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明日は?

作者: 縁側の皿

今朝もいつも通りに目が覚める。目覚めは良いほうだと思いたい。

家族は父、母、弟、そして私。私が男か女かはどうでもいい。そのうち分かるかもしれないから。

3人はみな、既に下の食卓で朝食を食べている。

私は少し特別らしい。なんでも、いろんな"可能性"というものを覗き見ることだけでなく

それを渡り歩くことができるようだ。これはそんな私が経験した、すべての「昨日」起きた奇妙なお話。


 いつも通り目が覚めた。いつも通り食事をし、着替えを済ませ、学校へ行く。

 弟とは同じ中学校に通っている。ああ、私は中学生だ。今年で中三、いわゆる受験生というやつだ。

成績だって悪くはない。良くもないけども。今日もいつもの通学路を歩き、最寄り駅に向かう。

私立の中学だから、電車に乗って通わないといけない。そんなわけで、いつも早起きだから眠いのだ。

今日は特段眠い。一時間目にあるテストの勉強を夜中までしていたからだ。目覚めがいいとはなんなのか。

 若干ボーっとしながら近づく電車を待つ。車輪とレールが擦れる音が耳を貫く。それでも今にも瞼が閉じそうだ。刹那、ただならぬ甲高い金属摩擦音がする。横にいた弟は居ない。その横にいるのは、邪悪な笑みを浮かべた見知らぬ男だった。目が一気に覚めて視線を落とす。

 駅のホームの縁には、トマトジュースをこぼしたような跡がある。誰の者かは考えるまでもなかった。

何も考えることが出来ない。ただ一つ、分かっている事実がある。

 今、私の横で後ろに並んでいた数人の人たちに取り押さえられている男が弟を突き落として殺したことだけは明確に、まるでバイカル湖の水底を覗き見るかのようにくっきりと分かった。

私がボーっとしていなければ。私が昨日、テストに対してほぼ無意味な抵抗と分かっていながら足掻かなければ。彼の人生が強制終了させられる前に私が防げたかもしれない。当然学校に行くはずもなく、訳が分からないまま、しかし言いようのない悲しみと罪悪感に打ちひしがれながらその日一日が終わった。



今日もいつも通りの朝だ。家族は既に朝食についている。弟から早く食べないと遅刻するぞと笑われる。

一時間目からのテストがとても憂鬱だ。昨日はテストを諦めて寝たので今日のテストはひどい結果になりそうだ。しかもここ最近のテストの成績は今までに比べて格段に・・・悪い。朝食中に今日もテストだと言ったら母が苛立ちを含んだため息をついた。帰ったら何か言われるだろう、今日のテストもいいはずがない。

しかし電車の中では弟と昨晩の出来事について話しをしていたため、最後の粘りなんてこともしていない。学校の最寄り駅からはダッシュだ。遅刻ギリギリ、朝食べたものが胃の中で踊っている。ちゃんと消化されてないんだろうなと少しブルーになるがそんなこと言ってはいられない。

教室に入るや否や出欠があり、鞄の中身を机に押し込んだり教科書をロッカーから取ってきたりしていたら直ぐにテストがあった。授業内で採点がある。案の定、3割ほどしか取れていない。ああ、これは帰ったら落雷だ。そう考えると憂鬱でしょうがない。

二人で家に帰る。母は開口一番、テストを見せなさいという。国民的アニメの主人公みたいだ。見るなり、何も言わずに私に突っ返す。その顔はもはや呆れた、諦めたといった顔をしていた。私だってこんな成績取らなくて済むなら取りたくない。お互いモヤモヤしながら私は二階の部屋に上がる。呼ばれた晩御飯でも、まともに話してくれない。その間に父が帰宅する。とても疲れているというか、眠そうだ。普段よりぶっきらぼうに母がおかえりなさいと言う。浮かない顔の私を見て一瞬父がこちらを見るが、光のごとく察したらしい。私たちは着替えて下りてきた父と入れ替えで部屋に上がる。部屋に入って寝転がると部活で疲れて少しの間意識が飛んだ。

日付が変わる少し前、ドタバタした音で目が覚める。下からの音だ。忙しそうというよりも、何か散らかるような音・・・。小説のように私と弟は同じタイミングで部屋から顔を出す。突然物音がしなくなったのでリビングに下りてみる。そこには人形のように横たわった母と、やってしまったと言わんばかりの顔をした父がいた。母の顔は青い。何が起きたかはすぐに分かった。私のことで揉めたらしい。父が徐に電話に手を伸ばす。私はそれを止めてしまった。この後何をしたかは、想像に任せる。あまり褒められたことではないということだけは言える。



 とても眠い。昨日はギリギリまで勉強をしていた。今日の一時間目のテスト対策だ。最近のテストはあまり成績が良くない。これ以上母をがっかりさせないためにも良い成績を取る。朝食を食べている間に父に出勤ついでに車で送ってくれないかと頼む。疲れた顔をしているので頼るのは気が引けたが、そんなこと言っている場合ではない。父も察したのか、しぶしぶ車を出してくれた。送ってくれる車の中でも暗記用のノートを開いて勉強をする。これだけ見れば意識高い学生に見えるが、ただ前のような成績を取るまいと必死なだけだ。一通りおさらいしたところで車は校門に着き、私たちは下りる。行ってきますとドアを閉め、手を振り返す父。

 これだけ準備していたのだ、当然テストは満点だった。これで母にいい顔を見せることができる。

 部活もとても気分良く参加して、いい汗を流して弟と帰路につく。家に帰るなり母がテストは?と聞いてくる。無意識に自慢気な顔、ドヤ顔というのだろうか、でテストを差し出す。やればできるじゃないと緩む母の顔。これで今夜の夕食は美味しく食べれる。しかも明日からは週末。家族で出かける予定になっている。気分よく一週間を終えることができそうだ。

 夕食を食べながらテレビを見て談笑をするものの、普段父が帰宅する時間になっても帰ってくる気配がない。勤め先を出たという連絡は入っているものの、時間がかかりすぎている。こちらから電話を掛けるものの、切ることもなければ反応されることもない。不安で静かになっているところに、その静寂を打ち破るかのように電話の音が鳴り響く。警察からだった。


お宅のお父様?ですかね、が事故にあいまして。居合わせた医師の方がその場で死亡したと。捜査をしている最中なんですが、恐らく過労による居眠り運転でコントロールを失って事故を起こしたという感じですね。確認のためにご家族の皆様でいまからお伝えする住所の署に来ていただけますか。・・・・・・


 途中から何を言っているかわからなかった。朝、車で送ってなんて言わなければ。そもそも車で送ってもらわないといけないようにしていなければ。こんなことにはならなかった。私の愚かさを悔いて、恥じ、責めた。署で父の顔を見る。どこか、後悔を抱いたような顔だった。




 今朝もいつも通り目が覚める。今日は土曜日。私が一番早く起きた。

 続々と起きてくる三人。母が朝食の準備をしている間、私は昨日という金曜日がやけに長かったと感じていた。まるで丸三日生きたようだ。寝ていた時に見た夢だろうか?それにしても内容がひどい。家族みんなが死んでしまうという、ひどい夢だ。非常に目覚めが悪い。モヤモヤしつつ考えている間に私たちの朝食が出来た。今日は土曜日。これから家族で出かける。楽しみにしていた週末だ。せっかくの休みなのだから、楽しく過ごしたい。

 今日も無事終わり、明日が来るようにと願いながら。




 彼女の周りの三人は本当の家族なのか?そんなことを考えながら、父の運転する車に乗った。

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