表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/30

生徒会長神林希総・夏季

 インターハイ、男子バレー部の初戦の朝、

「みんなで応援に行くから」

 と弟の皆人からメールが入った。

「みんなって、誰と誰だよ」

 初戦は出る予定が無かったのだが、急遽ピンチサーバーとして出る事にした。彼は選手兼監督で登録しているのでこの辺は融通がきく。

 入場して観客席に目をやると、真っ先に目に付いたのは父にそっくりな弟滝川太一。丸い伊達眼鏡を掛けている。その隣で手を振る皆人、更にその隣には日野沙弥加が座っていた。

「あれでみんなか?」

 と思ったが口に出たのは、

「美人の先輩が応援に来ているぞ」

「女王様のご臨席だな」

 と浮かれる桜塚。昨年卒業した沙弥加はその華麗なセットアップと容姿からコート上の支配者・小さな女王様(リトルクイーン)と呼ばれていた。

「その呼び名、本人の前では使うなよ」

 どっと笑いが起こって初戦の緊張が解けた。

 第一セットを優位に進めた南高。二十点に達したところで留めとばかりに希総がピンチサーバーとして登場した。

「ナイスサー」

 と客席から声が掛かる。ちらりと視線を向けると、沙弥加の隣に座っている大きな影。既に競技を終えて駆け付けた野田刹那であった。

「先ずはこのセットを終わらせよう」

 希総はそのまま残りの五点を自らのサーブで決めた。

 コートチェンジの時に、

「今日は様子見じゃなかったのか?」

 と桜塚。

「そんなに手の内を見せる必要は」

「まだ全力は出していないよ」

 と言いながら客席に軽く手を振った。

 次のセットも状況次第では出るつもりだったが、その必要も無く勝利し決勝トーナメントへの進出を決めた。

 試合後のクールダウンをしていると沙弥加と刹那がやってきた。

「取り敢えず初戦の勝利おめでとう」

 初対面の一年はやや緊張気味に直立不動で応じている。

「太一と皆人は?」

 と希総が小声で訊くと、

「バスケの方に行ったわ。総志も来ているのよ」

 と沙弥加。

「私はこの後バスケの方を見に行くけど」

「僕も行きます。野田さんは?」

「私はもう宿に戻ります」

 と言う事で刹那はバレー部員と一緒に宿に戻り、希総は沙弥加のお供をしてバスケの会場へ向かった。

「やっぱり目立つわね、あの人」

 周囲よりも頭一つ高い総志は探すまでも無く見つかった。左右には弟二人。右側の太一は父親似だが、総志とその左の皆人はそれぞれの母親似なので、三人が一緒に居ても兄弟には見えない。しかし三人の母親同士が旧知なので一緒に居る事には違和感が無い。

 太一は自分の席を沙弥加に譲って自分は皆人の向こうの席へ移る。そして沙弥加の右手に希総が座る。

「遅かったな」

 と総志。

「サクッと勝ってすぐに駆け付けて来るかと思ったのに」

「そんなに簡単じゃありませんよ」

「バレーは試合時間が読めないからなあ。バスケと違って」

「その代わり実力差が有れば、あっと言う間に終わるけどね」

 と受けて立つのは沙弥加。

「痴話喧嘩はそれ位にして」

 と希総が間に入って、

「試合の方はどうなっていますか?」

「前半が終わってハーフタイムに入った所だよ」

 既に十五点差を付けてリードしている。

「バレーならとっくに終わっている点差ですね」

「バスケならここからひっくり返すことも可能さ」

「そう言えば昔良くやられましたね、将棋で。兄さんは自分が不利になるとこっそり将棋盤をひっくり返してしまうんだから」

「ひどいわね、それ」

「でもひっくりかえせるのは将棋盤だけで、持ち駒は駒台の上にそのままだから」

「将棋盤って足のある立派な奴ですか?」

 と太一。

「他にどんなのがあるの?」

 と真顔で返す希総。

「実力差があるなら駒落ちで指せばいいのだけど、弟相手に駒は引きたくないとごねるから一度だけと言う条件で認めることにしました」

 だから希総はなるべく持ち駒を使わないようにして戦う癖が付いた。盤面をひっくり返されても持ち駒が豊富なら対抗できるからだ。

「まあ兄さんがバスケを始めてからはそんなへぼ将棋もやらなくなったけどね」

「誰が一番強かったんですか?」

 と喰いつく太一。

「矩総は参加しなかったから希総かな」

「一番強いのは華理那ですよ」

 総志と入れ替わりで始めた華理那はあっと言う間に希総を凌ぐ腕前に成ったと言う。

 肝心の試合の方は南高が危なげなく勝ち上がった。

「で、兄さんたちはこの後どうするんですか?」

「流石に日帰りはきついのでどこかに泊まれればと」

「この時期に今から宿を探しても見つかりませんよ」

 と呆れる希総。

「良かったら僕らの宿に来ますか」

「助かる。と言うかそれを期待していたんだ」

 希総は宿に電話を入れる。

「沙弥加姉さんは万里華たちの泊まっている女子部屋に加わってもらいます」

 元々六人部屋を三人で使っているから充分に余裕がある。

「総志兄さんたちには空いている部屋を一つ準備して貰いました」

 バスケ部と合流して宿に戻ると、沙弥加は万里華と一緒に女子部屋へ向かった。

「兄さんたちは隣の部屋です。こちらの棟は内風呂があるので」

「助かります」

 と太一。

「総志兄さんと沙弥加さんは、まあぎりぎりセーフなんだけど。太一と皆人は流石にばれると拙いので」

 皆人の母は南高の卒業生で御堂家からの金は彼女の名前で寄付された訳だが、皆人がその金で泊まるとキックバックと取られかねない。そして太一は滝川校長の息子なので、完全に公私混同に成ってしまう。

「そう言う事なら専門家に聞いてみれば良い」

 と総志が助言する。

 総志と二人で隣の部屋に戻る。

「そう言う事なら」

 と即座に答えをくれる万里華。

「別会計にしてもらいましょう」

 隣の客、つまり総志たちの部屋だが、飛び込みで断れない客と言う事で借り切りの契約とは切り離して会計する。

「カードで払っちゃ駄目ですよ」

 と言われ困っている希総に、

「俺が現金で支払っておけばいいんだろ」

 と総志。元々自腹で泊まるつもりで金を用意していたのだ。

「領収書は貰っておいて下さい。後で御堂家の方で清算しますから」

「なにか金で解決するようで心苦しい」

 と希総が漏らすと、

「それこそ金持ちの感想ね」

 とばっさりと切り返す沙弥加。

「世の中のたいていの問題は金が無いから発生するのよ」

「それは、うちの父が言いそうな言葉ですね」

「正解」

 と笑い、

「受け売りついでに言うと、持っていないからと嘆くのも不毛なら、持っている事を引け目に感じる事もやはり不毛よ。問題は持っているモノを如何に使うか」

「なんだか、本当の姉と弟みたいですね」

 と感心する麗華。

「本物の姉よりも姉らしいからねえ」

 と笑う総志。本物の、とはこの場に来ていない長女総美の事だ。

「あの子、感覚派だから言葉で教え諭すのが下手なのよ」

 これはフォローなのか駄目出しなのか。

「じゃあ、僕は戻ります」

「私も一緒に行くわ」

 万里華に会計処理を任せてバレー部の大部屋へと戻る希総。

「集まって何をやっているんだ?」

「一回戦のデータ分析をもとに、敗者復活戦でどこが残るかを予想し合っているんだ」

 と桜塚。

「それは面白い」

 希総は自分の予想を書き込みながら、

「一つゲームをしようか。一つ外すごとに罰金百円を課す」

 敗者復活戦は十四カードあるから全部外すと千四百円の損失だ。

「その金、勝った奴が総取りなのか?」

 と桜塚。

「試合の後のお菓子代にする」

 と言ってから、

「全部当てたら、次の試合にスタメンで出すことにしようか」

 と言ったら士気が上がった。

 翌日、部員達からの要望を受けて総志と沙弥加が練習に参加してくれた。その間、太一と皆人は市内の観光へ。滝川校長の引率で刹那と麗華も同行した。

 軽く準備運動をした後で、

「じゃあ私は控えチームに入るわね」

 と沙弥加。希総が率いるスタメンチームとの三セットマッチを行う。沙弥加チームには一年が四人。

「大丈夫ですか?」

「何が?」

「今の一年生のプレーは見たこと無いでしょう」

「無いけど。二三年生だってまさか去年のままじゃないでしょ。やりながら調整するわ」

 と言いながらそれぞれに数回のトスを上げただけでメンバーの実力を概ね把握してしまった。

「こうしてネットを挟んで対峙するのは何年ぶりかしら」

「小学校以来だから、六年ぶりですか」

「あの頃は私よりも小さかったのにねえ」

 などと和やかに始まったが、試合が進むと次第に白熱してきた。

「女王様は健在だな」

 と感嘆する桜塚。沙弥加に与えられたリトルクイーンの異名は何も女王様キャラだからではない。由来はチェスの駒。盤上を縦横に動き回るその機動力を称えた呼び名なのだ。多少レシーブが乱れても素早く落下点に廻り込んでネット際にトスを上げるその攻撃的なセットアップは些かも衰えていない。サーブで狙おうとしても的が小さく、後衛から定位置に移動する際も邪魔に成らない。

 第一セットはスタメン組が取ったモノの、第二セットは控え組に取り返されてフルセットに突入した。

「あれまだやっているのか?」

 と総志。バスケ部員たちはクールダウンに入っている。

「もう終わるわ」

 一進一退ながらわずかに控え組がリードして二十点を超えた。ここで沙弥加のサーブ。ジャンプフローターが来ると思って前に出た所へ強打のサーブ。希総ほどの威力は無いが、予測を外されると反応が遅れてしまう。一気にマッチポイントに達するが、そこはどうにか凌いだ。

 そして今度は希総のサーブ。三ポイント連取で逆王手となった。レシーブが上がらなければ沙弥加のセットアップも無力。と言う事で選手交代。控えのセッターを入れてツーセッターにする。

 希総のジャンプフローターサーブをオーバーハンドで受けてそのままツーアタックに行かせる沙弥加。これでデュースに持ち込んだ。

「そろそろ時間ですよ」

 と万里華が声を掛ける。

「え、まだ約束まで一時間くらいは」

「汗をかいたからシャワーを浴びて服も着替えないと」

「仕方ないですね」

 試合はそこで終了となった。

 敗者復活戦を終えて、

「全問正解が出ましたけど」

「誰?」

「それが、日野先輩なんですが」

 帰り際に話を持ちかけたら、ざっと見て適当に○を付けて行ったらしいが。後で聞いたら、

「それは凄いわね」

 と他人事の様。

「全員のチェックを見て多い方に丸を付けて行っただけなのよ。だから凄いのは男子バスケ部の総合的な分析力ね」

 との事だった。

 ともあれ、部員の中で一番あてたのは一年生。

「約束通り次の試合はスタメンで出す」

 その次の試合であるが、決勝トーナメントの抽選では一回戦免除となり、二回戦からの戦いとなる。

「うちは対外試合が少ないから、出来れば多く試合をしたかったが」

 取り敢えず一つ勝てば昨年と同じベスト十六である。

「室町洛南は向こうのブロックだな」

 と桜塚。

「王島君に、決勝で待っているとか言われたよ」

「向こうは二年生にしてユース代表さまだろ。随分と見込まれたねえ」

「二年前は向こうが、昨年はこちらが勝ったから、決着をつけたいんだろうけど」

 今年も二つ勝ってベスト8で敗退となった。

「さて、三年はこれで引退だ。次の春高バレーは新チームで臨んでくれ」

 と主将の柳原。

「次の主将は桜塚に頼む。松木は副主将として桜塚を支えてくれ」

 指名された桜塚は当惑しているが、松木の方は事前に聞いていたらしく普通に応諾した。

「え、神林は?」

「僕は今まで通りだよ。選手兼監督(プレイングマネージャー)としてコートの外を仕切るから、中は任せる」

「それと、これは私事だが。うちの弟が来年ここを受けると言っているので、もし来たら可愛がってやってくれ」

 宿に戻って二人だけになった時で、

「どうして松木でなく俺なんだ?」

 と問い質す桜塚。

「指名したのは主将だよ」

 と惚ける希総に、

「しかしお前は拒否権を発動しなかった」

「拒否権って」

 と苦笑する希総。彼の立場は元々主将よりも上なのだ。しかしそれは彼が神林の御曹司だからではない。彼がチームで一番上手いからだ。

「マツだと後ろに僕が居るのが丸わかりだから、選手も自由に意見を言い難いだろう」

 柳原は、傀儡政権だと揶揄されながらも、言うべきところはしっかりと押さえていた。

「僕としてはやりやすい事は確かだけど、こちらの想定を超えた結果は出せない」

「お前の想定を下回る結果しか出せなければ俺の所為ってことだな」

「そこまで自分を追い込まなくても良いけど。まあそう言う事に成るね」

 と言っておいて自分の想定は口にしない。

 バレー部は引き揚げるが、希総は会長としてまだ試合がある部の応援の為に残留した。男子バスケ部と男女の剣道個人戦。どれも優勝の期待が持てる競技だ。

 その合間に、バレーの決勝戦を観戦していると、

「熱心ですね。わざわざ残って偵察ですか」

 と隣に座って声を掛けて来る女子が居た。

「どこかでお会いしましたっけ?」

「いいえ。お話をするのは初めてです。神林希総さん」

 少なくとも人違いでは無いらしい。

「貴方が来ていると知れば、王島君もやる気を増すでしょうね」

 室町洛南は決勝に勝ち残っている。

「室町の関係者ですか?」

「ああ御免なさい。名乗りがまだでしたね。室町美紗緒と申します」

「なるほど。室町武弘議員のお嬢さんでしたか」

 と返されて驚きの表情に成る美紗緒。

「その制服、北女の物でしょう。関西を基盤とする室町の人間でこちらにいるとすれば室町議員の身内しかいない筈なので」

「流石ですね」

「最初の質問に答えると、残っていたのは生徒会長として他の部活を応援する為。この決勝を見に来たのは、王島君からメールで誘われたからですよ」

 と丁寧に説明する几帳面な希総であった。

「なんであの時睨まれていたのか判らなかった」

 と後に漏らした希総。

「御免なさい。そんな積りはなかったんだけど」

 と恐縮する美紗緒。これは随分と後の話だ。

 見事連覇を果たした男子バスケ部。そして個人優勝を果たした竜ヶ崎姉弟と共に希総は帰路に就いた。

 最寄駅に出迎えに来ていたのは一年の部員一人。

「荷物をお持ちします」

 と言ってそのまま歩きだす部員に、

「何処へ行くんだ?」

「これから練習試合が有るんです」

 と言って車に乗せられて学校まで連れてこられた。

「ようやくお出ましね」

 待ち構えていた試合の相手は町内のママさんバレーチーム。その中にいたのは、

「どうして沙弥加さんが居るんです?」

「前々からコーチをしてくれないかと頼まれていたのよ」

 選手の中には見覚えのある人物も。

「今日は強力な助っ人も用意してあるから」

 と志保美。その背後にいるのはその娘、つまり西条総美である。

「一体どうなっているんだ?」

 と新主将の桜塚を問い詰めると、

「日野先輩から試合を申し込まれたんだよ。仙台での決着をつけたいと言われて」

「まあいいや。僕は着替えてアップを取るから先に始めていてくれ」

 そして戻って来た時には丁度第一セットが終わった所だった。

「まさか落としたのか?」

「まさかとは失礼ねえ」

 と不敵に笑う総美。

「日野先輩も凄いけど、やはり西条先輩は半端ないぜ」

 と汗をぬぐう桜塚。

 総美は女子としては大きいと言っても百八十にわずかに足りず、ユース代表にも呼ばれなかった。彼女が選ばれなかったのはその顔が父親にそっくりだった所為とも言われたが。

「第一セットのデータを見せて」

 一年生が取ったメモには得点の動きだけでなくどうやって点が入ったかもしっかり記録されている。この辺は希総が徹底して教え込んだのだ。

「なるほど」

 向こうのチームの最強セットは沙弥加と総美と志保美が前衛に来た時だ。これに対してこちらも松木と梅谷そして桜塚のいわゆる赤短トリオがぶつかるようにローテを回した。

 志保美は身長こそ高いが、身体能力はさほどでもない。だが単独でオープントスからのアタックを何本も止めていた。ジャンプのタイミングの取り方が抜群なのだ。

「あの人を甘く見ちゃいけない。何せあの西条総志の母親なんだから」

 総志の最大の長所はコート全体の敵味方の動きを俯瞰で捉える空間把握能力である。これは母親である志保美から受け継いだものだ。志保美のブロックを破るのは簡単で、彼女が付いてこられない早い攻撃を仕掛ければ良いのだ。本職のセッターである希総が入ってからは志保美の単独でのブロックはほとんど機能しなくなった。そう単独では。

 一般に空間把握能力は男性の方が優れている。娘の総美の方は息子の総志ほどには母の能力を受け継いでいない。一方で志保美に欠けていた優れた身体能力を備えていた。志保美がタイミングを指示して総美が跳ぶ。両者の特性が合わさるとまさに鬼に金棒である。

「ほんと、厄介だ」

 先行されたところでタイムアウト。

「さてどうする主将」

 と視線を向けられて、俺か、と言う表情に成る桜塚。

「コンビネーションで的を絞らせない。のは既にやっているな。一枚ブロックを抜けないアタッカーの不甲斐なさを反省すべきだが」

 と分析するが打開策は出てこない。

「力尽くでぶち抜きましょう」

 と威勢の良い蝶野。

「これが公式戦なら、当然そうすべきだけど」

 と窘める桜塚主将。

「もう少しで掴めそうなんだ。御堂の兄貴直伝のあれが」

 と松木。

「何かやろうとして居たのには気付いていたけど」

 始めたばかりの中学の頃には荒削りの力任せのプレーだったが、高校に入ってチームメイトに成った桜塚の影響でフォームが安定してきた松木であるが、

「迫力が無くなったな」

 とインターハイ予選を見た春真に言われて本大会では若干の迷走を見せていた。結局、公式戦では試せずに、この機会を生かすことにしたらしい。

 御堂の兄貴、つまり春真は手首の角度を調整してブロックの縁に当ててブロックアウトを取る事を得意にしていた。同じポジションで有る松木にそのコツを何度も教えていたが、

「あれと同じ事は僕にも出来ないからなあ」

 春真は指の角度で微調整できたが、それはピアニストとしての技量が有ればこそであって、普通の人が真似したら突き指してしまうだろう。代わりに松木が編み出したのはクロスとストレートの打ち分け。途中まで完全に同じフォームで、インパクトの瞬間に角度を付けると言うモノだ。これなら狭い一枚ブロックなら簡単に交わせる。

「もっと早くやってくれれば、もう少し勝ち上がれたのに」

「難しいのは咄嗟の判断力なんだ」

 そこを補うのが希総のセットアップ。クロスとストレートでトスの位置を若干ずらして打たせる。

「それって只の操り人形。じゃなくて打ち難くないのか?」

 と首を傾げる桜塚に、

「俺は広範囲を見るのは苦手だけど、動体視力には自信が有るんだ」

 要するにボールだけを見て打っ叩いている訳だ。

「俺には真似出来んなあ」

 と桜塚は苦笑する。

 試合は松木の大活躍で勝った。と言いたいが、一番猛威を振るったのは希総のサーブだった。

「いつになくやる気じゃないか」

 と桜塚に言われ、

「県のバレーボール協会から連絡が有って、今年の国体はうちのバレー部単独で出て欲しいって言って来たんだ」

「選抜ではなく?」

「ああ」

 昨年は選抜チームを組んだが、南高は表向きには学業優先、本音は新チームへの移行を理由に代表を出さなかった。

「今年は全国ベスト8だからね」

 南高の選手を外して県代表を組むのは無理がある。

「受けたのか?」

「期間中はコーチを派遣してくれるそうだから」

 利用できるモノは利用すると言う発想も彼らしい。

「流石に全国ベスト8は強いわね」

 と着替えを終えて戻ってきた志保美。

「早いですね」

「奥様方は化粧直しが大変みたいで」

 志保美はいつもの如くスッピンだ。下は二十代後半から上は三十半ばまで。つまり四十を超えているのは志保美だけなのだが。

「良くこれだけの面子を集めましたねえ」

 経験者二人の攻撃力は判っていたが、防御力は想像以上だった。

「別に私が集めた訳じゃないのよ」

 と苦笑する志保美。

「強いて言えばみちるかな」

 全員がみちるに子供を預けた事のあるママ友繋がりで、子供が学校へ行くようになって手が掛からなくなったから、結婚出産でたるんだ体を引き締め直す為に集まって何かやろうと言う事に成って選んだのがバレーボールだったと言う。

「ほぼ全員が何らかのスポーツ経験者で、体型を戻すだけに留まらず試合に出ようと言う事に成って」

 初めはみちるが誘われたのだけど、

「あの子、運動神経は良いのだけど。バレーボールだけは不向きで」

 胸が邪魔でレシーブが出来ないのだと言う。

「その代わりに目を付けられたのが私の身長。と言うのは表向きで、本命はバレーでインターハイにも出た娘の方」

「沙弥加さんも既に娘として勘定している訳ですね」


前後半で終わるつもりが終わりませんでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ