表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世界消滅までの十日間

作者: ぼたもち

僕がいる場所。の反対側辺り。

地球の裏側で。

世界が消滅し始めた。


世界は光に呑み込まれる。


最初は純白の光源が、日本のほぼ対蹠地(たいしょち)となるアルゼンチン沖に出現したことから始まったらしい。


何の前触れもなく顕現したそれは、以前からそこにあったと誰もが思うような溶け込みようだったそうだ。

この情報も君の世界で言うSNSで書かれていた意見なので、信憑性は低いだろう。


その状況は写真や動画で撮られ、すぐに世界中に広まった。

しかし、元よりその画像や動画は、水上に浮かぶ正体不明の光源という、にわかには信じ難いものだ。それに画像や動画を加工して作ろうとすれば作れる現象だった。

ただ白光しているだけに見えて、危機感を煽る景色でもなかったことも要因の一つだろう。


その上、タイミングが悪かったと言わざるを得ない。


その現象が起きた日は「エイプリルフール」だった。


その日、巷にはいつもよりはるかに多くの嘘が溢れていた。現実にも電子上にも。


ある大手電子企業が「今年の各国のエイプリルフールネタ」と銘打った記事を掲載したことが事態に拍車をかけた。

そこから数多のSNSで、冗談であることを前提として、水上の光源は爆発的に拡散された。


状況が急変したのは一日経ってのことだった。


その光源が徐々に拡大していることが判明した。


何が起きているのか全くわからない状況だった。誰にもわからなかった。


エイプリルフールに出回った画像映像はどうやら本当に現地で起こっていることらしいと、日本人が気づくのは、まだ後だ。


そこから一日経つと、海外の政府が動き出した。もうこの時点で光源に近づいた者が消えるという現象は起きていたらしい。


世界は光に呑み込まれ始めた。


呑み込まれたところには文字通り何もないそうだ。

そこに足を踏み入れれば呑み込まれる。

ただそれだけのことらしい。


世界にとって前例のないことだった。

しかし、前例がないことが起きるのは当たり前のことだ。


自国の政府はこの事態を楽観視していたようだ。こうして記録を残している当の僕だってそうだった。


世界が今、光に呑み込まれつつあり、詰まるところ消滅し始めているなんて、信じられなかった。


世間もそうだった。

世界が消滅し始めたって、人々が気になるのは、まずどこに逃げるか、食糧はどうするか、消滅の進行速度はどれくらいか、消滅の仕方に法則性はあるのか、そもそも消滅とはどのような現象なのか、などではなく今日の夕飯の献立だったのだ。


また一日過ぎて、光源の拡大速度が指数関数並みに速くなっているそうだ。

これもSNSの情報だ。デマかもしれない。


自国の政府も、事態を重く見始めたようで、テレビはどれも拡がりつつある光を生中継している。

しかし、いくつかの番組のヘリ中継は急にぷつっと途切れた。

光に呑み込まれたのだと推測される。


国民には待機が推奨されている。

しかし、そんな奨めを聞くものはほとんどいなかった。


日常は日常の姿を変えようとしなかった。


登校出勤の電車や新幹線は止まらず、いつも通りだ。

四月一日は新生活を始める人が多く、その人ら皆、新しい生活に馴れることに労力を費やしていた。


このまま行けば日本が呑み込まれる日も遠くない。


こんな記録を残して何になるかはわからない。誰にもわからない。

いずれこの記録も光に呑み込まれるだろう。


しかし、前例のないことが起きるのが、この世界だ。


こうして記録を残しておけば、誰かが見てくれるかもしれない。


光に呑み込まれたって何も起きないのかもしれない。


しかし、この世界は今、たしかに手のつけられないパニック状態にあるのだ。錯綜する情報は平穏を巻き込んで手のつけられないハリケーンとなっている。


どうにもこうにも収拾のつかない状況だ。だから、日常を無理にでも続けようとする。

まるで、こうしていればずっと変わらない日常が続くのだと信じ込んでいるように。祈るように。


このデータをコピーして、できるだけ多くの場所にこの記録を残しておく。


君がこれを読んでいる世界では、ここに記した厳然たる事実がジョークであることを願ってやまない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ