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邂逅

「…ちょっと!『第三者』からのハッキングは、管理者権限を持ったことで完全にシャットアウトしたんじゃなかったの!?」


『ーーーイエス』


「じゃあ、どうしてこのエレベーターは『上』に向かってるわけ!?」


『ーーー原因不明』


 茜は座り込んだ姿勢のまま深いため息をついた。SIKEはこのエレベータの緊急作動の指示だけを出して、すぐにArthur(アーサー)を内側から壊したのだ。それはすなわち原因を探る術を持ち合わせていないことを意味していた。


「つまりは振り出し、ってわけね」


 SIKEからの返答は無かった。


 茜はカバンの中から自分の携帯電話を取り出すと、とりあえず110番をしてみたが、つながらなかった。画面を見ると、アンテナが1本も立っていない。あきらめて携帯をたたむ。


(「外にでれば、つながるかもしれない」)


 そうこうしているうちに、茜を乗せたエレベーターは、最上階ー屋上へ到達した。自動的にドアが開く。そのとき目を射抜くような鋭い光が差し込んだ。


(「何…まぶし…」)


 茜は目を右手で押えると、前を見た。学校の校庭ほども有る広さの屋上の真ん中には、ヘリコプターが止まっていた。おそらくこの光はそのライトの明かりなのだろう。


「こんばんは、糸伊原茜さん」


 少し低いが、暗さを感じさせない声だった。その声で目が覚めたように我に返った茜は、跳ねるように首を上に向けた。


 天使のような微笑がそこにはあった。


(「誰…?」)


 見慣れない青年がそこに立っていた。


 自分より頭一つほど背は高く、年のころはおそらく自分と同じぐらいに見えた。通った鼻梁に三日月型の薄い唇、オリーブ色の丸い目と同じ色の髪が風で揺れていた。整った顔立ちをしており、まさしく「好青年」といったタイプである。


「っっ…!」


 しばらく呆然として見入っていた茜は、半身をずらすと身構えた。とっさにあたりを見回すが、まさしく背水の陣といったところで、屋上スペースの向こうには地上120mの闇が広がるばかり。


「大丈夫だよ」


「え…」


「僕は君を助けに来たんだ」


 さぁ、と青年は茜に一歩近づいてきた。それを避けるかのように後ずさりする。しかし青年の方が早かった。あっという間に距離をつめると、茜の腕をつかみ引き寄せた。


「はっ…離して!」


 体を振るうが、思うように力が入らない。鋭く睨みつけると、相手は心外だといわんばかりに肩をすくめた。


「いいの?このままここにいたらやっかいなことになるよ?」


「−−−やっかいなこと?」


 青年の言葉に茜は脅えた声を上げた。それを隙と見たのか、体ごと引き寄せると、軽々と茜の体を抱き上げて、ヘリコプターの後部座席に放り込んだ。


「なっ…!何するの…!」


 青年は涼しげな顔で茜の隣に座ると、タクシーの運転手に話しかけるような気軽さで運転席に「出してくれ」と声をかけた。そのとたん、がくん、と地面が揺れる。一度飛行機には乗ったことが有るがそれとはまた違った浮遊感。ヘリのプロペラの回転音が耳の鼓膜に直接響く。


 窓から外を見ると、そこはネオンの明かりまぶしい東京の街が見下ろせた。息の調子を整えた後、隣に座っている青年に問うた。


「…あなた、だれ?さっきの奴らの仲間?」


「ーーーまさか?」


 青年はゆったりとした所作で茜の方を向いた。顔立ちは17、8歳といったところだがスーツを着こなしているせいだろう、雰囲気が大人びて見えた。


「じゃあ、何なの!?私をどこに連れて行くつもり!!サイのことが目当てなんでしょう!?」


『アカネ、血圧が10上がっている』


「うるさい!!」


「サイ…?ああ、そのAIのことだね。生憎僕は『そいつ』に全くといっていいほど興味は無い」


「え?」


「僕が興味が有るのは、君だよ、糸伊原茜さん」


 そういうと、また出会ったときのような微笑を浮かべて、茜の瞳をじっと見つめた。見るものすべての時間を停めてしまうほど魅力的な、笑みだった。


「なっ、何を言ってるの!馬鹿じゃない!?」


 慌てて目をそらした茜は、手元にあるSIKEを更に強く握り締めた。青年はため息を一つつくと、足元に放り投げたままになっているカバンを拾い上げた。学制カバンのポケットからくしゃくしゃになった紙が外にこぼれ落ちた。それを手にして広げた彼は思わず声に上げて読み上げた。


「2−E 9番 糸伊原茜 数学2 ……37点…?」


 それは今日のHRで帰ってきた数学のテストの答案用紙だった。あまりにもひどい点数だったので、見ていられなくなって手持ち無沙汰にカバンの中に突っ込んだのだ。


「!!!!何勝手に読んでんのよ!!」


 茜は目を白黒させて、青年からテストの答案をひったくった。彼は人の悪そうな笑みを浮かべて、くすくすと笑った。茜はついでにカバンを手元に置くと、中にもう一度答案用紙をしまいこんだ。


「すごいね、どうやったらそんな点数がとれるんだい?」


「…それは『イヤミ』として受け取ってもいいんでしょうね?」


「イヤミ?」


 無邪気な子供のように首をかしげる青年を見て、茜は腹のそこから盛大にため息をついた。


「このヘリコプターってどこに向かってるの?」


 もはや抵抗する気力も薄れている茜は、投げやりに問いかけた。


「君の家の近くだよ」


「か…帰れるの?」


「言っただろう、助けに来たって」


 そういいながら、体ごと茜のほうへと寄ってきた。目を丸くさせた茜は窓際に身を引く。青年は面白がって彼女の顔を覗き込んだ。


「ずっと、ずっと、会いたかった」


(「なっ…」)


 まるで昔の古いメロドラマでも見ているかのような気分だった。言われ慣れていない言葉の連続に茜の心拍数は上がる一方である。


「…今どきそんなこと言う奴始めてみたわ」


「?だって君は僕の『運命』なんだから」


 青年は悪びれる様子も無く飄々と言ってみせる。


(「…本気だったらマジでたちが悪いわね」)


 そう思いつつも茜は聞かずにはいられなかった。


「…運命?」


「そう、運命。この世界が何万という道に枝分かれしていようとも、僕と君が出会うことは『運命』なんだ」


 青年の檜皮色ひわだいろの瞳が、烏羽色からすばいろをしている茜の瞳をとらえた。本気だとは思えない。しかし、冗談だとも思えなかった。これまで茜に言い寄ってきた男性というのは皆「打算的」だった、茜に何かしらの「価値」を見出して近づいてくるのだ。それを一概に悪いとは言えない。茜だって知らず知らずのうちに人を「利用」していることが多々有るのだから。人間の関係性というのは「利用し」「利用される」という所にある。何の見返りも求めない関係を築くことはとても難しい。たとえ家族であったとしても。しかし、彼の言葉には茜に対する「見返り」が見出せなかった。



 謎の美青年登場!(笑)そろそろ恋愛風味が混じり始めます(意味不明)



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