千種と掟
滝川千種が中学生の頃、彼女を女手一つで育ててくれた母の百代が亡くなった。
母の仕事仲間や常連さんが葬式を取り仕切ってくれた。そんな中、些か場違いな雰囲気の女性が一人いた。彼女が差しだした名刺には弁護士永瀬矩華とあった。
「貴女の今後についてお話がしたいの」
と言う。
「貴女はお父様について何か聞いている?」
「亡くなったとだけ」
永瀬弁護士は頷いて、
「貴女のお父様が亡くなったのは十年前、貴女がまだ三歳の時ね。貴女のお父様には貴女のお母様以外に正式な奥さんがいて」
千種は驚かなかった。
「なんとなくそんな気がしていました」
千種の父は婿養子だったが、夫人との間に子が無かった。そのため、千種が生まれた際にも離婚して千種の母と結婚しようと考えたが、百代はそれを望まなかったと言う。夫が亡くなった時、夫人は夫の忘れ形見である千種の存在を知って引き取って後継ぎにしたいと申し入れてきた。その時に百代から代理人として雇われて交渉にあたったのが矩華だった。
「向こうは、かなり纏まった額を百代さんに提示したけど、百代さんはそれを拒否したわ。百代さんにとって貴女は唯一の生きる希望だったから」
交渉の結果、千種の父の個人資産は妻と庶出の娘である千種とで分割相続されたのだけど、夫人は夫のささやかな、とこれは夫人の立場からの話で、決して少なくない財産なのだけど、百代さんに浪費される事を懸念して、貴女が十八歳の成人を迎えるまで自分が管理すると主張した。もともとお金に頓着のなかった百代さんはそれを受け入れて、遺産の中から月五万円を養育費として受け取っていたの」
それが、今回の死によって状況が変わった。
「これまでのようなずかな養育費だけでは貴女が暮らしていけないのは明らかなので、前倒しで貴女に財産を引き渡すことになりました。と言ってもまだ若い貴女に財産を管理させるわけにはいかない。と言う事で後見人が就く事になります」
「それを永瀬先生が?」
「わたしでも良いのだけど、もっと適任の方がいるので」
として呼びこまれたのは、
「この人は滝川千里。貴女のお母様の姉の娘。つまり貴女の従姉になります」
と言って後を任せて退室した。
「改めてこんにちは千種ちゃん。大きくなったわね」
千種には見覚えはないが、どことなく母と面差しが似ている。
「百代叔母様、と言っても私とは十歳くらいしか離れていないのだけど、最後に会ったのは生まれたばかりの貴女を連れて母を訪ねて来た時。その時に先ほどの永瀬弁護士を紹介したのだけど」
「それはお手数をお掛けしました」
と頭を下げる千種。
「お父様の遺産は、まず生命保険が一億円。これは奥様とで折半されて半額の五千万円が貴女の物になります。他に有価証券が若干。主にお父様が経営に関わっていた企業の株式ね。これは奥様の判断で当時の時価に沿って分けられたのだけど、十年を経て価値は五割増しになっているわ。奥様が取った方は若干目減りしているから、奥様の見る目が無かったのか、敢えて有望株を貴女に回したのかは不明だけど」
「奥様にお会いする事は出来ませんか?」
と千種。
「奥様は既に遠縁を養子に迎えて後継ぎに決めているから」
「いえ。ただお詫びとお礼を言いたいだけです」
「お詫びは必要ないと思うけど。そうね、折を見て機会を作るわ。でももしかして貴女を養子と娶せたいと言い出すかもしれないけど」
と笑った。
亡き父の残した資産は千種の進学には十分な額であったが、千種は学費免除が受けられる高校へ進んだ。
そして高校三年の春、千種は千里を訪問した。出迎えたのは千里の娘万里華。三つ違いの万里華はこの時中三、これが二人の初対面だった。
お茶を給仕してそのまま座り込む万里華。気まずそうな千種を見て、
「万里華、後で呼ぶから席を外して」
と千里。
「大学進学の件でご相談が」
と切り出す千種。
「このままでもエスカレーターで大学に進めますが、もっと上の学校に行きたくなって」
「と言うと、国立?」
「ええ」
「貴女の成績ならSランク認定も取れるでしょうね」
Sランクに指定されれば学費は全額免除される。
「瀬尾先生のお陰です」
千種は従姉の千里に付いて調べていた。彼女が青年党党首瀬尾総一郎の政策秘書を務めていること、そしてその瀬尾総一郎についての様々な風評についても。
「それだけなら電話でも良かったのでは?」
と切り込む千里。
「流石ですね。実は滝川の女に付いてお聞きしたいのです」
「百代叔母様からは何も?」
「実は伯母に会いまして。と言っても千里さんのお母様ではなくて」
「母と百代叔母様との間にもう一人妹がいることは知っているけど、私は会ったことが無いわ」
「三人とも父親が違うんですってね」
「ええ。それがある意味で滝川の女の宿命で。ああ、ちょっと待って。娘を呼んでくるから」
と席を立って万里華を立ち会わせる。
滝川の女とは、時の権力者に取り入って生き延びてきた女系一族である。決して男子は生まず、女系で血統を繋いでいた。
「男子を生まないなんてあり得ない」
と千種。
「ええ。私もそう思うわ。恐らくは男子が生まれたら密かに間引かれたのでしょう」
「何故?」
「男子が生まれれば跡継ぎにと考えるかもしれない。生みの息子が権力を継承すれば、その当座は母親も力を得るけど、その代わりに敵も多くなる。それでは血統の維持は難しいでしょ」
「でもそんな生き方がいつまでも続けられるはずは」
「少なくとも戦前までは機能していたの。駄目になったのは戦後の男女同権社会の到来。私の母はそれがギリギリ通用した最後の世代で、その妹たちとなるともう駄目だった」
と言っても千里の母百恵はメイドとしてのスキルを活かして第二の人生を生きてきた訳だが。
「私も、父の生前に名乗りあうことは出来なかったけど、この子は違うわ。この万里華はいわば新世代ね」
「万里華ちゃんの父親って?」
「あら、うすうす想像は付けているのでは?」
千里は答えをはぐらかした。
千種と万里華はその後もしばしば会うようになった。
「千種お姉さま」
と呼ばれて戸惑う千種。
「迷惑ですか?」
「血統的には、私と千里さんが同じ世代なんだけど、年齢差は親子でもおかしくないくらいだしね」
と受け入れてくれた。
「万里華ちゃんの兄弟姉妹は何人?」
と聞かれ、
「興味ありますか?」
と表情を曇らせる万里華。
「御免ね。本当に聞きたかったのは、異母兄弟なのに仲が良いのね、ってこと」
「そう言うことですか。でも兄弟姉妹って最初の敵で、仲が悪い方が普通ですよ」
と答える万里華。
「敵?」
兄弟のいない千種にはピンと来ない。
「兄弟姉妹と言うのは、親の愛情を奪い合うライバルなんです。異母兄弟は、少なくとも母親の愛情を取り合わずに済むだけマシかもしれません」
「でも父親の愛情は?」
「お父様、瀬尾総一郎と言う人は、父親らしいことはほとんどしない人ですから」
とバッサリ。
「それは存在感がないと言うのではなく、母の背後にあって間接的にその愛を感じられると言うか」
「なんとなく分かるわ」
と同意を示す千種。彼女の母も父親を決して悪く言わない人で、二人の間に愛情がある事がひしひしと感じられたものだ。だがそれは千種が父にとって唯一の子供であるからだ。
「私の兄弟姉妹は、母親の家の様式に従って躾られるので、父親の出番ってあまり無いんです。唯一の例外が瀬尾姓を名乗る二人、矩総兄さんと華理那ちゃん」
「二人は瀬尾家の家風に則って育てられる訳ね」
と納得する千種。
「兄弟姉妹で唯一共通しているのは、食事の作法。これはお父様が亡くなったみさきおばあ様から厳しく言われていたらしく、それについてはどの母も異存はありませんでした」
十一月。千種は高認をSランクで合格した。滝川家に招かれてお祝いされることになったのだが、
「今日は随分とごちそうだな」
同じ日に総一郎が滝川家を訪問した。これは偶然ではなく、示し合わせたのだが。
「お客さんか?」
千里を抱き寄せてキスをしようとして直前で止めた。
「従妹の千種ちゃんよ」
「従妹?」
総一郎は不思議そうに千種を眺めた。
「そう言えば面立ちは似ているな」
「今日は合格祝いなの」
と千里が言うと、
「瀬尾先生のお陰です」
と頭を下げる千種。
「そう言ってもらえると嬉しいが、すべては君の実力だよ」
と頭を撫でてやった。
「ああ御免。つい」
千種が嫌そうな表情を浮かべたのですぐに謝る総一郎。
「いえ」
千種も嫌だったわけではなく、男性との接触経験が乏しいので面食らっただけだ。
「お腹空いた」
と甘えてくる万里華。
食卓には総一郎と千里が並んで、千種と万里華が隣り合って座る。上座にあたる場所は空いている。ここは千里の母百恵が来た時だけ使われる指定席なのだ。
「今日は秋の味覚が満載だな」
「本家から送って頂いたの」
千里が言う本家とは御堂の先代恵美様のことで、千里にとっては異母姉になるが遠慮して”お姉さん”とは絶対に呼ばない。
「千種ちゃんは幾つ?」
「高校三年です」
千種は緊張気味に答えた。
「大学は決めたの?」
「T大法学部を志願します」
「うちの矩華さんの後輩になるのか」
「その矩華さんを見て法学部を志したんです」
千種は相続の一件について簡単に語った。
「いろいろやっているんだねえ。お互いに仕事の話はしないから」
弁護士には守秘義務があるから猶更である。
食事が済むと、
「お父さん、いつもの」
と言って万里華が耳かきをせがむ。
普段と違って子供っぽい、いや年相応だとも言えるのだが、万里華の様子に目を丸くする千種。
「仲が良いんですね」
と千種が言うと、
「父娘だからな」
「千里さんは瀬尾さんの元政策秘書なんですよね」
質問と言うよりも確認だ。
「秘書を孕ませたんですか」
「この子が生まれたときは、俺はまだ二十三だったよ」
予想外の返答に一瞬虚を突かれた千種。
「ああ。瀬尾さんが立候補したころはまだ二十五歳以上でしたっけ」
とすぐに総一郎の意図を理解する千種。総一郎は代議士として部下の政策秘書を孕ませたわけではないが、千里は実父の速水秀臣が彼に付けてくれたお目付け役の秘書であり、それに手を付けて結果的に孕ませたのだから、千種の指摘は否定できない事実なのである。ただ、個人的な秘書と公的な秘書とでは確かに意味合いが大きく異なることも確かである。
「俺の初代の政策秘書は神林家から推薦された男で、その後政界に転じることになってその後釜として浮上したのが滝川千里。彼女を強く推したのは妻の矩華と神林希代乃の二人だった。希代乃が納得しない限り千里の政策秘書就任はあり得なかっただろうな」
「どうしてですか?」
「千里の実父は神林家と対立関係にあった御堂の御前だからね」
「瀬尾さんの父の速水秀臣さんの夫人って、御堂のお嬢様ですよね?」
「そうだよ。千里にとっては俺の父は義理の兄になる訳だ」
「それだと、秘書云々と言う以上に近い関係だったんですね」
「まあそれを知ったのは関係を持った後なんだけど」
と笑う総一郎。
「瀬尾さんは希代乃さんとの間にもお子さんが」
「それはむしろ俺を政界に押し出すことになった原因でもあるんだけどね」
神林家としては未来の当主である希代乃の息子の父親に箔をつける意図があったらしい。
「俺は少々遣り過ぎたかもしれないな」
と苦笑する総一郎。
「それにしても折角年齢規定を下げたのに、俺の記録を塗り替える人間がいまだに現れない」
瀬尾総一郎は当選時に二十五歳三か月。史上最年少の代議士として注目されたものだ。
「供託金とか、越えるべきハードルがまだ高いですから」
「それでも、うちの党なら可能なはずなんだが。俺に気を使ってか、二十五歳以下が俎上に上ったことがないんだよ」
と苦笑する。
「話を戻しますけど。時系列的には愛人を秘書に登用したと言うことですね」
「君にとって愛人の定義って何?」
「それは。婚姻関係を結ばずにお金で関係を維持する女性、でしょうか」
「それだったら俺には君の言う愛人は居ないな。俺は女性に金を払ったことがない」
と胸を張る。
「俺が矩華と結婚したのも、全員の同意と言うか強い押しがあっての話だ。つまり俺たちにとって、妻と愛人と言う格差は無いし、婚姻届けは単なる紙切れの話だよ」
「それを法律家である永瀬先生が容認されたんですか?」
「本人がそう言ったんだよ。仕事柄離婚調停を数多くこなした実感なんだろうね」
千種はまだ納得いかないと言う表情だった。
「但し千種に関しては特殊で、第一に同じ屋根の下で暮らしてない。会うのは月に一回と言う約束だ。金銭面については、秘書として使っている間は俺から報酬は払っていた訳だけど、それは規定通りのものでいわゆるお手当とは違う。政策秘書としての滝川千種の働きはどこからも文句が付けられないもので、俺が代議士を辞めた後も党の内外から引きがあったほどだ」
「党の外?」
「俺の実績の半分は秘書としての彼女の働きによると言うのがその筋の評価だよ」
「恐縮です」
洗い物を終えて戻ってきた千里が答える。
「貴女のお母さん、百代叔母様もその定義で行けば愛人ではなかったわね」
と千里。
「百代叔母様は、貴女のお父さんの存命中はお金を一切受け取らなかったそうだから」
千種の父親が亡くなった後は、千種が受け取った遺産の一部として養育費を貰ったが、自分の為には一切使わなかったと言う。
「割り切って愛人として振舞えば、もっと楽に暮らせたでしょうにね」
「滝川の女の宿命に抗っていたんだろうな」
と総一郎。
「この子はもちろんだけど、君も滝川の女の企画からは既に逸脱しているよ」
「どういうことですか?」
とツッコんでくる千種。
「滝川の女は父の愛を知らずに育つから、必然的にご主人さまに父親の影を求めてより強く依存するようになる。その意味では年下の俺を選んだ千里もかなりはみ出していると言えるんだけど」
とチラリ。
「滝川の女の常識から言えば、俺よりもまず俺の父の速水秀臣に喰いつくはずなんだが」
「それは瀬尾さんの将来性を見抜いていたのでは?」
「それならまず目先の利益を確定すべきだ。つまり俺が速水の家を継ぐように誘導すべきなんだ。滝川の女の賞味期限は短いから、短期利益に固執する。千里みたいにご主人様の長期利益を追求するタイプは明らかに特異だ」
「それは誉め言葉として受け取っておきます」
「もちろん褒めているんだよ」
と真顔で答え、
「千里は、俺が代議士を辞めると聞いた時も全く止めなかった」
「何故代議士を辞めたんですか?」
「君は先程俺に礼を述べていたけど、代議士の仕事をしていて直接感謝されることは極めて稀だ。むしろやりもしないこと、出来なかったことを責められるばかりだよ」
と苦笑する。
「それに対して、今の仕事はお客様の笑顔を直に見られる」
「今のお仕事?」
「これだよ」
と言って持ってきたお土産を指し示す。
「父様のケーキだ」
と嬉しそうな万里華。話しているうちに耳かきは終えていた。
「代議士を辞めて、菓子職人ですか?」
「俺はもともと菓子職人なんだよ。神林の伯父に頼まれて代議士になったけど。まあやるからには手を抜かないのが俺の信条ではあるが。それにしても少し長すぎた」
四人は総一郎が持ってきたケーキを分けて食べた。
明けて四月。T大法学部に入学した滝川千種は同じ学部の片桐掟と親しくなった。これまで周りと話題が合わず孤高を余儀なくされていた千種にとって初めて対等に語り合えるお友達で会った。
二人を結びつけたのはともに未婚の母から生まれたと言う似通った境遇にあった。しかしそれ以外の家庭環境は大きく異なる。掟の家は母とその父親から続く弁護士一家で、
「私も多分弁護士になるんでしょうね」
と言う。
「うちの母は水商売だから」
と自虐的な発言をする千種に対して、
「職業に貴賤は無いわ」
と真顔で訴えてくる。
「私の母は男運が悪くて。上に父親の違う姉が二人いるの」
長姉綴の父親は売れない小説家。次姉奏の父親はやはり三流の音楽家。どちらも父親の仕事にちなんだ一文字名だ。
「私の父は同業者だったのだけど、祖父の事務所を娘である母が継いだことが納得いかなくて出て行ったらしいわ」
しかも姉二人は父親と同じ業界へ進んでそこそこ成功していると言う。
「遺伝子的には母の方が強力だったみたいね」
「あるいは才能毎吸い取っちゃったのか」
と言って笑いあう。
その話を聞いた千里は、
「そう言えば、掟ちゃんは貴女と同い年だったわね」
彼女の名前を正確に読める人間は少ない。
「片桐さんをご存じなんですか?」
「私が知っているのは母親の真実先生の方よ。と言っても一度お目にかかっただけなんだけど」
と千里。
「矩華さん、永瀬先生の元上司で彼女の結婚披露宴に参列されていたのよ」
「千里さんも瀬尾さんの披露宴に出たんですか?」
「私だけでなく、総一郎さまの女は揃って出席したわよ。むしろ私たちが結婚の後押しをしたんだから」
それからしばらくして、千種は片桐家に招かれた。
「貴女が滝川千種さんね」
出迎えてくれた掟の母真実は千種をまじまじと見て、
「もしかして千里さんの娘さんか何か?」
「従妹ですけど。千里さんの娘の万里華ちゃんなら私よりも三つ下です」
「そうか。矩華さんの結婚式で会った時はまだ子供は居ないって言っていたっけ」
と豪快に笑う真実に、
「年齢的には親子でもおかしくないですけど」
と釣られて笑う千種。
「一度しか会ったことが無いから、先生は覚えていないだろうって言っていましたけど」
「直接会ったのは一度だけど、その後の活躍はいろいろと聞いているわ。うちは父の代から政治家先生とのお付き合いも多いから」
と遠い目になって、
「矩華さんがうちを離れたのも、その手のしがらみも会ったのよ」
片桐法律事務所の顧客は与党議員が多かった。野党青年党党首の妻が受け持つ訳にも行くまい。
「青年党の出す法案は総じて弁護士たちから評判が悪かったし」
と笑う。
「一説には瀬尾総一郎は只の木偶人形で後ろにいる凄腕秘書に操られているだけだって言う意見もあったけど」
「片桐先生のご意見は?」
「瀬尾さんとは結婚式以来会っていないけど、あの永瀬矩華が選んだ男ですものね」
「その永瀬先生には個人的にお世話になったんです」
説明を聞いて、
「時期的にまだ私のところに居た頃ね。そう言えば知り合いから仕事を頼まれたって言っていたっけ」
矩華が個人的に受けた案件の書類は独立の時に持って行ったので真実の方では分からないらしい。
「その当時に報告か相談は受けたと思うけど、昔過ぎて流石に覚えていないわね」
初めは硬かった千種も次第に慣れてきた。
「千種さんはSランクだったのよね」
「ええ」
「うちのは、数学が足りなくてAランクだったのよ」
Sランクは全教科九十点以上が条件で、Aランクは全教科八十点以上か合計で四百五十点以上、且つ全体の上位5%である。Sランクは授業料全免、Aランクだと半免である。
「でも合計では掟さんの方が良かったのに」
合計点は千種が四百七十五点で掟は四百八十点。掟は苦手の数学だけ九十点に届かず八十五点。他はほぼ満点だったのに。
この後も二人は互いに競い合う良きライバルとなった。二人の運命を大きく変えるあの男との出会いは一年後の事である。
最後が纏まりませんでした。




