Secret 3 days.
憲斗はそのくりくりの大きな瞳を輝かせながら拓哉の部屋へ向かっていた。先程慌ただしく帰ってきたかと思ったら、予想通り朋宏が説得に悩んでいたとわかり、自分が説得する! と言い出したのだ。憲斗の新しいオモチャを見付けて喜んでいる子供のような顔を見た朋宏は一抹の不安を感じ、万が一に備えて憲斗と一緒に拓哉の元へ向かっていた。雄亮は既に憲斗と並んでいた。
「ちょっと雄亮、何かあったらちゃんと止めてよ?」
「え、何で? 面白そうじゃん」
「面白そうって……」
基本的に楽しい事が好きな雄亮にとっては、憲斗による拓哉の説得も楽しみの一つとして見ていた。だが、幼い頃から憲斗の事を知る朋宏にとっては、今の憲斗はただの地雷原でしかなかった。出来るだけ穏便に済みますように、と朋宏は心の中で祈った。
「たーくやっ、おっはなししーましょっ」
まるで友達を遊びに誘っているかのような軽いノリでドアを開けた憲斗。もはや彼には"ノックをする"という常識すら頭になかった。
「ノックしろよ」
「まぁまぁ」
「いや、まぁまぁ、で済ますなよ? 常識だからな? 頼むからノックだけはしてくれ」
「はいはい」
拓哉の切実な願いは軽く流され、憲斗は我が物顔で拓哉のベッドに座った。そして、前置きもなく例の件の話に入った。
「ね、女の子と同棲しよ?」
「言い方っ!!」
これが何も知らない人間が聞くと艶かしい言い方だが、実際のところ事実なのだから朋宏も責めようがなかった。ここは憲斗の人柄でこうなった、としか言えなかったのだ。
「きっと可愛い子だよ!」
「俺にとったら可愛いも不細工も関係ねぇよ」
「でもさー、ここの家主の直々のお願いなんだよ? 断れる?」
「そもそも、一緒に暮らすから面倒見てやれ、って言われたのかよ」
「一緒に暮らす事になった、って言っただけ」
「それお願いじゃねぇからな? 事後報告だからな?」
思ったより冷静な対応の拓哉に、内心焦っていた朋宏は安堵の溜息を吐いた。雄亮は思っていたのと違っていたのか、少しがっかりした顔をしているが、これ以上事をややこしくすると説得出来るものも出来なくなってしまう。朋宏はそんな雄亮を横目で睨んだ。
「んー、でもさ、こうなったのは変えられないし、朋宏も渋々だけどOKしたしさ、このままだと拓哉だけ悪者だよ? いいの?」
「いいのも何も……どうせ俺が何言ったって変わらねぇんだろ。だったら嫌でも頷くしかねぇだろ」
「うーん……というか決定権は理事長にあるから拓哉じゃなくても誰が言っても変わらないと思うよー。それに理事長の事後報告なんて今に始まった事でもないし、そもそも理事長って拓哉の女の子嫌い知ってるのに簡単に決めちゃってるあたり僕達の意見は初めから聞く気なんてなかったんだよ、きっと。」
「あー、だろうな」
「あとは多分普段授業サボってる拓哉への当て付けかもねー。今日も呼び出しされた時拓哉だけ居なかったし」
「なるほどな……。はぁ……仕方ねぇか。まぁ、仲良くするつもりはねぇし、あまり関わらなかったらいいだけの話だよな」
なるほどー! と朋宏も心の中で思った。確かに一緒に暮らすとなれば多少は事前に相談もするだろう。いや、あの理事長ならしないかもしれないが、万が一に相談するにしても拓哉が普段からよく授業をサボっていれば相談のしようもない。加えて家では顔を合わす事があまりないので、学園での相談となれば反対意見は朋宏のみ、拓哉は不参加により多数決で決まる訳だ。憲斗のしてやったりな顔は、その後拓哉を怒らせ雄亮を笑わせる羽目になったのだが、それはともかくとして、朋宏は夕食の準備をしにキッチンへ向かったのだった。