兄弟参集
「僕は何者なんでしょうか?」
滝川太一が己の出生に疑問を抱いたのは小学三年の時だった。父と信じていた千万太が身体上の欠陥から子供が作れないことに気付いて、では自分は誰の息子なのか。悩んだ太一は叔母の滝川千里に相談した。
千万太が実父でないならば、その妹である千里も自分と血縁菅家にない訳だが、その矛盾を指摘されて困惑してしまう太一。
「貴方は滝川太一でしょ」
と千里。
「千万太兄さんは、翼さんの妊娠を知った上で結婚しているのよ。つまり貴方は夫婦同意の上で誕生しているの。何か事情があるとすれば、それは時期が来れば教えてもらえると思うわ」
明らかに落胆した太一に、
「でも私から、口添えしておくわ。その時が来たかもしれないって」
と言い添える。落としてから上げる。この辺の機微は流石と言うほかはない。
千里は充分な根回しをしたうえで翼を訪ねた。
「お久しぶりです。お義姉さん」
千種はそう言いながら一枚の封書を手渡した。入っていたのは御堂春真十三歳の誕生会への招待状。
「三月は何かと忙しくて」
と渋る翼に、
「それなら、太一君は私が送迎するわ」
と有無を言わせない千里。
「御堂家は太一をどうしたいの?」
と気色ばむ翼に、
「要点は、太一君を千万太兄さんの二の舞にしたくないんです」
千万太の時代には、彼は御堂の血を引く唯一の男子と言うことで、非主流派に利用されないように厳重に隔離されていた。しかし代替わりも進み、現当主御堂真冬の地位は安泰。その息子春真への継承もほぼ盤石の状態である。
「今は太一君以外にも御堂の血を引く男子は複数いるし、むしろ懸念すべきは内なる敵よりも外なる敵の方。具体的には神林の希代乃さんね」
太一が瀬尾総一郎の息子であると言うことは、希代乃の息子である希総とも兄弟と言うことになる。神林至上主義の希代乃が太一を利用して御堂への影響力を強めるのではないかと懸念する声も分かる。
「面倒くさい事ね」
と苦笑する翼。
「本音を言うと、私は希代乃さんよりも真冬さんの方が苦手なのよね」
と翼。彼女にしてみれば天然系の真冬よりも、合理主義の希代乃の方が分かりやすい。
「そもそも数回しか会ったこと無いし」
「それは、翼義姉さんが、真冬さんを避けていたからでしょ」
希代乃とはわずか半年ほどとは言え同じ屋根の下で暮らした経験があるが、真冬とはちょうど入れ替わりだった。
「一度腹を割って話す機会も設けますね」
千里が引き上げた後、翼は太一を部屋に呼んで話し始めた。
「貴方のお父さんは生まれながらに子供が作れない体で、だから御堂家の跡継ぎに成れずに財産だけ分与されて経営からは切り離されていたの。だから私と結婚する際に、私のために他人の精子を使って貴方を生むことになったのだけど」
と実の父親については説明を避けた。
「ここへ行けは事情の一端は分かるかもしれないわ」
と言って御堂家からの招待状を見せた。
「当然ながら、御堂家はすべての事情を理解したうえで貴方の存在を容認しているわ。けれどこの先どうするつもりなのか、それは私には分からない。一つだけ言えるのは、千里さんは間違いなく貴方の味方になってくれると言う事よ」
誕生会当日。千里は太一を迎えに来た。千里のイメージにそぐわないスポーツカーである。
「これは私の唯一の趣味なのよ」
と千里は笑う。
「それにしても真っ赤なポルシェとは」
「うちの母が百恵だから」
「は?」
太一には理解できないネタだった。
車は都心を横断して御堂本宅へ到着した。
「車を停めてくるから二人は先に入っていて」
太一と万里華が玄関へ進むと、
「滝川万里華様と太一様ですね」
と招待状を出す前に通された。
会場に入るとすぐに豪奢なドレスの女性が近寄ってきた。
「こんにちは、真冬さま」
と会釈する万里華。釣られて太一も頭を下げる。
「いらっしゃい万里華ちゃん。それと初めまして太一君。私が当館の主の御堂真冬よ」
太一が予想していたよりもずっと若い。
「今日の主賓に紹介するわ」
と手を引っ張られる太一。万里華はそれを見送って、胸の前の右手をぐっと握ってエールを送る。
「彼が滝川太一君よ。千里さんの兄千万太さんの息子だから私の従弟になるのね」
と紹介された。
真冬に引っ張られるように出した右手を両手で握ってくる春真。
「御堂春真だ、よろしく」
真冬は用が済んだとばかりにその場を離れる。
「太一君は小三だって。うちの真梨世よりも年下なんだね」
「まりせ?」
「ああ紹介するよ」
と言いながら妹の側へ太一を引っ張っていく。
「ほんとにお父様そっくりなのね」
とポロリと言ってしまう真梨世。
「お父様?」
「まだ説明していなかったんだけど」
と苦笑しつつ、
「君は俺たちの異母弟なんだよ」
「だから御堂家は僕の誕生を容認したんですね」
と納得する太一。
「そういう訳だから、私の事はお姉さんと呼んで」
と笑う真梨世。
「その様子じゃ、もう兄弟の名乗りは済んだのね」
と言いながら万里華が皆人を連れて合流した。
「これは不破皆人。うちの母の従妹である瞳さんの息子だよ」
と紹介する春真。
「それにしても、意外に客が少ないですね」
と太一。
「今年は身内だけ。つまり御堂の血縁とその姻族のみだからね」
と春真。
「真梨世の誕生日は八月だから、中庭で野外パーティになるんだけど、俺の誕生日は寒いから屋内。この段階で集まれる人数が大きく制限される」
御堂邸は上から見るとMの文字になっているが、このパーティー会場は頭のへこみの部分から扇状に広がっている。今回のような立食形式だと入れるのは五十名程度だろうか。円弧部分は舞台が組まれていて楽団が生演奏を繰り広げている。
「しかも三月って会計年度末だから、なかなか人が集まらなくってね」
「仮にも次期当主でしょ」
と太一が言うと、
「裏を返せばまだ当主じゃない。社員の仕事を止めてまで人を集める訳にはいかないのさ。まあ俺は気が置けない身内だけの方が楽でいいけどね」
と居ながら太一に肩に手を回す。
帰りの車の中で、
「仲良くなったみたいで安心したわ」
と千里が言うと、
「そう言えば、肝心の父親の名前を聞きそびれました」
と太一。
「そうだったの」
と目を丸くする万里華。
太一が実の父親を知ったのは、テレビのニュース番組だった。その内容は瀬尾総一郎の入院を伝えるものだったが、その顔を見た瞬間に彼はすべてを理解した。
太一はネットで瀬尾総一郎を検索し始めた。最大の鍵は、有名な代議士と一介の教師である自分の母に接点があるのかだったが、総一郎の卒業した高校が母の次の赴任先であることに気付いた。
「初めての赴任先に、校長として凱旋する」
と翼は言っていた。二人の年齢を計算すると、総一郎の在学期間と翼の任期が重なっていることはすぐに分かった。
それ以上に彼の目を引いたのは総一郎の実父の名前である。
「速水秀臣」
速水秀臣に付いて調べてみたが、出てきたのは二人の娘の情報。姉の速水真夏は父の会社を継いで、妹の真冬は母の実家御堂家の当主となっている。ここで彼は少し混乱した。総一郎が春真と万里専父親だとすれば、二人の両親は異母兄妹と言うことになってしまうではないか。
太一は思わず春真に電話を掛けた。
「あの、父さんの具合は?」
一瞬の間があって、
「ああ、テレビで見たんだな」
と察する春真。
「単なる盲腸だから心配ないよ。それよりも聞きたいことがあるんだろ?」
と先回りする。
「その昔。うちの祖父さん、速水秀臣が妻以外の女性に産ませたのが瀬尾総一郎。それを知った奥さんが若い男と関係を持って生まれたのが俺の母。つまり俺の両親は血統的には赤の他人だよ。とは言っても、外聞の良い話じゃないから、俺の父親は内緒ってことになっている」
「その。なんか済みません」
と思わず謝ってしまう太一。
「どっちに転んでも、君の父親は婚外子ってことだな」
と笑う春真。
「それはまさ兄も」
と言ってしまって、
「重ね重ね・・・」
「ああ。慣れてるよ。うちの両親は書類上の手続きをしていないだけで、普通に仲が良いしね。母さんなんか、血のつながらない妹設定を楽しんでいる節があるし」
太一が総一郎との対面を果たしたのはそれから更に一年余り後の事。
「やっぱり解散になるみたいだね」
新聞を読んでいた千万太が呟いた。総理の急死により民自党と公民党の連立政権は崩壊。民自党は青年党との連立を模索したらしいが、
「提示された総理の椅子を蹴ったのは、如何にも瀬尾君らしいけど」
と応じる翼。
そんな話をしている最中に電話が鳴った。
「太一、ちょっと出てくれる」
電話の相手は千里で、
「代わりましょうか?」
と言ったのだが、
「義姉さんに、明日うちの先生が訊ねていくからと伝えて」
と言われた。
千里の職業を知らなかった太一は、疑問を抱かずにそのまま母に伝えた。母も先生と呼ばれる職業なので、職場関係の来客だと思ったのだ。
当日に現れたのは当然ながら瀬尾総一郎である。
「こんにちは」
動揺を隠しつつ挨拶する太一。
「大きくなったねえ」
と笑いかける総一郎。
「うちの先生って、瀬尾さんの事だったんですね」
「あれ君は知らなかったのか。滝川君は俺の政策秘書だよ」
それですべての辻褄があった気がした。
兄弟が十人いると聞かされた時には多少の動揺もあったが、
「千里さんとはいつから?」
「俺が二十歳の時に母が亡くなって、天涯孤独になったと思ったら、いきなり父と名乗る人物が現れた」
「速水秀臣氏ですね」
「その時に秘書として後ろに居たのが千里だった。その後千里は俺と父との連絡係を務めることになって、まあいろいろと世話になった」
「でもそんな人まで孕ましちゃうなんて」
「彼女とは月一の関係で、基本的には安全日を選んでいたんだけど。その時はイレギュラーでね」
と悪びれない総一郎。
「もしかして、万里華を好きになっていたか?」
「初めは従姉だと思っていて、それが他人かもしれないと思って急に寂しくなったけど。でも実際にはもっと近しい関係だったと知って。ちょっとほっとしています」
「正直だなあ」
総一郎は太一の頭をガシガシと撫でた。
翼と真冬の対面が実現したのは二年後、春真が高校に入学した時だった。入学式の後校長室を訪ね、
「ご無沙汰してます、師匠」
と出し抜けに呼ばれてキョトンとする翼。
「何の師匠よ?」
「これですよ」
と両手で胸を左右から押しつぶして見せる。翼は頬を染めて少し困ったような表情になる。
「まあ冗談はこれくらいにして」
と姿勢を正して、
「千万太叔父様の背中を押してお姉さまと結婚させたのは私なんですけど」
とぶっちゃける。
「貴方が了解を出してくれたから結婚できたのは分かっていたけど」
と首を捻る翼。
「今だから言いますけど、千万太叔父様のお相手が翼お姉さまだと知った時、これは一石二鳥だと思いました」
と笑う真冬。
「一つは、御堂家のお家事情に振り回され続けた千万太叔父様への贖罪」
と右手の人差し指を立てる。
「もう一つは、翼お姉さまの庇護よ」
と左の人差し指を立てて、両方をくっ付ける。
「私を庇護するって、何から?」
当然の疑問だ。
「希代乃様からですわ」
と言ってそっくり返ってソファーに深く座りなおすと足を組み替える。
「どういう事?」
「お姉さまは、ハーレムの内情を知る生き証人ですから。もちろん、自分からばらすとは思っていませんけど、何か困った状況に陥って情報が漏れないとは限りません。あらゆる状況を想定して手を打つのが神林流ですからね」
実際に、翼の周りには神林による監視体制が布かれていた。それに気づいた千万太はそれを自分に対する御堂家のものと誤解して妹の千里に相談した。
「それが希代乃様の差し金だと気付いた私は同時に解決策を見出した。つまり叔父様とお姉さまを結婚させることで、お姉さまを御堂家の庇護下に置く事。これによって希代乃姉さまの危惧を解消することができるでしょ」
「結婚の条件として跡継ぎを用意しろと言うのは貴女の出した条件なんでしょ?」
「ええ。叔父様が先立てば、その財産は配偶者に受け継がれるけど、跡を継ぐ者のいない財産なんて呪いのアイテムも同然ですから」
子種のない千万太が跡継ぎを用意するには、別の男性の精子を用いるかあるいは養子をとるしかない。いずれにしても対策を相談する相手として最適なのは、かつての教え子で女医の不破瞳と言うことになる。
「瞳さんは、一応人工授精についてもレクチャーしてくれたけど、御堂家が最も受け入れやすいのは瀬尾君の子種を貰うことだって」
「それも全部想定内でした」
と胸を張る真冬。
「後はうちの春真と太一君の関係次第だけど、その点は何も心配していません」
とニコリ。
太一が他の兄弟との対面を果たしたのは中一の夏休みだった。
母に連れられて瀬尾家を訪問した太一は矩華とその二人の子供と対面する。そして紹介が済んだら、
「私、明日から出張だから。二三日泊めてもらいなさい」
と言って用意していたお泊り用の荷物を太一に渡す。
「え?」
明らかに聞いていないよと言う表情の太一だった。
「太一君、何か食べたいものある?」
と華理那に聞かれ、
「カレー」
とぽつり。
「じゃあ材料を買いに行くから付き合ってね。お父さんはご飯を追加で炊いておいて」
と仕切り始める。
その日の夜に、矩総は父の結婚披露宴の映像を太一に見せた。
「真冬さんは既に知っているよね。見てわかると思うけど、この時妊娠中で半年後に春真が生まれた。そして隣にいる父さんそっくりの女性が真夏伯母さん。その隣に母の弟の貴志叔父さん。二人はこの後に結婚して一男一女を儲ける」
と説明を進める。
「この長身の女性が西条志保美さん。総志兄さんと総美姉さんはこの時一歳で、志保美さんのパートナーのみちるさんと一緒に留守番している。その隣にいる鼻の高い女性がかの有名な神林希代乃さん」
そして場面が換わって、
「母さんだ」
「抱かれているのが生後一カ月の僕だ。隣にいる千里さんは説明不要だね」
「二人とも、今とあまり変わらないね」
「二人とも若いころは年齢より上に見られて、この頃にようやく年相応に見られるようになった。って言っていたよ」
一通り見終わって、
「このディスク、コピーを貰えませんか」
「これはコピーガードが掛かっているから無理。だけど出席者には配られたから翼先生も持っているはずだよ」
そして翌日。他の兄弟に会わせると言って駅に連れてこられた太一。
待っていたのは御堂家の兄妹春真と真梨世。そして真梨世と同年代の女の子がもう一人。
「西条恭子です」
と頭を下げる。
「三人が姉妹って言うのは言われても信じられませんね」
華理那は目元が父親似だが、後の二人は母親似である。
「髪の毛の質は父さん似なの」
特に真梨世はひどい曲っ気で、真冬がパーマをかけて縦ロールを作っているのに対して、真梨世の方はストレートパーマをかけて、結果として同じ髪型になっている。短い前髪だけは曲が取れずにくるっと巻いていて、それを気にしていじるのが真梨世の癖になっている。
恭子はそこまでひどくはないが、長く伸ばすと外に跳ねてしまうのでショートカットにしている。
三人の中で唯一髪質が素直な華理那は長い髪を左右で三つ編みお下げにしているが、今日は後ろで大きくまとめて左肩から前に流している。
これは出がけに父の総一郎に作ってもらった髪型だ。中学の卒業式の時、まだ髪の長かった志保美にしたのを見ていた矩華が自分にもして欲しいと言って生徒会長の退任の時にしてやったと言う。その後は二人とも短い髪に慣れてしまって総一郎が手を出す余地が無くなった。それでも、娘たちが小さいころはその髪を切るのが総一郎のささやかなスキンシップだった。
「じゃあ出発しようか」
春真は切符を渡してくる。途中で新幹線に乗り換えて静岡へ向かう。
「あの、何しに行くのかまだ聞いていないんですけど」
と太一。
「ここに行くのさ」
と春真が差し出したのは高校総体静岡大会のパンフレット。
「ここにまだ引き合わせていない残りの三人が居るんだ」
と矩総が付け加える。
「長男総志兄さんがバスケ、長女の総美姉さんと希総がバレーボールの県代表なの」
と華理那。
「これが総志兄さんよ」
と恭子が差し出したのは総志が取材を受けたバスケ雑誌。
「隣に移っているのは?」
「兄さんの彼女で姉さんの相棒の日野沙弥加さん。多分現地で会えるわ」
と付け加える華理那。
「これはバレー雑誌とのコラボ企画だからね」
と矩総。
「確かに絵にかいたような美男美女のカップルですけど、総美姉さんとの双子姉弟でのツーショットでも良かったのでは?」
と太一が疑問を呈する。
「それは会えば分かるよ」
と矩総。
「まずはホテルにチェックインして荷物を置いて来よう」
と春真。
春真が予約したホテルに向かい、受付でカギを受け取る。
「ああそっちじゃないよ」
と春真が示したのは奥にある特別なエレベーター。
「これってボタンがありませんね」
と太一。
「最上階への直通なのさ」
「やっぱり最上階なのか」
と笑う矩総。意味が分からなくて首を傾げる太一。
エレベータを降りるとき、カードキーの一枚を華理那に、もう一枚を兄の矩総に渡して、
「三十分後にここで」
部屋に入って荷物を置く男子組。
「広い部屋ですね」
と落ち着かない太一。
「最上階には二部屋しかないからな」
「それにしても三十分はかからないでしょ」
「甘いなあ」
実際には三姉妹は指定よりも十分遅れで現れた。理由は一目瞭然で、三人とも先程と服を着替えていたのだ。
「華理那がいるからこれくらいの遅れで済んでいるけど、真梨世一人なら優に一時間はかかるね」
と矩総。
ともあれ一行はまずバスケットボールの会場へ向かった。
「混んでますね」
六人は関係者席に混ぜてもらって座ることができた。
「ほとんどは西条総志を見に来たんだな」
と矩総。その言葉通り、南高がコートに入っただけで歓声が沸いた。
総志は独り離れてストレッチを行っている。手首から始まって、肩腰股関節と進む。終了間際にボールを受け取ってゴールに向かってドリブルを始め、スリーポイントラインでジャンプ。空中で半回転して右手一本で背面シュート。着地と同時にボールがリングを通過する。今や恒例となったゲーム前のパフォーマンスだ。
「あれって、兄さんの仕込みだろ」
と春真。
「仕込んだと言うか・・・」
一対一で総志と対峙した時に、苦し紛れに背中を向けてゴールを決めたことがあったのだが、
「一回限りの奇襲だったのに、難度を上げて返されたんだ」
と苦笑する。
試合は前半だけで三十得点、十アシストの大活躍であった。
「別格ですね。まるでプロが一人混ざっているみたいな」
「うん。兄さんは地元プロリーグの特別指定選手なんだけどね」
「学業優先で、遠征には帯同していないけど。出場した試合は全部勝ってる」
「と言うか、あの人。高校に入って負けたのは一年のインターハイだけだよね。県予選敗退だった昨年は試合に出ていないんだし」
後半は総志抜きで、それでも差を開いて圧勝した南高だった。
「新監督の薫陶著しいねえ」
と矩総。
ベンチには監督と背中に掛かれたジャンパーを着たセーラー服の女の子がいる。
「あれって、まり姉ですよね」
と太一。
「そうだよ。来年以降、自分が抜けた後のチーム力維持を目指して、三顧の礼で迎えたらしい」
「後半出てこなかったのも、総志兄さん抜きでどこまでやれるか試したかったんだろうな」
試合が終わると、観客が一斉に立ち上がった。その流れを避けつつ、控え選手たちに先導されて控室へと向かう。
「先にバスに戻っていて」
と言う万里華の指示で他の選手たちが退出した後、兄弟だけになった部屋で、
「西条総志だ。よろしく」
大きな手でぎゅっと握られて、
「滝川太一です」
と握り返す。
「バレーの方は行ったか?」
と総志。
「まだ」
と矩総が答えると、
「行ってきたら、キャプテン」
と万里華。
「え、良いの?」
「その代わり、歩いて帰ってきてね」
と送り出した。
バレーの会場はすぐ隣だった。
「まだ試合まで三十分ほどあるな」
と総志が言うと、
「もう控室には居ると思うから、行ってきなよ。僕らは先に席を取っておくから」
と矩総が勧める。
「じゃあ私も付いていく」
と恭子。と言う訳で総志と恭子に連れられて控室へ向かう太一。
総志がノックをすると主将の沙弥加が顔を出した。
「あら西条君」
「姉さん、居る?」
「ええ。ふう、弟さんよ」
と素っ気ない対応を見せる。
「おとうとさん、ねえ」
と言いながらのっそりと現れる総美。
「あら」
太一の顔を見て驚く総美。
「聞いては居たけど、本当にそっくりね」
と両手で太一の顔に添えて持ち上げる。
「僕もびっくりしました」
「改めて、西条総美よ」
と名乗る。
「滝川太一です」
「私が最後?」
「いや。希総が最後に残っている」
「希総なら、多分客席に来ていると思うわ」
「じゃあ、行って見るか。試合頑張って」
と言って立ち去る。
「良いんですか?」
と太一。
「何が?」
「沙弥加ねえに一声かけなくても良いの、ってこと」
「あ」
と気付いて、
「先に行っていてくれ」
と踵を返す総志。
「世話が焼けるわねえ」
と苦笑する恭子。
観客席に行くと、
「ああ、まー兄も合流している」
と恭子。なるほど、一人ジャージの少年が一矩総と春真に挟まれて座っている。
近づくと、春真が立ち上がって自分の席を太一に譲り、二人を引き合わせるのは春真の役回りだ。
不愛想な希総に初めは戸惑っていた太一だが、生真面目な性格から次第に打ち解けていく二人だった。
大会はまだ続くが、太一と兄姉たちとの対面は一通り終わったのでひとまずここで締める。
太一と他の兄弟たちの対面の話。
ちょっと駆け足になってしまいましたが。




