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そして、廃墟地域。
「……ここか」
今俺の目には、誰もいない古ぼけたビル、スプレー塗料でよくあるような落書きをされている倉庫、膝下まで生い茂る草、そしてフレイ。主にこの4種類のものが映っている。
「それで………傷痕っていうのは」
俺が言うと、フレイは倉庫の方を黙って指差した。
なるほど、真一文字にシャッターが裂かれており、不自然な形でそこだけ荒らされていた。
確かに真相を確かめたくなるのはわかる。
「昨日見たら、こんなんになってたんだ。傷痕のつきかたも変だし、ちょっと迅火についてきてもらおうと思ってな」
……一見筋は通っているように見える。
だが、このフレイの言っていることは穴だらけだ。
……俺はカマをかけてみる。
「なるほどなー。……にしても、フレイ、よく気がついたな」
するとフレイは、へへっと笑っていう。
「いやー、昨日のあの後、ちょっとヤボ用でここらへんに来たんだよ。そしたら、こんなことになっててさ……」
(………用意してきた返答だな───)
俺は直感的にそう思った。
ヤボ用と言ったが、一体五時半から、ここで何をしたのが“ヤボ用”になるんだ?
「………そうか。で、この後は?」
「………へ?」
とぼけるな。俺がカマをかけていることくらい、とっくに気づいているだろうに。
「いや、だから、この後だ。傷痕を見たはいいが、それからどうするんだ?まさか、この傷痕をつけた人物を調査しよう、とでも?」
「───まさか。いや、一応迅火にも見てもらいたくてな。………この後、何も起こらないといいんだが………」
……何が俺にも見ておいてほしい、だ。本当なら、そんなくだらない理由のためにここまでするか。
「……だが?」
一瞬の沈黙。
やがて、フレイは言葉を紡いだ。
「……ま、大丈夫そうだからな。じゃ、迅火、帰るか」
茶番はもういい。
お前の算段はこうだろ───
この後、廃墟倉庫街を出るあたりで異形のゴーレムと遭遇、俺の値踏みをする。
そしてあわよくば、俺をある施設への、フレイの復讐計画に勧誘───
それを俺は『予見』。
「そういうことか」
俺は、わざとフレイにも聞こえるような声の大きさで、呟いた。
「どうした?」
フレイは、あっけらかんとした態度で俺に問う。
………もういい。真実を話せ。
「やめにしよう」
「何を?」
「この茶番を、だ」
一陣の風が吹く。
お互い、何も喋らない。
静寂が訪れる。
静寂が支配する。
静寂が場を司る。
「茶番?なんだってそんなこと………おい、どうしたんだよ。居眠りしたり、全く今日の迅火は……」
「フレイ・ドルセラー」
俺は、呼ぶ。
元、友人の名を。
現、同業者の名を。