裏切り
アヴァロン最上階、中央制御室
「…何故だ・・・、何故お前が」
茜が搬入用エレベーターへ飛び込んだ後、一発の銃声がその場の時を止めた。
柴崎は流れる冷や汗を背中で感じながら、背後に目線を送る。喜田川や橿原も同じく驚きを隠しきれないようだった。目の前の壁には一発の銃痕。非常灯の明かりだけが灯る部屋の中で、空気が一瞬凍りついた。
「お…小野坂、何故だ」
銃声の発せられた方を見やると、そこには先ほどまで茜に銃を向けていた小野坂が柴崎らに銃口をむけていたのである。
「…わかりませんか?喜田川さんあたりはもう気付いていると思っていたのになぁ」
いつものような軽い口調で話す小野坂は、銃身を下ろさず、会話を続けた
「…誰かに雇われていたのか」
「ええ。まぁ、どこの組織なのかはもう見当がついているでしょうが。…おっと、橿原、この状況でどちらが不利なのかわかっているだろう?」
隙をついて、逆転の機会をうかがっていた橿原の頭部に銃口が向けられた。
「助かったよ、橿原。お前が暴走してくれたおかげで『仕事』が随分やりやすくなった」
「っ…」
「何故だ…、5年以上も一緒にやってきたというのに、どうして裏切ったりしたんだ」
喜田川は搾り出すように声を出した。
「裏切り…?逆ですよ。俺は『組織』からこの柴崎コンサルティングへ潜入するように命令を受けたんです」
「何だと!!」
「これが、人を使いまくる上司でね、それを考えれば喜田川さんは理想的な上司だったなぁ」
「貴様!」
その時、廊下をひた走る音と共に、怒声が聞こえた。
「警察だ!全員武器を捨てて手を頭の後ろに当てろ!!」
飛び込んできたのは、スーツ姿の集団だった。3,4人が固まって拳銃をこちらに向けている。
「やっと決定打がおいでなすった」
そう言いながら小野坂はゆっくりと拳銃を床に置き腕を手の後ろで組んだ。状況を飲み込めていない柴崎・喜田川・橿原の三人は新たな侵入者にただ目を丸くするばかりである。
そのうち、男たちの中からきちっとしたスーツに身を包んだ中年の男性が柴崎の前まで歩いてきた。
「柴崎渉さんですね」
柴崎が黙ったままで居るのを肯定と受け取ったのか、男性は懐から細長く折りたたまれた紙を彼に突きつけた。
「逮捕状です。罪状は…言う必要はないでしょう」
「何故だ…お前ら警察にも十分尽くしてきたじゃないか!」
「お話は署のほうで。連行しろ」
柴崎は両の腕をつかんだ刑事に罵声を浴びせながら、中央情報制御室を出て行った。
「似口さん」
男は連行されてゆく柴崎の後姿を見ながら、部下の方へと注意を向けた。
「何だ」
「本当によろしいんですか?あの男だけ連行はおろか、任意同行を求めないなんて。明らかに銃刀法違反ですよ!!」
そう言って部下の男が指し示したのは、戦闘服を着て銃をホルスターにしまっている小野坂の姿だった。
「彼はいい。『上』からのお達しだ。それにあの男が関っているとなれば、私はこれ以上関りあいたくないしね」
「?」
独り言のように言葉を紡ぐ似口に部下の男は釈然としないものを感じながらも、上司に逆らうことは出来なかった。
久しぶりの更新です。
これでアヴァロン編はひと段落。SIKEのキャラクターで短編など書けたらなぁとおもっています。