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スキー旅行

 西条総志と日野沙弥加は高校卒業前にスキー旅行にやってきた。総志の姉の総美は、まだ入試を控えているので参加を見送っている。二人ともスキーは素人なので、

「僕が一緒で良いの?」

 コーチ役として末弟の不破皆人が同行している。

「お前は兄弟でただ一人ウィンタースポーツのエキスパートだからな」

「そうよ。ちゃんと教えてくれないと」

 元々運動神経の良い二人なので、一日目で初心者コースを転ばずに滑れるまでになった。

「これなら明日は二人きりで大丈夫だね」

 三人は軽井沢の御堂家別荘に泊まった。初めて来た沙弥加は落ち着かない様子だった。

「兄さんは一号室で、さーや姉はその隣の二号室。中で繋がっているからご自由に」

 と皆人が含み笑いを浮かべる。

「何もしないわよ」

 と沙弥加が真っ赤になる。

 服を着替えた後、リビングルームで食事を摂って、

「日野君の部屋には、昔うちの母が泊まったらしいよ」

「昔っていつの話よ?」

「父さんが矩華さんと結婚式を挙げた時だよ」

 皆人は暖炉の上に飾られていたその時の写真を見せてきた。

 赤ん坊を抱いた矩華を中心にして右手に希代乃と野田なゆた、そしてその弟阿僧祇。左手には総志の母志保美と水瀬麻理奈。後列には沙弥加は有った事が無いが顔立ちから矩華の両親と判る。そして右手に立っているのは、

「これは、真冬さん?」

「御堂の本家。恵美さまだよ」

 と皆人。

「その反対側は弁護士の片桐真実先生で、当時矩華さんがお世話に成っていた法律事務所の所長さだ」

 と総志が補足する。 

「で、何が疑問?」

「沢山あるけど、ここってあそこで撮った写真でしょ?」

 と暖炉を指さす。

「ああ、そうだね」

 総志は気付いていなかったらしい。

「御堂の家に神林の希代乃さんがいて、逆に御堂家の血を引く人たち、真冬さんや皆人君のお母さんたちが居ないのは何故?」

「これは結婚式前夜の集合写真だけど、ここに泊まったのは新婦側の参列者なんだよ。新郎側の宿所はここから徒歩十分の距離にある神林の別荘」

 総志は麻理奈が立てた披露宴の企画について語って聞かせる。

「矩華さんが抱いているのは息子の矩総君だとして、貴方とふうはもう生まれていた筈だけど?」

「俺と姉さんはみちるママと一緒に御留守番だよ。一歳になったばかりの赤ん坊二人は騒がしいからね」

「それじゃあ。披露宴のビデオを見ようか」

 と皆人が言いだした。

「俺はもう見飽きたけどな」


 翌日。皆人は単独行動を取り、総志と沙弥加は二人でスキーデート。何回か滑って、そろそろ上級コースへ行ってみようかなどと話していると、

「ねえ、あれ皆人君じゃない」

 と沙弥加が指さす。総志も目は良い方だが、観察眼では沙弥加に及ばない。

「良くあんなのを見つけるな」

 そこには皆人がガラの悪そうな男たちと一緒にいる場面が見て取れた。

「ちょっと行ってくる」

 と滑り降りる総志に、

「あ、待って」

 と後を追う沙弥加。

 二人の腕前はほぼ互角なので先に滑り出した総志の方が早く現場に駆け付けた。

「お前ら」

「あれ兄さん。上手くなったねえ」

 と呑気な皆人の声。

「カイトの兄さんですか。今日は」

 と礼儀正しい男たち。

「正式には」

 つまり建前上はと言う意味だが、

「又従兄弟だけどな」

 皆人の母不破瞳と総志の父瀬尾総一郎は従兄妹になる。故に皆人と総一郎の親子関係を隠せば又従兄弟と言うことに成る訳だ。二人はどちらも母親似で、父親の面影を受け継いで居ないので全く似ていない。

「だから待てって言ったのに」

 と追いついてきた沙弥加。

「私は皆人君が居ると言っただけで、危ないとは一言も言っていないわよ」

「ところで、カイトって?」

 皆人の名前は、父の総一郎の総と似た意味の文字を選び、且つ母の瞳と言う名前を中に含むようにミナヒトと読む。カイトと呼ぶのは彼らがかなり親しい間柄なのだと判る。

「彼らはここをホームにしているボーダー仲間なんだ」

 どう見ても皆人が最年少だが、

「カイトは五年前に加わって、直ぐにナンバーワンになったよ」

 とリーダー格の男が絶賛する。

「これからハーフパイプのコースで滑るんだけど、折角だから見て行くかい」

 と誘われてついて行く二人。

「そのスキーでやるのか?」

 皆人が履いているのは普通のスキーである。ハーフパイプをやるなら、後ろ向きにも滑れるスキーに履き替える必要がある。

「使うのはボードだよ」

 と皆人。

「ハーフパイプの専用コースの上にあるクラブハウスに他の道具類と一緒に預けてあるんだ」

 ヘルメットや防具で身を固めた皆人は華麗なトリックを軽々と決めて行った。

「上手いわねえ」

「皆人は元々スケートボードから入っているからね」

 故にスキーよりはボードの方が得意だ。

「あいつの為に西条不動産(うち)が土地を用意して、そこに御堂家がスケートボードの出来る環境を整備した」

 御堂財団が全国展開した屋外スポーツ公園の第一号である。この公園では金網で区切られたエリアではあるが、キャッチボールなども出来る。そこへ知らずに入り込んで怪我をしても文句は言えない。

 入場は無料であるがそこで怪我をしても自己責任に成る。そこで不慮の事故に対処する為に、KMIが提供するスポーツ保険への加入が推奨される。むろん他社のスポーツ保険でも良いのだが、対応の速さでは他社の追随を許さない。御堂真冬はKMIの社長を神林希代乃から引継いでから、個人単位でのスポーツ保険を売り出して高い業績を叩きだしている。希代乃と真冬の着眼点の違いと言うか得意分野が如実に表れた事例であった。

 皆人はこの公園のいわばヌシ的な存在として知られるようになっていた。使用に当たって、技術的なランク付けのシステムを構築し、怪我人が出ないように自主管理が進んでいる。時には跳ねっ返りの新参者が文句をつけたりもしたが、そう言う時には、

「下手くそが無茶をして怪我人を出したら、みんながここを使えなくなるだろう。だから最低限の技術が有ることを確認したいだけなんだ」

 と論理立てて説明をしていく。

 それでもだめなら実力行使。と言っても喧嘩ではなくボードの技術勝負であるが、誰も彼には勝てなかった。

「あいつも組織のトップに立てる資質を備えているな」

 と驚嘆した春真。

「でも、皆人の資質は組織を一から立ち上げる創業者のそれ。つまりは父さんの持っていた才能だね」

 と矩総。

「こう言うのは後天的に磨かれる資質だから、後継ぎとして望まれて産まれてきた春真や希総が持っていなくても全く問題が無い訳で」

 それは西条家を継ぐべく期待されてきた総志や、父の後継ぎと自他ともに認める矩総自身にも欠けている。末っ子として育ってきた皆人のみに芽生えた才能だろう。

「もしかして、このハーフパイプも御堂家が?」

 と尋ねる沙弥加に、

「ここだけじゃなくて、このスキー場の筆頭株主が御堂家だよ。だから僕の使っているのは株主優待だし」

 と言って首から下げていた通年パスを見せる皆人。

「通年と言ったって、雪のない時はどうするの?」

 と首を傾げる沙弥加だが、

「雪のない時にはこの辺りはモトクロスのコースに成るんだよ。それにスキー場だけではなくて、下のスポーツセンターも込みなんだ」

「良かったら、行ってみませんか?」

 と皆人の仲間に誘われた。

「じゃあこれで行きましょう」

 と皆人が持ち出したのがスノーモビルである。

「ちょっと待て。お前が運転するのか?」

「大丈夫ですよ。公道以外なら免許は不要ですし。彼はきちんと講習を受けていますから」

 と皆人の仲間。

「一応扱いは普通自動車だから、免許を持っている兄さんたちでも運転は出来ますけど」

「後で教えてね」

 と適応力の高い沙弥加である。

「見慣れた建物ね」

 到着したのは御堂家が全国に展開しているスポーツセンターの一つ。近所にも有るので総志と沙弥加も会員に成っている。御堂真冬が財団理事長に成った時に立ち上げた事業の一つなので、彼らが入ったのはまさに第一号店なのである。

 レンタルのジャージと靴に着替えて再合流。

「ジャージはともかく、靴のサイズが有るのは流石だな」

「西条君は足がでかいものねえ」

「事前に予約しておいたんだよ」

 とサラっと言う皆人。

「言われてみれば、会員証を見せただけで直ぐに着替えが出てきたな」

「持つべきは株主の弟ね」

「二人は、高校スポーツ界の有名人だから、むしろ宣伝に使われているんだよ」

 二人は公式試合での実績を評価されて特別会員(プラチナムメンバー)に成っているのだ。

「ああ。ここにも有るんだな」

 総志が見つけたのはジャンプの最高到達点を測定するボードである。総志は地元の記録保持者である。

「折角だからここの記録も塗り替えて行ったら」

 と勧めてくる皆人。

「記録は?」

 と見ると、

「三四〇cmか」

 軽く肩を回して股関節の柔軟をして、数歩の助走をつけて跳んだ到達点は三八八cm。

「まあこんなものか」

 総志の自己ベストは三九六cmである。

「なに。四メートル行かないの」

「普段使っている自分の靴じゃないからね」

「さーや姉もどうぞ」

 沙弥加の自己ベストは三二二cmであるが、この日は三〇六cmだった。ちなみのここの女性の最高記録は三五〇cmに成っている。

「なんで女子の記録の方が上なのよ」

「ああ、それは去年刹那姉さんが出した記録ですよ」

「そうなの。西条君との身長差を考えればもう少し跳んでも良さそうな気もするけど」

 総志の身長は百九十二センチ。刹那は百八十八センチである。

「あの子はオールラウンダーだからな」

 七種競技の選手である野田刹那は投擲競技も有るのでかなりの筋肉質である。故に跳躍競技専門の選手よりは重いのは仕方が無い。

 巡って行くと、先ほどの面々がバスケのコートで三対三をやっていた。 

「兄さんも参加する?」

「まさか。俺が入るのは大人気ないだろう」

 総志は先の天皇杯の優勝メンバー、しかもMVPまで獲得しているプロ契約選手だ。素人とは格が違い過ぎる。

 しばらく見ていると、大柄の三人組がやってきて、かなり荒っぽいプレーで場を支配し始めた。地元のストリートボールチームのメンバーらしい。

「リングが一つだと走らなくて良いから楽だな」

 とぽつり。

「物足りない、の間違いじゃないの?」

「まあどちらにしても、このレベルで兄さんが入ったらゲームに成らないよね」

 と皆人。

 この言葉が聞こえたのか、ボールがいきなり皆人の顔面めがけて飛んでくる。それを隣にいた総志が片手でキャッチする。

「お前、避けるとかしろよ」

「兄さんが隣にいて、変にビビったら却って恥ずかしいじゃないか」

「今、俺たちのレベルが低いって言う話が聞こえたが」

 と絡んで来る。

「その前に、ボールを逸らして御免なさい。だろ」

 一触即発の場面で、

「取敢えず僕が入るよ」

 と皆人。

「二十一点取られたら終了なんだぞ」

 現在の点数は十五対六である。

「何とかなるよ」

 と言いながらジャージの上を脱いでコートに入る皆人。

「皆人君って、バスケも出来るの?」

「一対一なら恭子と良い勝負かな」

 皆人がボールを持って再スタート。

 相手の三人は百八十以上の長身なのに対して、こちらの二人は百七十前後。小六の皆人に至っては沙弥加よりも少し高いが、まだ成長途上で百六十に足りない。

「先ずは」

 と言いながら外からのシュートを決める。

「これで二点っと」

「攻撃は良いとしても、相手のボールを取れないと勝負ならないな」

 敵は身長差を生かして上を抜こうとするが、それを許さない皆人。シュートを叩き落とすと、ラインの外で味方がボールを確保。

「打て」

 シュートは惜しくも外れたが、そのまま空中でキャッチして叩きこむ。

「まさか。あの身長で届くの」

 と驚く沙弥加に、

「君がそれを言う?」

 と苦笑する総志。沙弥加はボールを持ったまま跳ぶ事は出来ないが、パスを出してやれば空中で掴んで叩きこむことが出来る。その方がよほど難度が高いのだが。

 皆人は頑張ってはいたが、やはり最初の点差が大きすぎて三点差まで詰めた所で泣きが入った。

「助けを呼ぶなら、もう少し早くしろよ」

 相手は既に二十点目。あと一点で勝敗が付いてしまう。

 三人制の場合、通常は四人一組。つまり交代できるのは一人だけ。と言う事で相手チームから抗議が来た。まあ要するに明らかに経験者っぽい総志の加入を怖れた発言であるが、

「だったら私も入るわ」

 と沙弥加。

 明らかに背の低い沙弥加の参加は程よいハンデだと思われたらしく向こうの四人目(ひかえ)がそれを了承した。

「大丈夫か?」

「長い距離走らなくて良いからね」

 バレーボールでもとりわけセッターは動きまわることが少ないので、持久走が苦手な沙弥加である。

 中央でボールを回すのはやはり皆人で、総志が右の奥。そして沙弥加は反対側の斜め四十五度の位置に突っ立っている。

 皆人のロングシュートは完全に警戒されていて、身長差が有るからマークを完全に外さないと打てない。残り二人は総志にダブルチームを掛けて、沙弥加は完全にフリーである。その状態で、皆人はドリブルで抜くと見せかけて沙弥加に高めのパスを出す。沙弥加はそれをリングに向かってオーバーハンドトス。総志についていた一人が慌ててガードしに来るが間に合わずそのまま二点シュートが決まる。これで一点差。

「重いバスケットボールをトスであの距離飛ばすなんて流石ですね」

「あんなのバレーの試合なら完全にホールディングよ」

 それでも一発で決めたのは、以前に試した事が有るからである。

 さて困ったのは相手方だ。女性でしかも背の低い沙弥加が戦力になるとは全く思っていなかったのだが、これでは無視することは出来ない。そして一人で総志を止める事はほとんど不可能である。

「何をやっている。あと一点取れば勝ちなんだぞ」

 とベンチの四人目に叱咤される。

「二人で当たれ」

 総志はボールを持っている敵にダブルチームを掛けさせて、自分はゴール下で待ち構える作戦に出た。遠目のシュートさえ打たせなければ、ゴール下でたたき落とせると言う計算である。

 二人のマークのうち、低い沙弥加の上を通そうとして予想外に高いブロックに阻まれた。それも下にたたき落とすキルブロックではなく、あえてコースを変えるソフトブロックを選択した。ボールは計算通り総志の待つゴール近くへ飛んで行った。

 総志はそれを空中で掴むと、

「皆人」

 沙弥加がボールに触れた時点ですばやく外に流れていた皆人は、これを確実に沈めて逆転の二点シュートとなった。

「もう終わり?」

「あまり長引かせると、ラフプレイで君が怪我を負わされる可能性も有ったからね」

 陣形を指示した時点で完璧にデザインされた作戦だった。

 観衆の歓喜と称賛に包まれる三人。

「待った」

 声を掛けたのは髭面の大男。どうやら負けた三人が凶行に走ろうとするところを制止したらしい。

「真田さん」

 その様子からみて彼らの仲間らしいが、

「恥の上塗りは止めろ」

 と諌めた後、総志に近づいてきて、

「あんた、西条総志だな」

 と詰め寄る。判っていて総志の交代を認めたと言うのか。と驚く皆人と沙弥加だが、

「そんなことはどうでも良い。貴方が彼らの親玉なら、真っ先に言う事が有るだろう」

 と本人は怒りを露わにする。

「彼らの危険な挑発行為については俺が替って謝罪する」

「相手が違う」

 と言われ、改めて皆人に向かって頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

「気にしないで下さい。あれをまともに食らうほど鈍くはありませんから」

 と笑い飛ばす皆人。

「俺は真田アーサー。これはあの三人の入団テストだったんだ」

 十試合連続で勝ったら入団を認めると言う条件だったらしい。髭面の率いる上田レッドアーマーズは全国でも指折りのストリートボールの強豪チームで、彼らの様な腕に覚えのある連中がひっきりなしに入団を希望してくるのだ。

「レッドアーマーズ。赤備かあ、なるほど」

 男の赤いTシャツを見て納得している皆人。

「三人とも、インターハイ出場経験が有るんだが」

「へえ」

 と改めて三人を見る総志。年齢は二十歳前後だから、当たったか当たらないかのぎりぎりの年代だろう。

「まさかあんたみたいな化け物がこんなところに現れるなんて、全く想定外だったよ」

 と頭を掻く髭面に、

「真田さん。西条総志って?」

 とすっかり意気消沈している三人組。

「お前ら。バスケをやっていてこの人を知らないなんてそれだけで不合格だな」

 と説明に入る。

「俺は認めてないんだが」

 と苦笑する総志。

「いまさら隠しても仕方ないでしょ」

 と沙弥加。

「で、一つ手合わせを」

 と言われ、

「やっぱりそうなるのか」

 総志はしぶしぶながらも承諾した。

「五本先取で良いですね」

 と言ってジャージを脱いで沙弥加に渡す。

「真田アーサー、三十五歳。元全日本選手だね」

 皆人はスマホで検索を始めていた。

「そんな人がなんでこんな田舎でストバスなんか?」

「怪我で、プロ入りはあきらめたらしいよ」

 身長は総志とほぼ互角。但し胸板の厚さは向こうが上で、

「典型的なセンタータイプだね。外から攻めれば兄さんの方が圧倒的に」

「そう言う勝ち方を選ぶ人じゃないからね」

 と言う沙弥加の言葉通り、総志はゴール下でのつばぜり合いを選択した。

 真田の攻撃をわざと抜かせて、ダンクに行く所で後ろから、いや上から腕を伸ばしてシュートを防いだ。

「背丈はほぼ同じだけど、腕の長さでは兄さんの方に分が有るね」

「真田さんも、まさか上から押さえつけられるとは思わなかったでしょうね」

 攻守入れ替わって総志がボールを持った。

 いきなりシュートに行くと見せかけてくるりと背中を向けて背面投げを仕掛ける。これは総志の技の中でも曲芸の部類で、的中率は三割程度。それでも距離を考えれば大した確率だが、これを初見でやられた相手は茫然とボールを見送るしかない。一歩遅れてボールを追った時には総志はゴール下にいて外れた時のフォローに入っていると言う具合だ。

しかしこの技は既に相手に知られていたらしい。走りでは勝てないと判っている真田は、迷わずに上に跳んだ。それも総志の計算のうち。総志はシュートを狙ったのではなく、真上に軽く放っただけ。

 それをキャッチしてドリブルで横をすり抜ける。真田が着地した時には既にゴール下に達してシュート体勢に入っていた。

「容赦ないわねえ」

 と沙弥加。

「普段は温厚なのに、バスケに成ると人が変わると言うか」

「それはバレーをやっている時のさーや姉も似たようなものですよ」

 と皆人に突っ込まれて、

「そう?」

 何故かちょっと嬉しそうな沙弥加である。

「これで一点目」

 総志はボールを拾って真田にパスすると、そのままゴール下に留まっておいでをする。その距離ではシュートは打てない。打っても入らないと読み切っているのだ。

 仕方なくドリブルを始める真田。ゆっくりと近づいて行く。余裕を見せている訳ではなく、早いドリブルは不得手なのだ。長くセンターをやってきて、ドリブルはあまりしない選手だった。三人制に転向してからは少しは使えるようになってきたが、本職相手に競えるほどではない。

 フリースローラインを少し超えた所で一度止まる。そこが総志の守備範囲の限界と見切ったのだ。ここからなら打てなくもないが、それでは相手の土俵だ。真田としてはインサイドでの競り合いに持ち込まないと勝機は無い。

 意を決して動きだす真田。即座に反応して距離を詰めてくる総志。

「あの距離をたった二歩で詰めるとか、普通なら取られていてもおかしくないのに」

 と感嘆の声を挙げる皆人。

真田は反射的にボールを両手で掴んでカットを避けたが、そこから動きが取れなくなる。これが一対一の怖さだ。

強引にジャンプシュートを打つしかない。それを叩き落とすのではなく、右手一本で掴み取ってしまう総志。

そのままドリブルでスリーポイントサークルの外に出て、

「さてこちらの攻撃です」

 真田は少し考えて、先ほどの総志の立ち位置で待ち構える。総志がその位置からシュートを打ってくれば防ぎようがないが、それはしてこないと確信している構えだ。

 攻守逆転。今度は総志がゆっくりとドルブルで近づいて行く。先ほど真田が足止めされた位置、総志にはここは既に射程距離だ。故に真田が一気に距離を詰める。

 総志はうっかりボールを掴んだりはせず、背面で一往復させて急加速。真田の横をすり抜けてゴール下まで一気に侵攻。そのままダンクに行く。

 真田は当然ブロックに跳ぶが、総志の最高到達点は遥か上。ゴールにたたき込む総志の腕はほぼ水平、つまり総志の肩がリングの高さまで到達していたのだ。あの長い腕が届く範囲が全てダンクの射程だとすれば始末に負えない。 

 再び真田のターン。こんどは先ほどと違って一気に侵入してきた。左肩を前にじりじりと押してくる。真田が総志に勝っているものパワーを生かした押し合いに持ち込んだのだ。ゴール下へ押し込んでのフックシュート。体を密着させることで総志のジャンプブロックのタイミングを遅らせた。

「お見事」

 真田が取ったのはこの一点だけ。五対一で総志の勝利に終わった。

「あのシュートも止められたんじゃないの?」

 と後で沙弥加に尋ねられて、

「矩総なら、重心移動で彼のシュート体勢を崩せただろうな」

「貴方は矩総君を過大評価し過ぎよ」

「そうかな」

 この後、総志はその場の全員からサインを求められ、仕方ないので全員で写真を取って恐れをシェア。一枚をプリントアウトしてそこにサインしてフロントに寄贈した。一連の交渉はすべて皆人がやってくれた。



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