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神様は明確に頭がおかしい―お前の頭はハッピーハッピーセットかよ!?―  作者: マグロアッパー
■ホワイトデー特別企画 俺の頭が明確におかしい―お前の頭はハッピーホワイトデーかよ!?―
18/30

1.ホワイトデー前日 ◆イラストあり


 三月十四日ホワイトデー。


 バレンタインデーに貰ったチョコのお返しに、男性がクッキーやキャンディなどを贈る日。日本独自の謎の習慣。


 そのホワイトデー前日の夜のことだ。俺はエプロンとナプキンを装着し、腕まくりした格好で、台所に仁王立ちしていた。


 目の前にはお菓子作りの本、ボウルや測りなどの調理器具。それに卵や薄力粉なんかの、クッキーの材料。


 そう、今まさに、バレンタインのお返し用のクッキーを作ろうとしていた。


 花祭香奈との出会い、友達作り、転校、そして……。

 俺は、いや俺たちは相も変わらず、花祭に振り回されてばかりいた。


 あれからのことを少し話そうと思う。

 ハロウィンのことは以前話したから、まずはクリスマスイブだな。



 ■サンタクロースは明確に頭がおかしい

 ――お前の頭は、メリークリスマスかよ!?――


 クリスマスイブ当日。花祭家の豪邸で、薔薇色の暖かさが灯ったイブを、皆で過ごすもんだと思ってたら……。


『私は仏教徒! 私は仏教徒! 聖夜の光はきっと仏陀の後光! クリスマスの文字に空海が爆笑し、最澄は飯を噴く! 真言宗! 天台宗! 仏陀の頭はパンチじゃねぇ!』


 何故か俺たちは寒空の下にいた。町の中心地で、花祭自作の『私は仏教徒』とかいう、訳の分らん曲を皆でエアー演奏してたんだ。


 まぁ例の如く、これにはちょっとした理由があるんだが割愛する。いつか詳しく話すこともあると思う。ちなみに俺の担当はエアーベースだった。



『私は仏教徒! 私は仏教徒! だからクリスマスなんて、私には――か・ん・け・い・な・い! オッシャァ!』



 クリスマスが終わった後は、正月だな。

 花祭が住んでる町で行われた、謎のお正月イベントに出場してたんだ。



 ■七福神は明確に頭がおかしい

 ――お前の頭は、あけましておめでとうかよ!?――


『さぁ、やって参りました。お正月恒例、七福神探し大会! 実況は私――』


 二名から三名で作るチーム別にエントリー。市内の特定エリアに散らばってる、七福神が書かれた紙を集めるイベントだ。七人の神様を集め、大会本部に一番最初に戻ってきたチームが優勝。


 豪華優勝賞品を目指して、花祭、清水さん、横川チームと、俺、花祭のオヤジさんチームで参加した。


 そこで俺たちのチームは、迫り来るモブキャラ連中と、壮絶なバトルを繰り広げたんだった。これもまぁ、いつか詳しく話せる日が来るかもしれない。


『クソッ、なんなんだアイツら!? オジさん、ここは一端退いて別の――』


『私のぉぉ!』

『え、オ、オジさん?』


『私の、娘はぁぁ!』

『あ、あのぉ……』


『世界一ぃぃぃぃぃぃいい!』

『え? あ、ちょ、えぇぇぇえ!?』


 本当、あのモブキャラたち、無駄に自己主張が激しかったからな。

 ん、待てよ。モブキャラ……? 俺は今、何を……?


 それはさておき、次はバレンタインだ。今年のバレンタインが土曜日だったもんだから、皆で町に遊びに行きがてらチョコを貰った。









挿絵(By みてみん)









 ……今、何か変な映像が浮かび上がったかもしれないが、無視してくれ。

 ちょっと疲れてるんだな、うん。そうに違いない。


 あ~~~そうそう、チョコレートの話だったな。うん。

 不要だとは思うが、チョコをくれた人たちのことを紹介しておこうと思う。


「はい、どうぞ。昨日、夏喜ちゃんと一緒に、香奈ちゃんと樋口くんに渡す用に作ったんだよ~。ハッピーバレンタイン♪」


「えぇえ!? 本当に!? うっわ、ありがとう。すっげぇ嬉しいよ」


 清水京香さん。


 いつも笑顔でのほほんとしてるけど、いざという時には頼りになる人だ。茶色がかった腰まで伸びた髪が、その日もふんわり風に揺れていた。


「何だかんだでお世話になってるしね、ほら、私も手作りよ。当然、義理だけど」

「横川、お前もか! 何だよ、嬉しいじゃねぇか!」


 横川夏喜。


 普段は強気だけど、大事な場面では空気になる。それが愛嬌っちゃ愛嬌な、憎めない女だ。真ん中分けにした黒のショートヘアーが、眩しい位に似合ってた。


 そして……。












挿絵(By みてみん)











 傲岸不遜を地で行くような、花祭香奈だ。


 この流れだったら、あいつも手作りチョコをくれるんじゃないか……。

 そう期待するのが普通だろ? 


 だが花祭は何故か、清水さん家のお菓子作りに参加してなかった。そして二人がチョコを渡す姿を見て、心なしか眠そうな目をしたあいつが取った行動は――。


「あ、コンビニ! ちょっとここで待っててくれる?」


 駅前のコンビニの外で俺たちを待たせると、ダッシュでコンビニに入店。その後、直ぐに袋をぶら下げて出てきた。


 やがて得意げな顔で俺たちの前に戻って来た花祭は、指にコンビニ袋をぶら下げながら、こう言いやがったんだ。



「はい、お湯で温める真空パックのミートボールよ」



 馬鹿みたいに口を開けてポカーンとした俺と横川は、思わず顔を見合わせる。

 直後、物凄い苦み走った、引き笑いがその場にこぼれ落ちた。


「ミ、ミートボール?」

「か、香奈……いくらなんでも、それは……」


 清水さんだけは、いつものようにニコニコしていたが。


「あはは、ミートボール、美味しいよね~」


 冗談だと思ったら、花祭がコンビニの袋から取り出したのは、マジでミートボールの真空パックだった。


「はい、樋口」

「お、おう……」


 バレンタインの浮ついた空気の中、俺に渡される一袋のミートボール。

 その冷たい感触。お値段まで袋に記載。なんと驚きの、税込百円。


 万感の思いを胸に、俺は思わず一人、天を仰いだ。



 ミートボール、おぉ、偉大なる母の手抜き

 甘辛い肉団子は、お弁当の冷めた白飯を欲す

 その進撃たるや、海のポセイドンのごとし


 ミートボール、おぉ、麗しの肉団子

 沸騰したお湯に突っ込めば、あっという間に出来上がり

 その早さたるや、ヘルメスの働きのごとし


 ミートボール、おぉ、恐ろしき均衡の破壊者

 甘辛いタレが銀紙を超えて、暴れるとき

 冥界のハデスを見るがごとく、地味に嫌な気分となる


 人よ、ミートボールを讃えよ

 人よ、ミートボールと共にあれ


 アテナイの智者も、そこそこ好きだ、多分

 ごめん、これ以上、ちょっと言葉が出てこない


 ――樋口雄介、心の叫び(ギリシャ叙事詩風)――



 愕然とした俺の気配が伝わったのか、花祭は、「じょ、冗談に決まってるでしょ!」と言って、新たにコンビニ袋から何かを取り出す仕草を見せた。


 俺はその言葉と動作に、安堵の息を吐く。


「なんだよ、ビックリさせんなよ」

「だ、だよね。いくら香奈でも、ミートボールはないわよね」

「あはは、いいなぁ、ミートボール」


 横川も安心したようだ。清水さんは相変わらず、朗らかに笑ってる。

 まぁコンビニのチョコレートでも、貰えるんならこの際、文句は……。



「はい、これは私がそこのコンビニで、時間に追われて何の感慨もなく適~当な感じに選んで、中年のバイトのおっさんからからこれまた適~当な感じで渡された、心の全くこもってない、市販の板チョコよ! ありがたく受け取りなさい!」


「うわ~~まったく有難くねぇ~~なんとも思わね~~」


 流石に嬉しくなかった。ヒデェ扱いを受けた。

 渡された板チョコを前に、乾いた笑いしか出てこなかった。


 その後、花祭も清水さんと横川からチョコを貰っていた。そして町に遊びに行った際、デパートで高そうでお洒落なチョコを買い、二人にその場でお返ししてた。


「ちょ、香奈!? さすがにこれは悪いって!?」

「香奈ちゃん、これ、凄く高いんじゃ……」


「別にいいのよ、普段は節約してるし。たまには使わないと、ね? 樋口?」

「あ……あぁ」


 二人には、高級な友チョコを渡してキャッキャワイワイ。

 対して俺は、冷えたミートボール一袋、そして薄い板チョコ一枚。


「く、悔しくないからな!? お、俺には二人の手作りチョコが!」

「はぁ? あんた、いきなり何言ってんの? 完全に不審者ね」


 そんな経緯があったため、ホワイトデーには花祭にも俺と同じ気分を味あわせてやろうかと思っていた。


 コンビニで買える『デミグラスハンバーグ(税込:百二十二円)』のパックと共に、適当に買ったホワイトチョコ(板)で、お返ししてやろうかと思ったんだ。


『ちょ、な、樋口!? 何よコレは!?』

『うっわ、樋口、大人げな』

『あはは~、デミグラスハンバーグおいしいよねぇ』


 清水さんと横川には、ちゃんとしたクッキーを渡した横で。


「へっへっへ、見てろよ、花祭香奈ぁ!」


 だがその際、ふと疑問に肩を叩かれた。

 そう言えば、どうしてイベント好きのアイツが、バレンタインのチョコを……。


「…………まぁ、いっか」

 

 結局、流石にそれも可哀そうかと思って止めた。


 ちなみにバレンタイン前日の金曜日には、ちょっと地味だけど小さくて可愛い、同じクラスの鈴木さんからも、学校でチョコを貰った。


 つまりは合計四つということになる。

 人生初の快挙といえる出来事だ。


 という訳で、お返しも張り切らなきゃって思ったんだが……。


「か、金がねぇ」


 一週間ほど前、スキップしてデパートのお菓子売り場に視察に行き、高校生の現実を叩きつけられた。いや結構高いのな、クッキーって。


「あ~~、どうすっかな~。やっぱお年玉を崩すしかねぇか」


 悩みながら家に帰り、何気なくテレビを着けた。

 すると――。


「最近は手作りスイーツを贈る男性も増えており、製菓コーナーも賑わっています。ゴージャスなプレゼントもいいですが、手作りのものは何といっても愛が! 愛が! 愛が! 込められているのを感じますよね」


 俺はその瞬間、吹いたね。

 何言ってんだこのレポーターは。欲求不満なのか? 何で三回も言ってんだよ。


「しっかし、手作り……ねぇ」


 愛うんぬんは置いといて、手作りってのも一つ、現実的な手段に思えてきた。

 そんな訳で俺は今、四人分のクッキー作りに奔走している。


「媚薬!? 媚薬いっとく!? それとも形にこだわって、男性のシンボルマークの型抜きで――」


「だぁぁぁぁ! あんたは来んなぁ!」


 義母である早苗さんの妨害に屈しないよう懸命に。

 ちなみに父さんは早々に寝てた。


「ふっ、だが断る!」

「あんた……また勝手に人の漫画を。だがそれを断る!」


「更に断る!」

「そいつを更にことわ……って、めんどくせぇえぇぇえ! 早く出てけ!」


 だが納得いくものが出来ず、気づけば深夜に突入していた。


 なかなかサックリと焼けない。生地をちょっと寝かせたり、今じゃ貴重品になりつつあるバターの量を調整したりと、俺なりに試行錯誤する。


 そしてようやく納得いくものが出来上がったのが、深夜二時。

 それなりにサクサクしてるし、味も、うん、まぁ……。


「これなら大丈夫だろ」


 一息つくと、百均で購入した透明な袋にクッキーを詰め、青いリボンを結ぶ。出来るだけ形がいいのを、清水さんと鈴木さんに、残りを……横川と花祭に。


 花祭は何だかんだ文句言ってきそうだからな。横川については……うん、ノリだ。アイツってそういうキャラだし。


「はは、結構出来るもんだな。ふわ~~あ、あとはさっさと寝て……ぶえっくし! うぅ、やっぱ夜は冷えるな。早く寝ちまおう」


 冷えた廊下を進んで二階の自室にたどり着くと、心地よい疲労感に包まれながらベッドにもぐりこんだ。




 明日はホワイトデー。

 生涯で、これほどホワイトデーを楽しみにした夜もなかった。



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