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とある脇役獣人娘の決意

 わたしはモナ。猫の獣人です。

 今日は家族のおはなしをしたいと思います。


 わたしには双子のお兄ちゃんがいます。

 あまり顔は似ていませんが、とってもやさしくてカッコイイお兄ちゃんです。

 でも、それ以上にエッチな人で、女の人のお胸ばかり見ています。


 どれぐらいエッチかというと、お隣に住んでるお姉さんの大きなお胸を見ては「ユキ姉、やっぱパイオツでけええええ!!」とか「俺、ガキだからまだ女湯いけるよな?」って感じです。


 しかも決まってその後は、わたしのお胸を見てためいきをつきます。

 かなり失礼だと思うのでやめてほしいです。

 お兄ちゃんにはしつぼー? しています。


 わたしのお胸がもう少し大きければ、こんな悲しい気持ちはしないのでしょうか。

 思わず自分のお胸をペタペタとさわってしまいます。

 何もありません。まったいら、です。

 自分でもためいきが出てしまいます……はぁ。


 わたしにはお姉ちゃんもいます。

 とっても強くて優しいお姉ちゃんで、わたしとお兄ちゃんを可愛がってくれます。

 でも、お姉ちゃんもわたしと同じでお胸が小さいです。あと背もわたしと同じぐらい小さいです。

 このことをお姉ちゃんに言ったら「うちの家系は皆そうなんだよ……」って、悲しい顔で言われてしまいました。


 でも、それだとヘンなのです。

 だって、お母さんのお胸はすごく大きいのです。

 お母さんは背こそお姉ちゃんやわたしと同じで小さいのですが、ばいんばいんなのです。


 ぎもんに思ったので、お姉ちゃんとお兄ちゃんに訊いたら「大人って嘘つきだから」「あれ、パッドじゃねぇかな。偽乳だよ偽乳ー」って言っていました。


 二人の言うことは難しいのでよくわからなかったです。

 そしたらお父さんがやってきました。

 お父さんは村で一番つよくてカッコイイ人です。みんなが「じゅーおーさま、じゅーおーさま」ってキラキラした目で言います。


 そのじゅーおー? のお父さんが言いました。


「モナ。お父さんな、アレに騙されて結婚したんだ……」


 お姉ちゃんと同じような、いえ、もっともっと悲しそうな顔でした。

 お父さんもお兄ちゃんと同じで、大きなお胸の人が好きだったみたいです。

 おっぱいせいじん? とかいうやつらしいです。


 お兄ちゃんは「あれぐらい見抜けよ、バカ親父ー」って笑ってましたけど、お姉ちゃんとお父さんに悲しい顔をさせたわたしは、いけない子だと思います。




 それからしばらく経ちました。

 ある日のことです。事件がおこりました。


 お隣のお姉さんが誘拐されてしまったのです。

 獣人狩り、というやつらしいです。


 このことは、泣きながらお姉ちゃんが教えてくれました。

 なんでもお隣のお姉さんは、一緒に木の実を拾っていたとき、運悪く犯人に捕まったお姉ちゃんの代わりに人質をかってでたそうです。


 それを聞いたみんなは、泣いてしまいました。

 わたしは特に悲しくなかったので、泣きませんでした。

 お姉ちゃんとお兄ちゃんは、わんわん泣いていました。


 お姉ちゃんはわかりますけど、なんでお兄ちゃんまでこんなに……。


「俺さ、ユキ姉のこと好きだったんだ」


 なぜでしょう、お胸がズキンと痛みました。

 なにかへんなものでも食べたのでしょうか。



 大人たちは、みんな怒っていました。

 誰が追うのか、子供の前なのに、ぎろんしていました。

 早く追わないと、においが消えてしまうからだそうです。

 お父さんが口を開きました。


「俺が行く。ユキコは娘の代わりに攫われたんだから俺が行くべきだ」


「だが獣王、おまえさんにもしものことがあったら……。ここはユキコの親である私が――」


「いや、心配してくれるのは嬉しいがここは譲らねえ。ユキコは俺とクリスにとっても妹みたいなもんだからな」


 クリスというのはお母さんの名前です。

 お母さんは怖い人です。よくお兄ちゃんのおしりを叩きます。

 でも、だいたいお兄ちゃんが悪いので仕方ないと思います。


「ガイエル、ユキコを頼んだわよ。獣王である以上、失敗は許されない。いいわね?」


「お、おう」


 お母さんが脅すように言いましたが、二人はとっても仲がいい夫婦です。

 ケンカはよくしますが、すぐ仲直りするのです。

 だいたい決まってその後は、二人一緒に、はだかで寝ています。

 なんではだかなのかは、わからないです。今度、訊いてみたいと思います。


「お父さん。全部あたしが、あたしが捕まっちゃったから悪いの! ……ユキ姉を、助けて。お願い」


「バカ親父……いや、父さん。俺これからは真面目に頑張るからさ、ユキ姉を頼むよ!」


「エリスもレキも安心しろ。俺は獣王だぞ? あの程度の雑魚に負けるかよ。万に一つもねーって」


「「でも」」


「ったく。信用ねぇなあ。んじゃ、約束だ。エリス、おまえは来年で成人だから帰ってきたら狩りの仕方を教えてやる。レキ、おまえは俺の息子だ。少し早いが獣王の戦い方を教えてやる。だから楽しみに待ってろ」


 笑いながらそう言って、遊びに行くみたいにお父さんは出発しました。

 わたしには何も言ってくれなかったけど、お父さんはそれだけ自信があったのだと思います。

 もしかしたら、いい子で待っていたらお土産を買ってきてくれるかもしれません。

 お父さんは、じゅーおーで、さいきょーなのです。




 一週間がたちました。お父さんたちは帰ってきませんでした。

 きっとお土産を選ぶのに、時間がかかってるんだと思いました。


 一か月がたちました。まだお父さんたちは帰ってきません。

 さすがにわたしも不安になりました。


 三か月がたちました。

 この頃になると、みんな諦めていました。お父さん……。


 半年がたちました。

 ある朝、お母さんがわたし達を集めました。

 そして、お父さんが死んだと、お隣のお姉さんも助からなかったと、わたしたちに言いました。


 昨日の夜、親切な冒険者さんが来て教えてくれたそうです。

 お父さんの髪の毛も見せてくれました。

 いはつ、というそうです。



 わたしはお姉ちゃんとお兄ちゃんと一緒に泣きました。

 お母さんは泣いていませんでした。

 でも目が赤かったから、もうたくさん泣いたんだと思います。



 お父さんが死んでから、お母さんがおこりんぼになりました。

 あと、あまり働かなくなりました。

 何もしないでボーッとしたり、隠れて泣いているようでした。


 お姉ちゃんは、朝も夜も働いています。

 あたしのせいだからと言って、お母さんの分まで働くようになりました。


 お兄ちゃんは、倒れてしまいました。

 お父さんのこともありますが、お隣のお姉さんが亡くなったのがショックだったみたいです。

 わたしはお兄ちゃんのお世話をするようになりました。少し嬉しかったです。


 お隣のおじさんおばさんは、よそよそしくなりました。

 お姉さんが亡くなったのが、そんなに悲しかったのでしょうか。

 わたしなどは、お姉さんが亡くなってくれて――。





 お父さんがいなくなってから、家が貧乏になりました。

 お母さんは、お酒を飲むようになりました。

 お姉ちゃんは、相変わらず凄く働きます。

 お兄ちゃんは、まだ起きられません。

 わたしは、お兄ちゃんの看護をしながら、みんなのご飯を作る係です。


 今日はコロッケを作りました。

 昨日もコロッケを作りました。

 お金がないので明日もコロッケだと思います。


 あと、最近お姉ちゃんが何か思いつめた顔をしています。

 お姉ちゃんは元々凄く頑張り屋さんだけど、今はなんだか痛々しいです。

 わたしももっと働くので、悩みがあるなら頼ってほしいなぁ。

 でも良いこともありました。

 しばらくしてお兄ちゃんが起きられるようになったのです。


「ごめん。迷惑かけた」


 迷惑だなんて、全然そんなことないですけど、お兄ちゃんが起きてくれて凄く嬉しかったです。

 お礼にお願いを一つ聞いてくれるというので、勉強を教えてほしいとお願いしました。

 私とお兄ちゃんは双子なのに、お兄ちゃんの方が大人っぽくて全然頭が良いのです。

 それがちょっと悔しくもあったので、今回お願いしてみました。

 お兄ちゃんは少し驚いていましたが、すぐにニッコリ笑って「わかった」と言ってくれました。


 お母さんは、相変わらずダメでした。お酒に逃げてばかりです。

 たまに、亡くなったお父さんの悪口まで言う始末です。

 怖かったけど真面目でやさしかったお母さんが、何故こうも変わってしまったのでしょうか。



 ある朝、お姉ちゃんがみんなに言いました。

 あっけらかんと、どこか吹っ切れたような様子です。


「あたし、鉱山都市に出稼ぎに行ってくるねー」


 鉱山都市とは、ここから一番近くにある町です。

 わたしが生まれた頃、十年ぐらい前だと思いますが、鉱山から地下迷宮が発見されたことで有名になりました。

 それと、お父さんたちが亡くなったのが、どうもその鉱山都市らしいのです。

 お姉ちゃんは出稼ぎと言いましたが、本当は二人の最期を知りたいのかもしれません。

 真面目で責任感の強いお姉ちゃんらしいです。

 ただ、好奇心は猫を殺す、にならなければ良いのですが。


 お母さんは朝からお酒を飲みながらも「勝手にしなさい」とぼそりと呟きました。

 お兄ちゃんとわたしは、やりたいようにさせてやろうと思い、笑顔でお姉ちゃんを送りだしました。



 お姉ちゃんはいなくなりましたが、お兄ちゃんとわたしで働けるようになったので、生活は少しだけ向上しました。

 でもその分もお母さんの酒代に消えていくので、やっぱりとんとんでしょうか。

 たまにはコロッケ以外も食べたいです。



 わたしが仕事の合間に外で勉強していたときのことです。

 同じ村に住んでいる獅子の獣人の子供が来ました。

 たしか、お兄ちゃんと同じ獣王候補だったはずです。

 わたしになにか用かな? と思っていると、いきなりわたしの勉強ノートを破り捨てました。

 唖然としてしまい、どうしてこんな酷いことをするのかと訊くと、獣人は勉強などしないでいいと吐き捨てるように言いました。


 それを聞いたわたしは悲しくなってしまい、我慢したかったけど泣いてしまいました。

 ノートを破り捨てられたこともそうですが、それ以上に勉強を否定されたのが悔しかったのです。

 わたしの身体能力は、獣人としては低いのです。

 お姉ちゃんやお兄ちゃんみたいな戦う才能はありません。

 これは以前、お父さんにも言われたことです。

 でもそのときお父さんは


「戦いは俺やエリス、レキに任せておけばいい。特にエリスがやばいな。ありゃ才能の塊だ、女だから獣王にはなれねぇけどな。モナは勉強とか向いてるんじゃないか? これからの時代は獣人もバカじゃ駄目だ。まあ、俺は勉強嫌いだからしねぇけどよ。代わりに――モナがお父さんの分まで頑張ってくれたらスゲエ嬉しい」


 そんな風にわたしを励ましてくれたのです。

 なんだか、お父さんのことを思い出したせいか、ますます泣けてきました。

 お父さん、どうしてみんなを残して死んじゃったんですか。

 お父さんは獣王で、最強だったはずでしょう。

 万に一つも負けないって言ってくれたじゃないですか。


 獅子獣人の子供はいつのまにかいなくなっていました。

 わたしはなんとか仕事を終えると、とぼとぼと帰りました。


「モナ、どうした。しょぼくれた顔して。泣いたのか?」


 お兄ちゃんはわたしの様子がおかしいことに気づいたようです。

 わたしは夕飯の支度をしながら起きたことを素直に話しました。


「ふーん。俺の妹にそんなことしてくれちゃったわけだ。へー」


 なんだかお兄ちゃんが怖いです。こういうお兄ちゃんもカッコイイのですが、昔みたいに少しエッチな方がお兄ちゃんらしくていいと思うのですが。

 そのことを言ってみると


「そう? んー。バカ親父とユキ姉は死んじゃって、母さんは酒浸り。俺より強い姉ちゃんも旅立った。俺も寝込んで迷惑かけまくったわけで。なかなか昔の通りにはねえ? まーでも、ちょっと頑張ってみるよ。じゃ、おやすみー」


 そう言って、出来立てのコロッケを一つくわえると、はふはふしながらお兄ちゃんは何故か外に出ていきました。


 お兄ちゃん、お行儀悪いよ?



 翌日。朝帰りしたお兄ちゃんの口から、獅子獣人の子供が獣王候補を辞退したことを知りました。

 心が折れるまでボコボコにしてやった、だそうです。

 ケガはそれほどでもないから安心しろ、とも。

 流石はお兄ちゃんだと思いました。


「悪い、眠いんで寝るわ。お礼はパイオツの大きな友達でも紹介してくれればいいから」


 言いたいことだけ言って、のっしのっしと自分の部屋へと去るお兄ちゃん。

 お兄ちゃん、わたしそんな胸の大きな友達いないよ?


 そもそも、獣人の女の人はスレンダーな人が多いみたいです。

 うちの家系はその中でも極端に酷いそうですけど、亡くなったお隣のお姉さんみたいな大きな胸だって、わたしは他に見たことありません(お母さんはパッドです)。


 でも、やっぱりお兄ちゃんはカッコイイなぁ。

 友達じゃなくてわたしじゃダメかな?

 自分の薄い胸を見ながらそう思いました。






 お父さんが出発した日から今日で一年が経ちました。

 お母さんはダメ猫獣人まっしぐらですし、お姉ちゃんとも連絡がつきません。

 お兄ちゃんは段々調子を取り戻してきたのか、私の胸を見ては溜息をつきます。

 私は最近、法律の勉強をしています。獣人の双子は結婚できるのか、興味を覚えたからです。

 まーでも、無理なら無理でいいんです。学んだことはいつか必ず役に立ちますから。


「どっかにでっけえパイオツ転がってねぇかなー?」


 またお兄ちゃんがバカなこと言ってます。

 少しは私の気持ちに気づいてくれてもいいのに。

 思わず私は、お兄ちゃんを背中から抱きしめてしまいました。


「お兄ちゃん、貧乳はダメなの? その、兄妹だけどさ。私とか、どう?」


 どうしたんでしょう、私にしては珍しく攻めてます。

 冷静に見えるかもしれませんが、かなりテンパってますよ!


「貧乳ねー。しかも妹か。うーん」


 なにやらお兄ちゃんが真面目に考え始めました。

 おお……すぐに、ごめんないわーとか言われると思ってたんで意外です。

 少しは期待してもいいんでしょうか。ドキドキ。


「ごめんないわー」


 ……ちょっとお兄ちゃん。私の期待を返してください。

 ただの時間差じゃないですか!


「ああ、でも。二号ならいいかも」


 むっ。二号ですか。かなりバカにされてる気がしますが、顔のニヤニヤが止まりません。

 今はちょっと顔見られたくないです。

 そっか、二号ならいいのか……。


 ふむ、これは早いとこ胸の大きな一号を探さなければなりませんね。

 あと法律の勉強も本気出します。

 ダメそうなら改正です、改正。

 未来の獣王お兄ちゃんが言えばどうにかなるでしょう、きっと。


 そう、決意しました。


「お兄ちゃん、どっかに一号落ちてないかなー」


 この日から私の一号探しが始まり、見つかった後もその子の成長を待つことになるのですが、それはまだまだ先のお話です――。

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