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地下二階 調律と供給 2

 此処に来る、事前に、計画は、決まっていた。


 クラーケンの遥か天空に輝く、三つの太陽を破壊する事だった。


 三つの太陽は、青と紫と緑に輝いている。

 この三つの太陽は、クラーケンに供給される電力の動力炉だった。

 この動力炉を破壊出来れば、予備電力が動かされるまでにタイムラグが生じる。

 その間に、ボーラが自身の能力によって情報ネットワークの中に入って、何処かに隠れているプレイグを叩く事が決まっていた。

 元々は、三つの太陽を破壊する役目は、最初は、空を飛べるグリーン・ドレスの役目だったのだが……。

「防御網を破れるのは俺だけだろうな。ドレスじゃ駄目だ。雑過ぎる」

 そう言って、暴君が引き受けたのだった。


「グリーン・ドレス、お前は雑兵を蹴散らせばいい。好きなように踏み躙ればいい」

 フロイラインの方へと向かった、グリーン・ドレスに向かって、咎める処か、むしろ、これこそが、至極合理的な手段なのだ、と、ウォーター・ハウスは述べた。


 ボーラは心の中で。……贔屓(ひいき)しているのかなあ? と、邪な事を考えていた。

 ボーラは既に情報を入手していた。

 彼の能力は、電脳空間に入り込む事が可能なのだ。

 ネットワークというものは、言語の媒体なのだ。

 ボーラは、言語の海に潜り込む事が出来る。


「……でも、情報が正しければ、プレイグが網目を張っているから。どうしたものかなあ……」

 三つの太陽は、遥か高い高度六万メートルの天空に存在する。

 グリーン・ドレスが行くのが懸命なのだが。


「俺が行くさ。俺が壊しに行く」

 三つの太陽を壊せば、プレイグの電脳空間の防御をすり抜ける事が可能だと、ボーラは言った。ウォーター・ハウスは、彼の言葉に従うつもりでいた。


「どうやって、貴方は空高くに行かれます?」

「水兵隊の乗っていた動物達を操る」

 ウォーター・ハウスは、難なく言った。



 グリーン・ドレスは、フロイラインとかいう女に怒りを抱いていた。


 どうにも、生理的に受け付けない何かを感じ取っていた。

 自分と似た部分が在るからなのだろうか? ……いや、むしろ、決定的に違い、何かが在るからなのかもしれない。そして、それはきっと、受け入れ難いものなのだろう。


 ……水使いか。

 グリーン・ドレスは考える。

 それは、とても強い欲望へと形を変えていく。


 全力で戦ってみたい。

 自分の限界を探ってみたい。

 それはきっと、ウォーター・ハウスの持っている何かに近付きたいからなのだろうか。彼は美しく、そしておぞましかった。


 グリーン・ドレスは覚えている。

 ウォーター・ハウスの殺戮の映像を。


 それは完成された世界だった。

 そこに、全ての闇の幻を見たのだと思う。

 ウォーター・ハウスに出会ってから、彼女の人生は転機を迎えた。……いや、転機なんてものなんかじゃない。世界の全てがひっくり返ってしまったのだと思う。自分は普通の人間なのだと、ずっと思っていた。普通に生きて、普通に恋をして、普通に就職して、結婚して、子供を産んで、子孫を残して死んでいく……。

 そういったものと、完全にズレた可能性として、自分はこの世界に生まれ落ちたのだと気付かされた。


 あの闇の美しさは何なのだろうか。

 それは、真っ赤な花に見えた。

 あるいは、鮮やかな夕焼けだ。

 ウォーター・ハウスの狂気は、自分にも感染した。そして、それは位相を変えて、自分の中の狂気として完成した。きっとそれは、祝福された事なのだろうと思う。


 美は背徳であり、破滅なのだと思う。

 そして、それは善悪などというものを超えてしまうのだろう。

 力というものは、そもそも、善悪というものを超え出る存在なのだから。

 不滅の闇が生まれては、消えていくかのような感覚だった。

 彼が掲げるのは、人間の解放だ。そして、その先に在るものは、暴力に対する絶対的な肯定なのではないのだろうか……。人は暴力を恐れるから、秩序という牢獄を作ったのだから。


 暴力。

 それは、単純な論理であり、倫理を超えるものだった。

 彼女は、暴力そのものを神聖視していたし、あるいは暴力それ自体は正義でさえあるのではないのかとさえ考えている。

 殺意、敵意、人の死。戦争、災害、凌辱。

 それは、とてつもなく原始的なものであり、生命の息吹そのものなのではないのか。

 他人を踏み躙るという事は、生きる喜びそのものなのだ。

 それが、暴力をその身に纏うという事なのだから。


 グリーン・ドレスは感じる。

 ウォーター・ハウスが好む、あらゆる芸術や文化よりも、暴力によって破壊されていくそれらのものや、それらを創り出そうとする人々の死こそが、何にも勝る芸術なのではないのか、と。



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