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カリヴァーンの鞘

カリヴァーンとはアーサー王伝説で名高い、エクスカリバーの別名です。ちょっとした小ネタです(ネタになっているかどうか心配)

 茜はひょっこりと角から頭を出した。先ほど出てきた穴から灯りがもれていた。おそらく懐中電灯の灯りだろう。それから逆方向へとそろそろと這ってゆく。そしてSIKE(サイキ)の指示通りに曲がりくねったダストの中を四つんばいのまま進んでゆく。膝頭がひりひりとして痛かったが、ここで立ち止まってもいられない。


 かまわず、前へ、前へ。


 そして指示のあった格子窓につくと、渾身の力をこめて格子を蹴った。狭いせいか余力が中々つかなかったが、何度かやっているうちにネジがゆるんだのか隙間が空き、やがてがつっという音と共に格子窓がふっとんだ。額にかいた汗を手でぬぐうと、茜は中へと入り込む。


 そこには大小さまざまな太さのコードとともに、四角形の茜の身長と同じくらいの大きな箱が設置されていた。赤・青・黄などのランプがチカチカち絶えず光っている。それとともにぶぉぉぉぉんという低いうねりのような音が聞こえた。気がつくと吐く息が白いのがわかり、おもわず腕を組みSIKEを抱きしめた。


「ーーーここは?」


『−−中央制御室ーー超高層ビル『アヴァロン』が有している、スーパーコンピューター・『Arthurアーサー』です』


「ーーーアーサー?」


『255TFLOPS(テラフロップス)もの容量を有し、この『アヴァロン』の情報制御のすべてを一手に担っています』


 そう聞くと、その四角い箱は暗い部屋の中でただひとつの「異物」のように見えた。


「これからどうするの?」


『管理者権限を用いてArthurアーサーのシステム内に侵入・そして内側から完全に破壊します』


「ええっ!!でも今はサイがここのシステムを操ってるんでしょう?」


『私は今単に、ここのシステムの『手綱』を握っているに過ぎません。−時に馬は騎手をもあざむくものです』


(「スパコンを馬扱い…」)


 しかしどうであれ、今はSIKEがこのビルの情報制御を握っているのだ。ここで手放してしまうのはかえって危険だと思われた。


『アカネ、非常通路に逃げ込んだ時のトラブルを思い出してください』


「え?」


 確かあの時、暗証コードが書き換えられたとSIKEはいっていた。


「でも、サイがここのネットワークをハッキングする前にあらかじめ書き換えられていたとか…」


『いいえ。私は言いました『三分以内に』と。それはつまり誰かが私たちの状況をどこかで”見て”いるということに他ならない』


 システムの一時復旧に伴う外部からのハッキング。これは何を意味するのか。


『ー私の予想が正しければ、例のハッキングはこのArthur(アーサー)といういわば「扉」を通じて内部へと侵入したということになります。こうしている間にもどこからか私たちを監視し隙あらば、邪魔しようとしている。−それだけは許せない』


 その声の中には怒りがこもっているように見えた。茜はArthurの前へと移動すると、床に座り込んだ。そしてPCを開く。いつもの「Ψ《プサイ》」のロゴマークが静止していた。


「それってつまりーさっきの柴崎とかいう人たちとは別の誰かが私たちの邪魔をしているってこと…?」


『イエス』


「でもさ、このスパコンを破壊してそれで私たちはどうなるわけ?向こうは武器を持っているようだし」


『ー私が逃亡のための手立てを考えず、ただ暴走している、そう言うつもりですか?』


「だって、これを壊してしまったら今度こそ…」


 戦いという場面においては、こちらはまったくといっていい程無力だ。


 銃を突きつけられた時の背筋をかけぬける”ひやり”としたとした感触。今でも鳥肌が立った。目の前が真っ白になるようなあの感覚ーあんな思いは1回だけで十分だ。


『ーアカネ?』


 今度はどうやら心配させてしまったらしい。茜はつとめて元気な声をだした。


「大丈夫、何でもない。それよりここからどうやって外に?」


『部屋の奥を見てください』


 しかし辺りは暗くて部屋の奥どころか1m先すらも危うかった。そこで茜は立ち上がるとPCを片手に歩き出すと、すると茜と同じ身長ほどの小さめの扉が見えた。


『物品搬入用のエレベーターです。屋上と1階へ直通しています』


「!?それってつまり…」


 当初の計画で使用する予定だった非常階段をつかわずとも下へと下ることが可能だということだった。


『そしてもうひとつ、そのエレベーターは完全な外部からの情報制御で動くということです』


「つまり、また『介入』があるーそう言いたいのね」


 SIKEはだまったまま、ウィィィンと音を鳴らし始めた。そのとたんものすごい勢いで数字がディスプレイ上に現れてはきえてゆく。どうやら人間には想像もつかない程の速さで演算しているのだろう。やがてそれがすべてやんだ。


『アカネ。適当なコネクタを一つ私につないでください』


「コネクタって…?」


『ここはアヴァロンの心臓部です。つまり各情報端末にアクセスするためのコネクタのストックは常駐してあるはず。それを見つけて私とアーサーとを繋いで下さい』


 そう言い放つと、また計算を始めた。どこか高飛車なサイキの物言いに茜は少し眉をひそめたが、彼女の言うことも最もだと思い、あたりを探ってみた。


 コネクタは案外簡単に見つかった。ダンボールに小分けして置いてあったのだ。そのうち何種類かを抱え持ってSIKEの側へと屈みこんだ。そして合う型のものを慎重に選び、はめようとする。しかし中々合うものが見つからない。


『FXー』


 困った様子の茜を見兼ねてか、SIKEは助言した。


『FXシリーズのコネクタであれば、どれでもつながります』


「それを先に言ってよ!」


『常識です』


「なっ…!!」


 やはりいちいち物言いが癇に障るAIだ、と茜は鼻息荒くしながら自分を押さえつけた。それと共に出るため息。


(「空兄もなんでこんな性格にしたのよ!」)


 小言はSIKEの生みの親である空にまで及んだ。それとともにため息をつく。ダンボールをよぅく眺め「FX」と書かれたダンボールをようやく見つけ中身を取り出す。それをSIKEのPCへと繋ぐと今度はそろそろとArthurへと近づいた。繋ぐプラグは無数に有り、どこにつなげばいいのか茜にわかるはずもない。


「ーサイ、これってどこに繋ぐの?」


『どこでも結構です』


 淡々とした声音のまま告げられ、茜は目の前にあった空きプラグにコネクタを突っ込んだ。すると、地震が起きたのかと錯覚するほど地面が揺れた。いや、地面が揺れているのではない。スーパーコンピューター・「Arthur」が揺れているのだ。


「なっ…何!?」


『『アヴァロン』内部ネットワークへの接続を行ったためのトラブルです。大丈夫、すぐに収まります』


 その言葉の通りに揺れはすぐに収まった。そのすぐ後に、PCのディスプレイ上にリンゴの形をしたロゴと共に認証画面が映し出されていた。


                                     「−−−管理者画面ログインーーー」


 その下にはお約束のように「25文字以内のパスワードを入力してください」の文字。


『−暗号解読アルゴリズムを構築中ーーーー』


 暗く、身を切るような寒さの中、茜の最後の戦いが始まった。


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