生徒会長ハーレム
矩総が生徒会長になって最初の仕事は春の球技大会である。
「兄さんは出ないんだね」
対戦を楽しみにしていた弟春真は残念そうだ。
「生徒会長は運営に専念するために出場しないことになっているんだ」
と説明する兄の総志。
「決めたのは二十年前の生徒会長で、永瀬矩華さんと言うのだけど」
「なんだ。矩総兄さんは父親の決めたことは覆すのに、母親の決めたことには逆らわないんだね」
とからかう春真。
「別にそういう訳じゃなくて。誰かが運営責任者をやらないといけなくて、僕か副会長かどちらかは出られないことになる。お前はどっちと戦いたい?」
「その二択なら、総志兄さんかな」
斯くして総志の二年一組と春真の一年三組はサッカーの決勝戦で激突した。どちらもキーパーで、ここまで無失点である。
「始まったわね」
自分たちの試合を終えた総美と沙弥加も見にやってきた。
「優勝おめでとうございます」
今年は同じ二組になった二人はソフトボールでバッテリーを組んだ。投手が沙弥加で捕手が総美である。
「まるで他人事みたいね」
矩総も同じくクラスなのだが、
「僕は会長として中立の立場ですから」
と素っ気ない。
「それよりもどっちが勝つと思いますか?」
と矩総は聞いた。
「まだまだ総志の方が上でしょ」
と姉の総美。
「多分春真君が勝つわ」
と沙弥加。
「あら冷たいのね」
と総美に言われたが、
「見て居ればわかるわ」
試合は双方のキーパーがともに完璧なセーブを見せてスコアレス。規定により延長なしでPK戦にもつれ込んだ。
「これで西条君の勝ち目はゼロになったわね」
と沙弥加。
「ゼロってことは無いでしょ」
と総美が抗弁する。
「なんとなく分かってきました。総志兄さんと春真の優劣と言うよりも、バスケット選手とバレー選手の特性の違いですね」
と矩総。
「どういう事?」
「バスケのゴールは小さいから、西条君が手を伸ばせばシュートコースは完全にふさげる。でもサッカーはゴールが広いから予測は不可欠。コースを読むことに関してはバレーのブロックも同様ね」
と答えたのは沙弥加。
「総志兄さんは相手より早く動くことには長けているけど、サッカーだとその速さが逆に仇になる」
と矩総が補足する。
「最も重要なのはこれがサッカーだと言うこと。バスケではボールを蹴ったら反則だけど、バレーは足でレシーブしてもOKだから。究極的には足の分だけ春真君が勝つわ」
「なるほど」
総美も得心がいったらしい。
どちらも五人外して、六人目に登場したのは春真。総志は視線のフェイントに引っかかって右隅にゴールを決められた。
「最も反応が難しい左隅へ一瞬視線を送って、逆に蹴るとは。あいつも頭を使っているなあ」
「あの程度はバレーなら当然よ。むしろあの視線フェイントに気付いた西条君を褒めるべきね」
「ここで褒めに回るの。ほんとにツンデレなんだから」
と総美にからかわれて、
「本人がいないところでデレても仕方ないでしょ」
ツンデレその物は否定しない方向だ。
先行されて総志も六人目のキッカーとして登場したが、その強烈な一撃もゴールの枠をとらえられなかった。
「やっぱりキックは不慣れだったんだな」
「狙い過ぎよ。彼のパワーなら、枠に行きさえすれば春真君の手を弾いてゴールできたでしょうに」
「さて最後のエキジビション競技の準備をしないと」
と矩総は去って行った。
今年の目玉となるエキジビション競技はテニスの団体戦である。レギュレーションは男女のシングルとダブルス、そしてミックスダブルスをそれぞれ一セットずつの五セットマッチ。一人がニ回まで出られる規定なので、四人いればチームが組める。学年もクラスも関係なし。
「まるで私たちの為の競技じゃないの」
総美は沙弥加と総志、そして春真を誘ってチームを組んだ。
「この面子なら優勝できる」
と豪語する総美だが、
「流石に本職には勝てないだろ」
と冷静な総志。
「うちのテニス部ってそれほど強くないでしょ」
と言った一言が伝わったらしい。テニス部は最強の四人を投入してきた。
結果として、参加登録は二チームだけ。それゆえに即決勝のエキジビション競技となった。
「企画倒れかなこれ」
とぼやく矩総。
ともあれ試合開始である。
まずは女子シングル。登場したのは日野沙弥加。
「自信満々だった割に、本人じゃないんだ」
と挑発をしてくる相手選手。女子テニス部の二年生エースだ。
「学年関係ないんだから、どうせなら三年生を出して来ればよかったのに」
とやり返す沙弥加。負けず嫌いなのはこちらも同じだ。
タイブレークまでもつれて最後は沙弥加が押し切った。
「スタミナが足りないんじゃないの」
と捨て台詞。
続く男子シングルは御堂春真。いきなりのサービスエースに始まって一セットも落とさずに6-0で圧勝した。
三戦目はミックスダブルス。西条姉弟の登場である。
向こうは実力者同士なのだが、慣れていないのか息がいまいち合わない。対して生まれたときから一緒に過ごしている双子の総美と総志の呼吸はピタリ。特に総志が前衛に立った時には、相手の打った球はすべて叩き落されてしまう。
「あの反射神経と腕の長さは半端ないねえ」
こちらも一セットも落とさずに取ってしまった。
「まだ続ける?」
負けっぱなしで終わったのでは本職の名折れだとこの挑発を受けたテニス部チームだが、三年生の先輩から待ったが掛かった。
「どうせなら出ますか、先輩?」
と審判席から声を掛ける矩総。
三年生のレギュラーが投入された女子ダブルスは4-6でテニス部が勝利して一矢報いたものの、最後の男子ダブルスでは、
「やっと調子出てきた」
と言う春真の大活躍で6-3でテニス部ペアを撃破した。
この後春真はテニス部を筆頭に猛烈な勧誘合戦に悩まされることとなった。
夏休みが明けて、生徒会は秋の文化祭に向けての準備が静かに進行していた。がその前に二度目の五校会議がある。今回は南高が議長校を務める順番だ。
「西工と中央は今回から新しい会長が来るんだっけ?」
「ああそれなんだが。まあ当日になれば分かるか」
となぜか含み笑いの総志。
「さて前回から引き続きの方から挨拶をお願いします」
と議長を務める矩総。
「北女の久世希理華です」
何故か表情が硬い。
「東商業の会長松方美智子です。よろしく」
前回は眼鏡だったのに、コンタクトに変えたらしい。
そしてここから今回の新参加、
「中央高校より来ました白雪沙織です」
名前通りの色白の知的美少女だ。
男女比の均衡している中央高校では女性生徒会長も珍しくはないのだが、
「西工初の女性生徒会長となりました桐原丈美です。よろしく」
こちらは褐色の肌がまぶしい元気系の美少女である。
「議長を務めます。南高校の瀬尾矩総です。まずは連絡事項として来週に迫っている対抗戦について」
その起源はやはり二十年前の永瀬会長時代。と言っても今も昔も生徒会主導ではない。きっかけは南高校の新体育館の落成記念。インターハイ出場を果たした南高バスケ部西工バスケ部をが招いて三年生の引退試合を行ったことが最初だ。その翌年に南高校が軸となって五校の強豪チームが一堂に会して練習試合を行うようになった。
「今年はインターハイベスト8になった南高校の女子バレー部に対して北女。男子バレーは県代表の西工とベスト4の中央高校。他に東商業と北女の女子サッカーと南高と西工の男子サッカー。を予定しています」
基本的にインターハイ出場校を基軸として試合が組まれる。
「男子バスケは?」
と希理華が訊ねる。
「本来なら南高のバスケ部がホスト役を務めるところですが、現在活動停止中でして」
とやんわりと誤魔化す。
「それよりも毎年話題に上る文化祭の共同開催について」
「同じ市内と言っても互いに距離があるから同時に何かやると言っても」
と乗り気でない中央の白雪さん。
「テーマを決めて競い合うと言うのは有りだと思いますよ」
と商業の松方さん。
「出店の売り上げとかなら、うちに勝ち目はないですねえ。男ばっかりで華やかさに欠けるから」
と笑う工業の桐原さん。
「相互に代表を送り込んでのゲスト出演と言うのならありかもしれません」
と建設的な意見を出してくる希理華。
「では各校で出張可能な企画を検討して、どこからどこへ送り込むかについては後日に検討すると言うことで」
半歩前進と言うところか。
会議が終わって、
「桐原さんって」
と話しかける矩総。
「父がご両親に宜しくと言っていました」
と返ってきた。
「やっぱりあの桐原さんなんだ」
「ええ。あの父の娘です」
と笑いあう。
「親子二代の生徒会長か」
「ええ。でも女の私が西工で生徒会長になれたのは、半分は瀬尾さんのおかげかも」
「え?」
「西工では生徒会長って頭より力なんですよ」
その縛りが無くなったのは、例の獅子王の地位が外部の人間に移ったこと。これまでは西工の生徒会長が獅子王の第一候補だったのだ。
「なるほど。九代目は一年生だから、今二年生である現職の生徒会長にお鉢が回ってくる可能性は無い訳だ」
「それですごすごと帰ってきたの?」
帰る途中で沙弥加に捉まってしまった希理華。
「他校の生徒会長同士が親睦を深めるのを邪魔する権限は無いし」
「でもその話の内容って単なる世間話じゃあ」
獅子王について知らない沙弥加は話の内容が掴めていない。分かったのは矩総の両親と西工の生徒会長の父親が旧知の仲だと言うことだけ。
「貴女とその女は明らかにポジションが被るわね」
「別に桐原さんが瀬尾君を狙っていると決まった訳じゃあ」
「なんで呼び方が後退しているの?」
出会う前は下の名前で呼んでいたのに。
「まだそんなに親しくないし。と言うか付き合っているくせに上の名前で呼び合っている貴女たちの方こそどうなのよ」
と切り返される。
「来週の対抗戦は北女とだから、会長として応援に来なさいよ」
そう言い捨てて部活動に戻る沙弥加だった。
対抗戦は多くの場合三年生の引退試合になる。そして対抗戦は父兄の観戦も認められているので、その日の体育館は盛況だった。
桐原丈美も父の丈次とともに応援にやってきた。そして同じく娘の応援にやってきた総一郎とバッタリ。
「久しぶり、でもないな」
総一郎のマンションの建築にあたったのが彼の工務店であり、この春の改修に関しても彼の会社が請け負っていたのだ。
「稼がせてもらいましたよ」
と笑う桐原。
二人が客席に行こうとすると、お二人はこちらにと招かれた。
「本日は、この対抗戦を最初に企画した当事者お二人がお越しです。南高校の伝説の副会長瀬尾総一郎氏と西工の元生徒会長桐原丈次氏です」
二人はバレーネットを挟んで対峙させられた。
「ではお二人による開会の始球式を」
総一郎がサーブして、それを桐原がレシーブすると言う趣向らしい。
総一郎はにやりと笑ってジャンプフローターサーブを放つ。失敗してネットに掛かったりすれば大恥なのだが、その可能性は全く考えていないようだ。
対する桐原は、一瞬驚いたようだがすぐに平常心を取り戻して見事にレシーブを上げた。ボールはネット前に立つ南高女子バレー部の次期主将である日野沙弥加ががっちりと受け取る。トスを上げるには残念ながらやや低かった。
「ナイスレシーブ」
中央でがっちりと握手を交わす二人。
「そちらこそナイスサーブ」
この様子を見て、
「作戦成功ね」
と丈美。
「ご協力感謝します」
その右手に座っていた矩総とがっちり握手。
矩総の右隣に陣取っていた希理華は、
「これを打ち合わせていたのね」
とほっと一言。
試合そのものは特に記述するようなことは無い。が、一つのイベントが起こった。西工、東商、中央のバスケ部主将が西条総志との対戦を希望してきたのだ。それを聞いた総志は、
「時間が無いから」
と言う理由で三人同時に相手すると通告。三主将はそれに同意した。
斯くして一対三の変則マッチ。試合時間五分で片面だけの三人制のルールで行われる。
試合は総志の攻めから開始。普段の総志ならいきなり外から一発決めてくるところだが、手堅くカットインから三人をあっという間に交わしてレイアップを決めた。
攻撃は一人でも出来るが、問題は防御である。ボールを持っている人間にガッツリと張り付く総志。パスさえ通れば確実に一点という場面で、しかしそのパスは見事にカットされた。左手一本で掴み取ると、そのままゴールに向かってドリブルする。片面なので体を反転させて、今度は二人を抜き去って二点目。
パスが駄目と見て今度はドリブルで抜きに掛かる。総志はわざと隙を作って抜かせる。片面なのでゴール前で奪うことができれば、ボールを運ぶ手間が省けると言うものだ。狙い通りシュート直前でカットしてそのまま三点目。
三点差になったところで、総志はゴール下にポジションを変える。外からのシュートは二点なので打たせても追いつかれないと言う計算だ。プレッシャーに負けて外からのシュートは外れる。それを掴み取ってダンクで四点目。
再び同じ展開。今度はきっちりと外から決めて二点返す。再び二点差となって対面ガードに戻す総志。ドリブルで右に流れて、味方のスクリーンを利用してガードを外そうとするが、交わされてシュートをブロックされる。ボールは総志の手に渡って五点目。再び三点差に。
残り時間は一分。総志はゴール前に陣取り、外からのシュートを見送る。これで五対四。
久しぶりに攻めを持った総志は外からいきなりのシュート。相手は総志の最高打点に届かないため全くガードできない。これで三点差に逆戻り。
時間がないので再び外から狙って一点差に戻す。大味のシュート合戦になるかと思いきや、総志はじっくりせめて時間を消費する手に出てきた。時間ギリギリまで使ってのダンクで八対六。
残り三十秒足らずとなって距離を詰めて守る総志。一瞬の隙をついてカットされ、九点目。これでほぼ決まり。
最後に一矢報いようと外から狙うが、総志は一気に距離を詰めてこれをブロックしてしまう。最後まで容赦のない男だ。
残り十五秒でボールは総志の手の中。何もしなくてもそのまま試合終了なのだが、総志は手を緩めない。ゴールに向かってくる総志を止めるにはもはやファールしかない。それでも総志のシュートはリングを通った。バスケットカウントでさらにフリースロー。
残った時間を消費するためか、総志はこれをわざと外す。しかもご丁寧に自分の方へ跳ね返ってくるように計算している。大きくジャンプしてこれを空中で掴んでそのままダンク。この最後の一本は時間切れで無効となったが、それも想定の内だろう。
十月に入って文化祭の準備も加速する。
「忙しそうだね」
と妹の華理那に心配されたが、
「初めてのことで楽しいよ」
と返す矩総。
校内だけでなく、他校の生徒会長とのメールのやり取りも盛んだ。
「生徒会長ハーレムだな」
と父にもからかわれた。
そして当日。生徒会室はまさに父が指摘した通りの状態だった。
「半分受け持ってください」
矩総は珍しく泣き言を言った。それを受けて、
「二人で手分けしてご案内します」
と総志。
「じゃあ私は副会長さんにお願いしようかしら」
と真っ先に行ったのは桐原丈美。
「では私も西条さんに」
と松方美智子。
「では久世さんと白雪さんは僕がご案内します」
そう言って矩総は生徒会室を出発した。
「総志君は、彼女とうまくいっているの?」
と急になれなれしくなる丈美。
「え、西条君って、彼女いるの?」
と驚く松方。
「対抗戦の時に気付かなかった? 女バレの新主将の日野沙弥加さんよ」
「だったら向こうに行けばよかったかな」
といたずらっぽい表情になる松方に、
「あたしならあの美女と争う気にはならないわね」
「美女って、久世さんの事?」
「見て居ればわかるでしょ。あたしなんか、瀬尾君と二人で話していたら凄い目で睨まれたもの」
「彼女は目力強いからなあ」
と笑う総志。
「あのインテリ眼鏡さんは、分かっていてあえて突っ込んでいったみたいだけど」
「二人は前々から知り合いだったの?」
「親同士の仕事の関係でね」
総志の生みの母志保美が建築士で、丈美の家は建設業である。
視点を矩総の方に移そう。
「瀬尾さんはどちらの中学ですか?」
と聞かれ、
「行ってませんけど」
「は?」
と目を丸くする白雪。
「七歳の時に義務教育修了認定試験を通ったから。僕は八月に十六になったばかりで、普通に通っていたらまだ高一のはず」
「同い年だったんですね」
と白雪。
「私も飛び級なんです。六月生まれだから私の方が少しだけお姉さんですね」
「久世さんは?」
「私は二月の早生まれだから、生まれた年は二人と同じです」
白雪さんは年齢を意識して子供っぽく見られないようにかなり気を張っていたらしい。これをきっかけに会話がスムーズになった。
一通り回った後、
「どこか入りましょうか。チケットは有りますから」
チケットの認可の際に試食分としてもらってある。
「これが気になっていたの」
と希理華がパンフレット示したのは、
「おかえりなさいませ、ご主人様お嬢様」
メイドカフェ。運営しているのは女子バレー部である。
「どうして女子バレー部がメイドカフェなんか?」
と白雪さん。
「何でもその昔、これをやったらチームの結束が高まって全国へ初出場できたとか」
「それっていつの話?」
「少なくとも僕らの生まれる前です」
矩総はチケットを並べて、
「好きなものを選んでください」
希理華はアイスを、白雪はあんみつを、矩総はアイスコーヒーを頼んだ。
「衣装って手作りなの?」
とメイドさんに聞くと、
「先輩たちからの申し送りで」
記録によると最初の布代は部費から出ているが、あとはすべて手作りらしい。
「何しろ女子バレー部でしょ。みんな普通よりは背丈が大きくて。市販の製品じゃ入らなくって」
確かに、格好は可愛いけど一様に平均よりは大柄である。
「だから毎年小さくて可愛い子をカフェ要因として入れるらしいです」
「それって本末転倒では?」
と白雪さん。
「でも良い事だわ。女の子の集団だと美人に対する風当たりはきついから」
希理華がポツリ。
「それって体験談ですか?」
「あくまでも一般論よ」
「白雪さんだって、きちんとすれば可愛いのに」
と矩総。
「きちんとしていませんか、私?」
彼女は容姿に構わずに勉強ばかりに明け暮れた口らしい。
生徒会室に戻ると、
「にぎやかですね」
矩総の両親が残留組と談笑していた。
「両手に花だな」
と父の総一郎にからかわれる矩総。
「そちらも紹介してくれる?」
と母の目は険しい。
「北女の久世会長と、中央の白雪会長です。こっちの二人は僕の両親」
副会長の総志以下残留組が交代で巡回。瀬尾夫妻も席を立った。
「もう少しお話したかったな」
と白雪さん。
「瀬尾会長の御両親って、あの伝説の会長副会長なんでしょ」
「僕の生まれる前だから」
と当たり前の答えしかできない。
「当時の議事録もあるから探してみようか」
歴代執行部の書類は段ボールにまとめられて保存されているのだが、永瀬執行部時代のものは他の三倍もあった。
「多いわね」
「先例のないことを次々に始めて、今に至るまで続いている制度が多いらしいです」
「それは調べていて気になりました」
と矩総。
「これって当時の執行部の集合写真ね」
若き日の両親の写真を見るのは矩総としても気恥ずかしい。
書類を見てああだこうだと言っているうちに、頼んでおいた仕出し弁当が到着した。
「もうそんな時間か」
書類を片付けているうちに総志が二人を連れて戻ってきた。
「取敢えずこの会食で公式行事は終わりなので、後はご自由にお過ごしください」
と矩総。
「あら、午後は瀬尾会長のお供をしたかったのに」
と丈美が言うと美智子も同意した。
「午後も巡回するので、付いてくるのは構いませんよ」
それをじっと見つめる希理華。
「私は来週の準備が有るので」
「そうですか。来週はおじゃましますので宜しくお願いします」
矩総と希理華の距離はまだまだ遠い。
なかなか接近しない主人公とヒロイン。
先に結果を書いちゃったので辻褄合わせにひと苦労です。




