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恐ろしきもの

平和な日常を謳歌していたはずの茜は、何故か4,5人の女生徒に「ちょっとツラ貸せや」コールを受けて、ドラマなどでよく見かけるシチュエーションに陥っていた。


(「・・・早く帰りたい」)


 ため息をつきながらも、目の前の人物を見た。『合唱部のヒロイン』こと湯木佳奈美(ゆぎかなみ)。−−−確かに高い鼻筋が印象的な美人ではあるが、周りにまとう雰囲気が噂通りきつそうな性格をかもし出していた。


「何なんですか?こんなところに呼び出しなんて」


 必死に文句を言ってやりたい気持ちを抑えつつも、ここで爆発してはいけないと自分をなだめつつ温厚に口を出した。


「何なんですかって、ここに連れてこられたことの一つも見当がつかないの?」


 先ほどまでの明るい調子は微塵も見られない、どこか相手を見下しているかのような高慢ぶった言い方だった。


「・・・」


 できるだけ侮蔑の意味を込めた表情で相手を見たが、佳奈美は身は全然ひるむ様子がない。−−−いや気付いていないだけだろう。そう感じたのは、彼女が茜の目を見て話していなかったからだ。


「…温のことでしょう?だったらご心配なく。私と彼は付き合ってませんから。ただの親戚同士です」


 イライラが押えきれず、少し険のある言い方になってしまう。そんな自分にも腹が立ってしまってどうしても居心地が悪くなってしまった茜は、さっさとその場を離れようとした。


「待ちなさいよ」


 腕をつかまれる。佳奈美ではなかった。先ほどから佳奈美の後ろを着いて回っている、取り巻きの一人のようだ。細い唇が印象的な、長い髪をポニーテールにした女生徒だ。


「一方的に話の腰を折るのは卑怯じゃない?」


「なっ…!」


 茜は腕を振り払うと、もう一度佳奈美の方に体を向けた。


「私が聞きたいのはそんなことじゃないのに」


「え?」


「私が聞きたいのは金曜日のこと」


 金曜日…その言葉とともに、脳をフル稼働させて考える。そう、その日は確か茜が拉致されて『アヴァロン』に閉じ込められた日だ。


「金曜日…?」


 考えても一向に答えが出ない。少なくとも彼女たちにこうして言い寄られるようなことをした覚えがなかった。


「夜遅くに清野のあたりを、海棠君とえらく親密な感じで歩いていたそうじゃない」


「!」


 それを聞いて思い出した。あのビルで気を失った後、温は濡鼠になった茜を背負って夜の街中を歩いていたのだ。よく考えれば目立つことこの上ない。


「夜の11時かそこらに、どうして付き合ってもいない男女二人がそんな格好で歩いていたのかしらね」


「…そんなこと、先輩に関係あるんですか?」


 半ばヤケになった茜は、そうまくしたてた。佳奈美は肩にかかっていた髪を振り払うと、つやつやとした唇をゆがませた。


「あら?あなたは物分りがいい方だと思っていたのだけれど?」


 くすくすくすくす。周りから人を不快にさせるような、貶されたような


(「だめ、もう限界」)


「−−−−−温に気があるんだったら、直接言えばいいじゃない」


「え?」


「温に直接好きなら好きって言えばいいでしょうが。何よ、こんな風に皆で寄ってたかって。みっともない!!」


 そのとたん周りにいる女子たちの表情が180度一変した。


「みっともない…?そっちの方こそ可愛くて男にちやほやされてるからいい気になってるだけなんじゃないの!」


「私にそんな論題振ってくるよりも、温に直接言えばいいじゃない!何よ!告白する勇気もないの?金魚のフンなんか引き連れて!」


 それと同時に佳奈美の取り巻きが茜につかみかかってきた。それを交わそうとするも、いかんせん圧倒的な人数の差から、押さえ込まれてしまう。


「ちょっと!離せ!!」


 カバンを取り上げられ、中身をばらばらと目の前で落とされた。教科書や筆箱、電子辞書が音を立てて落ちてゆく。それと同時に手提げカバンもひっくり返された。


「何これ」


 手提げカバンに入れていたノートPCだった。頑丈なつくりであろうそれはかなりの高さから落下したにもかかわらず、へこみや瑕は見当たらなかった。


「パソコンじゃん」


「なんでこんなもの学校に?」


「さあ?」


「でも、とりあえず高そうだよね」


 女生徒の間の手から手をわたって、PCがーーSIKEが茜から離れてゆく。


「返せ!」


 最終的にPCは佳奈美のもとに手渡された。それと同時だった。


 聞きなれない電子音と共に、大音量の音がPCから鳴り響いた。


 それはもはや音というよりも『電波』というのに近くて、小学生が防災のために身に着けている警笛や変質者撃退用のアラームの耳障りな音に似ていた。


 その大音量に驚いてか、PCを持っていた佳奈美の腕はひっくり返り、PCはまた地面にたたきつけられた。


「ちょっと!今のは何なのよ!」


 そんな彼女の言葉も無視をして、PCに駆け寄った茜はディスプレイを覗き込んだ。どうやら異常はないらしく、いつものように『Ψ』のロゴマークが画面上をくるくると回っているのみだった。


 音の方はというと、茜がディスプレイを覗き込んで数十秒で止んだ。どうやら”彼女”が助け舟を出してくれたらしい。


 しかしその代わりに、


「何だ今の音は」


「こっちから聞こえたぞ」


「不審者でも出たのか」


 突然聞こえた爆音に誘われるようにして、人の集まりがぞろぞろとこちらに向かってやってくる。


 茜はこれ幸いと、荷物の中身をかき集めると、今だ呆然と立ち尽くしている佳奈美を尻目に、その場を去ろうとした。


「あ…」


 人だかりから一歩はなれるようにして、こちらに歩み寄ってくる温の姿があった。


 温は茜の姿を認めると、そのまま横にいる佳奈美に視線をずらし、こう言った


「原口先輩が呼んでましたよ」


 茜でもわかるような、静かな、怒りを極端に押さえ込んだような声だった。その並々ならない気迫を彼女も感じていたのだろう、一歩も動けないようで、茜はその場を離れることができた。



何だか、どろどろとしたものが書きづらいことこの上なく(笑)

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