証拠
傷の話が出てきます。具体的描写はほぼありませんが、一応お気をつけください。
大広間は人の声で溢れていました。耳を押しつぶすのではないかというほどの大騒ぎです。ダイアナを責める声があちこちから飛んできます。ダイアナは辛そうな表情で王子様に肩を抱かれていました。
家臣が帰って来たのを見て、王妃様は立ち上がりました。前に進み出て、大広間の人々に呼びかけます。
「皆様、お静かに。よく聞いてください。私が今からこの問題を解決しましょう」
辛抱強く、声を荒げることなく、何度もそう呼びかけると、だんだんと皆が落ち着いていきます。王妃様は、先程の家臣から何枚かの紙を受け取ると、それを見せて言いました。
「これは、マリン・アメジストの家にあった紙です。ダイアナ嬢に許可を取り、取ってきてもらいました」
マリンの顔に、まずい、という表情が浮かびます。
「この紙には、ダイアナ嬢の仕事内容が一日ごとに書かれています。そしてこれが今日の分。いつも通りの内容のものですね。…あら?先程あなたは、いつも通りの仕事を与えたと言ったわね?なぜ今日の日付のものがもう一枚あるのかしら?こちらには、いつもの分にはない仕事がびっしり書いてあります。皆様、確認してください」
そして、近くにいた何人かに手渡しました。彼らは、
「確かに、王妃様のおっしゃる通りです」
と答えました。悔しげな表情の人もいます。
王妃様は鋭い目つきでマリンを見据え、言い放ちました。
「マリン・アメジスト。あなたは嘘をつきましたね?また、あなたは17年前に国外追放を言い渡されたはずですから、今ここにいるということは、不法入国をしたということになります。そして、あなたは母のアクア・アメジストとともに、今まで少なくとも、8人の人間を傷つけました。物理的にも、精神的にもです。証拠ならいくらでも出せます。処罰されるべきはあなたです。覚悟なさい」
王様は、王妃様の肩に手をかけて、言いました。
「今その傷害の証拠は出せるか?」
王妃様は黙って前髪を上げ、額を出しました。そこには何か、ガラスのようなもので深く切った傷跡が残っています。
「これは、アクア・アメジストに投げつけられた食器によるものです。そうであるという証拠は、おそらく、クォーツ医師に聞けばわかるでしょう。私がよくお世話になっていた先生です。また、マリン・アメジストによる傷害の証拠は、ダイアナ嬢が持っているはずです」
ダイアナは目を伏せて、つけていたビロードの手袋を外しました。そこには大きな火傷の跡がありました。まだ生々しいその傷は、王妃様の話とともに、ダイアナの無実を人々に知らしめました。
「この傷は?」
「マリンさ…マリン・アメジストが、熱々のスープを私にかけたのです。私が三日間ご飯を抜かれてしまい、空腹でこっそりパンを食べたことがばれたためです」
「これも、クォーツ医師に聞けば、自分ではつけられない角度の火傷とわかるでしょう」
そこで、クォーツ医師が玉座に呼ばれ、王妃様とダイアナの傷を診断しました。
「確かに、これは他人につけられた傷ですね」
という医師の言葉に王妃様は満足げに、
「これで、マリン・アメジストの非がはっきりしたわね。あなたの母、アクア・アメジストは今どこに?」
「それを答えたらどうするつもりだ?王妃様」
嫌味ったらしく「王妃様」という言葉を強調して、マリンが王妃様を睨みつけます。王妃様は澄ました顔で、王様に何かささやきました。王様は頷いて、
「マリン・アメジストを、嘘つきと傷害、法律違反強制、そして不法入国の罪で終身刑とする。母のアクア・アメジストも、発見次第、同様の刑に処す」
と言い渡しました。くそったれ、と吐き捨てて逃げようとするマリンを衛兵たちが目ざとく見つけ、牢獄に連行していきます。彼女は舌打ちとともに、
「いつか必ず復讐してやる。王家の馬鹿共」
と捨てゼリフを残して行きました。




