれ、小丸、もう美麗のライフはゼロなんだ!! 頼む、これ以上苦しませないでくれ!!」


「イイノ、ワタシノコトハキニシナイデ……」


「頼む。こっちの世界にかえってこい、美麗!!」


 大人の匂いがぷんぷんするような本の入荷を、なぜ学校側が認めたのだろうか。闇が深そうだな……




「知らなくていい世界を知っちゃったみたい……」


 このままじゃいけないと図書室をあとにして、廊下を歩く最中。図書室での一件を思い出す。プリキラのハードすぎる同人誌を見たのだ。美麗のメンタルがブレイクしないはずがない。僕ですらやられているのだ。小丸め、可愛らしい顔をしながら、頭の中では何を考えているかわからないものだ。


「さすがに図書室にそういう本があるなんて、思わないよな」


「ふふっ……でゅふふふふ……」


「ちょっと、キモヲタより見苦しい笑い方しないでくれよ」


 好きな美麗だとしても、そんな醜い表情を見てしまったら呪われそうだ。まるで別人が乗り移ったかのようである。


「あはははははは」


「頼む、ここで壊れないでくれ」


「……なーんてね。もうまともに捉えないでよ。冗談に決まってるじゃない」


「心配させるなって美麗。美麗の演技が想定外の上達を見せてるんもんだから」


 中学の頃の美麗は、よく冗談を口にしていた。いつもしょうもないことばかり口

 にして、「嘘だー、絶対」とかいいあっていたのが懐かしい。些細でつまらない嘘ばかりだったので、「はいはい、いつものね」とあしらっていたけれど、今回の狂気はマジモンだったからさ。半分くらいは発狂したくなってたよね、うん。


「冗談よして。ああ、もう忘れちゃったかな。私はオトナじゃないと見れなさそ

 うな本の表紙なんか見てないから〜」


 小丸は「ミス奏流U十八」じゃない。もはや、「ミス変態R十八」だよ。


「そうだ、美麗。僕たちは何も知らないんだ。小丸が何読んでたなんて知らないもんな!」


「あははは、あははは」


「アハハハ、アハハハ」

 そう────これは、テンションがぶっ壊れた高校生の末路である。



 ◆◆◆◆◆◆



 小丸、ちょっと引かれちゃって寂しい。

 プリキラのよさを知って欲しかっただけなのにね。

 床にばらまかれている同人誌を拾っていく。どの本も、すっごく思い入れがある。


 いつか、みんなにもわかってもらえる日がくるから!!好きなあの子のも。一緒に語り合いたいな〜


 ふんふんふふ〜ん⤴


 決めた!

 あの人にアプローチしてみる!

 ああー、すっごく楽しみだな♪

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