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第7話 約束と告白

 


 話しながら歩いているうちに駅に着き、財布から電子カードを取り出して改札を抜ける。


 身に覚えのない長財布は、学生証や保険証が入っていたので俺のもので間違いないらしい。

 現金も少し入っていたし、銀行のカードの番号を母さんに電話で聞いたのでお金には暫く困らないだろう。

 ついでにスマホのパスワードを聞いたが、何の情報も得られなかったので、まだ暫くはただの大きな長方形の時計として使うしかない。

 


 回線を通じて聞こえる母さんの声は懐かしくて、俺は少し泣いてしまった。

 やっぱり小学生あたりからは、家族との記憶も共に失ってしまっていたが、優しく包み込むのような母さんの暖かさは確かに覚えていた。


 逆に父さんの記憶はあまりない。

 俺の傍にいたのはいつも母さんで、父さんは毎日休む暇なく仕事で外に出ていた気がする。


 今日電話した時も父さんは家におらず、母さんから「日本に戻れなくてごめんね。仕事が落ち着いたら一度顔を出すから、それまで何かあったら直ぐに電話をするように」と、謝罪と念押しを受け、俺は久々の家族との電話を終えた。


「あっ、空いてる。この電車にしましょうか」


 土曜日の夕方ということで、休日ダイヤの電車はそこそこ混んでいた。

 沢山の人の前で複雑な色恋沙汰を話すのは気が引けるので、俺たちは空いている車両が見つかるまで電車を見送り、3本目でようやく妥協して端っこの席に2人で座る。


「それで、どこまで話しましたっけ?」

「俺が約束とやらで告白を断ったってところまで」

「ではその続き、私たちがそこから付き合うことになった話からでいいですか?」

「その前に、少し聞きたいことがある。青宮は俺が大切にしていた約束ってやつの内容を知っているのか?」


 普通なら、こっちからお付き合いをお願いしたいレベルの超絶美少女からの告白を断るくらいだ。

 きっと相当重要な内容に違いない。

 そんな約束を忘れたままにしておくのはダメだ。


 何より思い出せそうで思い出せない今の状況が気持ち悪い。


「半分知っていて、半分知らないって感じですかね。何回か聞いたのですが、詳しくは教えてもらえませんでした」

「本当か! 知っていることだけで十分だから教えてくれ!」

「なんでも、小さいころにアメリカに行ってしまった女の子と結んだ約束らしいです。その子から貰った手紙が関係しているらしいんですけど、内容は教えてくれませんでした」


 もしかして:アメリカ 女の子 約束

 なるほどわからん。

 少し情報は増えたが、やはり俺の脳内検索に引っかかるものは無い。


 ともかく、約束の概要がわかってよかった。

 借金が膨らんでいて、もし付き合い始めたら迷惑をかけるかもしれない、みたいな危ない約束だったらどうしようかと思ってた。


 小さいころに結んだ約束を高校生まで持ち込むなんて、我ながら大分ロマンチックで可愛げのある話だ。

 きっと青宮と黒崎に負けず劣らずの可愛い子だったのだろう。

 それなら超絶美少女たちの告白を断るのも少し納得がいく。


「約束についてはわかったよ。遮ってごめん。話を続けてくれ」

「いえいえ、これもいずれ話す必要があることでしたから。それで、さっき話の続きですが、私たちは一度確かに振られました。誰か1人が選ばれるならまだ納得できたんですが、全員振られてしまったんです。私はいろんな感情を持て余して、その場で泣き出してしまいました」


 今も話しながらその場面を思い出してしまったのか、青宮の目は少し潤んでいるように見える。


 最低だな、記憶を失う前の俺。 

 女の子を泣かすなんて、トリセツを見れば一発アウトに決まっている。


「今、こうして彼女として優真くんと一緒にいられるのは香菜ちゃんのおかげなんです」

「黒崎……?」

「はい。しゃがみ込んで泣くことしかできなかった私と違って、香菜ちゃんは優真くんにこう提案したんです。私たち全員と付き合って欲しい、って」

「どういうことだよ!? 黒崎が言っていた、私たちが望んだことってそういう事だったか……」


 凄いな黒崎。

 振られてすぐにそんな大胆な提案をするなんて、どんだけメンタル強いんだ。


「どうやら香菜ちゃんは、優真くんから約束について少し詳しく聞いていたようです。優真くんと香菜ちゃんが暫く会話をして、結局私たちの告白は成功しました」

「俺、オッケーしたの!?」

「成功、と言えるのかわかりませんけどね。とにかく私は優真くんと付き合えることに大喜びで、今度は嬉し泣きで大号泣してしまいました」


 ふふふ、と今度は思い出し笑いをする青宮。

 この幸せそうな笑顔は、今日のデート中に何回も見ることができた。

 俺がちゃんと彼氏らしく動けてたかはわからないが、青宮は多分満足してくれたのだろう。


「全員と付き合うなんて、普通あり得ないことをオッケーさせるって、黒崎はいったい何を俺に言ったんだ?」

「残念ながら、私は頭が真っ白だったので、会話の内容は覚えていません。その時話してたことや、約束のことを聞いても香菜ちゃんはダンマリです」

「これは約束のことも含めて、黒崎に直接聞くしかないか」


 もし黒崎が俺の約束について全て知っているなら最高、一部でも新しい情報が手に入れば上々だ。


 図らずとも、俺が聞きたかった矛盾の片方とは違う方の疑問がこれで解決した。

 詳しいことはまだわからないが、青宮と黒崎の両方が俺の彼女だと言っていた理由はわかった。


 となると、後は矛盾のもう片方を説明してもらうだけだ。


「これで二股の状況は理解できたけど、今日が終わったら楓は彼女じゃなくなるってのは? 今日で別れようってことだったり?」

「違いますよ! 優真くんと別れるなんて絶対に嫌です! あの日に決めた掟の1つですよ! 一緒に決めたじゃないですか!」

 

 だいぶ大きな声が電車の中で響き、同じ車両に乗っている人たちの視線が一斉に集まった。

 それに気づかず、必死な顔で俺を見つめる青宮の代わりに、軽く頭を下げて謝罪する。

 

「落ち着け楓。俺、記憶喪失なんだって」

「あっ……すいません、取り乱しました」


 青宮の前で別れるって言葉は禁句だなこりゃ。

 たった一言でこれだけ取り乱すなんて思わなかった。

 そこまで別れたくないって思ってくれるほどに、俺は好かれてるってことで良いのかな。

 改めて本当に俺は幸せな環境にいるもんだ。


「それで、初耳の情報が出てきたんだけど、掟っていうのは?」

「優真くんと、()()()()のみんなで決めたことです。」

「ちょっと待て。彼女候補?」

「はい。優真くんの疑問はここで解決すると思いますよ!」


 記憶を無くしたから当たり前だけど、新情報多すぎないか……?


「次はー虹橋ー。次はー虹橋」

「着きましたね。また目的地まで歩きながら話しましょう」


 これでようやく全貌が分かるわけか。

 納得できるものだといいんだけど。


第7話を最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!


作者の木本真夜は、三度の飯より感想が好きなので、どんなに些細なことでも書いて貰えると嬉しいです。


また、この作品を少しでも面白いと感じて下さった方は、是非ブクマ、評価をよろしくお願いします。

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