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初対面

穴埋め。

 久世希理華一六歳。高二になった今年、北女高等部の生徒会長となった。就任直後の最初の仕事は市内の五つの高校の生徒会の親睦会、通称五校会議の議長校を務めることだった。それは彼女の人生にとっての最大のイベントでもあった。彼女が出迎える他校の生徒会長の一人が彼女の思い人・瀬尾矩総なのだ。しかし二人はまだ直接に会ったことがない。これまでにも何度かチャンスあったのだが。


 最初の接近は生後間もなく。姉の麻理奈に抱かれて訪問。矩総の方はまだ母の胎内の中で、当然二人とも記憶にはない。

 それから六年して小学校に入学。そこで西条総美と総志の姉弟と知り合う。矩総の名前を最初に聞いたのはどちらからだったか。

 西条総志は運動も勉強もずば抜けて出来る、しかも顔立ちも整った言うことなしの少年で、クラスの女子からの人気も高かったが、希理華はほとんど興味を持たなかった。彼女はむしろ姉の総美の方と親密になった。総美の相棒である日野沙弥加とは姉の人脈を介してすでに顔見知りだった。

 生まれでは半年違い、学齢では一つ下になる矩総は、しかし小学校へは入らなかった。その代わりに御堂真冬の息子春真と親しくなった。真冬は姉のスポンサー(より正確には姉の劇団の拠点である劇場の出資人である)で、

「姉妹みたいな関係」

 だと言う。この言葉の正確な意味を知ったのはだいぶ後の事である。

 さらに翌年には神林希代乃の息子希総が入学してくる。

「大きくなったわねえ」

 と希代乃は彼女を愛でた。

「貴女、自分の名前を漢字で書ける?」

「はい。希望の希、理想の理、華麗の華で希理華です」

 と答えると、

「それは外向きの答えね」

 と微笑んだ。

「希理華の希の字は、私の一字を取ったものよ。真ん中の理の字はお姉さんから。そして最後の一文字は永瀬矩華さん。この名前は聞いたことない?」

「有ります。母の、恩人だって」

 その内容についてはまだ詳しく聞かされていない。

「矩華さんの息子が矩総君よ」

 と言ってスマホの写真を見せてくれた。子供が三人写っていて、真ん中が希総、右手に男の子。これが矩総だろう。

「左の女の子は矩総君の妹の華理那ちゃんよ」

 三人は部分的に似ている。と言うか希総の顔は目元が華理那と似ていて、高い鼻は母親の希代乃譲りと分かる。そして口元から顎のラインは矩総のそれだ。

「異母兄弟ですか?」

「そうなの」

「希代乃さんは姉とどういう関係なんですか?」

「それもいずれ分かるわ」

 希代乃は肝心なところはぼかしてしまった。

 希総と同じ年に入学した女の子が二人。一人は野田刹那。姉の仕事仲間である野田可奈多の娘で、父親の姉は姉の大親友で競泳選手の野田なゆたである。入学式の日の初めて知ったのだが、あの日野沙弥加の従姉妹でもあるらしい。

「沙弥加ちゃんのお母さんが私の姉なの」

 と可奈多。言われてみれば可奈多と沙弥加は面差しが似ている。娘の刹那は父方の伯母であるなゆたの容貌を受け継いでいる様だ。

 そしてもう一人が滝川万里華。

 校内一の美少女と言われた希理華の人気を脅かすと言われた、もちろん本人は別になんとも思っていなかったのだが、名前だけが先に聞こえてきた。初めて見かけたのはあの春真と一緒にいるところ。

「春真君も隅に置けないわね」

 と揶揄うと、

「違うよ。万里華は親戚なんだ」

 と向きになって否定してくる。

「万里華のお母さんは僕のお母さんの叔母にあたる人で」

「じゃああの子は真冬さんの従姉妹なの?」

「そう、それ」

 随分と年の離れた従姉妹だと思ったが、自分と姉の年齢差を考えれば言えた義理ではない。

「万里華のお母さんは千里さんて言って、お父さんの秘書なんだ」

「春真君のお父さんって生きてるの?」

 春真はしまったという顔をしたが、

「内緒だよ」

 と言ってその名を明かした。

「じゃあ、神林の希総君なんかも春真君の兄弟なんだね」

「うん。万里華も本当は妹なんだ」

「え?」

 そして五年生の時、矩総の妹華理那が入学してきた。式には華理那の父瀬尾総一郎氏が来賓として登壇した。学生会長であった希理華は声を掛けられた。

「やあ希理華ちゃん。大きくなったねえ」

 とポンと頭を叩かれて、

「うちの娘たちを宜しく」

 と言われた。

 式の後、娘を伴って矩華が挨拶に来た。

「なんだか初めての気がしません」

 と言うと、

「会うのは二度目よ。と言っても貴女はまだ生まれてまなかったけど」

 と真顔で受ける矩華。

「瀬尾に何か声を掛けられていたわね」

「ええ、娘たちを宜しくって」

「今年は娘が三人揃って入学だからね」

「春真君の妹さんも今年でしたね。他にもいるんですか?」

「貴女も良く知っている西条家の姉弟の妹。と言っても母親は違うんだけど、恭子ちゃん」

「大変ですね」

 この頃には瀬尾総一郎と姉の関係もうすうす感づいていた。

「私としては助かっている面もあるのよ。子育てなんかではお互いに助け合えるから」

 異母兄弟が特にいがみ合うこともなく仲良くしている様は容易に想像できる。

「矩総君は学校へは?」

「あの子は出来すぎるので、下手に学校へ行かせても学級崩壊を引き起こす可能性が大きくてね」

 と困ったような、自慢気な複雑な反応を見せた。

 希理華は男子からのアプローチを避ける意味で中高一貫の女子校に進んだ。中等部の三年の時には彼女を追って北女に来た野田刹那を助っ人にして全国大会への進出を果たした。彼女が属していたのは競技カルタ部である。八歳の頃から父に剣道を仕込まれていたが、強くなりすぎて同年代との試合を禁じられていた。だから彼女は自分がどれくらい強いのか理解していなかった。

 そのまま高等部へと進んだが、

「久しぶりね」

 小学校時代の同級生、日野沙弥加から電話が入った。

「今日入学式だったんでしょ」

「ええ。大部分が内部進学だから、さほど変わり映えもしないけど」

 全六クラス二百四十名のうち約四十名が外部からの新規入学である。言い換えれば一クラス分は様々な理由で他校へ進学することになる。

「うちも今日だったんだけど」

「総代はやっぱり西条君?」

「まあ一応は」

 と歯切れが悪い。

「彼は入試成績は一番だけど、多分定期テストでは一番は取れないわね」

「どう良い事?」

「同級生に弟の瀬尾君がいるのよ」

「え?」

 矩総は一級下では無かったか。

「飛び級で今年から高校生になったのよ」

「聞いてないわ」

 部外者の希理華に知らせる義務など誰にもないのだが、

「聞いていたら、こっちに来てた?」

「・・・外部受験で入りなおすのは私の学力では難しいかも」

 南高校は県内でもレベルの高い進学校である。

「さーやも良く入れたわねえ」

「ふぅにしごかれたからねえ」

「総志君じゃなくて?」

「西条君とじゃ、勉強にならないわ。緊張して」

「いまだに名字で呼んでるの?」

「別に付き合っている訳でもないし」

 正式に申し込まれるのはもう少し先の話である。

「なかなか進展しないわねえ」

「まだ会えてすらいない貴女に言われたくないわね」


 高等部に進んで、希理華は初めて剣道部に入った。父に止められていた、と言う以前に中等部には剣道部そのものが無かったのだが。

 北女は薙刀部が全国クラスの強豪で、剣道部はその同乗の隅に間借りしている状態だった。部員は三年生一人と二年生が三人。

「これで五人になって団体戦にも出られるわ」

 と部長の八波由羅は喜んだ。

 希理華は初めて同年代の女子と試合をしたが、二年生では全く相手にならない。

「久世さん、段位は?」

「持っていません。父が受けさせてくれなかったので」

「じゃあ剣道はお父さんに?」

「ええ」

「お父さんの腕前は?」

「確か五段だったかと」

「久世五段。久世陽平五段のお嬢さんだったのね、道理で」

 八波部長は希理華の家を訪問した。

「八波君のお嬢さんか。大きくなったね」

 部長の父は久世陽平の後輩にあたるらしい。

「私が出た最後の全日本選手権で負けたのが八波君だった」

「試合は僅差だったと聞いていますが」

 由羅は陽平と試合して二対一で負けた。と言っても最後の一本は譲ったような感じであったが。

「これなら娘を任せてもよさそうだ」

 希理華は由羅に連れられて昇段試験を受けに行った。由羅は三段を、希理華は初めてなので初段にチャレンジである。

「多分、私と同等。それ以上の実力はあると思うのだけど」

 二段を受けるには初段を取ってから普通は一年、特に優秀と認められても三カ月は必要である。いきなり初段を取れただけでもかなりの特例なのであるが。

「いま日本剣道界の女王は初段だからねえ」

 全日本を連覇中の無敵の女王・竜ケ崎麗那は高校時代に初段を取ったきり昇段試験を受けていないのだ。

「いつか挑戦したいですね」

 希理華初めての公式戦はインターハイ予選の団体戦。由羅は彼女を大将に据えようとしたが、本人が固辞したので先鋒を任せた。初っ端に希理華が圧勝することでチームに勢いが付き、一気に決勝まで勝ち進んだ。

「やはり布陣を変えるわ」

 相手校の大将は由羅でも勝てるかどうか分からない強敵である。

「私が副将に下がって、久世さんが大将。前の三人で一勝してくれればぎりぎりで勝てる計算だけど」

 だがそう甘い相手ではなかった。二敗一分けで副将の出番となった。

「残り二つただ勝つだけでは足りない。三本差をつけてようやく同点決勝に持ち込める」

 由羅は先に一本を取ったが、二本目を取り切れなかった。大将戦は二対零でないと並べない。

「御免なさいね。一年生に多大な負担をかけてしまって」

 希理華の実力なら、普通に勝つだけなら難しくなかったはずであるが、彼女の剣道は本来後の先を取るもので、自分から攻めるものではない。故に実力者を相手に狙って二本を取るのは至難である。

 案の定、無理な攻めを仕掛けて逆に一本取られてしまった。だがここで希理華は開き直った。

 彼女は下段に構えて相手の攻撃を誘った。そこから返しの一本。

 一対一となって流石に攻めてこない。再び下段から一歩二歩と相手に歩み寄る。耐え切れずに動いた相手に会心の面が決まる。残り時間一本での大逆転勝利となった。

 この誘いの下段、は久世希理華の代名詞となるのだが、結果として、彼女が高校時代に公式戦で一本を取られたのは後にも先にもこの試合だけだった。

 剣道部からのインターハイ出場は個人戦の希理華だけ。と言うことで薙刀部に同伴しての遠征となった。

「練習相手が居なくて困るでしょ」

 と薙刀部の主将が相手を申し出てきた。

「これでも、剣道も二段なのよ」

 と言ったが、全く相手にならなかった。

「どうせなら、薙刀でどうぞ」

 と希理華。

「脛当ては貸してくださいね」

 それでも希理華から一本を取ることは出来なかったという。

 優勝を果たしてくつろいでいると、

「お客様よ。すごく奇麗な人」

 出てみると、

「姉さん」

 水瀬麻理奈である。

「え、お姉さん?」

 側にいた薙刀部員は一様に驚いた。無理もない。この姉妹は実に二十一も離れているのだから。

 希理華が連れていかれたのは高級そうな日本料理店。

「貴女の祝勝会よ」

 上座で出迎えたのは神林希代乃。他には西条親子と日野沙弥加がいる。

「さーやにふうちゃん。西条君も久しぶりね」

 西条総美と日野沙弥加はバレーボール、西条総志はバスケットボールでインターハイに出場していたのだが、

「あなた以外は全員敗退したわ」

 と総美が苦笑いすると、

「御免なさい」

 と思わず謝ってしまう希理華。

「本当は矩華さんと矩総君がいるはずだったんだけど」

 何があったのかは言葉を濁す希代乃。総理の訃報はこの時点ではまだニュースにもなっていない段階だ。

「私たち親子とさーやはその代役」

 本来は希代乃と麻理那のほかは瀬尾家の親子四人が居るはずだったのだ。

「希理華の名前の由来となった三人が勢ぞろいして、お見合いの席を設けるつもりだったのに」

 と姉が笑う。

 希理華の希の字は神林希代乃から。理は姉の麻理奈から。そして華は永瀬(当時はまだ旧姓)矩華からもらったものだ。

 そこから一カ月ほどして、希理華初めての国政選挙があった。ここで最大のニアミスが発生する。投票所の入り口の前に矩総が立っていたのだ。

 二人は一瞬だけ視線を合わせ、どちらからともなく外した。これは二人にとっても珍しいことだ。

 矩総は特に初対面の相手は凝視してしまう癖がある。希理華も相手の目を見ることで相手の心理を探ることを得意としている。それが相手に無用の誤解をさせてしまうこともしばしばであったが。

 矩総は当然希理華を知らない。希理華も矩総と直接会うのは初めてである。二人は一言も言葉を交わさずにすれ違った。

 投票を終えて帰ろうとすると、

「途中まで一緒に行きましょ」

 と声を掛けられた。

「さーや、居たの」

「貴女にしては珍しく呆けていたわね。会ったの?」

「誰と、総志君なら見かけたけど」

「彼はそんなこと言っていなかったわね」

「私が先に気付いて、見つからないように顔を伏せたから」

 総志は背が高いので目立つが、希理華の方は顔を隠せばさほど目立たない。

「声を掛けておけば待っていてくれたでしょうに」

 希理華が中にいると知っていたら、沙弥加が二人を引き留めておいただろう。

「まあいいわ。二人が確実に会えるチャンスがあるわ」

「なに?」

「希理華は生徒会長になるんでしょ」

「多分、そうなると思うわ」

 久世希理華は現在副会長である。北女は一年から副会長を指名して、政権移譲を進めていく慣例だ。中等部から顔ぶれがほとんど変わらないからこそできる事である。たまに高等部からの入学者が立候補して波乱を起こそうとするが、ほとんど成就しない。女子だけの集団と言うのは恐ろしいほど保守的で排他的なのだ。

「だから瀬尾君にも会長になってもらうのよ」

 実際に矩総は生徒会役員に名を連ねているし、それはほぼ既定路線と言ってよい。

「逆に言うと、五校会議までは会うなと言うことね」

「劇的な出会い方としたいと言っていたのは貴女でしょ」

「でも小細工が過ぎる気もするわね」

「面倒くさい娘ねえ」

「そういうさーやだって、まだ下の名前で呼べないの?」


 矩総の出馬については兄の総志の強烈な後押しがあったらしい。その総志の背中を押したのは沙也加であった。

「兄さんが副会長を引き受けてくれるなら」

 と言うことで総志はバスケ部の主将の座を三年生に譲った。矩総の方も新入部員が大量に入ってきた時点でバスケ部から距離を置いていたが、

「会長となれば一つの部活に肩入れしすぎるのも良くないしね」

 そして就任直後の五校会議となる。これは年三回、五つの高校で持ち回りで議長を務める。

「今回は北女だっけ」

 初めは気乗りしない様子の矩総であったが、

「北女の新会長ってすっごい美人だって聞きましたけど」

 と言う役員の一言で、

「じゃあ話半分として、見物に行ってみようか」

 となった。

 一方出迎える立場の希理華は、

「会議室の準備は良いかしら」

 通常ならこの会議は単なる顔合わせだけなので生徒会室で簡素に済ませるのだが、

「南高の生徒会長が来たらこちらへ御通ししてね、打ち合わせがあるから」

 これは決して希理華の私情ではない。

「南高の瀬尾です。初めまして」

 副会長の案内で矩総がやってきた。

 二人が視線を合わせたのは今回もほんの一瞬だが、

「他の会長さんはまだですか?」

「他のお三方は会議室の方に直接ご案内しました。瀬尾会長には事前にお願いがありまして」

 と言いながら椅子をすすめる。

「なんでしょうか」

「瀬尾会長は例の、システムを廃止なさったそうで」

 矩総の父瀬尾総一郎がかつて立案し、母の矩華が施行した自由恋愛推進法。それに伴って確立されたカップルの登録制度の事である。

「ああ。廃止ではなく停止ですが」

 本人は廃止するつもりだったが、支持者も多くてなかなかそこまで踏み切れなかったのだ。

「あれは既にあれは既に五校にまたがる広域的な制度になっているので、その趣旨についてご説明いただきたいと思いまして」

「それはご迷惑をおかけしました」

 矩総は初めて困惑した表情になった。

「ご承知かと思いますが、あの制度は僕の・・・」

「そういう話は皆さんおそろいの場所で」

「ああそうですね」

 希理華の先導で会議室へと舞台は移る。

「さて定例の五校会議を開催したいと思います。今回議長役を務めます、北女の久世希理華です」

 と一礼して、

「順番にお名前と簡単な自己紹介をお願いします」

 それが一通り済んだ後、

「通常はこれでお終いなんですが、今回は南高の瀬尾会長からお話があります」

「改めまして、瀬尾矩総です。わが校が起点となった自由恋愛推進法について。これは僕の父瀬尾総一郎が生徒会長立候補時の公約として掲げたもので、実際にこれを施行したのは選挙で勝利した永瀬矩華。これが僕の母になる訳ですが。本来、自分たちの任期で終わりにするはずだったものが次の執行部に引き継がれ、あまつさえ外部の高校にまで広がっていることに提唱者本人もいささか困惑しているようだったので、息子の立場としてそれを終わらせるべきではないかと思ったのが立候補のそもそもの動機でした」

 これじゃあ立候補の時の演説と同じだなと思いつつ、

「ただ調べてみると、我が校だけの問題では収まりそうもないので、各校でのこのシステムの実情についてお伺いしたく思います」

「では、東商業さんから」

 と希理華。

「はい。我が校は女子が多め。大体七対三になりますが、校内だけだと半数の女子があぶれることになります。その意味でも他行との連携は不可欠で、その特に南高の男子生徒の人気は高いので。停止には困惑しています」

「西工も同様です。うちは商業さんとは逆に男子が多く。昔はほとんど男子しかいないと言う代もあったようですが、今は女子が一割強。それでも大多数の男子生徒があぶれてしまう状況です」

「中央高校は、男女比の偏りこそありませんが、校内では競争意識が高いので、恋愛相手となると他校の生徒を対象とすることが多いようです」

「最後に北女ですが。当然ながらうちは女子しかいませんので、他校が抜ければ制度は成り立ちません」

「内部の登録を停止している状況ですので、むしろ他校的にはチャンスなのかもしれませんが」

 と苦笑しつつも、

「持ち帰って今後の検討課題とさせていただきます」

 と締めた。

「では最後に、この会議が最後となるお二人に一言」

 西工と中央は九月改選なので次の十月の会議には新生徒会長が出ることになる。

 会議が終わった直後、西工の会長が矩総に声を掛けてきた。

「以前からのお知合いですか?」

 希理華が興味深げに聞いてきた。

「いいえ、今日が初対面ですよ」

 とはぐらかす矩総。

「貴女とは以前お会いしましたね」

「え?」

 希理華の心臓がドキリと鳴る。

「昨年の九月。投票所の前で」

「そうでしたっけ」

「僕は記憶にはちょっと自信があるんですよ」

「でも、あの時はすぐに顔を逸らしてしまって」

 これでは会ったことを認めたようなものだ。

「どこかで聞いた名前だと思ったんですよ。うちの妹から聞いた、小学校時代の校内一の美少女の名前が確か久世希理華」

「妹さん、おいくつですか?」

「僕より三つ下。僕が一年飛び級したので今年中学生になりました」

「そうすると、私が学生会長をやっていた年に入学ですね。なら覚えていても不思議はないですね」

「校内一の美少女と言うのは否定しないんですね」

 と笑うと、

「それは他人の評価ですから」

「まあ、来た甲斐は有りました」


「え、それだけ?」

 帰宅して報告を受けた兄の総志は唖然とした。

「だけって何?」

 と不審げの矩総。

「それよりも兄さんは久世さんと知り合いなの?」

「同じ小学校の有名人だから名前は知っているけど」

 と精一杯とぼける総志。

「変なことを聞かれたんだよね。どこかお悪いんですかって」

「何?」

「僕の体質を知っているみたいなんだけど」

「俺は話してないぞ。と言うかどう説明するんだあんなもの」

「だよねえ。どうも中途半端な伝わり方みたいだから」

 犯人?が分かったのはしばらく後の話。

「それにしても本当に目の保養だけとは・・・」

「僕が初対面の相手を聞きなり口説くとでも?」

「入学早々にクラス全員にアプローチを掛けたくせに」

「あれは、制度の枠内での話だろ。制度を停止した直後に、その説明をさせられた後で、口説きに入ったらただの女誑しじゃないか」

「じゃあ、制度を復活させるか?」

「そんなことしたら姉さんにどやされるよ。検証委員会が立ち上がったばかりなのに」

 矩総は姉の総美を風紀委員長に指名して、制度の検証を頼んでいたのだ。

 それを伝え聞いた姉の総美は、

「そんな事ならいつでも辞めるのに」

 とぼやくだが、

「あの生真面目な男が、具体的な結果を出さずに方針を撤回するはずはないだろ」

「貴方に生真面目と言わしめるのは相当ね」

 と沙弥加に混ぜっ返される。

「きーかの方はどうなの?」

「私も聞いてみたのだけど、面と向かって美人って言われたことで舞い上がってしまって何もできなかったって」

「そんなの言われ慣れているんじゃあ」

 と総志が聞くが、

「そう思ったんだけど。意外に面と向かっては無いらしいわね」

「あの子、お世辞の類は言わないから余計でしょ」

 と総美。

「あの目で見つめられたら、大概の女は落ちるわね」

「眼力なら、希理華も相当なものでしょ」

「どっちも面倒くさいわねえ」

 と総美が投げた。

「もう出会っちゃったんだから、後は成るように成るでしょ」

 三人は同意した。


作中の時間軸が長すぎて羅列的になってしまいました。

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