表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/29

第5話 真っ赤っか

 

「あのー……早く降りてくれませんか」

「あっ、ごめんなさい。直ぐ降ります!」


 突然、全身に伸し掛かっていた圧力が消える。

 両腕が自由になり、我に返ると、ゴンドラの扉が開いていて、外から係員のお兄さんが覗いている。


「ほら、彼氏さんも早く降りて。彼女さん待ってるよ」

「すいません、降ります降ります!」


 ありがとう係員のお兄さん、俺を助けてくれて。

 お兄さんのサポートが無かったら、俺はあのまま固まって動かなくなっていたかもしれない。


 ん……?


 そういえばこのお兄さん、俺のことなんて呼んでた?

 お客さん、でもないし、名前で呼ぶわけもない。

 何か、特別な呼び方をされたような。


「彼氏さん彼女さん、ですって。ふふっ、私たち周りから見たら、ちゃんとカップルに見えるんですね」

「なっ……」


 多分それは偶々抱き合う体勢になっていたからであって、普通にしていたら顔面偏差値的にカップルになんて見られないだろう。でも男女2人っきりで観覧車なんて、まるでデートだし、勘違いされる可能性もある。そもそも来ている服が同じ高校の制服ってことも、カップル感あるかもしれないわけで……。


 なんだこれ。

 思考が全く纏まらない。

 それに、心臓の音がさっきからうるさくて仕方がない。


 女子の柔らかな肌の感触。

 薄っすらと匂う甘い香り。

 そして何より2つの大きな弾力。


 俺をパニックにさせるのに十分な出来事が、あの一瞬で起こったというのに、青宮はなんで平気なんだ。


「さあ優真くん。もう14時です、次の場所に行きましょう」

「お、おう……」


 これくらい、記憶を失う前の俺とは当たり前だったのだろうか。

 慣れると感情が薄れていく的な。


 対する俺は、女子と密着なんてこれが初めてだ。

 心臓の鼓動は速いし、背中から変な汗は相変わらず。

 おそらく顔は真っ赤っかのはずだ。


 先を歩く青宮はどんな顔をしているんだろう。

 後ろからだと長い髪の毛が邪魔してよく見えない。


 追い越して覗き込もうと歩を進めると、青宮の歩くスピードも速くなる。

 不思議に思って早歩きをしてみると、青宮も同じく早歩きになる。


「なあ、楓。歩くの早くないか?」

「そんなことないですよ。普通です」

「じゃあなんで、俺より前に行こうとするんだ?」

「目的地を知っているのは私だけですから。優真くんが前に行っては意味がないじゃないですか」


 本当にそれだけか?

 それなら並んで歩いてもいいのに、青宮は常に俺と一定の距離を取ろうとする。


「うわっ」


 突然横から強風が吹きつけ、樹々がざわざわと揺れる。

 数秒間続いた突風は、制服のスカートを下から吹き上げ、青宮が驚異のスピードでひらひらと揺れる布を手で押さえる。


 その際、風はスカートだけでなく、青宮の黒髪も揺らした。

 腰まである長髪がバタバタと左右に揺れ、隠れていた小さな耳が露になる。


「真っ赤だ……」


 近づかなくてもわかる。 

 耳全体が、リンゴのように鮮やかに染まっている。


 風が止み、スカートを抑える必要が無くなった青宮が、歩きながらボサボサになった髪を直していく。

 耳が再び髪で隠れてしまうが、一度見たので問題ない。


  俺の考えが正しければ、もしかして青宮は凄く照れているんじゃないか?

  さっきから距離を取ろうとするのは、耳と同じように顔も真っ赤なので、俺には見せたくない的な。


 小さな遊園地からショッピングモールにまた戻った後も、青宮は俺に顔を見せようとしない。


 これはビンゴなんじゃないか?

 どうにか顔を見て確かめるしかない。


 今がその最大のチャンスだ。

  青宮に最上階までエスカレーターで行くと言われ、10段分の距離を取られている状況。

 青宮は気づいていないだろうが、ショッピングモールのような上に何階層も連なる建物内で、エスカレータ―というのは上りは上り、下りは下りで螺旋状に一方通行に分けられている。

 つまり上に行くには階ごとにUターンする必要があるわけで、10段も離れていれば自ずと顔が見えてしまうのだ。


 丁度青宮が2階に到着し、そのまま3階に上がるエスカレーターに乗るため振り向く。

  そこで俺はようやく頑なに隠されていた顔を見ることが出来た……が。


「普通……だと」


  真っ赤どころか、真っ白。

  小麦色に焼けていた黒崎とは正反対に、雪のように白い肌。

  表情も照れている様子は無く、至って普通の真顔だ。


  照れて恥ずかしがってんじゃね、とか調子乗って考えてた自分を殴りたい。

 逆に俺の顔が羞恥心で真っ赤に染まるんじゃないかな。


  結局、俺の勘違いということか。

 それなら耳が赤くなっていたのと、顔を頑なに隠していたのは何なんだろう。

 スカートが風に煽られて、下着が見えそうになったから、とか?

 それにしては赤すぎていた気がするけど、女心はわからないしな…。

 耳が赤くなった時の女の子の心情、とか女の子のトリセツに書いてあったりしないだろうか。


  そんなことを考えているうちに、エスカレーターは途切れ、目的地の最上階に着いた。

  先に着いていた青宮は距離を取るのをやめたらしく、普通に俺に近づいてきて、一枚の紙を渡してきた。


「はい、どうぞ」


 青宮から手渡された長方形の紙は淡いピンクで彩られていて、真ん中に大きく赤色で文字がプリントされている。

 

  LOVE DRAMATIC 〜永遠の愛をあなたへ〜


「映画のチケット?」

「はい、そうです。最近話題になっている映画で、最後に待っている怒涛の展開に号泣すること間違いなし、だそうです」

 

 なるほど、今から映画見るのか。

 小さくプリントされた上映時間まで後5分。

 青宮はこの時間に合わせて昼飯を食べたり、観覧車に乗っていたのだろう。

 抜けてるようで、デートプランは本当にちゃんと考えられている。


ただ、心配なのはデートプランには俺への二股についての説明が組み込まれてるのだろうかということ。

今のところ、全く話す気がないような。

今から映画を見ようしているのが、さらに俺の疑惑を掻き立てる。


「安心してください。優真くんが聞きたがっていることは、ちゃんと後で説明しますよ。だから今はデートを楽しみましょ?」

「黒崎だけじゃ無くて、楓までエスパーなのか…?」

「ふふふ。それは内緒です」


 ニコッ、とイタズラっぽく笑う青宮はやっぱり超絶可愛い。

 芸能人顔負けの美少女と数秒だけでも密着した経験は一生覚えておこう。


「さあ、行きましょうか。早くしないと映画が始まってしまいます」

「そうだな。最初に言っておくが、俺は多分こういうお涙頂戴系の映画で泣かないぞ。ほらお前ら感動するだろ? って感じの意図が見えちゃって、あまり好きじゃないんだよね」

「それは初耳ですね。映画が終わった後、楽しみにしていますね」


 上映部屋に入ると、既に証明が落とされ、スクリーンには毎度おなじみの映画泥棒が映し出されてる。

 指定された席を見つけ、座ると直ぐに映画が始まった。


 まだ14時。時間はたっぷりある。

 説明を急ぐ必要もないし、青宮の言う通り、俺は映画を思う存分楽しむことにした。



第5話を最後まで読んでくださった皆様ありがとうございます!


作者の木本真夜は、三度の飯より感想が好きなので、どんなに些細なことでも書いて貰えると嬉しいです。


また、この作品を少しでも面白いと感じて下さった方は、是非ブクマ、評価をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ