総志無双
瀬尾総一郎の長男西条総志はこの四月に大学生になった。Aランク認定を受けた彼が選択したのは両親の母校でもある私立の名門K大学理工学部である。B認定で本試験までもつれ込んだ姉の総美の方は国立のH大学商学部に合格し、生まれてからずっと一緒だった双子の姉弟は初めて全く異なる環境に身を置くことになった。と言っても性別が違うので同じ学校に居てもべったりという訳では無かったのだが。
彼にとってバスケットボールは姉から逃れる手段でしかなかった。それが思いのほか彼に向いていた為に大成功を収めたが、それ故に辞め時を見失っていた。バスケが嫌いな訳ではないが、これを本業にするつもりは端からない。一応プロ契約はしているが、そこから得られる収入は実は父から譲与された株式の配当よりも安い。
古豪と言われた大学のバスケットボール部も一応覗いてみたが、プロ選手である彼は大学の部活には入れない。こっそりと消えるつもりだったのだが、190を超える彼の長身で目立つなと言う方が無理な話だ。高校時代に戦った事のある三年生の先輩に声を掛けられた。
「西条君じゃないか。うちの大学だったのか」
一緒に見学していた新入生が一斉にこちらを見た。総志は咄嗟に掌を相手に向けてボールを要求する。ボールを受け取ると、アンダースローで高く放り投げる。全員の視線がそのボールに向いている間に早足でその場を立ち去った。背後から歓声が上がったので恐らくボールはリングに入ったのだろう。狙いはしたが入っても入らなくてもどちらでも良い話だ。
「待ってくれ」
一人だけ総志のトリックに引っ掛からなかった人物が居たようだ。総志は足を止めず首を回してちらりと相手を確認した。どうやら彼と同じ一年生らしい。と判ってそのまま歩く。別に速度を上げて振り切ろうとまではしない。別に逃げている訳でもないのだから。
「君は覚えていないかもしれないが、二年の冬に一度だけ対戦機会があって」
「名豊学舎の12番。名前は悪いけど覚えていないな」
「俺は終盤の五分ぐらいしか出ていないのに」
「確か俺のドライブで味方同士の接触を起こして、負傷退場からの交代。その時の一言が印象的で良く覚えているよ。不謹慎だけど出番が出来てラッキー、だったかな」
「俺はあの一言で先輩たちの不評を買って部を追われたんだ」
と頭を掻く。
「お陰で受験勉強をする時間がたっぷり取れてここに居る訳だけど」
と言って右手を差し出して
「経済学部一年檜垣慎策だ。宜しく」
と名乗る。その手を握り返すと、
「今更だけど、理工学部一年の西条総志だ」
改めて見ると身長は総志と同じくらいである。二人はそのまま並んでキャンパスを出た。
「今日はもう帰るのかい?」
「この辺りに詳しい、訳は無いか」
「あいにくと、東京に住むのは初めてで」
「此処は東京じゃなくて横浜だけどな」
と言いながらスマホで何やら検索を始めた。
「意外に近いな」
と言いながら歩き出す総志。檜垣は特に説明も求めず黙って付いてきた。二人が辿り着いたのは屋外のバスケコート。
「先客が居るな」
素人くさい動きの三人が楽しそうにボールをやり取りしていると、後から来た五人組がこれに絡む。三対三を始めてコテンパンにやられてすごすごと去ろうとする三人組を見て、
「俺たちも混ぜてくれないかな。今度は五対五でやろう」
といきなり場を仕切りだす総志。檜垣の靴がバッシュなのは事前に確認済みだ。
「五分だ」
とスマホでタイマーをセットして試合開始。審判もいないので、
「ボールはそっちからで良いよ」
と渡す。
「後ろは頼む」
と言ってボールを持っている相手のマークに付くやいきなりスチールをかまし、そのまま敵陣へ攻め込む。前を二人に塞がれると、慌てず後方に来ていた檜垣へノールックパス。
「シュート」
パスを受けた檜垣は弾かれるようにシュートを放つ。惜しくもリングに弾かれたがそこへ走り込んでいた総志がこぼれ球をそのまま叩きこむ。
ディフェンスに戻りながら守備体型を指示。総志が前に立ち、その後ろに素人三人が横に並び、一番後ろに檜垣が控える十字型の隊形。と言ってもボールが総志のラインを越える事は無く、全て総志の位置でカットされてターンオーバーからの得点となる。
結局五分終わって十五対零で終わった。思ったよりも点数が取れなかったのは総志自身が積極的にシュートを撃たなかったからだ。審判が居ないのだからラフプレーを仕掛けてくるかもと抑え気味だった事も有る。ガラは悪いがプレイそのものは実にクリーンな五人組だった。
「約束通り俺たちは・・・」
と潔い五人組に、
「別にそんな約束はしていないよ。楽しく一緒にやれば良い」
その後は三人と五人が混ざって組み合わせを変えながら和気あいあいとプレイをしている。
「思ったよりも出来るな」
と総志。
「部から追われたって聞いたからブランクが有ったんだろうに」
「いや。部活動は辞めたけどバスケは続けていたよ」
「だろうね。そうでなきゃバッシュを普段使いはしないだろうから」
「大学に入って、バスケ部に入ろうかと迷っていた時に君を見掛けて声を掛けたんだが」
「俺はそもそも大学の部活には入れないよ」
「じゃあ俺も辞めておこう」
「だったら一緒にやらないか?」
サークル活動としてストリートで遊ぶ。遠征して道場破り的な活動をすれば旅行サークル的な要素も加味できる。
「ストリートボール愛好会ってことか」
「それって、僕らも入って良いかな?」
すっかり意気投合した八人はみんな大学生だった。愛好会なら全員が同じ大学である必要もない。
「取り敢えず三禁さえ守ってくれれば」
飲み会はしない。金の貸し借りはしない。そして女性を連れ込まないである。
「なぁに。応援に行ったらいけないの?」
と沙弥加が不満を漏らしたが、
「それを認めたら、他の連中も女を連れてくるかもしれないけど、それでも良いのか?」
と言ったらしぶしぶ納得した。
初めは関東近辺のストリートチームを日帰り遠征で次々に相手した。以前にスキー旅行で戦ったレッドアーマーズも噂を聞きつけて上京して挑戦してきたので、交流の出来たチームを集めてミニトーナメントを開催したりもした。
正規の大会に出たいと言う意見も出たが、
「俺は一応プロだから、アマチュアの大会には出られないんだ」
と言う事で総志を抜いた残りの面子から選抜してそこそこの結果を出していった。
総志目当てで女の子の追っかけも出来たが、彼女持ちをアピールしたらそれも次第に鎮静化した。それが狙いだった一部のメンバーも自然に淘汰された。
そんな感じで三カ月。学食で檜垣と夏休みの計画を練っていると、
「西条君だね」
声を掛けてきたのは、
「バスケ部主将の城崎さんですね」
「君の力を貸してもらえないだろうか」
「貸すも何も、俺は部には入れませんよ」
「今年、戦力として期待していた新入生は軒並み君のところへ持って行かれた」
軒並みと言うほどK大生は居ないのだが、
「このままでは伝統ある我がバスケ部は存続の危機だ」
現在二部リーグ。一部復帰どころか三部への降格もささやかれている。
「それで貴方が困るんですか?」
「なんだと?」
「新入生が居ないと、二年生は雑用から解放されなくて困る。威張る対象が居なくなってOBが困る。あるいは卒業後に使える人脈が一つなくなる。そんな所でしょう」
ただバスケがやりたいだけの人間がそんなものに拘る筈もない。
「助っ人を使って勝ったところで今のままではじり貧状態は変わりませんよ」
一年生がほとんど居ないので二年生は雑用から解放されず、練習が出来なかった為に新人戦は散々であった。
「原因がはっきりしているのだから、対策は判り切っている。後はやるかやらないかですね」
と突き放す。
「勝負しないか。うちの部と君のサークルで」
「意味は無いですね。どうせ俺がいる方が勝ちます」
と言い返されて絶句する城崎。
「それに勝ったところでうちのサークルには何のメリットも有りません。でも」
総志はポンと手を打って、
「勝負と言うなら、俺の後輩とやってみませんか?」
と言う訳で母校を訪問した総志とそれに同行したK大バスケ部のレギュラー陣。
「忙しいだろうけど、ちょっと相手をしてやってくれ」
南高バスケ部はインターハイ出場を決めて最終調整の段階にあった。
体格では優位にある大学生チームだが、全く歯が立たずに敗れた。
「これが高校トップの実力か」
と愕然とする主将に、
「一対一なら体格に勝る大学生の方が勝つでしょう。でも五人対五人ならこの通り。さてこの差はどこからくると思います?」
城崎は少し考えて、
「意識の差か」
「あれが見えますか?」
とチームの標語を書いた横断幕を指差す。
「one for all. all for one.」
英文学部だと言う城崎は流暢に発音する。
「未だに誤解されているんですけどね」
あの横断幕を掲げて初めて全国へ行った二十数年前、そして総志がいた黄金時代。大エースがチームを引っ張ってきたためにエースを生かすチーム作りだと理解されていた。その認識を打ち砕いたのが総志の引退直後の冬の選手権だ。
「重要なのは、ここが私立のスポーツ強豪校ではなく只の公立だと言う事。この中には中学では別のスポーツをやっていて、バスケは高校からと言う人間が何人もいる」
「大体一割は素人でしたね」
と美少女監督。
「部員数は二十人程度。少数精鋭と言えば聞こえはいいけど、単に学校全体で人材を取り合っているだけ。公立だから一つの部活に全てを注ぎ込むような事はやらないし、そもそも出来ない。高校の部活動だから勝つことは結果であって目的ではない。さて大学の体育会系の目的ってなんでしょうね?」
「それでも俺は勝ちたいと望む。それはいけないだろうか」
「別にいけなくはないですよ。大事なのはそこに至る道筋ですけど」
「先ずは部内の意思統一が先決だと思いますけど」
と万里華が口を挟む。
「体育会系の部活は、特に大学だと就職の為の人脈づくりと考えている人も沢山いるでしょうし、それが一概に悪いとも言えません」
総志がそう言うところから自由でいられるのは、家業を継ぐと言う着地点を持っていたからだ。
「意見がまとまった時点でもう一度声を掛ける」
そう言ってバスケ部一同は引き揚げて行った。
「良いんですか、あんなに煽っちゃって」
「何を言う。良い大人が若造に煽られたなんて口が裂けても言わないだろうさ」
「その言い方は父さまにそっくり」
「そうかな?」
「そうです」
確信犯的に言う総一郎と違って自覚が無い分だけたちが悪いかもしれない。
夏休み。総志はキャンピングカーを借りて沙弥加と海に出掛けた。
「こんなものどこから?」
「希総のところから」
「なんで私まで呼ばれたのよ」
と何故か居る総美。三人が揃うのは高校卒業以来、五か月ぶりだ。
「断わっても良かったのよ」
と笑う沙弥加。
事前に二人で水着を買いに行ったらしい。互いの近況を語り合いながら自然に海へ行く話がまとまったのだが。
「彼氏は作らないの?」
と聞かれた総美は、
「私に声を掛けてくる度胸のある男が居なくって」
と笑う。177の長身。だけならともかく彼女は世に広く知られていた父親瀬尾総一郎そっくりの容貌だ。政界を去って過去の人となっている筈だが、まだまだ若者層には熱狂的な支持者が多い。
「ふうより大きい男なんて貴方の周りにはいくらでもいるでしょ」
「本人が望むなら紹介しても良いけど」
今日だって誰か連れて行こうかと言ったけど拒否られた。
「姉さんはむしろ自分より小さい男の方が好みなんだと思う。ただ男の方は自分よりでかい女を好まないので上手くマッチングしないんだろうなあ」
「あそこに美女二人発見」
と総美。
「どうせなら良い男を探せばいいのに」
とぼやく沙弥加。
「ちょっと声を掛けてくるわ。車のところで待っていて」
と行ってしまった。
しばらくして総美が連れてきたのは、片桐掟と滝川千種だった。
「先日はどうも」
「あんな遠目だったのに良く覚えていますね」
と驚く掟に、
「なに、知り合いなの?」
と喰いつく千種。
「うちの弟たちと俺の試合を見に来ていたんですよ」
「バスケをやっているお兄さんでしたか。背は高いけど意外に細いですね」
「筋肉量は、特に上半身だけなら矩総の方が上でしょうね」
矩総は元々速筋の方が多めで、鍛えるほどに筋繊維が太くなる傾向にある。が遅筋が少ないので長時間持続しない。それに対して総志は速筋と遅筋が同程度な万能型で筋トレをしても余り筋繊維が膨張しない。高出力を長時間維持できるまさに理想的なアスリートタイプなのだ。
「既にご承知みたいだけど、この長身のイケメンがうちの長男の総志。その隣のちっこい美女が相棒の日野沙弥加」
「ちっこい言うな」
「こちらは片桐掟さんと滝川千種さん。二人ともT大法学部三年の才媛よ」
と総美。
「すると矩総君関係?」
「私の方だけです」
と千種。
「滝川さんは千里さんの従妹なのよ」
と総美が補足。
「私も広い意味では瀬尾君の関係者になります。うちの母が永瀬矩華さんの昔の上司だから」
「現状は未来の妹候補。御堂になるか神林になるかは未定だけど」
と総美。
「どちらにしても玉の輿ねえ」
あっさりと状況を理解した沙弥加は千種と協力して昼食を作り始めた。
食べ終わって暫く休んだ後再び海へ向かうと、総美がビーチバレー大会の参加者募集を聞きつけて、
「二人で行って来なさいよ」
と総志と沙弥加を押した。
「姉弟で出た方が良かったのでは?」
と千種が言うと、
「さーやは私よりも上手いから」
と笑う。
沙弥加が前衛に位置して、
「取り敢えず上にあげてくれれば後はこちらでどうにかするから」
「ああ。トスは少し高めで頼む」
総志のレシーブが多少乱れてもセッターが本職だった沙弥加はそれを正確にネット際にあげる。総志はその高めのトスを難なく叩く。
「跳び過ぎて顔がネットの上に出ていますね」
と感嘆の声を挙げる千種。
「足場の悪い砂地ではあんなものね」
と腕組みする総美。
「総志の最高到達点は四メートルを超えるから」
「え、そんなに?」
「あくまでも指先の届く高さだから実際の打点はそれよりも低いわ」
それでも総志君の打点は対戦相手のブロックよりも遥か上である。ブロックは飛ぶだけ無駄と判断して二人で待ち構えてレシーブを試みるのだが、
「六人制よりは一回り狭いけど二人でコート全域をカバーするのは不可能だわね」
と笑う総美。
総志の高さはブロックでもいかんなく生かされる。
「ブロックは高く跳ぶ必要はないから片手じゃなくて両手を出して」
と沙弥加。
「バスケの癖が出ているわね」
バスケのシュートブロックはコースに片手を出してコースを変えられれば良いのだが、バレーでは単に触れるだけでなく相手コートに叩き落とさないと意味が無い。
総志の高さと沙弥加の正確なプレーが見事に噛み合って二人は決勝までは危なげなく勝ち進んだ。決勝の相手は昨年の覇者だと言う三十路の御夫婦。揃って元国体選手だったと言う強敵だ。ここまで誰も触れなかった総志くんのアタックが初めて防がれた。と言っても一発で止められた訳ではなくワンタッチで勢いを殺されて後衛の奥さんがレシーブしてきたのだが。
「どうする。もうすこし高く跳べるけど」
と総志。
「駄目ね。あれ以上高く打ち上げると、風に流されて的が定まらなくなるから。それよりも場所を入れ替えましょう」
総志が前に出て沙弥加が後ろに下がった。沙弥加はレシーブをネット際にあげて、
「そのまま打って」
沙弥加の正確なレシーブ力が有って成立するツーアタックである。だがこれでは高さが出ないのでブロックされる可能性が高い。敵がブロックに跳んで来たのを見て、
「こっち」
沙弥加が助走をつけて前に走り込み、総志は空中で体をひねりながらトスを回す。相手も沙弥加がアタックを打てるとは思いもしなかったのだろう。相手を見て手を変えられる二択攻撃である。これでは防ぎようが無い。
沙弥加はこれまで使ってこなかった必殺のジャンプフローターサーブまで繰り出した。風の影響がある屋外では精度に不安があってここまでは使用を控えていたらしい。
結局、このサーブの威力が試合の帰趨を決めた。
優勝賞品は夫婦茶碗だったが、
「取り敢えず君が持っていて」
と総志。
「早く揃いで使えると良いわね」
とからかう総美。この三人の関係はまさに三竦み。総志は姉の総美に頭が上がらず、総美は相棒の沙弥加に一目置く。そして沙弥加は総志を立てる、と言う具合だ。
冬の大学選手権に向けて城崎はK大バスケットボール部に思い切った実力至上主義を導入し一年であっても実力が有れば雑用はしなくても良いと方針を打ち出して部員募集を掛けた。しかしそれに反発した二・三年生から大量の退部者を出した。四年生はもう少し老獪で、OB会を引っ張り出して抗議活動を展開した。
「このままではバスケ部は分裂する」
と頭を抱える城崎。
「もう分裂しているでしょ」
とまだ他人事を決め込む総志に、
「そうなんだ。俺を支持するメンバーと反対派とで代表決定戦を行う事になったんだ」
「勝算は?」
「あったらこうして相談には来ていない」
「ここまで事態が悪化したなら、傍観も出来まい」
と檜垣が間に入る。
「君が助っ人に入ると言うなら止めないよ」
結局彼のサークル内のK大生数名が城崎派に加わった。総志本人は試合には出られないが、総志が関与する事で一度は辞めた中間派の二・三年生が城崎派に合流した。
「時間が無いので、俺が高校時代にやった実戦形式をやります。三人ずつ適当に組んでコートに入って下さい」
「三対三でもやるのか?」
「まあ似たようなものです。先ずはディフェンスから」
と言いながら軽くストレッチを始める総志。
「誰か時間を計って。俺がセンターラインを越えたらスタートして二十五秒。残り五秒になったらカウントダウンして下さい」
と言ってからスタート。二十五秒どころか、十秒も持たずにシュートを決めた総志。手帳にメモをして、
「次。外野も自分たちの順番になったらどうするか考えておいて」
と言いながらどんどん進める。一周目は誰も総志を止められなかった。
「もう一周。次はメンバーを入れ替えるから」
と言いながら、手帳を見ながらコートに入る三名を順に指名していく。既に全員の顔と名前を一致させているらしい。
二周目は一周目の状況を見てぎりぎり勝てる程度まで速度を落とす。絶対に勝てない相手だと士気が落ちるが、少し頑張れば勝てそうだと思うと士気も能力も高まる。
三周目には止められるチームが出てきた。
「次はオフェンス。守るのは俺一人だから何とか決めて下さいよ」
と言いながら同じく三周回す。今度は逆に落としたところからじわじわと上げて行く。
「ではこの面子をAとBに分けます」
「一軍と二軍ってことか?」
「似たようなものだけど少し違います」
Aを指名する時は二人の名前をセットで、Bを指名する時は三名ずつ読み上げる。
「ここからは二対三でひたすら実戦形式で練習します。同時に呼んだ二名ないし三名はセットなので互いに顔を覚えておくように」
と言って総志は休憩に入った。水分補給はしたが息は切らしていない。これはスタミナの問題ではない。動きに無駄が無いのだ。
「時間が有れば全ての組み合わせで練習したいのだけど、今はセットごとの連携だけを徹底的にやります。試合ではAとBを組み合わせて、選手交代もセットで行います」
攻撃に強いセットと防御に強いセットを作って、状況に応じて組み合わせを変える。Aが攻撃型でBが防御型。あるいはその逆。全員攻撃型あるいは全員防御型の四通りの組み合わせが可能である。
一ヶ月後、OB立ち会いの下で代表決定戦が行われた。
「で、勝ったんだね」
と希総。
「まあね。お前の時と違って遺恨を残さないと言う条件を付けられたから、反対派も一応は部に戻ったけど。さてどうなるかねえ」
後は結果次第。
以下は総志も預かり知らぬ話。
万里華から南校での一件を聞いた沙弥加は、
「千里さんにお時間を作ってもらえないかしら」
と頼み込んだ。
「あら沙弥加さんが私に相談なんて、K大のバスケ部の一件かしら?」
え、と驚く沙弥加。
「私はまだ何も話していませんよ」
と同席していた万里華。
「沙弥加さんが自分の事で私に会いに来る筈が無いし。有るとすれば愛しの総志君に関してでしょうから」
愛しのはスルーして、
「どこまでご存じなんですか?」
「総志君がK大バスケ部の再建に関与していてOB会から敵視されている事くらいかしら」
「大体そんな所です」
と言いながら総志から聞きだした話を追加補足する。
「結論から言えば、既に話は収束に向かっているわ」
「何かしたんですか?」
「私たちは何も」
私たちとは千里とそのかつての上司瀬尾総一郎を指すのだろう。
「総一郎さまは、子供の喧嘩に親が出る様なみっともない真似はするなと一喝。本人的には優しく諭したと言うのだけど」
と笑う。
「それにしてもまだそんな発言力が有るんですか?」
「青年党の勢力は縮小しているのにね」
青年党は総一郎の引退後の分裂もあって全盛期からは大きく議席を減らしている。その一方で人脈が左右に広がって総一郎本人の影響力は健在であった。
「でも一番効いたのは希代乃さんの援護射撃かしら」
OBの中でもこの件に特に入れ込んでいた人物がたまたま神林の部長クラスの人間だったのだ。その某部長はろくに事情も探らずに様々な方面に働き掛けを行い、それが神林の社長の耳にまで届いた。
「調べさせると仕事そっちのけでのめり込んでいたらしくって、部下からの評判はすこぶる悪い。典型的な体育会系で上下関係に煩いタイプ」
「命令して辞めさせたんですか?」
「そんな判りやすい人じゃないわよ。希代乃さんは」
某部長は人事担当重役に呼び出され、「私事に専念できるように」という配慮と共に暇な部署への移動が命じられた。要するに社外で何をしようが自由だが、社内的には使えないから切ると言う判断である。そして神林の部長と言う肩書で行っていた工作はこれで全部御破算となった。
斯くしてOB会は干渉を辞めて中立の裁定者に留まった。普通にやれば主力が多くいる反対派が勝つだろうと判断したのだろうが、当てが外れたと文句を言っても後の祭りである。




