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 四月。三姉妹はそれぞれの志望校に合格した。

 東商業へ入った西条恭子は志保美とみちるに挟まれて意気揚々と出かけた。北女へ進む御堂真梨世は兄の春真に見送られて母の真冬と現地合流。そして瀬尾華理那は両親の母校でもある南高校に揃って向かう。総一郎は希代乃に頼まれてビデオを回す係で有る。それと言うのも生徒会長の神林希総が新入生を歓迎する挨拶をするからで、それを受けて新入生総代として挨拶するのは華理那である。二年前は迎える生徒会長が矩総で、総代が希総であった。

「入学式の後、運動部の合同トライアルがあるので、興味のある生徒は参加して下さい」

 希総の提案で始まった制度で、これが三回目に成るが、新入生のみを対象とするのはこれが初めてだ。今後続くかは次の執行部次第だが、

「このトライアルの趣旨について説明します」

 第一回はインターハイ予選が一通り終わった六月末。運動部に所属していないモノ、あるいは各部でレギュラーになれなかったモノを対象として、様々な身体能力を測定し、様々なスポーツに対する適性を判定する。その結果を見た各部が其々勧誘を行い、場合によっては部活動間のトレードも発生する。これにより部活動全体の底上げを図る事を目的とする。

 各部は新チームへの移行を見据えて戦力の補強を目指すが、例外的にこれから最後の大会へ向かう野球部が即戦力を狙ったりもした。インターハイ出場を決めた部には指名権は無いが、レギュラーから漏れた部員を、本人の希望も汲んでレンタル移籍させた。移籍先でレギュラーを取って戻ってこなかった部員も一部いた。

 そして夏休み明けに第二回。インターハイへ出場した部や、大量の助っ人を抱えていた野球部から余剰人員が発生すると同時に、インターハイを見て興味を持った帰宅部・文化部系の志望者も若干いた。

 そして三回目が新入生の入ったこのタイミングである。

「先に言っておきますが、このトライアルで出た適性は部活動選びの参考にしてもらう為であって、向いているからその部へ入れとか、向いていないから止めておけと言う話ではありません。そもそも部員全てが試合に出られるわけではないし、試合に出られなくても部に貢献できる事は必ずある。ただ己を知らずして敵に勝てるわけがない」

 とここまでは良いが、

「部活動の目的が単に勝利を得るためであれば、特定の部活動に人材を集中するのも一つの手ではありますが、公立で有る我が校には適さない。志願者が増えても定員は増やせないので、競争率が上がってスポーツで身を立てようと言う学生には敷居が高くなるだけ」

 この辺のスタンスは生徒会長としての職域を明らかに超えている。政治家として振舞った二年前の兄矩総と、経営者として動く希総の違いが如実に表れていた。

「我が校は、公立の進学校でありながら部活動に於いても高い実績を上げていますが、文武両道を目指す上で、マクロ的に必要なのは人材のミスマッチを減らすこと。ミクロ的には集中と効率です」

 用意された種目はスポーツで必要とされる様々な身体能力を計るモノだが、動体視力や周辺視野、瞬間視の様な感覚系や、心肺能力を計る検査、更には個人競技と団体競技のどちらに向いているかを計る聞き取りテストが有るのが斬新だ。

「用紙はここで良いんですか?」

 各種目の実施計測は各運動部から人員が出てやるので、会長としては結果の用紙を集めるだけ。

「御苦労さま。って来ていたのか?」

 用紙の提出に来たのは妹の瀬尾華理那だった。

「冷やかしか?」

 華理那は運動神経が良かったけれど運動部に所属した事が無い。

「まさか。春真兄さんじゃ有るまいし」

 一二年生だけの企画なのに自分も参加したいとごねたのを思い出す。

「このスペックならどの部でも欲しがるだろうに」

「折角だから体験しておこうと思って」

「来年以降もこの制度が続いているかどうかはお前次第ってことだな」

 六月に姉の推薦で生徒会執行部入りした華理那はこの制度の存続を主張。そして会長に成った時にもこの制度を維持した。のだがそれはまた後の話。


 入試トップが代表挨拶をするのは東商業も同様で、西条恭子がその栄誉を担ったが、中高一貫の北女では内部進学者の中から代表が選ばれるので外部入学の真梨世は端から対象外だった。外部入学は一クラス分四十人しかいないので、その中でトップを取ってもあまり自慢にはならないのだが。

 東商業の女子バスケ部は県内でもトップスリーの強豪である。恭子が東商業を選んだのは家業の手伝いを主目的としていたが、部活動も理由の一つである。

「私は総志兄さんほど突出した選手では無いから」

 体格面では長女の総美が抜きんでているが、身体能力だけで見れば恭子が姉妹の中で一番で有った。母譲りの身体能力に、兄総志から仕込まれたバスケの技術を備えていた。

「ポジションはポイントガードとセンター以外ならどこでも出来ます」

 これは言い換えるとゲームメイクとポストプレー以外は全部出来ると言う事で有る。この挑発に乗った三年のエースとのワンオンワンで、恭子はその実力を遺憾なく披露した。

「なんで貴女ほどのプレーヤーが無名なのよ」

 完敗したエースが腹立ち紛れに言うと、

「全国へ出た事が無いですから」

「西条さんて、西条総志選手と何関係が?」

 と主将。

「西条総志なら兄ですけど」

 と答えたら一斉に黄色い声が上がった。

 一方、北女に進学した御堂真梨世の方はもっと苦戦していた。北女は一クラス四十人で六クラス。そのうち一クラス分を高校から外部入学で取る。逆に一クラス分は内部進学出来ないと言う事だ。自分の意志で外部の高校を受け直す事も有る。北女の中等部から南高普通科へ進んだ野田刹那もその一人だった。刹那が北女を選んだのは久世希理華が居たからであり、南高へ進路を変えたのは、瀬尾矩総が居たからだ。

 真梨世が北女を選んだのは、三カ月違いの姉瀬尾華理那と同じ高校へ進むのを避けた事。特に妹の恭子が別の高校を選んだ事でそのインセンティブは高まった。幾つかの選択肢の中で北女が選ばれたのは恭子と同じく部活動だった。御堂家に脈々と伝わる楽才、真梨世はその中でも声楽の才能を有していた。そして北女の合唱部は全国レベルだったのだ。

 合唱の場合に難しいのはパート毎に同じメロディを歌う事。その中で一人目立ち過ぎてはいけない事だ。真梨世の広い音域も特徴的な声も、その中に入ると役に立たない。かつては一人で走り過ぎて悪目立ちしたが、当時の反省を生かして抑え気味の真梨世。それに加えてあの当時よりは周囲のレベルも高いのでどうにか浮き上がらずに過ごせていた。しかしながら、それはF1カーで一般道を走る様なモノ。全力が出せずにストレスが溜まる事この上ない。誰もいない校舎裏でこっそりと歌って発散していたのだが、

「綺麗な歌声ね」

 と声を掛けて来る先輩が、

「済みません」

「別に謝らなくても良いのよ」

 その先輩は小柄な体に不似合いな大きな楽器を持っていた。

「ここは私の秘密の練習場だったのだけど」

 真梨世の名札に目を止めて、

「貴女、御堂さんとおっしゃるの。もしかして春真さまと?」

「春真さま?」

 御堂の御曹司としてさま付けされる事は珍しくないのだが、些か響きが違う。

「兄を御存じですか?」

「まあ妹さんなの?」

 春真が二年生の時、秋の大会で勝ち進んだ野球部を応援する為に五校で合同応援楽団を組んだ事が有る。春真はその指揮者をやる事に成ったのだが、この先輩はそれに参加していたらしい。

「私はまだ一年で、春真さまとは言葉を交わす事も無かったのだけど」

「なるほど」

 春真は黙って音楽をやらせておけば格好良い。まして相手は女子ばかりの学校に長くいる少女だ。一方的に憧れを抱いても不思議はない。

 それから何度か会って二人でセッションをした。真梨世の高音と、先輩のチューバが奏でる重低音が良く合った。

「そんな事を気にしていたの?」

 打ち解けるようになって、ポロリと悩みを打ち明けた真梨世に、

「全開で行けば良いのよ」

「だって、以前はそれで失敗したから」

「うちのコーラス部はそれほどやわでは無いわ。欲も悪くも勝利至上主義だから」

 と笑う。

「実力が足りなくて部を去った人間は居ても、あり過ぎて排除されるなんて事はありえないから」 

 それでも迷っている真梨世に、

「その辺がお嬢様なのねえ」

「知っていたんですか?」

「いいえ。知らなかったから後輩に訊いて廻ったのよ」

 御堂のお嬢様が入学したと言うのは有名な話だと思ったが、上級生にはあまり広まっていなかった。と言うかこの先輩が世事に疎かった事も有る。御堂家がどの程度の金持ちかも彼女は判っていなかった。

「まさに金持ち喧嘩せず。人とぶつかるのが嫌いなのね」

 我を出し過ぎると妬まれる。それでいじめられそうになって、姉の華理那に助けられた。

「世の中には金で手に入るモノと、戦って勝ち取らないと手に入れられないモノが有るのよ」

 と背中を押された。

 真梨世が本気で歌いだすと、周囲は一瞬気押されたが、直ぐに負けじと対抗してきた。やがて収拾がつかなくなっていったん止まる。

「御堂さん。ちょっと一人で歌ってみて」

 と部長に言われる。真梨世の歌を聞いて、

「ソプラノを一人減らすわ。誰か一人メゾソプラノへ下がってくれない?」

 直ぐに三年生が手を挙げて、

「最近高音が厳しくて」

 そして再び合わせる。顧問は口を挟まずに黙って見ていた。

 練習が終わって再び部長から声を掛けられる。

「御堂さん、貴女ソロパートをやってみない?」

「え、そう言うのは先輩がやるモノでは?」

「この部では一番上手い人がやるのよ。やりたいの、やりたくないの?」

「やらせて下さい」

 ここで非難どころか部員たちから拍手が上がった。

「言った通りでしょ」

 と胸をはるブラバンのチューバ先輩。正しくは中馬と言うのだが、

「コーラスと言うのは誰でもできるから、それで将来食べて行こうと言う人は少ないのよ。ほとんどのコーラス部員にとって結果は単なる思い出に成る。その点ブラバンは、一生やろうと思ったらまず楽器を手に入れないといけない。そうなったらそれで食えるのが一番良いとなる。だからみんな必死で、でもそれ故に各々が我を出し過ぎて纏まらないんだけど」

「チューバ先輩もプロを目指しているんですか?」

「私の父はプロを目指して挫折した人だけどね。この相棒も父の形見。いやいやまだ死んでいないからね」

 と一人ツッコミする。

「お父様がチューバを始めたのって」

「ええ、名前が似ていたから手に取って。今でも友人からは“ちゅうば“君って呼ばれているわ」


 さて妹たちが順調に地所を獲得している頃、姉の華理那はどうしていたか。

 合同トライアルに参加して運動部からの勧誘を受けながらも、彼女が叩いた扉は、

「動画創作研究部はこちらですか?」

 反応が薄い。

「君も昨年のうちの映像を見てきた口かな」

「まあ似たようなものですが」

「だったら帰った方が良いな。あれは御堂先輩がいればこその企画だ」

「その御堂先輩から様子を見てくれと頼まれたのだけど」

 と言いながら入部届けを差し出す。

「瀬尾華理那って、今年の新入生総代」

「いやそれよりも、あの瀬尾先輩の妹さん」

「と言う事は現生徒会長とも」

「なんでそんな子がうちの部に?」

「御堂先輩とは?」

「いちおう従兄妹になります」

 と微笑み、

「で入部は?」

「認める。と言うかこちらから是非ともお願いします。入って下さい」

 部員全員が一斉に頭を下げた。

「華理那さん、画創研に入ったんだって」

 と声を掛けてきた姉の万里華。

「情報が早いですねえ。副会長」

「華理華ちゃんって、駄目男好きなの?」

 と真顔で聞かれ、

「うちの父って、一歩間違うと駄目男ですよねえ」

 と真顔で返す。

「うーん。否定出来ないかも」

 と同意を示す万里華。

「うちの母なら、駄目男でも真人間に叩き直しそうだけど」

 実際のところ、矩華と出会っていなかったら、総一郎はどうなっていた事やら。

「私としては、運動部偏重の流れに待ったを掛けて見ようかなと思っているんです」

「もう来年の生徒会長選挙を見据えているの?」

 驚く万里華に、口角をきゅっと挙げて一礼して去った。

「だんだん矩華さんに似て来るわねえ」


 六月には希総の任期が終了。新執行部は希総の元で会計をやっていた女生徒だった。そして瀬尾華理那は前執行部の推薦を受けて書記に選ばれた。

 南高に於いては前執行部の一員が次の生徒会長に成る事自体が珍しい。そしてそれが二度続いた例は過去に一度だけ。その起点は永瀬矩華が会長職に有った時だ。息子の矩総の代でも、次の代は元書記であったが、その後会長となった希総はそれまでは生徒会とは無関係だった。矩総が任期を終えた時点では、希総はバレー部の立て直しで手一杯で生徒会までは手が回らなかったと言うのも有る。それでなくても、矩総は自身の弟を将来の後継者として布石を打つ事はしなかっただろう。

 希総は後継政権で無い事である意味でフリーハンドを得て大胆な改革に乗り出せたとも言える。果たして華理那は。それはまた別の話として。

 肩の荷を下ろした希総と万里華は共に最後のインターハイの出場権を獲得した。

「インターハイ出場校の解析データが有るんですが、ご入り用ではありませんか?」

 と声を掛けてきた華理奈に、

「そんなものどうやって?」

 と首をひねる希総。

「予選の映像を集めて解析したんですよ。こちらからも南高の映像を提供しましたけど」

「おい」

「やり取りしたのは映像の生データだけです。それを読み解くのはそれぞれの力量次第」

 と笑う華理那。

「有り難い話ではあるんだが」

 と渋る希総。

「スカウティングも自分たちでやりたいと言うのでしょうけど、それは欲張り過ぎです。これこそ分業が必要なのではないですか?」

 更に駄目押しとして、

「男子バスケ部にもデータ提供を申し出たら、監督さんは喜んで受け取ってくれましたよ」

「これが、お前が画創研を選んだ理由か」

 強豪私立なら次世代の有望選手発掘まで含めて学校ぐるみのスカウティングが行われるが、公立ではとてもそこまではやれない。偵察を生徒だけで行うのはまさに自主自立の校風に適うと言える。

「創造とは異なる作業だな」

「御堂春真と言う稀代のエンターテイナーを失って、残ったのは優秀なテクノクラートばかりでしたから」

 彼らを生かす手段として思いついたのはこのスカウティングだと言うのだが、

「まずは映像集め。最初にうちの試合の映像をネットにアップして、それを身に来た人間のアクセス記録から全国の試合データを拾っていく。これもうちの部が全国でもそこそこ名の売れたチームだからこそ使える作戦で」

 と持ち上げる。

「出場全チームのデータを使って総当たりのシミュレーションを行ってランク付けもしています」

「そこまで行くと、高校生のレベルじゃないな」

 走っているプログラムを見せられたが、画面はコートを上から見たモノで、白い丸が選手で中の数字は背番号。黒い丸がボールで、コートの中を動いている。選手の能力とチーム戦術が組み込まれているらしい。

「南高は十位前後、実際の大会はトーナメントなので、組み合わせによっては充分上位を狙えるレベルです」

 希総はデータ収集担当の一年生二名を戦術研究の為に画創研に送り込んだ。男子バスケ部でも同じ目的で人員を配置したらしい。

 それだけでは無い。インターハイ後の合同トライアルでは、画創研が能力分析に一役買う事に成る。これを推進するのは生徒会役員でもある華理那だ。

 これから夏の大会が始まる野球部が人員補給をするのは前回と同様だが、陸上部は学校対抗の総合ポイントでも戦える様に他の部から人員を借りて予選を戦っていた。その部員たちは陸上の基礎的な動きを身に付けて元の部へ持ち帰る事に成った。

 陸上部の女子は野田刹那を七種競技以外の七種競技に含まれない競技(100mと400m)で出場させたほか、助っ人を加えてリレー種目、つまり400mとマイルリレーの両方にエントリーして勝利を収めていた。ちなみに400リレーの第三走、つまり刹那にバトンを渡す役目を担ったのは華理那である。マイルリレーの方も出ないかと言われたが、こちらは断ったと言う。代わりに引っ張り出されたのは女子バスケ部の一年生エース青木沙羅だった。

 負けず嫌いの沙羅はアンカーを掛けて刹那と勝負した。途中200mまでは沙羅が前にいたが、その後の伸びで一気に逆転された。

「100mまでは青木さんが早かった。100から200まではほぼ互角。その後は、タイムが落ちた青木さんに対して、野田先輩はむしろ後半に加速しています」

 と分析する華理那。

「でも凄いわ。200mまでは野田さんよりも早かったのだから。ねえ、200mでも出場して見ない?」

 と陸上部の主将に誘われる。

「200までのタイムは一昨年に野田先輩が出した高校記録には及びませんけどね。つまり先輩は400m全体を考えて序盤をセーブしたと言う事ですけど」

 と水を指す華理那にむっとする沙羅。そこへ刹那が近寄ってきて、

「なに。青木さん、200mに出るの。何なら200でも勝負して見る?」

 と言われ、

「今日は止めておきます」

 二人の身長は同じくらいだが、体の完成度がまるで違う。沙羅はまだまだ線が細い。対してなゆたは走る跳ぶ投げるの三種類を満遍なくこなす七種競技の選手だ。

 沙羅は200m走で予選を突破したが、決勝レースがバスケの試合と重なったので止むなく棄権した。マイルリレーは陸上部で固めて予選を通過し、決勝は既にバスケ部の敗退が決まって体が空いた沙羅に出番が回ってきた。結果は高校記録での優勝。また一つ刹那の勲章が加わった。

「それにしても女子バスケ部は残念だった」

 と希総。

「相手が悪かったですね」

 南高女子バスケ部を準々決勝で破ったのは恭子のいる強豪東商業だった。

「華理那さんが加わればどうにか成ったんじゃないの?」

 と万里華に言われたが、

「無理よ。私はスタミナが無いもの」

 ほぼ万能の華理那だが、兄の矩総と同じで持久力が無い。

 さてこの六月のトライアルに青木沙羅がエントリーしてきた。

「あなたバスケ部のエースでしょ?」

 受付にいた華理那が首を捻る。所属する部が許可しなければ参加出来ない決まりだ。

「許可は取って来たわ」

 と申込書を示す沙羅。

「言うなれば武者修行ね」

 ハーフの顔立ちに似合わない古風な物言いをする。

「母の国では、一つのスポーツだけをするのではなく、複数のスポーツを並行してやって、その中から選ぶものなのよ」

「だったら、四月も参加すれば良かったのに」

 と言うと、

「その四月では大活躍だったらしいわね。瀬尾さん」

 とやや挑発的な沙羅を、

「私の記録なんて、昨年の野田先輩に比べれば全然よ」

 とさらりと流す華理那。

「そんなに凄いの?」

「終わってから見せてあげるわ。先に見てやる気が失せると困るから」

 一通り巡って、記録用紙を持って戻ってくる沙羅。

「お疲れ様」

「どうよ」

 と言われ、

「中々ね」

 と言いつつ、差し出したのは四月までのそれぞれの種目の上位十傑を抜き出したリストである。

「一つくらい勝てると思ったのに」

 全ての項目でトップにいるのは野田刹那。その記録は圧倒的だ。

「瀬尾さん、全部二番ね」

「貴女の記録を入れれば三位に下がるわ。全部じゃないけど」

 走力を計る四十メートル走と敏捷性を計る反復横跳び、そして柔軟性を計る長座体前屈では華理那の方が上だが、残りは沙羅が勝っている。

「私、同年代の子には負けた事無いのに」

「そう。私は身近に一人いたわ」

「西条恭子さんね」

 インターハイ予選で対戦し、

「私のシュートを叩き落とされたのは始めてだったわ」

「あれは、不用意過ぎよ」

「だって、身長が十五センチも違うのよ。完全にミスマッチだと思うじゃない」

「あの子は、兄のシュートを叩き落とした事のあるのよ」

 総志が高校に上がったばかり、恭子はまだ小六の頃だ。総志は完全に油断して、ジャンプせずに普通に打っていたのだが、その横から飛び込んできた恭子が渾身のジャンプでそのボールを叩き落としたのだ。

「それは手強いわね」

「出たわよ、適性」

 会話しながらデータをシステムに取り込んで解析を進めていたらしい。

「最適はやはりバスケのセンター、あるいはバレーのエースアタッカーか」

「凄いわね」

「凄いのは、貴女でしょ」

「そうじゃなくて。私、二つ以上の事を同時並行的にやれないから」

「視野が狭い。高い反射神経でカバーしているけど、突発的なアプローチに対して対応が遅れる」

「そんなことまで書いてあるの?」

「これは私が夏の大会で見た貴女の評価よ」

 と微笑み、

「もう少し周囲に気を配れば、もっと良い選手に成れるのに」

 体が小さくて素早い選手を苦手とする。あの西条恭子はまさしく彼女の天敵だったと言えよう。

「で、どこへ行く。陸上部?」

「野田先輩は基本スペックが高過ぎて参考に成らないわ」

「だったら、剣道部に行ってみると良いわ」

 と助言を受けた。

 二人はこれ以後、下の名前で呼び合う親密な仲に成った。


 夏休みに入ると、画創研はインターハイに向けてフル稼働した。出場するバスケ部やバレー部の補欠と協力してデータの試合を偵察しデータの補強を図るのである。

「うちは必要ないです」

 と言って来たのは剣道部。男子部は惜しくも団体での出場を逃したが、昨年とは逆に女子が北女を破って団体の代表を勝ち取った。もちろん個人戦では竜ヶ崎姉弟が出場する。

「スポーツでは無く武道。常に一発勝負にこだわるのは竜ヶ崎らしいわね」

 と華理那も強く勧める事はしなかった。

 そして陸上部に関しては、野田刹那が圧倒的すぎて他校のデータを取る必要性を感じず、もっぱら刹那のフォームチェックに終始した。そもそも陸上は記録競技なので、ライバルのデータを取っても何か対策が立てられるわけではない。

 華理那は本業に専念するとしてインターハイの本番は陸上部の部員に譲った。代わりの選手は100mの本職ではないが、走り幅跳びの選手だった。

「インターハイに出た事が有ると言うのは、今後の陸上生活に於いて何かの足しになるでしょう」

 と華理那。彼女にはそう言った箔は必要ないのである。

 もう一人、マイルリレーに出た青木沙羅の方は、

「初めてのインターハイが本業で無いのは不本意だけど、これも異色の経歴として残るでしょ」

 と割り切って出場した。

 大会前から本命視されていた男子バスケ部は順当に優勝。そして希総の男子バレー部は、

「浮かない顔ですね」

「僕たち三年が抜けた後のチームを思うとね」

 優勝した後の事を気にするあたりが希総らしい。

「そんなの、残った人間が考える事よ。と希代乃さんなら言うでしょうね」

 どちらが兄で妹だか判らない。


きりが無いので、この辺でお終い。

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