Secret 1 day.
その日は五月晴れの爽やかな日だった。授業中にも関わらず傍若無人な学園の理事長に呼ばれ、三人の男子生徒が理事長室へ向かっていた。幸いなのは、校内放送ではなく教員からの直接の呼び出しだったのではないか、いや、それでも授業中にいきなり教員がやって来て一人席を立ち、その場を去るのであれば校内放送でなくても目立つものか。そんな事を思いながら理事長室へ向かった。
「遅い」
二、三ノックをして中へ入るといきなり浴びせられた一言に、肩を竦め小さな溜息を吐き、三人のうちの一人が口を開く。
「だからと言って走って来るわけにはいかないですよね? まさか、学園のトップたるお方が呼び出したからには一秒でも早く駆けつけろ、だなんて言いませんよね?」
「あー、悪かった、私が悪かった」
わかれば良し、と言わんばかりに得意気な顔した男子生徒、須王朋宏は、その整った顔に笑顔を作った。
その横では女生徒と間違われがちなくらい可愛い顔付きの工藤憲斗がクスクスと小さく笑っていた。
「で、俺達だけを呼び出した理由は?」
先程と同じ笑顔のまま、朋宏は理事長に訊ねた。
「あぁ、急で悪いんだけど、明日からもう一人厄介になる事になったからそれを伝えたかったんだ」
「もう一人厄介に……?」
「と言ってもまぁ、私の姪なんだけど、どうやら訳ありでね……。さっき転入の手続きが済んだから来週からこの学園に通う事になったんだよ」
理事長の話に朋宏は開いた口が閉じず、憲斗は頭上に疑問符を浮かべていた。もう一人の男子生徒、櫻雄亮だけは嬉しそうに顔を綻ばせていた。
「姪って女の子だよね? え、明日から? そんな今日からでも良かったのに~。明日の何時に来るのかな? あ、可愛い? その子可愛い?」
マシンガントークと言わんばかりに次から次へと言葉が発せられ、まだ会った事の無い理事長の姪に夢を膨らませていた。そして、そんな雄亮の傍らでやっと我に返った朋宏は、理事長にそこまでの経緯を訊ねた。
「何でそんな事になったのか聞きたいんですけど」
「あー……、話せば長くなるかもしれないし短いかもしれないけど、まぁ、短くまとめると、ちょっとした家出かな」
「短すぎだし、訳分からないんだけど?!」
「まぁ……一応本人が言うには大学はこっちの予定だから高校もこっちにする、とか」
なんとも学園のトップとは言い難い曖昧な説明に朋宏は脱力した。朋宏達の通う高校は、宝泉学園と言い、そこは高等部と大学部が入っている付属校だ。今は五月の半ばを過ぎたところ、元々大学が宝泉というのであれば話の合点はいかなくもないが何故今なのか、朋宏はそれが気になったが、"訳あり"、それであれば納得もいく。
「明日から、ですね。でも、お借りしてる理事長にこんな事言うのは失礼だと思いますが、俺は女と暮らす気は全くありません。もちろん、追い出す気もないですが、馴れ合うつもりはないです。あ、それと、多分反対意見は俺だけじゃないと思います。それだけは理事長にも言っておきます。話は以上で?」
淡々と話す朋宏に理事長はそれ以上何も言わず、朋宏はそれが話の終わりとみて理事長室を出ようとドアノブに手を掛けたが、再び理事長へ向き直って質問をした。
「その姪っ子さん、学年は?」
「あんた達と同じ二年だよ」
「そう……、失礼します」
学年を聞き理事長室を出てから、憲斗と雄亮は明日会える理事長の姪の事で話を盛り上げていた。朋宏は、そんな二人を見てお気楽でいいなぁ、と思いながら、一人の友人の顔を思い浮かべ呟いた。
「さて、拓哉になんて説明しようか……」