Secret 11 days.
食後のティータイムは少し殺伐とした雰囲気の中で行われた。拓哉は視線の殆どがスマートフォンの画面へ向けられていたし、朋宏は読みかけだった小説に夢中になっていて、みちるはそんな二人の邪魔にならぬように静かにカップに口を付けていた。
「君らそれ各々の部屋でやりなよ」
「「「!!?」」」
そんな殺伐とした空気の中、いつの間にか帰宅していた雄亮が三人に声を掛けた。確かに雄亮の言うことに一理はあるが、
「おまっ……せめて気配消さずに入って来いよ!」
「それには俺も同感だよ。いきなり声掛けられて心臓止まるかと思ったよ」
拓哉、朋宏の言うことにも一理あった。だがここは相手が雄亮だ。基本的に人を驚かしたりからかったりするのが好きなこの男にそんな事言っても五分後には恐らく同じような事を繰り返すだろう。それは拓哉と朋宏も長く居たから周知ではあるが、昨日今日と知り合ったばかりのみちるには知らない事だ。案の定みちるは、突然現れた雄亮に驚き今もなお言葉を失って放心状態だ。
それに真っ先に気付いた雄亮はみちるの元へ行き床に膝を付きみちるの身体を遠慮がちに揺さぶった。
「みちるちゃん、大丈夫? 驚かしてごめんね、みちるちゃん」
その揺さぶりにハッと我に返ったみちるは両手を目一杯振って答えた。
「だ、大丈夫、ちょっと驚いただけだから」
「本当に? 記憶とか飛んだりしてない? 俺が誰だかわかる?」
大丈夫だ、と答えたみちるにそれでもしつこく安否確認をしてくる雄亮は、次第にその距離を縮めていった。互いの顔がぶつかるくらいまでに縮められた距離に流石のみちるも恥ずかしくなり顔を紅潮させた。一方雄亮はというと……
「みちるちゃん本当に大丈夫? 何だか心なしか顔が赤いような気もするけど……。 熱があるのかも、ちょっとごめん」
そう言うと雄亮は自分とみちるの額をくっつけて熱を測り出した。因みに顔は完全に悪戯心を抱えた子供のようににやけている。
そんな雄亮をみちるから無理矢理剥がした朋宏は雄亮の後頭部目掛けて手にしていた小説を思い切り叩き付けた。
鈍い音が広いリビングに響き渡った直後、断末魔に近い雄亮の悲痛な叫びが次いで響いた。
「ちょ、いくら何でも今のはない! 今のはひどい!!」
「お前は叩かれただけで済んで良かったと思うべきだ」
雄亮の叫びにすかさず突っ込みを入れた拓哉。よく見れば朋宏は二発目の準備をしていた。
「待って、ちょっと待って! 流石の俺でも二回叩かれると馬鹿になるよ!!」
「そのまま馬鹿になればいい」
「俺が馬鹿になると世の中の女の子が悲しむよ!!」
「世の女性の為にも馬鹿になればいい」
容赦のない朋宏の言葉に抗議の声もなく雄亮は朋宏から少しずつ距離を取った。
その間、みちるはというと……
「あの……、もう大丈夫だから、そろそろ離して……欲しいかな……」
朋宏の腕の中で小さく呟くみちる。顔は先程と同じく紅潮させたままだ。
雄亮の魔の手から助け出されたみちるは、そのまま朋宏の腕の中に居たのだ。