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掟の決断

 どうしてこんなことになったのだろう。

 発端は大学で出会って親友になった滝川千種に誘われて電脳研究会に入った事。私は理系には疎いのだけど、千種はどちらかと言えば理系に強い。それが法律の道を選んだのはお世話になった弁護士の先生に憧れたからだと言う。私が母の影響でなんとなくこの道を選んだのとは大きな違いだ。

 二年生になった時、新入部員歓迎コンパに私は体調を崩して欠席した。一人参加した千種はそこで運命の出会いを果たしてしまった。あの二人が会えばこうなる事は十分に予想できたのに。私が一緒に居ても結果は同じだったかもしれない。問題は私の方だ。

 コンパから数日後、私は千種と共に瀬尾矩総と対面した。私は彼のペースに乗せられて彼の弟とのお見合いを承諾してしまった。

 私には父親の違う姉が二人いる。決して仲が悪くは無いが、なんとなく剃りが合わない。私は興味が有ったのだ。母親の違う兄弟姉妹が仲良くしていると言う状況に。

 父譲りの面立ちに御堂家に共通するアヒル口が愛嬌を感じさせる御堂春真。同じく父親の面立ちを持ちつつも母親譲りと言われる高い鼻がノーブルな印象を与える神林希総。ここにやはり父親似の相貌と母譲りの鋭い眼を持つ矩総君が加わる。

「三人並べると面白いわね」

 それにしても、

「何故、二人一遍になの?」

 我ながら今更な質問だ。

「どちらか一人を優先すると、残った一人から文句が来るんですよ」

 二人とももてそうなのに特定の女の子と付合った経験は無いと言う。私は二人を本気にさせる為に前にぶら下げられた人参と同じだ。しかしそう考えればむしろ気は楽だ。

 初めてのデートは二人一緒。と言っても二対一では不自然なので女の子をもう一人追加して見かけ上はダブルデートにする。参加するのは千種の従姉滝川千里さんの娘で、二人の腹違いの姉妹でもある万里華ちゃんだ。

「本日は宜しくお願いします」

 万里華ちゃんの家に車で乗り付けた時、母親の千里さんにそう声を掛けられた。かつてあの瀬尾総一郎代議士の政策秘書として辣腕をふるったと言う、身長は小さいけど存在感のある女性だ。千種に紹介されて一度お目にかかった事がある。

 万里華ちゃんはとても大人っぽい雰囲気で、私服だと年下の高校生には見えない。

「制服姿がコスプレに見える」

 と言う春真くんの言葉にも頷ける。

 二人と合流して向かう先はプロバスケの試合会場。選手の一人として出場しているのは彼らの長兄西条総志くん。高三だった昨年からプロ契約の特別指定選手だったと言うが、それ以上に凄いのはそんなスター選手抜きで昨年の冬の大会でバスケ部を優勝させてしまったと言う万里華ちゃんのマネジメント能力だろう。

 万里華ちゃんまで含めて、三人とも高校生とは思えないほどしっかりしていて、勉強しかしてこなかった自分が世間知らずに見えてしまう。

 私は思い余って瀬尾総一郎氏に会いに行った。数年前ならアポを取るのも簡単ではなかっただろうが、今は市井の菓子職人である。

「やあ掟ちゃんだね。大きくなったなあ」

 小さい頃に家に遊びに来た事が有ったが、まさか今の私を一目で識別するとは思わなかった。小学校時代と別人のように綺麗になった希代乃さんを一目で認識したと言う話も信じられる。

 二人とのダブル交際についても、矩総のやりそうな事だと笑い、

「頑張れよ」

 と励ましてくれた。父親の方はそんなものかも知れない。しかし母親の方は?

 端午の節句には希総君に誘われて神林の本邸で希代乃さまと対面する事となった。

 正式な対面の前にエプロン姿の希代乃さまと玄関ホールでニアミス。いやわざとその格好で出てきたのだろう。

「あら、希総いらっしゃい」

「忙しいならわざわざ顔を出さなくても良いのに」

 それまでの大人っぽい雰囲気から急に子供っぽくなる希総君に思わずギャップ萌えしてしまう。

 程なくして現れた希代乃さまは白いブラウスに膝丈のジーンズと言ういで立ちで、それまで抱いていた神林の女帝のイメージは完全に崩れた。

 その翌週の日曜日、今度は春真くんから招待を受けた。母の日と言う事で、春真くんだけでなく妹の真梨世ちゃんと、何故か末弟の皆人くんまで加わった。

 マスコミへの露出が極端に少ない神林希代乃さんと違って、御堂真冬さんはグループ内の化粧品メーカーの広告塔にも成っている。お化粧を習った上に、試供品をお土産に頂いた。

 この訪問では春真君の多芸さを見せつけられた。日頃はしないと言う料理の腕前に始まり、バイオリン演奏はかなり格好良かった。

 帰り道、成り行きで春真君と真梨世ちゃんの家庭教師を引き受ける事になってしまった。月に二回。入り口でいちいち許可を取るのが面倒なので矩総君が生体認証パスを登録してくれたが、又一つ逃げ道を塞がれた?


 夏休みに入って、いつもの様に家庭教師に向かう途中でメールに気が付いた。

「三週間の語学留学に行くので居ません」

 と言う内容のメールである。日付は二日前。私は慌てて妹の真梨世ちゃんに電話を入れた。

「急に決まった話なので」

 その日はいつもの春真君の部屋ではなく真梨世ちゃんの部屋で、春真君の代わりと言う訳でもないが、部屋を一部共有する恭子ちゃんも一緒に家庭教師を行った。

「もう一人、華理那ちゃんは大丈夫なのかしら?」

「りーなは私たちよりも頭が良いから」

 と真梨世ちゃん。

「もしかして、仲が悪いの?」

 と恭子ちゃんにこっそりと聞く。

「年の近い姉妹なら当然に見られる競争心の現れですよ」

「それは恭子ちゃん自身にも?」

「私は初めから勝てる分野で勝負すると割り切っていますから。りせねえもようやくそれを見つけたみたいです」

 インターホンが鳴り、

「希総兄様が差し入れを持って来て下さいました」

 と言って真梨世ちゃんがお茶とケーキを出してくれた。

「上がれば良かったのに。とお客の私が言うことではないわね」

「練習帰りで汗をかいているから、失礼しますって」

「そんな多忙な状態で妹にまで気を使うなんて」

 と言うと、

「あら普段はこんなことしてくれませんよ。今日は片桐さんが来ているから」

 と恭子ちゃん。

「春真兄さまが居ないからと言うのも有るけど」

「その春真君だけど、語学留学ってそんなに急に決まるものなの?」

「実は語学留学と言うのは建前で」

 と口ごもる真梨世ちゃん。

「ヨーロッパの提携企業からのお招きで、実態は見合いを兼ねているらしいです」

「あら」

「と言っても相手のお嬢様はまだ十歳に成るか成らないかで、直ぐに動向と言う話ではなさそうですけど」

 と悪戯っぽく笑う。

 なんだか、年下に振り回されている自分がちょっと情けない。

「むしろ楽しそうだけど」

 と千種。今日は彼女に誘われて海に来ていた。

「ご主人さまと行けばいいのに」

 とからかうと、

「久世さんも野田さんも大会が有って忙しいから」

 自分一人がデートするのは申し訳ないと言う事か。

「貴女と一緒だとやたらと男性に声を掛けられるわね」

 と愚痴ると、

「あら。半分はさだちゃん目当てよ」

 と返された。

「貴女達もしかして片桐掟さんと滝川千種さんじゃなぁい?」

 と声を掛けてきたのは長身で見覚えのある容貌の女性。セパレートの水着から覗く引き締まったくびれよりも綺麗に六つに割れた腹筋が目を引く。

「もしかして西条総美さんですか?」

 と千種。

「ええ、初めまして」

 と握手を交わす。

「どちらか一人だけなら確信を持てなかったけど」

 私たちは総美さんたちが乗ってきた小型のキャンピングカーに招かれた。そこには長身のイケメンと小柄の美女が待っていた。

「先日はどうも」

 と頭を下げる長身のイケメンは総美さんの双子の弟総志君。とすれば隣の美女は婚約者の日野沙弥加さんだろう。

「あんな遠目だったのに良く覚えていますね」

 試合は見に行ったが直接挨拶には行っていない。

「目は良いんです」

 事情を知らない沙弥加さんに、総美さんが私たち二人を紹介すると、

「どちらにしても玉の輿ねえ」

 あっさりと状況を呑み込んでくれる。

「お昼作るので御一緒にどうぞ」

 と立ち上がると、

「手伝います」

 と千種が後に続く。

 初対面の筈なのに狭い調理場で混乱する事もなく手分けして作業を進めている。出来上がったのは大皿に盛られた焼きそば。千種が紙の取り皿と割り箸を皆に配る。真っ先に動いたのは総美さん。続いて総志君。

「二人とも、お客さんが先でしょ」

 と言って沙弥加さんが私と千種に順番を回してくれた。

「普通に美味しいけど、意外に庶民的ね」

 と感想を述べると、

「西条家は一般庶民ですよ。神林や御堂に比べれば」

 と笑う総志君。

「兄弟間の格差って違和感は無いの?」

「同じマンションで暮らしているから眼に見える経済格差は殆ど無いです。特に食事は基本的に父の味覚に合わせて作られるから」

「それに料理人が居るならともかく、自分たちで作れる範囲内だから」

 と総美さんが補足。

「その中でも一番上手いのはプロにまでなった父。まあ本職は菓子作りですけど」

「唯一差が出るのは衣食住の衣かしらねえ。希総はぱっと見は判らないけど良い素材の物を着ているし、春真や真梨世は結構判り易くおしゃれな格好をしているから」

「それだと衣服に興味のない男性陣は良いとしても、女性陣からは不満が出るのでは?」

「それはこの娘に聞いても無駄よ」

 と替って答える沙弥加さん。

「着る物は個人の趣味の方が大きいから」

 末の恭子ちゃんは、みちるさんが色々とアレンジを加えた服を与えているし、華理那ちゃんに至っては父親譲りの才覚を発揮して自力で手を加えて対抗しているらしい。

 再び海に出ると地元商店会主催のビーチバレー大会が開催されていた。総志君と沙弥加さんは総美さんの強い勧めで男女ペア部門に出場した。

「姉弟で出た方が良かったのでは?」

 と千種が言うと、

「さーやは私よりも上手いから」

 実際に試合を見ると、

「総志君の高さが圧倒的に際立つけど、やはり根底には沙弥加さんの正確なプレーが有りますね。レシーブもトスも全くミスが無いわ」

 と千種。

「二年ものブランクがあるのに、流石としか言いようがないわ」

「高校で辞めちゃったんですか、勿体ない」

「さーやに私並の背が有ったら、今頃日本代表よ」

 総美さんの身長は百八十に足りず、アタッカーとしてはやや物足りないが、セッターならば十分だろう。ましてあのジャンプ力だ。

「でもまあ、本人的には満足なのかしら。一番の夢は叶うのだから」

 別れ際に、

「貴女に会ったら一言言ってやろうと思っていのだけど」

 と総美さん。

「でもさーやに咎められたわ。選ぶ方も辛いんだからって」

 それは考えないようにしていた事だ。もはやどちらを選ぶかではなく、どちらを選ばないかの選択に成っているのだ。それにしても、

「流石は沙弥加さんね」

 と千種。

「何が?」

「彼女もきつい選択を迫られたって事よ」

 長年の親友とその弟。沙弥加さんの方にその気が無ければ尚更辛い選択になる。私と彼女との決定的な違いは、選択肢の条件がまったく互角な事だ。彼女は少なくとも選択そのものを迷う事は無かっただろう。彼女の悩みは選んだ後の対処のレベルだ。

「二人とも条件はこの上もなく良いんだから、その後については貴女が気に病む事じゃないわよ」

 そうは言うけれどねえ。


 秋。南高の文化祭に招かれた。入り口で貰ったパンフレットを見たら、春真君の出し物が直ぐに始まると気付いて先ずそこへ向かう。

「今日は、片桐さん」

 声を掛けてきたのは滝川万里華ちゃん。なるほど制服を着るとこうなるのか。左腕に副会長の腕章を付けている。

 連れ立って講堂へ向かうと前方を歩いている瀬尾さんと希代乃さんが目にとまった。

「こんなに人がいるのに、どうしてあの人たちは目に入ってしまうのかしら」

「一人ずつでも目立つのに、二人揃ったら無視する方が難しいですよ」

 と言いながら近づく。

「今年は何をやるんだろうなあ」

 と瀬尾さん。どうやら目的地は同じらしい。

「今年は文字通りのワンマンショーですよ」

 と声を掛ける万里華ちゃん。

「まさか、付けていたのか?」

 と驚く瀬尾さん。

「お目当てが一緒なのだから、仕方ありませんよ」

「こんにちは」

 と挨拶すると、

「希総とは会ったの?」

 と希代乃さん。

「今着いたところなので、先にこちらを見てから会いに行こうかと」

「そう」

 私が希総君よりも春真君を先にした事で機嫌を損ねただろうか。

「生徒会で確保しているスペースへ行くのですが、ご一緒にどうですか?」

 と万里華ちゃんが提案してくる。

「良いのかしら?」

「ええ。生徒会役員の御家族ですから」

 それって私も数に入るのかしら。

「撮影にも最適ね」

 希代乃さんは嬉々としてビデオカメラのセッティングを始めた。

 最初の掴みとして本場で仕込んできたバグパイプを披露する。そしてメインはお得意のピアノ。だけでなく予め収録しておいた別の楽器の演奏シーンも同時に投影し、合わせて六種類の楽器を一人でこなす、まさにワンマンショーだ。

「天性のエンターテイナーねえ」

 希代乃さんはそう褒めた。

「確かに見せ方が上手いな」

「ピアノは横幅を取るから。別枠にしたんじゃないですか?」

「春真の真髄は、決して作曲をしない事だろうな」

 と瀬尾さん。

 演奏家としては優れているが、それは御曹司に生まれた故の保守性だと本人も認めているらしい。

「これは春真くんだけでなくうちの希総にも言えることだけど、ハングリー精神が足りないのよね」

 と希代乃さんが口を挟むと、

「金で苦労し続けた俺と比べられても困るって話だけどなあ」

 と苦笑交じりの瀬尾さん。

 そこからハングリー精神の否定論が展開されて、私と瀬尾さんとの政治談議に発展しかけた所で、

「私そろそろ戻りますので」

 と万里華ちゃんが割って入った。

「私そろそろ戻りますので」

 と万里華ちゃん。

「ああ、私も行くわ」

 一瞬、希代乃さんの口元がへの字に成っているのに気付いた。

「もしかしてしくじったかしら」

「いつもの事ですよ」

「え?」

「希代乃さんのあの表情は、父と矩華さんがやりあっているのを眺めている時の顔です」

 と万里華さん。

「今まで父と真っ向から議論できる女性は矩華さんだけでしたから」

「希代乃さんだって」

「あの方は、立場上政治的な中立は取れませんから」

 希代乃さんは神林の当主としての顔と、瀬尾総一郎の女としての顔を完全に使い分けているから、二人の時にはその手の話は一切しないらしい。

「万里華ちゃんは春真君と希総君のどちらの味方なの?」

「話があちこち跳びますね」

 と笑いながら、

「私は、特殊ですから」

 一番上の総美さんからは二人とも弟。三姉妹にとっては二人とも兄である。まあ真梨世ちゃんにとっては異母か同母かという些細な違いはあるが。しかし万里華ちゃんは春真くんと希総君の間に生まれているので春真君は兄で希総君は弟になる。

「幼少期を一緒に過ごしていないので、上とか下とかの区別は無いですね」

 そう言えば希総君は万里華ちゃんを姉とは呼ばないし、万里華ちゃんも春真君を兄とは呼んでいない。

 生徒会室には会長の希総君一人。

「随分と早かったね」

 と矩総君。

「出し物が終わってからすぐにこちらに向かったから」

「兄さんとは話さなかったのですか?」

「家庭教師で、週二で会っているからね」

 希総君はお茶とクッキー(瀬尾さんの差し入れ)を出してくれた。

「御堂春真ワンマンショーはどうでした?」

 私は慎重に言葉を選ぶ。

「大盛況でしたよ」

 と答えると、二人は春真君を褒め出した。

「一応恋敵なのに。そう言う事を私の前で語りますか?」

 と苦笑すると、

「僕が選ばれなかったとしても、全く無縁になる訳ではないですから。速水の祖父の時みたいに両家の中がこじれるのが一番困る」

 神林の表と裏の分業システムにより御堂家との関係修復には時間を要したが、

「でもこの分業が結果として母のわがままを通すことに成った訳で」

 つまり希代乃さんがどんな相手を選んでも父親の方は口出しできない。その結果として生まれたのが希総君と言う事だ。

「でも選んだ相手が速水秀臣の息子で、しかも神林の血を引いていたなんて、出来過ぎも良い所ね」

「みさきお祖母さまに関しては、ある種の帰巣本能じゃないかって、父は笑っていましたけどね」

 自身の中に流れる神林の血が、神林家のお膝元へ足を向かわせたのか。 

「調子はどうだい」

 陽気な春真君の乱入で話は終わった。


 十一月の初旬。希代乃さんから電話が有って、

「息子の試合を私の代わりに見て来て欲しい」

 との事。行ってみると、春真君や総美さんも来ていて、何も私に頼まなくてもと思ったが。

 南高は準決勝を勝ち上がり、選手権への出場権を勝ち取った。私は希代乃さんへの報告メールを打つ。それを見ていた春真君は、

「じゃあ俺は一声激励してから帰ります」

 と言って会場を後にした。受験が迫ってのわずかな息抜きの時間だったのだろう。

「意外にクールねえ」

 と沙弥加さん。

「この後、私たちの後輩の試合だから一緒に応援してね」

 と総美さん。

「昨年。私たちが抜けた後は低迷しているからねえ」

 三年が抜けて一二年だけの新チームでの四強入りは大したものだ。

「悔しいけれど、希総のお陰だから」

 希総君が生徒会長として部活動間の人材交換制度を推し進めて全体の底上げを目指した結果なのだと言う。

「中でも合同基礎訓練は効果が有ったらしいわ」

 女子バレー部も一年の半分は別の部活動からの移籍組だったらしい。

「自分の部の運営だけでなく、学校全体の人材バランスの均衡ですか。神林の帝王学の賜物ですね」

 女子部の方は残念ながら準決勝敗退。フルセットまでもつれこんだが、最後は経験の差が出たようだ。

 三人で食事を摂って、午後には男子部の決勝。一セットを落としたものの、全体として優勢のまま勝利を収めた。

 四つのセット全てで先発メンバーが違ったのは、

「余裕なのか、あるいは試行錯誤中なのか」

 と沙弥加さん。

「その両方だと思います」

 と答えると、

「貴女が言うなら、そうかもね」

 と総美さんに言われたが、どう言う意味だろうか。


 十二月。私は千種と一緒にクリスマスパーティーに呼ばれた。

「いつ来ても凄い所ねえ」

「私は初めてだけど」

「え、そうなの?」

「いつもは私の家で会うから」

「入らないんですか?」

 エレベーターの前で逡巡していると背後から声が掛けられた。

「あら今晩は、華理那ちゃん」

「今晩は。こちらが片桐掟さんですね。初めまして、瀬尾華理那です」

「貴女が瀬尾君の妹さん?」

「の一人です」

 と笑う。

「似ているわね」

 と言うと、

「元とは父親似なので」

 と華理那ちゃん。

「矩総君の目はお母さまの永瀬先生似だものねえ」

 と千種。

「そうなんです。兄は顔の上半分が母似で、下半分が父似。私はその逆なので」

 私が似ていると感じたのは父親譲りの目元だ。これは二人の異母兄春真君と希総君にも共通した特徴だ。

「今日は全員参加?」

 と千種。

「姉の滝川万里華だけは試合が有って不参加ですけど、代わりに日野沙弥加さんが参加しています」

 沙弥加さんは既に長男の嫁と言うかもう一人の姉として扱われているらしい。総志君の背を押したのは末の妹の恭子ちゃん。

「兄さんが行かないなら春真兄さんでも希総兄さんでも良いのよ」

 と言う聞き捨てならない台詞も有ったとか。

「そうなっていたら、片桐さんの出番は無かったですね」

 と笑う華理那さん。

 華理那さんに連れられて最上階中央の共用スペースへと足を踏み入れると、真っ先に近付いてきた春真君が、

「お陰さまで受験から解放されました」

 と頭を下げて来る。A認定を獲得したので本試験はほぼ免除である。御曹司の彼にとっては学費完全免除のSまでは必要が無い訳だ。

「うちの高校でもA以上は上位五人くらいなのに、お前十番前後だったろ」

 と高校では万年二位だった総志くん。常勝一位は弟の矩総君だった。

「そうよ。平均すれば私の方が上だったのに」

 と昨年Bしか取れなかった総美さん。

「春真は一発勝負に強いからなあ」

 と矩総君。

「どこに行くか決めた?」

 と千種。

「兄さんのいるK大も考えたんですけど、敢えてライバルのW大へ行く事にしました」

「あら。うちの大学じゃあないんだ」

「T大は俺のキャラと合わないから」

 確かに。

「このテーブルって見覚えありませんか?」

 と希総君。

「ご実家で見たモノに似ているわね。一回り小さいけど」

 真四角のテーブルの中央にクリスマスケーキが置かれ、その周囲に豪華な料理が並べられている。

「元々はうちの母のデザインで、こちらがオリジナルの第二弾なんです」

 と総志君。

「志保美さんって内装も手掛けるの?」

「ええ。このマンションは母の最初の作品です」

 と得意げだ。瀬尾総一郎の息子たちは総じてマザコンだ。西条家だけは若干構造が複雑だが。

「床下から迫り出してくる機能は無いのね」

「それは母の趣味なので」

 と頭を掻く希総君。

「その代わりに別の機能が有りまして」

 とボタンを押すとテーブルが動き出した。中央のケーキの置かれた部分が斜めの正方形で残り、四方が一回り小さな四つのテーブルに成る。正方形の一角が削れた形の五角形に成っている。人一人が通れるぐらいの幅で動きが止まった。

「人が通って給仕できるように計算されているんですよ」

 第一弾は普通に四分割されるモノだったが、中央にケーキを置きたいと言う瀬尾さんの意見を入れてこの改良型が作られたらしい。

「人力で動かせばいいだけなのに、横着ね」

「本当は周囲の料理を食べ終わった後で、ケーキを食べる時に作動させるものなんです」

 と華理那さんがこっそりと教えてくれた。

 四つに分かれたテーブルの左奥、上座の位置に総志君と沙弥加さん。同じテーブルの斜め隣に総美さんと恭子ちゃん。右側の上座には矩総君と華理那ちゃん。矩総君が右側に座ったのはその斜め隣に千種が座っているからである。そして何故か一人だけ内側に座る希総君。

 下座側は御堂系の本流と傍流。左手のテーブルには春真君と真梨世ちゃんが斜めで隣り合う様に座り、残る一つには私と太一君と皆人君と言う配置だ。

 パーティが終わって。

「T大に来なかったのは、既に敗北を認めたと言う事じゃないわよね」

 とこっそりと耳打ちする。

「敵わないなあ」

 春真君はペチンと額を叩く。

「片桐さんこそ、どちらにするか既に決めているでしょ」

 と返されて、

「結婚となると、御堂春真と神林希総の個人的な優劣だけでは収まらない。御堂家と神林家の家風まで見なければならなくて、どちらが自分に合うかと言う話なの」

 ああ。既に答えているのと同じだ。

「結論を先送りにしているのは、俺に気を使って?」

「それも有るけど。最大の問題は年齢ね」

「年下なのは最初から判っていたでしょうに」

「年齢差では無くて、いいえ。それも有るんだけど、彼が十八に成るまでまたないといけないから、私の方が我慢できなくなりそうで」

「じゃあ、希総が十八を向かるまではこのまま行きましょう」

「でも、それじゃあ貴方は?」

「俺の方に別に良い相手が出てくれば、遠慮なく振りますから」

「これって、私が振った事に成るの。それとも振られたことに成るの?」


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