少女突入
何だ、この扉!?押す、引く、横にずらそうとしてもピクリとも動かねぇ!?
設計者はアホか!!装飾の前に欠陥を造んな、ボケ!!
ハァ……ハァ……。OK、落ち着け俺。
何か方法が有る筈だ。あってください。外側からしか開かないとか勘弁してください、マジで。
☆
黒い長髪の少女───カナデは息を殺してその場をやり過ごした。
魔物の足音はまだ、通り過ぎていない。
ただ、通りすぎるのをじっと耐えた。
その心にあるのは後悔と恐怖、そして小さな期待だった。
最高峰のSSSランクの八大秘境の1つ、『聖鎧纏う伽藍遺跡』。
Bランクの冒険者であるカナデが足を踏み入れることさえできない禁止区域。
本来なら全方位を王国の見張りがいるはずだが、見張り達の怠慢によりその日の警備を手薄にしてしまった。
実際、それは無理もない話だった。
発見されている他の八大秘境に比べてこの迷宮は何もなかったからだ。高ランクの魔物は存在するのに対して、宝と呼べる物が何一つ見つからなかったのだ。
他の八大秘境では危険に見舞うだけの利益が有るのに対して、この迷宮に限ってはそれがない。唯一の救いがあるとしたら魔獣を倒した時に手に入る素材と経験だけであった。
それだけでは、この迷宮は魅力に欠けているのだろう。例えSSSランクの冒険者であってもここ数年はこの地に訪れた者はいないと言われている。
しかし、不思議なことに存在するはずの『聖鎧』が見つかったと言う話は一度も出ることはなかった……。
最初は小さな好奇心だった。最高峰の迷宮の1つ。それがどの様なものかを知りたかっただけだった。
見張りが手薄になっていたので軽い気持ちで足を踏み入れてしまった。
ただ、憧れる人の見ている景色を少しでも感じたいと思ったから。
……そして、実感したのは絶望的な壁だった。
見張りA「あー、暇だなー」
見張りB「仕方ねぇんじゃね?ここ数年訪れた奴がいねぇんだぞ?」
見張りA「それもそうか」
見張りB「それより今度の休日お前どうする?」
見張りA「そうだなー、ちょっと両親への仕送りを考えねとなぁ」
見張りB「あぁ、お前の実家は田舎だったな」
見張りA「まぁな。だからこの仕事は失敗はできねぇんだよな」
見張りB「ここに挑む奴なんていねぇだろ」
見張りA「それもそうだな」